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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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カナエルとヒイカ

 天使界「大聖堂」。

 ロウソクの仄かな光の中、カナエルは静かに本を読み耽っていた。

 空が真っ暗になってからは、昼と夜の区別が全くつかなくなってしまっているため、ついつ

い夢中になって本を読み続けてしまうようになっていた。

「カナエル様、蒸しタオルを持って参りました。少しご休憩されてはどうです?」

 大聖堂で働いている給仕者見習い(三年目)のマールが、最早日課となった蒸しタオルを持

ってくる。

「そうね。それじゃ、ちょっと横になろうかしら」

 カナエルがソファに移動し、横になると、マールが蒸しタオルを乗せる。

「あ~~~・・・やっぱり気持ちいいわね・・・・・・」

「カナエル様、もしかして、この蒸しタオルを楽しみにしてません?」

「・・・・・・ああ~~~気持ちいいわね~~~」

 妙な間とわざとらしい感想だ。

「駄目ですよカナエル様!幾ら気持ちいいからって、そんなに目に負担を掛けてばかりでは、

視力が悪くなってしまいます!」

「いいのよ、慣れているし。それに、悪くなったら眼鏡を掛ければいいだけじゃない」

「・・・・・・いい訳ありません!!」

 マールが耳元で大きな声を上げる。カナエルは驚き、飛び上がるように上体を起こした。

「な、なによ!」

「そんな御自身の身体を軽んじるような方にはもう、蒸しタオルを用意して差し上げません!」

 マールは怒ってその場から立ち去っていってしまう。

「ま、待ちなさい!待って!」

 カナエルが立ち上がってマールを追い掛けようとしたその時、大聖堂の扉が開けられる音が

響いた。

「カナエル様!御客様がお見えです!」

 門番に続いて二人が入って来る。

「お久しぶりです・・・・・・カナエルさん」

「・・・そうね、ヒイカ」

 入ってきたのは、ヒイカとその妹サジュエルだった。

「珍しいわね、二人揃って、しかも私の所に来るなんて」

「少しばかり訊いて置きたい事がありまして」

「そうなの?とりあえずお茶を用意させるから、ゆっくりお話しましょう」

 まずは三人でテーブルを囲み、茶を一口含んで一息吐く。

「あの、カナエルさん?最近、力を使われました?」

「サジュ、ストレートですね・・・」

「いいじゃない、どうせ訊くんだし。それに、そのために来たんでしょ」

 カナエルはもう一口茶を含む。

「何か、気になる事でもあったの?」

「何の前触れも無く風邪を、しかも凄く酷い症状の風邪を引いた人が居たの!」

「・・・・・・それだけ?」

「それだけ!」

 元気な返事だ。

「それだけで私が怪しいと?」

「そう!じゃなかったら、何か新しい病気の可能性があるから、どうしても知りたくて・・・!」

「成程、理解したわ・・・」

 三度、茶を含む。その様子をサジュエルは息を呑んで見つめる。

「その風邪を引いた子の名前はもしかして、カリナ・・・という名前かしら?」

「!!・・・そう!その人!!って・・・それじゃあ・・・!」

「ええ。確かに、カリナという人物の歴史に手を加えて風邪を引かせたわ」

 カナエルは淡々と、悪びれる様子も無く答える。

「な・・・どうしてそんな事を!酷いですよ!当然・・・何かそうしなければならない重要な理由が

あったんですよね!?」

 サジュはぐぐっとカナエルに顔を寄せて詰め寄る。

「それは・・・まあ、その・・・・・・」

 重要な理由。それ程のものは無い。言うなれば、ただの気分の問題だ。解決の時をキリのい

い日付にするためだけだったのだ。

「まさか・・・無・い・ん・で・す・か・?」

 更に顔を寄せる。まさに目と鼻の先の距離だ。

「ま、まあ、落ち着きなさい。見苦しい言い分けを並べるつもりはないわ。素直に余計な事だ

ったと認めるわ、ごめんなさい」

「謝るならカリナさん本人に謝ってください!」

「そ、そうね。色々と・・・片が付いたらね」

「ぜっっったいですよ!」

「え、ええ、勿論」

 その返事を訊くと、サジュは顔を離した。

「それで?ここに来た理由はそれだけかしら?」

「それ『だけ』?」

 サジュがまた少し近付く。

「こ、こほん。まあ、その事はちゃんと理解したから心に留めて置くとして、折角来たのだし、

世間話でもどうかしら」

「そうですね。サジュはどうしますか?」

「う~ん・・・折角だけど、最近、昼夜の区別がつかない事による体調不良を訴える人が増えてる

から、診療所をカラにしておくわけにはいかないんだよね。だから、私は先に帰るよ」

「そうですか。サジュも身体に気をつけないとだめですよ?」

「うん、分かってるよお兄ちゃん。じゃ、またね」

 サジュは軽く手を振ると、大聖堂から出て行った。

「さてヒイカ、何か食べる?用意させるけど・・・そういえば、フュクシンはどうしたの?」

 いつも当たり前のように傍で付き従っている彼女の姿が見えない事に気が付く。

「ああ、気を利かせて外で待っていてくれてるんですよ。別にしなくてもいいとは言ったので

すが、久しぶりだからと言って聞かなくて」

「そうなの・・・もしかしたら、そういうつもりでもあるのかしらね、ふふふ」

 カナエルは何かを勘繰り、微笑む。

「?・・・どうしたんですか?」

「いえ?別に。それじゃあ、フュクシンも呼んで、軽く食事でもしましょうか」

「・・・まあ、いいですけど・・・・・・」

 先程の笑みの意味が理解出来ないヒイカは、腑に落ちない表情をしながら頷いた。


「さて、今回のこの件だけど、解決は冬の上節の三十日まで掛かるわ」

「それでは、ヒサメさん方にはそう伝えておきますね」

「ええ。そうしてちょうだい」

「フリジッドさんたちがまだかまだかと出番を待ち望んでいるようでして」

「そう。元々彼女たちには長い期間頑張ってもらうつもりだったから、それなら丁度いいわね。

ああ、それと『第六世界』の事だけど・・・・・・」

 食事を終えたヒイカとカナエルが込み入った話をしているその少し離れた所で、給仕者見習

いマールとヒイカの使いであるフュクシンはその様子を見ながら、こちらはこちらで話をして

いた。

「そうだったんですね!ヒイカ様も一役買って出ていたとは、知らなかったですよ~!」

「ヒイカ様は顔が広いですから」

「そういえば、前から思ってたんですけど、カナエル様、ヒイカ様とお話されている時って、

何だか嬉しそうにしている様に見えるんですよねー・・・・・・もしかしてカナエル様、ヒイカ様の

事が好きなのかも・・・!」

 そう言うマールも嬉しそうに話している、その横でフュクシンは冷静に答える。

「そうですね、親子ですし」

 余りにもさらっと答えるので、マールはその言葉を理解するのに少しばかりの時間を要した。

「おやこ・・・?おやこ・・・親子!?冗談ですよね!?」

「本当よ」

 マールが上げた大声に反応したのはカナエルだった。

「カナエル様、お子さんがいらっしゃったんですか!?」

「・・・・・・ええ」

「しかもそれが、ヒイカ様だったなんて、お早く言って下されてもいいじゃないですかあ!」

 一人嬉しそうに騒ぐマール。周りはそれに対して静まり返っていた。

「マール」

「はい?何でしょう?」

「・・・・・・」

 カナエルは何も言わない。マールは首を傾げ、周りを見渡し、漸く空気を察した。

「あっ・・・と・・・・・・その、ごめんなさい・・・・・・」

「後で簡単に理由は話すわ。今は静かにしてなさい」

「はい・・・」

 マールが縮こまるのを見ると、カナエルは再びヒイカと向き合い、話を始めた。

「ああ・・・またやっちゃった・・・・・・これで今年も見習い留年決定だよお・・・・・・」

 マールは大きく肩を落とす。

「すいません。私が余計な事を喋ってしまったばかりに・・・」

「あ、いえいえ!フュクシンさんのせいではないですよ!私、以前から場の空気を読めてない

って言われてて・・・そのせいでずっと見習いのままになっちゃってるのに・・・・・・はあ~・・・・・・」

 大きな溜め息を漏らした。

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