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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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星空にて

 目が覚めて初めて目にしたのは、とても綺麗な星空だった。首を横に動かしても変わらず、

果てしなく続く星空。初めは夢かとも思ったが、頭が働きだすと、ここがスターシャの創り出

した空間だという事を思い出した。

「スター・・・シャ!」

 起き上がろうとするが、少し上体を起こしただけで頭がぐるぐると回されるような感覚に襲

われ、また直ぐに倒れるように横になった。

「か・・・風邪が悪化して・・・・・・ごほっごほっ!・・・・・・さ、寒い・・・・・・!」

 この状態では最早、碌に動く事も出来ない。かと言って、この寒さに晒されたままで大人し

くしていて体調が改善するとは到底思えない。それどころか、今の状態を考えると、更に症状

は悪化してしまうだろう事は火を見るより明らかである。

 何とかしないといけない。だが、この場所から転移しようにも、意識を集中する事もままな

らない。

「そう言えば・・・倒れる前もこんな事を考えて・・・」

 不味い。この繰り返しになってしまっては、最悪死んでしまう事だって考えられる。のだが、

「どうすれば・・・・・・」

 帰る事も出来ない状態、非難する場所も無い。まさに成す術無しの万事休す。体調の悪さと

身に染み入ってくる寒さがまぶたを重くする。

(眠るわけには・・・いかな・・・・・・・・・・・・)

 耐え難い眠気に身を委ねてしまおうと、まぶたを閉じたその時だった。

ぷにょ

 額に何か、柔らかい感触を得る。妙な感覚に、カリナは再び目を開けた。

 すると直ぐ目の前に、こちらを覗き込む小動物の顔があった。熱でもうろうとした頭が、ゆ

っくりと状況を理解して行く。

「すた・・・・・・シャ・・・!」

 目の前に居たのは紛れも無い、探し続けていたスターシャ本人だった。

「だいじょーぶですか?カリナしゃま・・・・・・」

 小さな獣の手をカリナの額に当て、心配そうに見つめていた。

「まほう・・・なおしゅ・・・」

 そう言うと、カリナの真下に魔法陣を展開させる。魔法陣から放たれた光が半球状の形をと

なり、カリナをその内側に閉じ込めた。

「あたたかい・・・・・・」

 光の内側はとても暖かく、酷かった悪寒も感じない程に過ごしやすかった。

「カリナしゃま、しゅこしねる・・・」

「はい・・・・・・」

 カリナはスターシャに見守られているという安心感から、返事をすると共に、あっという間

に眠りについた。


 再び目を覚ました。思えばここの所、寝てばかりいる気がする。病人なのだから仕方ないと

いえば仕方ないのだが、ただ寝続けるというのは何とも気分的に落ち着かない。

 カリナは意図せず身体を起こす。

「あ・・・」

 眠る前は世界が回る感覚に襲われたが、何とも無い。気分の悪さも、悪寒も全く無い。って、

まだ光の中に居るから良く思えるだけか。ふと辺りを見渡し、スターシャの姿を探す。

 すると直ぐ後ろ、寝ていたカリナの頭の傍で、スターシャもまた丸まり眠っていた。

「ずっと付いていてくれたんだ・・・・・・」

 捜しても探しても見つからず、脳裏に嫌われてしまったのではと言う想いまで過ぎっていた

そのスターシャは、そんな心配などただの徒労だったと思わせてくれるほど、近くに居てくれ

ていた。

「ありがとう・・・スターシャ」

 優しく頭を撫でる。その感触を感じ、大きな耳がぴくぴくっと反応する。その反応を楽しむ

ように撫で続ける。すると遂に、スターシャが目を開いた。

「おはよう、スターシャ」

「おはよう・・・ございましゅ・・・・・・」

 スターシャは前足を前に出し、全身を伸ばす。

「カリナしゃま、お身体の方は・・・」

「お陰様で、かなりいいですよ。もう治っちゃったみたいです」

 カリナは身体を動かしてみせる。が、

「あ、あらら?」

 立ち上がると同時に、足元がふらついてしまう。

「だめでしゅ、カリナしゃま!いまはまだ、まほうできぶんをととのえているだけでしゅ!び

ょうきはなおっていないでしゅ!まだねているでしゅ!」

 必死の口調で説明するスターシャ。普段では見られない光景だ。

「はい、分かりました。じっとしてますから」

 カリナは焦るスターシャをなだめて横になる。それを見たスターシャはほっとした様子でち

ょこんと座った。

「あの、スターシャ?」

 スターシャは首を傾げる。

「私が始めてここに来た時、返事を一度したきり、後の呼び掛けには答えてくれなかったよね。

何か、私の知らない所で新しい命令とかされたの?」

「・・・・・・あとじゅうごにち・・・・・・かんばるでしゅ。だから、みつかりたくなかったでしゅ」

 つまり、あの時カリナは他の仲間たちと共にここを訪れていたため、会話を続ける事によっ

て自分の居場所がばれてしまうというかもしれないと思い、返事をしなかったという事だろう。

「そうだったんですね・・・後十五日って事は、冬の上節の二十六日くらいまでって事だよね?こ

れは随分と長丁場になるね・・・」

「さんじゅうにちまででしゅ」

「え?だって今日は十一日のはず・・・」

 十日に初めてここへ来て一旦退却。その日の夜に再び訪れて行き倒れ、スターシャに起こさ

れた。その後また眠って起きて・・・計算すると、今日は十一日か十二日くらいのはずである。

「カリナしゃま、よっか、ぐっすりねてたでしゅ」

「は?よっか!!??」

「はじめにはんにち、まほうじんのなかでみっかねてたでしゅ」

 カリナは言葉が出なかった。まさか、そんなに長い時間眠っていたとは・・・。

「カリナしゃま、かえってやすむでしゅ」

「え?どうして?」

「ここにはたべるものがないでしゅ。まほうでなおすのはからだによくないでしゅ」

「いいじゃない、それでも」

「だめでしゅ!べんりなまほうにたよってはだめでしゅ!」

 スターシャは頑として聞かなそうだ。

「一緒に居たいじゃ・・・だめ?」

「だめでしゅ」

 即答だった。カリナは諦め、転移魔法陣を展開させる。気分の整った今の状態ならば意識も

集中させる事が出来る。

「それじゃあ、行くね?」

 スターシャはこくりと頷く。

「行くからね?」

 微動だにしない。

「本当に行くからね?って!」

 スターシャはそそくさと星空の向こうへと歩き去って行っている。

「もう・・・」

 カリナは不満そうに転移して行った。


 転移先はハイラント邸で借りている自分の部屋。到着すると、直ぐにガルが突如として部屋

の中に現れた。

「何処に行ってたんですか!そんな身体で!」

「えあ・・・はい、すみません・・・・・・」

 勢い良く怒られ、萎縮したカリナはそそくさと布団にもぐりこんで横になった。

「皆さん、心配してあちこち捜し回ってたんですよ?まだ完治していないのにお外を出歩いて、

何処かで行き倒れているんじゃないかって・・・」

「・・・本当にすみませんでした・・・・・・もう、治るまで大人しくしてます・・・」

 まさか、これ程までに心配されているとは思っていなかった。

「とにかく、カリナさんが帰って来た事は私の方から皆さんに伝えておきますから、心配を掛

けた事に対する謝罪は完治してからにしてもらいますよ」

「はい・・・」

 ガルは溜め息をつくと、部屋を出て行った。

「はあ・・・・・・色々と駄目ですね私は・・・・・・」

 カリナも溜め息を吐き、目を閉じた。

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