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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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北の三姉妹

 三十日もいよいよ夜の時間帯に入り、偽の星々が消える時が近付いて来ていた。

 カリナはスターシャに会うため、屋敷を出てその星空の中に来ていた。今度はちゃんとガル

には外出の許可をもらっているので大丈夫である。

 空間に到着して直ぐにスターシャは姿を現した。

「お疲れ様、スターシャ。やっと終わりだね」

「・・・・・・」

 しかし、スターシャは何故か何も言葉を発しない。

「スターシャ?どうかしたの?」

「・・・・・・」

 カリナがしゃがみ、スターシャに手を伸ばしたその時

「おわらないでしゅ」

「え?」

 カリナの表情が固まる。

「ずっと・・・ずっとずっとこのそらのままにするでしゅ」

「す、スターシャ!?」

 カリナは耳を疑った。スターシャはそんな事を言うような子ではない。何か・・・何か命令でも

あったか、何かしらの外的要因があったに違いない。

「何があったの!?しっかりして、スターシャ!」

「このまま・・・ずっとこのまま・・・・・・」

 幾ら命令を受けたと言っても、スターシャの今の様子は明らかに普通では無い。まるで何者

かに操られているかの様なのだ。

「いったい誰がこんな・・・」

 カリナは考える。人見知りであり、用心深いスターシャに、しかもこの空間に居るのにも関

わらず接触する事ができ、尚且つこの様に人を操る術を持つ人物は・・・・・・

「カリナしゃま」

「ん?どうしたの?」

「うそでしゅ」

 その言葉を聞いた瞬間、カリナは固まった。思わぬ言葉が不釣合いな人物の口から発せられ

たため、脳が状況を理解するのに時間が掛かった。

 そして漸く情報の処理が終わった。

「ウソーーー!?」

「おそいでしゅ」

「す、スターシャ!?冗談なんて言えたの!?」

 スターシャはその小さな頭を傾げてみせる。今更お前は何を言っているんだと言わんばかり

である。

「そ、そう・・・まだ知らない事がいっぱいあるんだ・・・・・・」

 驚きと衝撃を受け、カリナは小声で呟いた。

「カリナしゃま、グリムしゃまからことづてがあるでしゅ」

「言伝?グリム様から?」

 恐らくは新しい指令だろう。カリナは少し身構える。

「『ゆうしゃになれ』だそうでしゅ」

「『勇者』に・・・!」

 カリナはその言葉で全てを察した。

(分かりました、グリム様・・・!必ずやそのご期待に応えて見せます!)

 同時に、カリナは胸の奥で静かに誓った。

「あ、そうだ。スターシャはこの後どうするの?何か指令でも受けてるの?」

「じゆうにしていいといわれましたでしゅ」

「え、そうなの?」

 その答えには正直驚いた。スターシャは命令に忠実で、その小柄な身体を生かして様々な手

伝いを確実にこなす、こんな言い方はしたくは無いが、かなり重宝する存在である。そのスタ

ーシャを自由にする、つまりはもう必要としていないと言う事であり、それは既に全ての準備

が整っているという事に他ならない。

「自由って事はつまり・・・『勇者』の側に付いてもいいって事よね・・・」

 カリナはスターシャの脇を抱え、自分と同じ目線になる高さまで持ち上げる。

「スターシャ、私と一緒に『勇者』になろうよ!」

 スターシャは一旦は首を傾げて見せたが、直ぐに返答した。

「はいでしゅ!」

「本当にいいの!?やったー!これでまた一緒に居られるね!」

 カリナはスターシャをぎゅうっと抱き締める。

「あのね、紹介したい人たちがいっぱい居るんだ!スターシャの事に興味を持ってる人だって

いるんだよ!」

 満面の笑みを浮かべて話すカリナを、スターシャは尻尾を揺らしながら聴いていた。

 そんな時だった。

「よお、楽しそうなトコ邪魔してわりぃな」

 突然耳に入ってきた聞き慣れぬ声に驚き振り返ると、そこには三人の女たちが立っていた。

「だ、誰!?どうしてこの空間に!?」

「誰?どうして?くっくっく・・・知りたいのなら教えてやろう!」

 大袈裟に手を振りかざし、声を大きくする。

「運命に導かれ集いし我ら!」

「さ、三属を司りし、き、北の三姉妹!」

「・・・・・・」

「ヒサメ!」

「え、エンジュ!」

「・・・・・・」

「三人揃って・・・」

「「北の大妖怪と愉快な仲間たち!!」」

 背後で爆発でも起きそうなポーズと口上だ。というか、

(一人何もしゃべってない・・・)

「決まったな・・・かなり久しい名乗りだったが、満足だ・・・」

 取ったポーズを崩さずそのまま何かぶつぶつ言っているのは、ヒサメと名乗った女性。青い

髪から時折キラキラとした光が漏れているのが見える。

「と、突然名乗り始めるから・・・びっくりしたよお・・・・・・」

 同じく体勢を保ったまま、顔を赤らめて恥ずかしそうにしているのは、エンジュ。赤い髪は

こちらも炎のように煌いている。

「・・・・・・」

 その中の一人、印象的な漆黒の長い髪に漆黒の衣を纏った美しい女性は、他の二人と同様に

珍妙なポーズこそ取ってはいるが、うんともすんとも言葉を発しない。

「それでその・・・あなた方は何故こちらに?」

「・・・無論、暴れるためだ」

「え!?」

 突然襲い掛かってくるのかと思い、身構える。

「え、えっとですね、そうじゃなくて・・・私たちが次にここを使う事になってて・・・だから・・・」

 言葉の足りないヒサメに代わり、エンジュが必死に説明する。

「あ、ああ!そういう事なんですね!」

 つまりは次の番の人たちだという事らしい。

「いつからですか?」

「直ぐだ」

「え、えっと、日の出に合わせて引き継ぐという形に・・・なります・・・・・・」

「漸く朝が来る、日常が戻ってくるという期待をぶち壊すという最っ高のタイミングだな」

「なるほど・・・」

「時にお前。お前は『勇者』か?」

 ヒサメは刃のように鋭い眼差しを向ける。

「そうなる予定ですが・・・」

「そうか、ならば近いうちに相対する事になるな。容赦はせん。その時は覚悟を決めて挑んで

来るんだな」

 この人たちは強い。そう感じさせる、そんな雰囲気を纏っていた。

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