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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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企む者

 紫の狐スターシャは、天使界の大聖堂へとやってきた。門の前には二人の門番が居て、素通

りはさせてもらえそうにはない。かと言って、言葉を発する事が困難なスターシャには、理解

をして通してもらうだけの意思疎通の能力は無かった。

 どうしたものかと考えていると、門番の一人がこちらに歩いて来る。非常に小柄なスターシ

ャを、確かにその目に捉えていた。スターシャの目の前まで来ると、膝を突いて姿勢を低くし

て話しかけてきた。

「はじめまして、狐のお嬢さん。大聖堂に何か御用ですか?」

 紳士に話しかけて来てくれるが、スターシャは返事を返す事が出来ない。話しかけられても

何も答えないスターシャに対し、その男は驚きの言葉を口にした。

「カナエル様に御用の方ですね。どうぞ」

 そう言い、男はスターシャを大聖堂の中へと案内しようと歩き始めたのだ。驚き、不安にさ

え苛まれたスターシャは警戒する。

「ご安心を。貴方が来る事はカナエル様から聴いておりますので」

 「カナエル」その名を聞いたスターシャは警戒を解き、その門番の男の後を追って敷地内へ

と踏み入った。

 大聖堂の扉が開かれ中へと進むと、その正面、大きなステンドグラスを背にし、漏れる光で

暖かく照らされたテーブルの傍らに一人の小柄な女性、真っ黒な翼を持つ天使が座っていた。

その女性は一冊の本を優雅に読み耽っていた。

「カナエル様!例のお客人をお連れ致しました!」

 静かで優雅な雰囲気をぶち壊す威勢の良い報告に、その女性は少々強めに本を閉じると、こ

ちらを向いた。案内を終えた男は一礼すると、何も言わずにその場から立ち去る。

「待ってたわ。話も全て知ってる。あなたが何をしようとしているのかもね」

 カナエルは立ち上がる。

「それじゃあ、行きましょうか。・・・・・・新しい世界へ・・・」

 カナエルとスターシャは大聖堂の奥へと消えて行った。


 昨夜の出来事を忘れない内に、鈴と何時か受け取った何かを、取り合えず並べてみた。その

何かに最初から付いている鈴と、昨夜に貰った鈴は全く同じ物だと言っていいほど似ていた。

となると、気になるのは、この何かの上部だ。ここには鈴が付いておらず、この状態の見てく

れには違和感があった。

「多分、この部分にこの鈴を取り付けるんじゃないか?」

 実際に試してみると、驚くほど簡単に、しっくりくっついた。

「上手く行きましたね」

「ああ。だが、これに何の意味があるのかはさっぱりだがな」

 振り鳴らしてみると、やはりまだ物足りない音がするだけだった。

「後三つじゃったかの?その鈴とやらは」

「なんか、わるいことするひとたちがもってるんでしょ?」

「そう言ってたな」

「それはつまり、悪い事をしてからでなくては、だれが持っているのか分からないと言う事で

すよね」

「何とも、歯痒いのう」

 これから悪事を働くという事が分かっているのに、それが実際に行われてからでなくてはそ

の相手を知る事も止める事も出来ない。

「ねえねえ、そもそもさ、ほんとうにそんなことおこるの?」

 ハワーの疑問は尤もだった。世界中を混乱に陥れるとか、実際に出来そうな気がしない。

「確かに。バンリさんはどう思いますか?」

「う~ん・・・・・・」

 言われてみると、事が大き過ぎてイマイチ信憑性が低い気がしてくる。

「でも、やっぱり用心するに越した事はないんじゃないかと」

「そっかあ・・・それもそうだよね。それじゃあさ、みんなにもおしえてあげたほうがいいんじゃ

ないかな?」

「それは、言ってもいいというか、言うべきだと思います。そもそも、それが本当に起こった

としたら、私たちだけで解決出来るとは到底思えません」

「だな」

 世界を混乱させるとかいってるし、そんな大事をこの少人数でどうにか出来るとは思えない。

「ふむ。ならばここはやはり、『依頼』として申請するのが良いのではないか?」

「いいですね!それは効率が良さそうです」

「ならば明日、早速行ってみようではないか!」


 翌日、学校が終わってから大社へとやって来た。世界に混乱がもたらされる事など知る由も

無く、いつもの様に賑わっていた。

 クエストカウンターで申請書を貰い、メルリアが早速書き始める。

「依頼人は『チーム・ハイラント』じゃな。依頼内容は・・・どう書くのが良いのじゃろうな?」

「ちょっと待て!」

 バンリがそれを制止する。

「なんじゃ?」

「いや、世界中に混乱が巻き起こるとか言うんだぞ?もっとこう・・・大勢に伝える様にした方が

いいんじゃないか!?」

 こんな小ぢんまりとした依頼書では、大勢の人の目に止まる事など期待出来ない。

「じゃあさじゃあさ、いつかみたいにメルリアちゃんがみんなをあつめればいいんじゃない?」

 例の一件以来、メルリアはこの大社においては、すれ違い様に頭を下げられる程に有名にな

っていた。

「ちょっと声を掛ければ集まりそうですよね」

「むう・・・」

 だがその一方で、気楽な性格のメルリアは頭を下げられたりするような、偉い人扱いされる

のは苦手だった。そのため、また大事にして、更に偉い人として扱われるようになる事を危惧

していた。

「そうじゃ!直接話を聞いたのはバンリなのじゃから、バンリが皆の前で話をすれば良いので

はないか!」

「良くねーよ!メルリアじゃなきゃだめだろ」

「私もそう思います。ここはメルリアさんが話をした方が信憑性と言う点で勝っている事は確

実です」

 もしかしたら、バンリでは最悪、ただの悪戯のように受け止められてしまうかもしれない。

「ここはやはり、事が大きいだけに、子供ではなくて大人の人が言うべきだと思います」

「な、ならばワンコならば・・・!」

「今日は付いてきてませんよ?」

「何故じゃ!!」

 ワンコは今日、身体の定期健診で育みの里の研究所に行っていた。

「諦めろ」

「むむむう・・・あ、明日に・・・」

「あ・き・ら・め・ろ!」

「いけず!」

 メルリアは捨て台詞を残し、走り去った。のではなく、真面目に声を掛け始めた。

 しばらくすると、人だかりが出来始めた。皆、門番長の仕事部屋の方を向いている。あの部

屋の前でメルリアが大々的に大演説を行うのだ。という話になっている。

「演説とは!何故そのような大事になっておるのじゃ!!」

 部屋の中に待機しているメルリアは頭を抱える。

「ちょっと話をする程度だったはずじゃのに・・・・・・何故・・・なにゆえー!」

「うるせえ!」

 ゴッ!騒ぐメルリアの頭に、メアトリスのゲンコツが振り下ろされる。

「今更オドオドしやがって・・・いい加減覚悟を決めやがれ!」

「う、ううむう~~~」

 メアトリスに叱責され、今度は唸り声を上げ始める。チッ!と舌打ちをすると、メルリアの

目の前で再び拳を振り上げる。

「ままま待つのじゃ!静かにする!静かにするから止めてたもれ!」

 メアトリスはしばしメルリアを睨みつけた後、静かに腕を下ろした。

「さあ、そろそろ行って来い!何時までも人を待たせるな」

「う、うむ」

 メルリアは部屋を出ようと部屋の戸に手を掛ける。その後ろから

「メル。お前はいつものお前のまま居ればいい。変に取り繕う必要は無い」

 頭をぽんぽんと優しく叩く。

「姉上・・・!うむ!では、適当にやって来るのじゃ!」

「ああ、それでいい」

 メルリアは笑顔を見せ、部屋の戸を開けた。

 戸を開けた瞬間、視界に大勢の人々の姿が飛び込んできた。呼び掛けた人数は十人にも満た

ない数だったが、それは伝わりに伝わり、大社に訪れた者は勿論、わざわざ話を聞きつけてや

って来た者も居た。

 もう夕暮れだと言うのに、あまりの人の多さに一瞬たじろぐが、直ぐに歩を進め、皆に見え

る場所に立った。

メルリア様ーーー!!

 幾つもの呼ぶ声が上がる中、メルリアが右手を軽く挙げると、その声は一斉に静まり、静寂

が訪れた。

「皆の者、よくぞ集まってくれたのじゃ!」

 メルリアはゆっくりと、皆を見渡しながら話し始める。

「昨日、わしの耳に届いた話じゃ。それは、何者かが、何者たちかが!世界を混乱に陥れよう

としている、と言うものじゃった!誰が、どうして、何時、何処で、どの様に行うかなど、一

切わからぬ!」

 場がざわつき始める。

「そうじゃ。そんな話、信じる事など度台無理じゃろう・・・。じゃがわしは思う!」

 再び場が静まり、メルリアに視線が集まる。

「先の一件、姉妹喧嘩の時の様に!また皆と共に問題を解決し、共にその喜びを分かち合う事

が出来れば、どれ程幸せであろうかと!わしは思う!」

 メルリアは手を大きく広げる。

「はっきりと言う!わしやその仲間たちだけでは、実際にそれが起こった際、解決へと導くに

は到底足りぬのじゃ!皆よ!わしと共に戦い、共に笑い、共にこの世界を、この世界の平和を

護ってくれぬか!?」

 しばしの静寂の後、歓声が上がり始める。

共に戦いましょう、メルリア様ーーー!!

また一緒に騒ぎましょうーーー!!

メールーリア!メールーリア!

 その声は皆、協力を承諾してくれるものばかりだった。やがて「メルリア」コールが起き始

めた。

「皆よ!感謝するのじゃ!わしは、この世界と、皆が大好きじゃ!」

おおおおおおお!!!

メールーリア!メールーリア!

 更に大きな「メルリア」コールが巻き起こった。

 この騒ぎは、夜中まで続くかと思われたが、日が沈んでも止まなかったために、メアトリス

が怒り、追い返すという形での解散となった。


 「世界に混乱が訪れる」と言う話は更に広がり、数日で世界中の人々の耳に入る程になって

いた。その話は当然、カナエルの耳にも届いていた。

「大事になってきちゃいましたね。って、元々そんなつもりでしたね!」

 給仕者見習いマールがカナエルとスターシャの二人にお茶を淹れて持ってくる。カナエルは

カップを持ち上げて飲むが、スターシャはスープ用の器でぴちゃぴちゃと飲む。

「それで、何時頃開始されるんですか?」

 二人は余裕そうな表情で、お茶を飲みながらくつろいでいる。

「そうね、話が十分に広がって、且つ忘れられ始める前には、かしらね」

「まだ広げるんですか?もっと、奇襲みたいな形の方が混乱も大きくなると思うのですが・・・」

 混乱させるなら、知られた状態よりも、知られていない状態で行った方がより大きくなるの

は確実だ。

「混乱させるだけなら、ね。でもその混乱は、ある程度の苦戦の元、必ず解決されなければな

らないわ」

「はあ、そうなんですか」

 マールにはカナエルが何を考えているのか読み取れなかった。

「今回の混乱が発生から解決までに掛かる時間は・・・」

 カナエルは本の頁を一枚めくる。

「七日ね。正確には、六日と五分の一日・・・」

 本を見ながら呟く。

「それは長いのですか?短いのですか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 カナエルはしばらく考えた後、虚空から真っ黒な羽ペンを取り出した。

「折角だし、三十日・・・発生を秋の下節の二十七日にして、三十三日掛かる事にしようかしら」

「と言う事は・・・・・・解決するのは丁度、冬の上節の終わりになると言う事ですね。と言います

か、随分と伸ばされるのですね」

「次の事も考えて、キリの良い所で区切りをつける方がやり易いでしょうしね。それに、あま

り簡単に解決されても良くないから」

 そう言うと、カナエルは羽ペンの羽の部分で本に書かれた文字を掃うと、その文字は一瞬で

消えてしまった。そして今度は、そこに記入して行く。

「『解決には三十三日を要した』・・・後は、解決に至るまでの内訳ね。・・・発覚するまで三日、

調査及び解決策の提示までは・・・・・・そうだわ、スターシャ」

 スターシャはずっとお茶をぴちゃぴちゃ飲んでいたが、顔を上げた。

「あなた、どれくらい耐えられそう?二十日くらいならいけるかしら?」

 その問い掛けに、スターシャはこくりと首を縦に振る。

「そう、それじゃあ、発覚してから調査及び解決策の提示に更に十日。そこから解決に至るま

でが二十日、と言う事にするわね」

「そう言えば、カナエル様。どうして元々は七日とか、そんなに短く書かれていたのですか?」

「ああ、それは・・・・・・そうね、不自然の無いようにそこも書き換えておかないと」

 カナエルは更に一箇所の記述

『カリナの助言によって早期解決へ向かう事になる』

 の『早期』を消した。そして、

『史書・カリナ』

 そう口にすると、虚空から一冊の別の本が現れた。

「彼女には少しの間だけ黙っていてもらわないと。計十三日後に解決策を遂行に移す事になる

訳だから・・・」

 それを開き、そこに新たに記述する。

『カリナ、秋の下節・三十日に風邪を引く。症状は酷く、七日に亘り寝込み続ける』

 カナエルは一通り書き終えると、本を閉じた。

「これでいいわ・・・今が二十二日。あと五日後に開始ね。準備も全部出来てるし、それまではゆ

っくりするとしましょうか。マール、お茶のおかわりとお菓子を持ってきなさい」

「はい、ただいま」

 カナエルは大きな欠伸をしつつ、再びくつろぎ始めた。


 秋の下節・二十六日。話は全世界に広がり、世間ではどんな事が起こるのかと言う不安や、

中には期待に胸を躍らせる者も出始めていた。

 そんな中ラキエルたちは、今自分に出来る事として、カリナから指南を受けていた。

「バンリ、良い感じじゃないですか!動きが見違えるように良くなって来てますよ!」

「そ、そうか!?」

 カリナに褒められたのが余程嬉しかったのか、デヘヘと少しばかりだらしなくも見える笑顔

を見せていた。

「バンリちゃんの『かま』すごいね!いろんなかたちになっちゃうんだもん!」

 バンリの鎌、バンリ固有の鎌の能力だった。形は勿論、伸ばしたり縮めたり、硬くしたりふ

にゃふにゃにしたりと、自由自在に形状を変える事が出来る様だ。

「形状変化を状況に応じて上手く行う事が出来るようになれば、相当強くなれそうですね」

「強く・・・!このあたしが、もっと強くなれる・・・!」

 これまで、自分の弱さに悩み続けていたバンリにとって、「強くなれる」という言葉は何よ

りも嬉しかった。

「よぉ~し!やあるぞおーーー!!」

「おー、バリバリバンリちゃんだ!」

「バリバリバンリさん、頑張って下さい!」

「では、バリバリバンリ、続けましょうか」

「その呼び方やめろ!」

 その夜。ハイラント邸に一人の人物が訪れていた。巨大な門を潜ると、背後から突然声を掛

けられる。

「いらっしゃいませ」

 予め心の準備をしていたためそれ程驚きはしなかったが、やはり気持ちの良いものではない。

「ガル・・・あなた本当に人を驚かせるのが好きね」

「幽霊ですから」

 ニコニコとしていて反省の色を全く見せない。

「今日は何の御用でしょうか?」

「ご飯」

「はい、かしこまりました」

 その一言でガルは理解し、質問はほんの一瞬で終わった。

「あ!グリム様!?どうして此処に!?」

 屋敷に入ると直ぐに、カリナが驚いた様子で飛んでくる。

「カリナ、あなた此処に住んでるの?」

「え?はい。・・・居心地が・・・良いもので・・・・・・」

 少し後ろめたそうに答える。

「まあ?あなたが何処で暮らそうと、ちゃんとやってるのならいいけど?」

「もしかして、私の事を心配して見に来て下さったんですか!?」

 感激するカリナだったが、その時、ぐ~~~・・・と言う間の抜けた音が聞こえて来た。

「グリム様・・・・・・もしかして・・・・・・」

 カリナの表情が絶望色に染まって行く。

「し、食事は二の次、次いでだから!そう!様子を見がてら、食事でもさせて貰おうと来たの

よ!カリナ、どうかしら、一緒に食べない?」

 嘘は言っていない。ここに来た目的はカリナから話を訊くためだし。食事は最初からさせて

貰うつもりだったし。まあ、どちらが楽しみかと言えば当然・・・・・・ぐぅ~~~・・・・・・

「はい、喜んで御一緒させて頂きます!」

 ああ、何て嬉しそうな表情なんだろうか。少しばかり心が痛んだ。


 食事をしながら話をするつもりだったのだが、いざ料理が目の前に並べられると、話なんて

後でいいや、となり、結局何の話もしないままに凄い勢いで平らげてしまった。

「ふう・・・ご馳走様・・・」

「気持ちの良い食べっぷりでしたね、グリム様!」

 隣でその様子を見ていたカリナは嬉しそうに言う。「一緒に食べる」なんて言って置いて、

結局は一人夢中で平らげてしまった訳だが。そう思うと、何だか見っとも無い事をしてしまっ

たと恥ずかしさを覚えた。

「何か、悪かったわね。・・・結構、お腹空いてたから・・・」

「いえ、いいんですよ。私とご飯のどちらが真の目的であったとしても、グリム様が会いに来

て下さったというだけで私は幸せですから!」

 ご飯が真の目的であった事は見抜かれていた様だ。

「それでもカリナ、あなたと話をしようと思っていた事も事実よ」

「はい、グリム様!」

 小恥ずかしそうに取り繕うとするグリムに、カリナは楽しそうな笑顔を向ける。

「それで早速だけど、あなたの見立てではどう?」

 その問い掛けに、カリナは一瞬で真剣な表情に切り替わる。

「そうですね・・・・・・目ぼしいのは、セイムさん、シュリ、ラキエルの三人でしょうか」

「あら、たった三人だけ?」

「面白い能力を持った者も何人か居ますが、その中でも、という事です」

「全員の評価を聴きたいんだけど、いい?」

「全員ですか?いいですけど・・・。それでは、簡単に纏めさせて頂きまして、

 まずはチーム「スパイラル」のカイエル、メイエルの天使族二人ですが、

 彼らは双子であるため、連携が非常にスムーズであり、能力も様々な特性を持った弾丸を撃

ち出す事が出来るため、後方支援に特化していると言えます。ですが如何せん、片や撃ちだす

だけ、こなた弾丸を生成するだけであり、バラバラにされてしまえば成す術はありませんので、

はっきり言って論外です。

 次に、チーム「ハイラント」の、まずは竜種メルリアについてですが、

 彼女は身体の一部分だけを顕現させる事が出来、思わぬ不意打ちを喰らいかねない危険性は

ありますが、その位です。竜種ですので、打たれ強くはありますが、攻撃の面ではそれ程の怪

力はありませんので、ちょっと強い程度でしょう。

 次に、同チームの強化獣人ワンコなのですが、

 彼女はあらゆるものに適応する事が出来るという、非常に面白い能力を持っています。獣種

でありながら水中で呼吸が出来たり、どんな熱にも、寒さにも耐え得る程のものです。ですが、

一瞬で適応できる訳ではなく、適応には少しの時間を要すると言う点が弱点ですね。

 続いて、同チームの子供二人に移ります。まずは死神族のバンリです。

 彼女は死神族のため、魂を抜く事が出来ますので、それを喰らえば一撃必殺という危険性が

あります。彼女固有の鎌は、大きさや形状をある程度自在に変える事が出来るため、その一撃

必殺を狙いやすいと言えます。ですがまだまだ子供。咄嗟の判断には弱く、冷静に対処出来な

い弱さがあります。

 兎種のハワーは、

 対象の時間を加速させると言う、強力な力を持っていますが、絶望的に魔力が少ないのが致

命的ですね。元々の魔力の器が極めて小さい兎種ですので、その辺りはもう、どうする事も出

来ないですね。

 ここまでが先程挙げさせて頂いた三人以外に対する、私の評価です」

「・・・続けて頂戴」

 カリナはお茶で一息付くと、再び語り始める。

「では、三人の内、まずはチーム「スパイラル」の狐種セイムさんから。

 あの方はライム様の娘と言う事もあり、持っている魔力の量は非常に多いです。抑制する首

輪をしている程ですしね。それだけではなく、彼女自身、とてもよく鍛えられていて、近接戦

闘においては非常に強力な技を幾つも持っています。動き自体も非常に素早く、身のこなしも

相俟って、私が直に練習試合を行った時には、追い詰められてしまう程でした。伸び代も大き

く、飲み込みも早い。必ずや最前線で活躍出来る「戦士」になるでしょう。

 続いて、猫種のシュリですが、

 彼女の魔力自体は平均レベルなのですが、その真骨頂は扱う事が出来る魔法にあります。彼

女はどうやら、「大魔道士」を目指している様で、見た事の無い魔法を幾つも使う事が出来る

上、その質も洗練されています。幾つ魔法を持っているのか、どんな魔法を使えて、使えない

種類の魔法はあるのかと、彼女の力の全てを計る事は出来ませんでした。その点で、彼女は所

謂「魔道士」の様な存在と言えるでしょう。

 最後に、天使族であるラキエルと言う子供なのですが、

 彼女は、「命令」する事によって人をその通りに動かす事が出来ると言う、恐ろしい能力を

持っています。対象の心に隙が無ければ通用しないと言う制約はあるようですが、それを差し

引いてもかなり危険な能力である事は間違いありません。彼女自身、その力を自分以外の人に

向ける事を嫌っている様ですが、いざと言う時になれば、まず使って来るでしょう。その力は

まさに「王様」、将来は『王』に成り得る存在であるかと思います」

「・・・・・・成程ね・・・大体分かったわ」

 グリムは少しの間無言で頭の中を整理すると、立ち上がった。

「グリム様、お帰りですか?」

「ええ、少し一人で考えたいから」

 グリムはそのまま屋敷を出て行った。


「『魔王』は『勇者』に倒される・・・か・・・・・・。私の『魔王』としての役割を果たすためにも、

『勇者』は必要不可欠・・・。居ないのなら、作る他無い。そのための・・・・・・」

 魔王グリムは、夜空の王の如く煌く月を見つめ、歩く。

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