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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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『世界を混乱に陥れる事象』

 夜道。いや、今は朝なので朝道とでも言えばいいのだろうか。空には相変わらず無数の星た

ちが、朝だと言うのに我が物顔でキラキラ言わせている。そんな星空を見上げながら学校への

道を歩む。

 いつもと同じ道なのに、いつもとは全く違う雰囲気を纏っていて、ハワーだけでなく、ラキ

エルとミーニも少しワクワクした気持ちを抱き始めていた。

「きれいだねー」

「こんなに綺麗な夜空は見た事がないです・・・」

 星は何処でも見る事は出来る。だが、今日の星空は例え見慣れていたとしても、目を奪われ

ずにはいられないほどに美しく煌いている。

「あの・・・前見て歩かないと・・・あぶない・・・」

「あ、そうですね。ハワーさ」

「あだっ!」

 少し遅かったようで、ハワーは一足早く民家の垣根に突撃していた。

「ハワーさん、先に行ってますね」

「お姉ちゃん、ちこくはしちゃだめだからね」

 生い茂る草木にもがくハワーを横目に、二人はさっさと先へ歩いて行く。

「ちょっと!?しんぱいくらいしてくれても!」

 ハワーは急いで抜け出し、二人の後を追う。

 学校には皆が同じように登校して来ていた。そしてやはり、同じようにワクワクし、興奮し

ている者も大勢居た。

「よう、ラキエルにハワーも。お前らもちゃんと来たんだな」

 既に来ていたバンリは落ち着いていた。

「バンリさん、おはようございます」

「バンリちゃん、おっはよー!」

「うわ~、やっぱハワーはテンション揚がっちゃってるか~」

「もう!うわーってなーに?バンリちゃんはワクワクしないの!?」

「まあ、気持ちは分かるけどな」

 そこに先生が教室に入ってくる。

「はーい!みんな落ち着いてねー!こんな空だけど、いつも通り授業始めるよー!」

 どうやら変わらず授業は行われるらしい。

「みんな、暗いけど寝ちゃ駄目だよ?」

 そう言ってラキエルの方を見る。

「え、あ・・・すいません・・・」

 教室に笑い声が巻き起こる。そして、いつもの様に授業が始まった。


 この真っ暗な空は、ラキエルたちの居る亜獣人界だけではなかった。冥界、天使界、死神界、

そして、セイムたちチーム・スパイラルの集まっている創生界においても、全く同じ現象に見

舞われていた。

「綺麗な空・・・ロマンチック・・・・・・」

 メイエルは星空を見上げながら溜め息を漏らしている。

「そうか?今は朝だぞ?俺には不気味に見えるがなあ・・・」

 カイエルは不安そうに空を見上げている。

「所詮お兄ちゃんにはこの光景の美しさが分からないよねー!」

「いや俺だって、今が朝でなければ普通に綺麗だと思うさ!そう言うお前は少し危機感が足り

ないんじゃないか?」

「お兄ちゃんこそ夢が足りないんじゃないの!?」

 いがみ合う二人を尻目に、セイムは考え込んでいた。

「こういうの・・・こういう現象の事、何て言うんだったっけ~~~・・・」

「あ、それってもしかして、『白夜』の事?」

「そう!それそれ!流石シュリちゃん!あったまいい~!」

「でも、『白夜』は太陽が沈まなくて夜でも明るいままになる現象だから、今とは真逆なんだ

けどねえ」

「そうだったっけ?」

 空は暗い。だが、無数の星と沈まない月の明かりのおかげで、結構明るい。そのせいもあり、

周りには不安に思っている者は殆どおらず、時折空を見上げながら日常を繰り返している。

「これってさ、こないだ言ってた、世界を混乱させるナントカなのかなあ?」

「どうだろうねえ。あまり危機感を感じさせない事象だし、判断に困るねえ」

 危機感が無い所か、この綺麗な星空に喜んでいる者の方が多い様な気がする。

「う~~~ん・・・シュリちゃんはどうするのがいいと思う?」

「現時点じゃあ何も分かんないから、とりあえず様子見と言う事で、観察を続けるのが良いと

思う、かなあ?」

「じゃあ、しばらくは星見するんですね!」

 メイエルが嬉しそうに目を輝かせている。

「そうなるかなあ」

「じゃあじゃあ、お弁当作らなきゃ!お星見弁当!」

「お前・・・花見みたいに・・・」

「いいじゃない!こんな事、毎年あるわけじゃないし、もしかしたら、人生で今日だけしか無

いかもしれないんだよ!?」

 確かに、こんな経験は今まで生きてきた中で初めてだ。今後二度とこんな事が無いかもと思

うと、今この時を堪能しておかないと後悔するような気がする。

「分かった。それじゃあ、場所を決めて早速準備に掛かるぞ」

「なんだ~お兄ちゃんもほんとはお星見したかったんじゃな~い」

 カイエルの頬っぺたを突っつく。

「う、うるさい!やるならさっさとした方がいいと思っただけだ!」


 昼なのか夜なのか、最早知る術は毎日のルーチンの区切り時だけである。学校が終われば夕

方で、晩御飯を食べればもう寝る前という具合だ。幸い、ハイラント邸には時間帯をほぼ正確

に把握しているガルがいるため、随時今が普段どうしていた時間かを教えてくれるので混乱せ

ずに済んでいた。

 それから二度の睡眠から覚めた。恐らく、秋の下節・三十日に当たるだろう。空は相変わら

ず暗く、星たちの天下のままだった。

 今日は休日であり、学校に行く必要は無い事もあって、居間にはまだ誰も起きて来ていなか

った。暗い中であったため、ラキエルの目にはそう映っていた。居間のソファに座ろうと近付

いたその時だった。

「きゃ!?」

 足元に何か大きなものがあったらしく、躓いてその物体の上に転んでしまった。

 起き上がろうとその物体を手で押さえた時、その感触に違和感を覚えた。

「ま、まさか!?」

 その感触は「人」のそれだったのだ。ラキエルは急いでテーブルの燭台に火を点け、その姿

を照らす。

「カリナさん・・・!?」

 それはカリナだった。だが、その様相は寝ている訳ではなく、苦しんでいるようだった。呼

吸が不規則で荒い。熱は・・・尋常でない程に熱い!

「はあ・・・・・・はあ、はっ・・・はああ・・・・・・」

「ガルさん!!」

 名を呼ぶと、ガルは直ぐに現れた。

「どうしましたか?」

「カリナさんが、大変なんです!」

 一先ず部屋へ運び込み、取り合えず氷のうを頭に乗せてはいるが、この程度では焼け石に水

である事は明白だった。

「やっぱり病院へ連れて行かないと!」

「ですが、これ程ヒドイ状態のカリナさんを病院まで運ぶのは、カリナさん自身にとってはと

ても辛いかと。ここはお医者様に来て頂くのが良いかと思います」

 確かに、外は寒く、その下を運ぶのはカリナの身体に大きな負担を掛ける事になってしまう

だろう。

「そうしましょう!」

「では、お医者様をお呼びします!」

 医者が来るまでの間に起きて来た皆にこの事が伝えられた。その中、メルリアは納得できな

い事があるのか、難しい顔をしている。

「メルリアさん?何か?」

「ワンコよ、お主、昨日カリナを見て何か気に掛かった事はあったかの?」

 ワンコは首をかしげ、少し考えるが、

「いいえ」

 直ぐに答えた。昨日は空が暗かったとは言え、やっていた事はいつもと同じで、カリナに特

訓を付けてもらっていた。その時の姿、様子にも特におかしな点は無かった。

「そうじゃ。わしにもいつもと変わらぬ様に見えたのじゃ」

「つまり、そこがおかしいと」

 ワンコも気が付いた様だ。

「うむ。これ程の酷い症状じゃ。前日には何かしらの前ぶれがあってもおかしくはないどころ

か、無いほうがおかしいくらいではないか?」

「確かに、言われて見るとそうですね。昨日、カリナさんは普通に食事もされていましたし、

寝室に向かわれるまで、全くいつも通りでした」

「となると、体調を崩したのは部屋に戻った後、部屋に居る時になりますね」

 皆が考え込み、少しの間静寂が訪れる。

「・・・・・・食材の調理に何か、問題があった訳ではないです・・・よね?」

 そんな中、ガルが物凄く不安そうな、もしそうだったらどうしようかと言う想いが伝わって

くる声で、ボソッと呟いた。その不安を、ヒイカが真っ先に打ち消す。

「それはないでしょう。もしそうなら、私たちの中の何人かが今頃、同じ症状に陥っているで

しょうから」

「はあ~~~・・・そう言って下さると、本当に助かりますぅ~」

 ガルは腹の底から安心の溜め息を漏らした。その時、

「あ、来客です。お迎えに行って参ります」

「お医者様?」

「それは分かりませんが、恐らくは」

 その来客は予想通り、医者だった。その医者は、ヒイカの知り合いであり、こんな朝早くだ

が、快く承諾してくれた。

「サジュ、朝早くにすみません、ありがとう」

「いいよ、にいちゃんから電話が掛かってきた時はすごく驚いたけど、こうして久しぶりに会

えたんだしさ!それよりも今は、患者さんだよ!」

 そのサジュという名の天使族の女性は、早速カリナの診察を始める。

「熱はすこぶる高くて、喉は・・・少し腫れている程度・・・」

「サジュさんって、ヒイカさんの妹さんなんですね」

「・・・そうですね。最近はあまり会う機会がありませんでしたが」

「へえ・・・その割には・・・」

 あまり似ていない気がする。まあ、兄妹でも似ていない兄妹も当然いるし、不思議でもない

だろう。

「にいちゃん」

「ん?何か手伝いましょうか?」

「うん」

「では、何をしたら?」

「出て行って?」

「何でですか!?ちゃんと手伝えますよ!」

「服を捲って聴診器当てるから。それを手伝いたいの?どうしても?」

「今直ぐ出て行きます!」

 ヒイカは慌てて部屋から出て行った。

 一頻り診察を終えたその女性は、聴診器を耳から外し、立ち会っていた皆の方に向き直った。

「診察結果だけど・・・・・・酷い風邪だと思われます」

「風邪・・・ですか・・・」

「じゃが、そんな前触れは全くなかったんじゃがなあ」

「前兆が無かったの?・・・・・・それは・・・」

 その女性は何か思い当たる節があるのか、考え込む。しばらくして顔を上げた女性は、

「まあ、大丈夫です!命に別状はありませんので、栄養を摂って安静にしていればその内治り

ます!」

「まあって・・・本当に大丈夫なのか・・・?」

 酷く苦しんでいるカリナに対して、随分と軽い感じの声に不安が過ぎる。本当にちゃんと診

察出来たのだろうか?

「後、一部屋貸して頂けませんか?風邪の症状を緩和する薬を調合したいので」

「はい、それならば直ぐにご用意出来ます!」

 その女性はガルに案内されて部屋を出て行った。

「疑うようで悪いが、あの医者、大丈夫なのか?」

「・・・ヒイカさんの妹さんと言う話ですし、大丈夫だとは思いますが・・・・・・」

 イマイチ大丈夫だと言い切れなかった。


 サジュは借りた部屋で鞄を広げ、薬の調合の準備をしていた。そこにはヒイカの姿もあった。

「ねえ、にいちゃん」

「どうかしました?」

「もしかしたらだけど、あの人の風邪って・・・・・・」

 サジュは言おうとして口ごもる。

「言っていいですよ」

「うん・・・・・・カナエルさんが関係してるかも・・・って思って・・・・・・。ごめんね!別の何かが原因

の可能性も十分にあるんだろうけど、真っ先に思い浮かんじゃって・・・」

 申し訳そうにするサジュだったが、ヒイカは至って気にしていない様子だった。

「いいんですよ。あの人なら、必要とあらばそう言う事もするでしょうから」

「必要とあらば・・・か・・・・・・」

 サジュは変わらぬ笑顔を見せるヒイカの顔を少しの間見つめると、薬の調合に取り掛かった。


 学校が休みと言う事もあり、ラキエルたちは情報収集のため、大社を訪れた。この世界の空

も、やはり同じく真っ暗なままだった。そこでセイムたちと合流した。

「みんな、ひっさし振りー!」

「ひっさしぶりー!」

 セイムとハワーが出会い頭にハイタッチする。

「皆元気?」

「お前ら、真っ暗な日が続いて、体調崩したりしてないか?」

「あたしらは大丈夫だけど・・・カリナさんがちょっと・・・」

 バンリが状態を説明する。

「酷い風邪か・・・・・・まあ、季節の変わり目だしな」

「皆、うつされないように気をつけてね?」

 そんな世間話をしている中、シュリだけはもう珍しくもないだろうに、ずっと空を見上げ続

けていた。

「シュリさん?どうしたんすか?」

 バンリが声を掛けると、シュリはこちらを向いた。

「うん。少し気が付いた事があってね」

「何か分かったんすか!?」

「ま、今日はその話をしようと思ってここに来たんだよねえ」

 一行は、今日はハイラント邸でカリナの看病を手伝っていて居ないが、メルリアの友人のよ

しみで、大社の門番長の部屋に通してもらえた。

「何か分かった事があるという事だったな。早速だが、聞かせて貰えないか?」

 門番長メサイアの催促を受け、シュリが答える。

「ここの所ずっと空を見続けて気が付いた事何だけどさあ、空にあるあのまあるいの、何だと

思う?」

「丸いの?月ではないのか?」

「半分正解・・・かな。ま、私の考えが正しかったらの話だけどねえ」

「どういう事ですか?」

 シュリは手招きをし、皆を空の見える位置まで誘導すし、空に浮かぶ丸いそれを指差す。

「あれは変わらずに昇ったり、沈んだりしてるみたいなんだよねえ」

「それじゃあ、おつきさまだけがのぼったりしずんだりしてるってこと?」

「いんや?あれが沈むと同時に、間逆の方角からまた昇って来るんだよねえ」

「それは・・・・・・?」

「そして、動いているのはその丸いものだけで、周囲の星は全く動いていないみたいなんだよ

ねえ・・・。つまり」

 シュリは皆の方へ向き直る。

「あの丸いのは太陽と月。その二つだけは、いつもと変わらずに昇ったり沈んだりを繰り返

してるみたいなんだよねえ」

「太陽だと!?」

「うん。今の時間帯なら、あれは太陽だねえ」

 だが、眩しさを感じないその輝き方からは、あれが太陽だとはとても思えない。

「ポイントは周りの星。あの空にある星たちは、自然では考えられない程に眩しく輝いている

んだよねえ。そのせいで、本来なら眩しい太陽の輝きも、優しい月の光も、大差ないように見

えてしまう事なんだよねえ」

 つまりは、周りの星の眩しさに慣れてしまい、太陽と月の光の強さの差に疎くなってしまっ

たと言う事らしい。

「となると、あの空の色も星たちも・・・ニセモノ・・・なのか?」

「恐らくは。星は星に似せただけの光球、魔力で作り出されたただの光の球だと私は思う・・・

と、これが私の気が付いた事だねえ」

 だが、そうだとすると、一つ大きな疑問が残る。

「だが、全世界の空をこの様にしてしまう程、強大な魔力を持っている者など居るのか・・・?

例え魔王であったとしても、全世界を同時には・・・・・・」

「そこなんだよねえ・・・・・・」

 五つ全ての世界の空を支配出来る程の魔力を持つ者などまず居ない。

「でも、これで一つだけはっきりしましたね」

「ああ。これが『世界を混乱に陥れる事象』・・・って事だな・・・!」

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