表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
PR
32/240

雹蝶

 この空が、『世界を混乱に陥れる事象』と言う事はまず間違いない。だが、それが分かった

所で、それを誰が、どの様にして行っているかは全く分からなかった。調査が完全に行き詰っ

てしまった状態のまま、時間だけが過ぎて行く。

 酷い風邪で寝込んでいたカリナの容態は、次第に回復へと向かっていた。碌に会話をする事

も出来なかった当初とは違い、今では、声がガラガラで少し辛そうではあるが、会話をする事

が出来る様になっていた。

「申じ訳ありまぜん・・・・・・随分な面倒をお掛げじでじまっで・・・」

「いいんですよ。むしろ、お世話をするのは好きですから、もっと掛けて下さってもいいくら

いですよ」

「ありがだいでずが、ぞういう訳には・・・」

 魔王の弟子という立場の者としては、これ以上情け無い姿を晒し、助けられ続ける事はした

くなかった。だが、身体は酷いだるさに見舞われ、喉の痛みも激しく、起き上がってお手洗い

に行く事も、一人では出来ない状態であるため、甘んじて手助けを受ける他無かった。

「ガルざん・・・暦を教えでぐれまぜんが?」

 空は真っ暗な上ずっと寝ていたので、あれから何日が経過したのか、全く分からない。

「今は、冬の上節の五日ですね。ちなみに、時刻はもうじきお昼になりますね」

「五日・・・倒れてから五日も経づんでずね・・・」

「では、お粥を炊いてきますので、少々お待ち下さいませ」

 ガルはぺこりと一礼すると、部屋を出て行った。

(あれから四日だから、空が暗くなってからは・・・・・・六日か七日経ってるって事ですね。今、

どの程度までこの空について調べが進んでいるのか・・・)

 例え、幾ら調査が進んでいようと、解決の方法までは辿り着く事はまず出来ないだろう。自

分が真実に導いて、解決へと向かわせたいが、如何せんこの身体の状態ではそれもままならな

い。せめて、自分で立って歩ける程度まで回復しなくてはならない。

(後、何日寝れば治るのやら・・・はあ~・・・・・・)

 見えない先行きと、自分の情けなさに大きな溜め息を吐いた。


 あれから、調査は完全に行き詰ってしまっていた。誰が、何処で、どうやってこの事象を引

き起こしているのか、まるで分かっていないどころか、手掛かりすら無い状態だった。

「いてててて・・・これはやっちゃったみたいだねえ・・・」

「大丈夫っすか?シュリさん・・・」

 シュリはバンリの部屋で横になっていた。この空の更なる手掛かりを求めて、空を見上げ過

ぎたせいで、首を痛めてしまったのである。

「根を詰め過ぎっすよ・・・」

「ははは・・・全くその通りだねえ。全く新しい情報が入ってこない事に焦っちゃったみたいで・・・

面目無い限りだねえ・・・うう~、く、首がああ~・・・」

 少し首を動かしただけで、相当な痛みがある様だ。

「とにかく、今は安静にしてないと駄目っすよ。今、ウインターが薬草を取りに行ってるんで」

「うう・・・そ、そうだねえ」


 冥界の内側、所謂、本当の意味での「冥界」にウインターは薬草を求めて来ていた。ウイン

ターが訪れている場所、そこは一年中寒くて雪に覆われている山、ウインターの故郷だった。

 非常に冷たい風が吹いている中、涼しい顔で目的の薬草を摘んで行く。そこに、上空から女

性の声が降って来た。

「我らが山を荒らすのは誰だ!!」

 鬼気迫る声に、振り返った瞬間、

「久しぶりね、ウインター」

 がばっと抱きつかれた。相手の顔は見えないが、その声と、背中に携えた四枚の美しい紋様

の翅で直ぐに分かった。

「フリーミ様?」

「相変わらず冷静ねん。久しぶりに会ったって言うのにん、再会の感動も無いのかしらん?」

 妙に色っぽさを強調した喋り方をしてくる。それに対して気持ち悪さを覚えたウインターは

拒否反応を言葉で示す。

「フリーミ様もご病気ですか?精神の病とかでしょうか?」

「違うわよ!!ほんとあなたって、昔から嫌なものに対しては毒を吐くわよね」

「そういうフリーミ様こそ、相変わらずお元気なようで何よりです」

「あなたもね!」

 改めて抱き合い、再会の喜びを分かち合う。

「それにしてもその格好、給仕者の制服よね?まさか、免許取ったのかしら?」

「はい。外で生き抜くために、無心になってやり遂げました」

「凄いわね・・・。正直、その根性だけは真似できそうにないわ」

 褒められて少し照れくさそうに頬を掻く。

「そういえばその籠に入ってるのって、薬草みたいだけど・・・もしかして、急ぎ?」

 この山で採れる薬草は過酷な環境で生きている事もあり、高い効果を持つ。だがその一方で、

他の環境下では直ぐに痛んでしまうため、直ぐに使用する必要があるのだ。

「はい。後は風邪用の物も少し摘んで帰ろうかと」

 酷い風邪を引いている人が居るという話をバンリから聞いていたため、ウインターはついで

に、摘んで行くつもりをしていた。

「あら、そうなの。それじゃあ邪魔しちゃったみたいだわね」

「なので、そろそろ失礼させて頂きます」

 ウインターはその背に四枚の、フリーミとはまた違った紋様の翅を出現させ、飛び立つ。


「ただいま戻りました」

「お、やっと帰ってきたか。結構遠くまで行ってたのか・・・あ!?」

 戻ってきたウインターの姿を見てバンリは驚きの声を上げる。

「すみません、バンリ様。少し寄り道をしていたので。直ぐに治療に取り掛かります」

 ウインターは早速、薬草をすり潰し始める。

「ウインター、お前・・・その背中・・・」

 その背中には、四枚の翅が出たままになっていた。

「ああ、翅が何か?」

「は、はね!?・・・羽・・・はね・・・?」

 バンリが思い当たる種を探している内に、シュリが首を動かしてその答えを直ぐに口にする。

「ああ、蝶々だったんだねえ・・・いだ!いたたたた・・・」

「ちょうちょう?・・・って、ちょうちょの事っすか?あの昆虫の!?」

「はい。私はその昆虫の蝶々で、その中でも寒い地方に住んでいる『雹蝶ひょうちょう』という種です」

「でもさ、昆虫ってその・・・なんて行ったらいいんだ・・・?」

「『昆虫は魔力を持たない』って事が言いたいのかねえ」

「そう!それだ!」

 本来、昆虫などの虫系統の生物には魔力は宿らないとされているのだ。

「はい。本来は、そうです。ですが」

「中には魔力を持って、魔獣族へと進化した『成り上がり』の種がいるんだよねえ」

 『雹蝶ひょうちょう』はその『成り上がり』の種なのである。

「へえ~・・・何か、すげえ・・・」

 進化した種。その言葉の響きは、強くなりたいと今まさに思っているバンリにとっては、ま

さに羨望の言葉だった。

「さあ、すり終わりました。シュリさん、痛い場所を教えて下さい」

 シュリが指し示した所に出来上がった、とは言っても、ただ単にすり潰しただけの物を塗る。

「あ・・・ああ・・・何だかすっとするねえ・・・・・・」

 まるで、痛みが吸い取られていくような感じだ。凄く気持ちが良い。

「このまま寝てしまいそうだねえ・・・・・・」

「いいっすよ?ぜひ、泊まって行ってください」

「え、ちょっと言ってみただけで、そんなつもりは無かったんだけどねえ」

「そのまま安静にしていた方がいいでしょうし、どうぞ、お構いなく」

「そ、そう?じゃあ、そうしちゃおうかねえ」

 そう言ってくれるなら、動くのも首が痛んで億劫だし、シュリは言葉に甘えることにした。


 一方、カリナの下にも、逸早く薬草が届けられていた。

「えっと・・・この薬草をすり潰してお粥に混ぜればいいんでしたね・・・」

 ウインターに教わった通りに、ガルはお粥の中にすり潰したそれを入れて混ぜてみる。する

と、みるみるうちにお粥が深緑に染まっていく。

「これは・・・」

 見た目の第一印象でまず、食べたいとは思わない。

「生憎、匂いは無いようですが、味の方は・・・」

 ガルは一口、味見、この場合は毒見と言った方が良いかもしれないが、含んでみる。

 するとどうだろう!口の中に入れた瞬間、口の中全体に薬草独特の強烈な青臭さが広がり、

薄く、優しく味付けされたお粥のその全てを蹂躙しているではないか!早い話、ドロッとした

強烈に青臭い、緑の液体である。これはお粥ではない。

「駄目みたいですね」

 本当ならば、こんな物を人に出すのは給仕者としては、絶対にしたくないし、してはならな

いのだが、

「言わばこれは薬膳・・・!致し方なし!・・・ですね!」

 良薬は口に苦しとも言うし、と言い聞かせ、出来上がったその物体をカリナの寝ている部屋

へと運ぶ。

 部屋に運んで一つ、気が付いた。それは、部屋が暗いため、色の識別が困難であるという点

だった。この緑色を見ずに済むのは食欲の面で大きい。

「カリナさん、お粥が出来ましたよ。今日は、風邪に良く効くという食材を混ぜました、薬膳

になっておりますので、少しばかり食べ難い味になってしまっていますが、出来るだけ食べて

下さいね」

 味は隠しようが無いため、正直に説明して理解を仰ぐ。

「ずみまぜん・・・実は、風邪のせいか、味が殆ど分がらないんでず・・・。今まで作っでいだだい

でいだのに、ずみまぜん・・・」

「そ、そうですか!いいんですよ!謝る事なんて何も無いです!むしろ良かったです。この薬

膳、実は味がその・・・結構キツくて・・・」

「ぞうだっだんでずが・・・ぞれなら、幸い・・・でずがね?」

「ふふ、そうですね!」

 カリナはゆっくりと上体を起こし、お粥を一掬い口へと運ぶ。

「・・・どうですか?私が味見した時は、かなり青臭かったですけど・・・」

 口に入れたカリナの表情を伺うが、顔をしかめたりする様子は無い。

「大丈夫・・・みだいでず。確がに、青臭い感じはありまずが・・・殆ど感じないので、問題無ぐ食

べられぞうでず」

「ふう。それなら安心ですね」

 カリナはその後も、青臭さに全く動じる事無く、そのお粥を平らげた。


 冬の上節・七日。早朝。

 身体はまるで、自分の物では無いかのようにぎこちなく動く。だが、気分はそれ程悪くない。

そして、声の方も

「あ、あーーー・・・」

 ガラガラでは無くなっている。少し前に食べた薬膳のおかげだろうか、たった二日程度でこ

こまで回復したのは。しかし、やはりまだ身体には違和感が残っている。完全復活にはまだ遠

い。だが、漸くだ。

(これで、何とか導く事は出来る・・・!)

 カリナはおよそ七日ぶりに自分一人で立ち上がり、歩き出す。

「あ、カリナさん!歩かれても大丈夫なんですか!?」

 まだ弱弱しい足取りのカリナに、当然心配が向けられる。だが、これ以上寝ては居られない。

「大丈夫・・・とは言っても、こんな調子では信じてはもらえないでしょうが、行かせて下さい。

このまま完治するのを待っている事は出来ません」

 カリナは真剣な眼差しを向ける。

「カリナさん・・・ご無理をされてまで・・・・・・分かりました。ではせめて、誰かを付けさせて下さ

い。まだ寝ているメルリアさんを起こしてきますので、それまでお待ち下さい」

「・・・そうですね。少しばかり、勇み足でした。ゆっくり準備するよう伝えて下さい」

 カリナは一旦、落ち着く事にした。

「おお、カリナよ!起き上がることが出来るようになったのじゃな!よかったのう!」

 寝起きで髪も着物も乱れ、目を擦りながら、カリナの復調を喜ぶメルリア。

「色々と心配と苦労をお掛けしました」

「気にするでない。辛い時に助け合うのが常識じゃ!しばし待ってたもれよ。直ぐに準備する

のでの・・・ふあぁ・・・」

 大きな欠伸をしながら、メルリアは身支度を整え始めた。

 カリナが訪れたのは、情報の集まる大社。メルリアの協力により、難なく門番長の部屋へと

通してもらう事が出来た。その部屋には既に、チーム「スパイラル」の面々が揃っていた。

「あ、カリナちゃんだ!動けるようになったんだね!」

「あ、私も首が動くようになったよ~」

 セイムとシュリが笑顔で迎える。

「病み上がりだけど大丈夫なの?」

「無理してここまで来なくても、呼んでくれれば話を訊きに行ったんだが」

 カイエルとメイエルは心配してくれている。

 様々な声が掛けられる中、門番長メサイアは本題を切り出す。

「その身体だ、お主のためにも、早めに話をしてもらおうか」

「母上はほんに、クソ真面目じゃのう」

「メル!!母上に向かってその口の聞き方は何だ!!」

 メアトリスがメルリアの胸ぐらを掴む。

「止めろ、お前たち」

 二人はあっという間に大人しくなった。

「すまないカリナとやら。こちらも随分と新たな情報が入らず、やきもきしていた所なのだ」

「いえ・・・では、早速お話させて頂きます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ