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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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解決?

 冬の上節・十六日。カリナが戻ってきたという知らせを受けた何人かが見舞いに訪れた。皆

は一様に「大事が無くてよかった」と、心配と安心の言を述べ、養生の邪魔をしてはいけない

と、これまた一様に長居する事は無く直ぐに帰って行った。

 そんな十六日も夜の時間域に差し掛かった頃、部屋のドアをノックする音が聞こえる。

「カリナ様、お休みでしょうか?」

 この声はガルだ。

「起きてますよ」

「お客様がいらしているので、お通ししても宜しいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

 特に断る理由も無かったし、今日は何人も来ている事もあり、反射的に了承した。

「こんばんわだねえ、カリナさん」

 薄暗いため、顔で判別する事は出来ないが、口調から察するに入ってきたのはシュリだろう。

「シュリさん?」

「そうだよ?身体の方はどうかねえ?」

 シュリはカリナが寝ているベッドの直ぐ横に設置されている椅子に座る。

「起き上がると少しめまいがしますね。寝ていればそれ程辛くは無いのですが・・・治るまでには

まだ少し掛かりそうです」

「そうなんだねえ・・・・・・ねえ、カリナさん」

「何でしょう?」

「何処・・・行ってたのかねえ?」

 カリナは答えに困った。シュリは自分の事を企む側の人物だと疑っている。正直に答えれば

当然、その疑いは極めて確信へと近付いてしまうだろう。かと言って、何とか誤魔化しきれる

ものだろうか?いっその事・・・・・・

「お空にでも行ってたのかねえ?」

「え?」

「私が不安にさせるような事を言ってしまったからねえ。それに、居なくなったのはその発言

の直ぐ後みたいだったしねえ」

 やはり鋭い。シュリをこれ以上誤魔化し続けるのは無理だろう。

「・・・・・・はい・・・・・・スターシャの元へ行っていました」

 正直に話すが、シュリにこれといった反応は無い。

「・・・それで、どうだったのかねえ?」

「・・・心労は晴れました」

「それはよかったねえ」

「はい」

 ・・・・・・。何だかたどたどしい会話で気持ちが悪い。実際には短くとも、精神的には永く感じ

る程度の間を経て、シュリが口を開く。

「ごめんねえ。やっぱりカリナさんはどう考えても企む側としか思えないんだよねえ・・・。そこ

の所、正直に教えてもらえないかねえ?」

「・・・・・・分かりました」

 カリナは覚悟を決めた。

「シュリさんの仰る通り、私は企む側の者です」

「上はやっぱり、魔王様なのかねえ?」

「はい。私はグリム様の命により、行動をしています」

「理由は?この一件、そしてこれから先に起こるだろう後二回の混乱。それを引き起こす理由

がしりたいんだけどねえ?」

 カリナは首を横に振る。カリナはただ、命令されて動いているに過ぎず、魔王グリムにどの

ような理由があって今回の事を企んでいるのかなど、例え弟子であっても知る由もなかった。

「そっか・・・・・・分からないなら仕方ないかねえ・・・。ちなみに、どこまで知ってるのかねえ?

例えば、これから先に起こる混乱の内容とか」

「・・・私が知っているのは、今回のこの空の件までです。この先に関しては、私は関与していま

せんので、誰がどの様に世界に混乱をもたらすのか、全く分かりません」

「りょーかい」

 シュリはカリナの言葉を鵜呑みにして、直ぐに諦めた。嘘を吐いている可能性は考えなかっ

たのだろうか?こちらが逆に不審に思ってしまう。

「それじゃ、これが最後。この空、今直ぐ何とかならない?」

 この質問が来るだろう事は安易に予測できた。シュリには既に、自分の立場の事はばらして

しまっている。ここは下手に誤魔化すのではなく、正直に話してしまったほうがいいだろう。

「恐らく、私が話をしてもスターシャはこの空を元に戻す事はないでしょう。スターシャは自

分に与えられた役割を忠実にこなすため、もしこちらからあの空間に攻め入れば、例え私が同

行していたとしても必ず戦いに発展してしまう事でしょう」

「ふむふむ。でも結局は、どうにかしないといけないわけだから、戦いは避けられないって事

かねえ」

「いえ、戦う事無く何とかする方法はあります」

「え・・・有るの?」

 予想外だったらしく、シュリの表情に初めて大きな変化が見られた。

「はい。今節の三十日まで待って頂ければ、勝手にこの空は元に戻ります」

「三十日・・・あと十三日と少しか・・・・・・それに信憑性は?」

「スターシャが言っていました。あの子が嘘を吐く事はありません」

 シュリはカリナの顔をじっと見つめながら考える。

「そっかそっか、それなら・・・戦う事無く済ませられるなら、その方がいいかもねえ・・・。よし!

じゃあ、この事を皆に伝えてみて、一度話し合ってみる事にするよ。今日は長々とごめんねえ。

お大事に」

 そう言うと、シュリはさっさと部屋を出て行った。

 幾つか質問はされたものの、深い所まで問い詰めるような事はしてこなかった。こちらの発

言を疑うような事も無く、全てを信じて受け止めている様だった。こちらの体調を案じて、敢

えてそうしたのか、それとも、何か彼女なりの考えが他にあってそうしたのか、計る事は出来

なかった。


 帰路、シュリはもう見飽きただろう空を見上げていた。

 カリナの言っていた事が全て本当の事だとすれば、この空の事はもう、こちらから手出しす

る必要は無い。その発言の信憑性に関しては・・・正直分からない。ただの勘でしかないが、信じ

られると思う。もし、嘘だったとしても、解決にはそれほどの手間はもう掛からない程度には

準備が整っているしと、カリナの言葉を信じてもいい理由を並べて自分を納得させる。

 それよりも問題は、魔王グリムの考えている事だ。何の目的で世界を混乱に陥れているのか

全く見当もつかない。大体、この空を創り出した所で、グリムに何の利があるというのだろう

か?加えて、三十日まででこの空を元に戻すと言う。自ら混乱を治めると言うのだ。

 その理由は考えられなくも無い。空を真っ暗な星空にした程度であれば、時間がある程度経

過すれば皆、次第に慣れてしまい、最終的にはこれが普通の事だとなってしまう。それを避け

るために敢えて自ら一旦幕を引き、新たな方法を以って再び世界に混乱をもたらそうと言うの

だろう。

 次に起こるだろう混乱はどんなものなのか、当然、予想すら付かない。今回の様にそれ程の

影響が無い様なものだとも限らない。もしかしたら次はもっと・・・・・・

「あ、そう言えば・・・・・・」

 シュリは気が付いた。今回の件は勝手に解決されるだろう。だが、この空を、五つの世界の

空全てを星空にしてしまうその方法が、その「スターシャ」なる人物が居る空間が何処なのか、

何一つとして明らかに出来ていないのだ。

「これでは解決とはとても言えないねえ・・・・・・」

 今まで考えて来なかった訳ではない。むしろ、幾度と無く考えを巡らせたが分からなかった

それに、再び挑んでみようという意欲が湧いてきた。

 前を向き直ったシュリは、強く一歩を踏み出し、帰路についた。

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