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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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34/240

不安

 「紫の毛並みをした小さな狐」非常に分かりやすい特徴だ。特に、紫の毛並みを持つ人自体

が世の中に殆どいないため、一目で分かるだろう。

 などと軽い気持ちでの捜索が始まった。

「うおおー!何処だー!スターシャちゃーーーん!」

「どこだどこだー!」

 元気に走り回るセイムたち。だが、捜索を始めて直ぐにカイエルが一つの疑問を口にする。

「なあ、この空間って、どのくらいの広さがあるんだ?」

 周囲も、足元も真っ暗で、その中に星が煌いている。壁が無いため、そんな風景がどの方向

にも果てしなく続いているように見える。

「分かりません」

 カリナは素っ気無く返す。

「分からないって・・・これはもしかしたら、難儀しそうだな・・・」

 その不安は見事に的中する。

 何処まで続いているか全く分からない空間。自分がどの方向から来たのかすら分からなくな

ってしまう、全く変わらない風景。一度見えなくなるほど離れてしまったら、出会う事が難し

くなってしまうだろう。その不安があるため、手分けしての捜索が出来ない。

「これは・・・見つかる気がせんのう・・・」

「このまま歩き回っていても、埒が明きそうにないな・・・」

「これは一旦戻って、作戦の一つでも立てた方が良さそうだねえ」

 誰もがこのまま捜すのは無謀だと判断し、一度この空間から転移魔法で退却する事にした。


「もう少し、何とか出来ると思ったのですが・・・」

 カリナは肩を落とす。

「まあまあ、今日は状況を知れたと言うことでいいんじゃないかねえ」

「それで、どうするの?あんなに暗くて広さも方向も分かんないトコでどうやって捜す?」

「やはり人数が必要では?」

「人数か・・・集めるのは簡単だろうが、問題は連れて行く方法だな」

 カリナとスターシャなる人物の繋がりの強さを利用しての転移となるため、あの空間に行く

にはどうしても、カリナが転移魔法の基点とならなければならない。そうなると、展開する転

移魔法陣をより大きくしなければならないので、当然カリナの負担も大きくなってしまう。

「・・・・・・とりあえず、カリナさんの体調が完全に治るまで待つとして、それまでに何か、いい

方法が無いか、各自で考えてみるのがいいかねえ」

「そうだな・・・今直ぐにはいい考えも浮かばないだろう」

「うむ。では、わしは一先ず大社で人集めを行ってみるのじゃ」

 結局、その日は特に何も決まらないままに解散となった。

(どうしてスターシャは私の呼び掛けに答えて・・・・・・もしかして、グリム様から何か、私の知

らない命令をされているのでは・・・・・・)

 もしそうだとしたら、というか、それくらいしか考えられない。でなければ、スターシャが

呼び掛けに答えて自分の下に現れるはずだ。

「カリナさんちょっといいかねえ」

 解散したのに、その場で考え込んだまま動かないでいると、シュリが話し掛けて来た。

「何でしょう?」

「うん。体調が悪いんじゃないかと思ってねえ。ハイラント邸だっけねえ?今住んでる所って。

送っていこうかねえ?」

 どうやら考え込んでいたのが体調不良に見舞われている様に見えたらしい。

「大丈夫ですよ。心配して下さってありがとう御座います」

「そうかねえ。じゃ、お話したいから付いて行ってもいいかねえ?」

「ふふ、そういうことでしたら、是非、御一緒しましょう」


 ハイラント邸へと帰る道中、シュリはじっと空を見上げていた。

「と!いけないいけない!また首をやってしまう所だったねえ」

「首?痛めたんですか?」

 そう問い掛けると、恥ずかしそうに頷く。

「いやー、この空の事を調べようとずっと観察してたらねえ、首を痛めちゃって大変だったん

だよねえ。恥ずかしい・・・」

「でも、もう治ったんですよね、よかったです」

「ほんと良かったよー。ウインターさんが薬草を採って来てくれなかったら、まだ痛みに苦し

んでたかもしれないねえ」

「ウインターさん・・・・・・ああ、あの給仕者の」

 今日初めて会ったばかりで、どういった人物なのかまるで知らない。バンリの御付の者のよ

うだが。

「どういった人なんですか?」

「いや~、私も最近知り合ったばかりであんまり知らないんだけどねえ、優しくて気が利いて、

常に冷静な人だねえ。あ、そういえば、カリナさんの所に薬草届いたりしなかったかねえ?」

 その言葉で、カリナはある日の事を思い出した。

「え?・・・・・・あ、そう言えば!風邪で寝込んでいる時に一度だけ、薬草の入ったお粥を頂いた

事があります!あれってもしかして・・・」

「うん。ウインターさん、寄り道して来たって言ってたし、恐らくそうじゃないかねえ」

「そうだったんですか・・・!今度会ったら、ちゃんとお礼を言わないとですね!」

 それまでは起き上がることもままならない状態だったのだが、あの薬草入りのお粥を食べた

次の日には、壁に手を掛けながらなら起き上がって歩けるまでに回復していたのだ。

「所で、話は変わるけど、スターシャなる方はどういった人物なのかねえ?」

「スターシャですか?」

 カリナは言葉を選んで答えようとするよりも早く、シュリが更に口を開く。

「それともう一つ、はっきりさせておきたいんだけど、カリナさんは・・・・・・『あっち側』の人

だよねえ?」

 カリナは思わず固まる。はっきりとは言っていないが、その口振りはこちらの事を見透かし

ているかのようだった。

「『あっち側』・・・とは・・・?」

「うん。まあ、つまりは・・・世界を混乱に陥れる側って事だねえ」

「・・・・・・どうしてそう思うのですか?」

 決して頷かず、何とか誤魔化そうと、質問しつつ頭を回す。

「今回の件は特に怪しかったからねえ。この空の原因を知っていたりとかねえ。実際にあの空

間にも行けたしねえ。ま、それだけで断定は出来ないけど、私の眼にはかなり怪しく映ってる

のは確かだねえ」

「・・・もしも、私がシュリさんの言うように、『あっち側』だったとしたら、どうするつもりな

のですか?」

 シュリは歩みを止める。カリナはごくりと唾を飲む。

「どうもしないよ」

「え?」

「今日の事。もし、本当にカリナさんが『あっち側』だったとしても、今日の事はどうやらカ

リナさんにも予想外だったみたいだからねえ。つまり、言っちゃ悪いけど、カリナさんは重要

人物では無い可能性が高いと思うんだよねえ。だから、何もする気はないねえ。あ、他の人に

もこの事は言う気はないからねえ?ただの予想に過ぎないしねえ」

「・・・・・・」

 シュリは再び歩き出す。

「さ、ハイラント邸まではもう少し。早く帰って何か対策を考えないとねえ」

 やはり鋭い感覚を持っている。

(シュリさん・・・聡い方ですね・・・・・・)

 カリナはその少し後ろを付いて行いった。


「何か使える魔法はないかねえ・・・」

 自室に戻ってきたシュリは、魔法のノートをペラペラと捲る。

 このノートには、シュリが今までに考えてきたもの、実際に作り出し、使用してみての感想

などが書き込まれている。将来、ありとあらゆる種類の魔法を使いこなす『大魔導士』を目指

すシュリにとっては宝物だ。

「暗闇を照らすもの・・・或いは、索敵系の何か・・・・・・」

 ぺらぺら。ぺらぺらぺらぺら・・・・・・。

「う~ん・・・・・・イマイチ成果が得られないような気がするねえ」

 幾つか条件に見合うものはあるが、実際に使用してみた情景を思い浮かべると、どれも魔法

の程度が小さ過ぎて役に立ちそうに無い。

 そもそも、このノートに書かれている魔法の数々は、普段の生活の中で「こんな魔法があれ

ばなあ」と思った物ばかりなので、日常生活をちょっと便利にする程度のものしかないのだ。

「むう・・・新しく考えるしかないかねえ・・・」

 ドンドンドン。そう思っていると、部屋のドアをノックする音が聞こえて来る。

「シュリさん、ウインターです。お時間宜しいでしょうか」

「ウインターさん?はいはい、今開けますからねえ」

 ドアを開け、ウインターを部屋に迎え入れる。

「どうしたの?私の部屋に来るなんて珍しいねえ」

「はい。どうやらシュリさんはとても頼りにされている様でしたので、私目も何か御力添えを

して負担を軽減できたらと思いまして」

「おお!それは素直にありがたいねえ!丁度今、新しい魔法でも考えようと思っていた所だっ

たんだよねえ!ま、とりあえず座って座って!」

 ちゃぶ台をはさむ様に向かい合って座り、早速本題を切り出そうとするが、ウインターはあ

ちこち首を回して部屋を見回している。

「あ~・・・もしかして、気になるかねえ?」

 部屋は散らかっていない・・・はず。片付いている訳でもないが。自分の部屋なので特に気にな

らないが、他人が見るとやはり気になってしまうのだろうか。それとも、給仕者であるから、

綺麗に片付いていないと落ち着かないとかだろうか。

「すみません。初めて訪れた時のバンリ様のお部屋と比べてしまいました。気を取り直しまし

て、本題に移りましょう」

 そうは言うが、あんな事を言われてしまえば、どうしても気になってしまうのが心持つ者と

いうものだろう。

「ちなみに・・・さあ・・・どっちが片付いてたかねえ・・・?」

 ウインターは直ぐには答えなかった。かと言って、考えている訳でも無さそうに、じっとシ

ュリの顔を見つめている。

「あのお・・・・・・ウインターさん・・・?」

 言い難いのだろうか。だとしたら、必然的にこちらの部屋の方が散らかっているという事に

なる。

「五十歩百歩」

「あっ」

 その一言で全てを察した。どちらが汚いではなく、どちらも汚い。優劣を考えている暇があ

ったら片付けろという事だろう。

「後で片付けるからねえ・・・」

「はい。・・・では、改めて本題へ移りましょう」

 シュリは先程まで考えていた事をウインターに伝えた。

「だから必要なのは、『照らす』魔法と、『探る』魔法なんだよねえ。ウインターさんは、そ

ういった類の魔法を持ってたりしないかねえ?」

「・・・・・・シュリさん、一ついいでしょうか」

「ん?何かねえ?」

「私が思うに、あの空間は結界の類でしょう。恐らくは発動者固有の結界。つまりは、相手の

土俵です。あえてその土俵の中で頑張らなくとも、その土俵を壊してしまう方が簡単だと思う

のですが、どうでしょう?」

「あ・・・・・・あーーー!!」

 言われて漸く気が付いた。シュリは今まで、あの空間内で捜す事ばかり考えていた。あの空

間は在って当たり前だと思い込んでいたのだ。あの空間も魔法で創り出されたものであるから、

当然打ち消してしまう事も出来るではないか!

「じゃあじゃあつまりは、必要なのは『破壊』の魔法!結界を破壊するには・・・」

 ここからはスムーズに次々と答えが浮かび上がってくる。

「結局は魔法なわけだから、魔法を破壊すればいいんだよねえ・・・ふふふ・・・」

 思い当たる人物が一人居る。

「行ける・・・行けるよ!これなら簡単にあの空間を何とか出来るねえ!」

「ですが、問題は結界を破壊した後、そこにどんな空間が広がっているか、です」

「ふむ、確かに、あの空間の元の姿を知らないからねえ・・・・・・見た目が空の上だから・・・まさか

宇宙だったりされたら、一溜りも無いからねえ」 

「その辺りの対策が必要ですね」

「ふむ。じゃ、一緒に考えようかねえ!」

 シュリとウインターは万全を期するべく、更に話し合いを続ける。


 部屋で一人、カリナは俯き、考え込んでいた。

 今まで、スターシャがカリナの呼び掛けに応えないなんて事は一度も無かった。それどころ

か、一緒に居るのが当たり前である程だった。確かに、用事を言いつけられれば離れる事もあ

った。それでも、念話を飛ばせば直ぐに答えてくれた。今回のように、無視される事など一度

たりとも無かった。

(グリム様に訊きに行くべきでしょうか・・・・・・)

 そうは思う。だが・・・・・・

「重要な人物では無い」

 その言葉を思い出し、心を締め付ける。

 もし、自分が重要な人物ならば、事情が変わったら伝えてもらえるはずだ。その考えが、カ

リナの足を留める。

(スターシャ・・・グリム様・・・・・・それでもやはり・・・スターシャ!)

 カリナは部屋の中に魔法陣を展開させる。

(もしかしたら、私以外の人が大勢居たから警戒してしまったのかも・・・!)

 カリナはスターシャの下へ一人、転移した。

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