遠い魂
「魂を、ですか?成程、旦那様が仰ったと言うのでしたら、直ぐに取って参りましょう。少々
お待ち下さいませ、お嬢様」
そう言うと、爺は家の何処かへか向かって行った。
「いよいよですね、バンリさん」
「あ、ああ・・・」
どうにもすっきりしない。何一つとして納得できていないにも拘らず、本来の目的だけが達
成されようとしている。「母親の事」に「様子のおかしい父親」。気になる事が野放しのまま
になっているのだ。
「そう言えば、バンリさんの魂からガルさんの魂を離す時って・・・痛かったりするのでしょうか」
「おま、それを今になって言うなよ!・・・何も知らないままだったら、変な心配とかしなくて済
んだだろうによお・・・」
今になって急に怖くなって来た。「魂が分離する」その事象がもしも、身が内側から引き裂
かれる様な痛みを伴うものだったら・・・・・・か、考えたくない!
「えっと、ガルさん?くれぐれも優しく、やさし~く・・・・・・お願いしますよ?」
だが、返答は無い。いつもなら、話しかければ直ぐに反応してくれるのだが、どう言う訳か
うんともすんとも言わない。
「ガルさん?・・・ガルさん!」
声を大きくして話し掛けて見るも、やはり何の反応も無い。嫌な感じがする。
「ガルさん!返事してくれ!ガルさん!!」
大声で叫んでいるのを聞きつけたグルが慌てた様子でやって来た。
「どうなさったんですか!?ガルちゃんに何か・・・?」
「ガルさんが・・・・・・声に答えてくれないんだ!」
「え・・・!?」
グルの顔が青ざめる。
そこに、バンリの背丈と同じくらいの棺をリュックサックの様に背負った爺が戻って来た。
「どうなされました、お嬢様?」
「ガルさんが・・・えっと、どう説明したらいいんだ・・・」
バンリは気が動転していて、頭の中を上手く整理出来なかった。
「バンリさんの魂をご覧下さい」
慌てるバンリたちとは違い、ワンコは冷静だった。
「魂・・・ですか?」
爺はバンリの魂を見て、驚きの声を上げた。ワンコは一切焦る様子も無く、淡々と状況を説
明して行く。
「バンリさんは魂を斬られ、意識を保てない程の傷を負いました。その傷を埋め、バンリさん
を起こすために、ガルという方が魂となってバンリさんの魂と一体化しています。そして、先
程まで会話が出来ていたのが、今は出来ない・・・返答が無いという状況です」
「な、成程・・・」
爺もまた、直ぐには状況の整理が付かない様だった。
「・・・一度落ち着きましょう」
ガルと最後に話したのは、この家に来る前だった。爺と再会してからは、すっかりそっちに
気を取られていてガルの事を忘れてしまっていた。
「いつ頃から、その様な状態になられたのですかな?」
「昨日からですね。えっと・・・丁度、丸一日くらいになるでしょうか」
爺は考え、思い付く可能性の一つを呟く様に口にする。
「もしや・・・本当の意味で一体化してしまった・・・」
誰に言った訳でもなかったのだが、その言葉にグルが強く反応した。
「そんな事があるんですか!!??」
立ち上がり、まるで怒っているかの様な、妙な気迫がある。
「え?ああ、いえいえ。飽く迄も私目の思い付きに過ぎません。何分、他者の魂と自身の魂を
一体化する等、今日まで見た事も聞いた事もありませんでしたので・・・すみません」
フーーーッ!息を大きく吐き、グルは落ち着いて座った。
「この場合、直ぐに魂を引き離すべきか、慎重になるべきか、どちらの方が良いのでしょうか」
「そうですな・・・引き離すにしても、鎌で無理矢理、そのガルと言う方の魂だけを引き離すと言
うのは難しそうですな・・・」
「あ、そうです!」
グルは思い出して「木の板」を取り出した。
「それは何ですかな?」
「これはガルちゃんの魂を引き寄せる板です。これを使ってみましょう!」
「はあ、それにそんな効力が・・・」
木の板をバンリに渡し、バンリはその木の板を魂に最も近い胸の辺りに抱えた。
「う!」
すると、バンリが突然声を上げる。
「どうかしましたか!?」
「た、魂が・・・動いて・・・!う・・・ううううう!はあ・・・・・・」
その感覚は、まさに胸の支えが取れるという言葉がぴったりだった。
木の板を身体から離すと、その板に魂がくっ付いていた。
「と、取れましたな・・・」
「ガル・・・ちゃん?」
しばらく何の反応も示さなかったガルの魂が、突然形を変え、青白い人型になった。
「う、うう~~~ん・・・!はあ・・・良く寝ましたあ・・・・・・」
ガルは背筋を伸ばす様な動作をした。そして、周りを見てみると、皆ぽかんとしていた。
「あれ?どうかしました?もしかして、この姿は怖いですか?」
「が、ガルちゃーーーん!」
「わ!」
グルは突然抱き締めようと飛び付くが、今のガルには実体が無いため、すり抜けて床に倒れ
た。だが、その表情は嬉しそうだった。
「ガル・・・さん?今まで何してたんすか・・・?」
「え?寝てましたよ?うふふ!聞いて下さい!バンリさんの魂と一つになったら何と、眠気を
感じる事が出来たんですよ!お陰で、何十年振りに眠る事が出来ました!!えへへ、寝るって
気持ちいいですね!」
生き返ったかのように物凄く生き生きと楽しそうに跳ねている。周りとの温度差など全く気
にもならないようだ。
幽霊だから眠らない。そうか。何十年振りの睡眠が嬉しい。そりゃそうだ。ガルに非は無い。
そうだろうな。けれども!
「紛らわしいんだよ!!」
たった一言だけ文句を言った。すると、
「あ・・・れ?何だか意識が遠く・・・」
突然バンリの上体がふら付く。
「あ!分離しちゃったせいで!ガルさん、戻って戻って!」
「はいはーい!」
ガルは元気良く手を挙げ、再びバンリの魂の元に戻って行った。
「ぐあはあっ!はあ、はあ、はあ・・・・・・意識・・・失うかと思った・・・」
「魂、早く取り戻さないとですね」
それもあと少しの辛抱である。
全く以って無駄な心配と時間を食ってしまった。だがこれで漸くも漸く、魂を取り戻す事が
出来る。目の前に置かれた大きな棺。この中に残り半分の魂が封印されているのだ。
「よし、開けるぞ・・・!」
棺の蓋に手を掛け、一気に開いた!
「・・・・・・」
つもりだったのだが、棺全体が動いてしまい、開かなかった。
「ラキエル、下を持っててくれ」
「はい」
ラキエルに押さえて貰い、蓋を開けるのに全力を注ぎ、漸く!
「・・・・・・・・・・・・」
とは行かなかった。
「ならば・・・」
バンリは何処からか持ってきた、先の平べったいバールの様な物を蓋と容器の間に突き刺し!
梃子の容量で!渾身の力を振るい!抉じ開けた!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ご覧の通り、梃子の力を以ってすれば、開けられない物など無い!・・・と思っていた時期があ
りました。
「なんでや!!」
バンリの予測ではとっくに開けて、脳内のバックグラウンドミュージックと共に魂を高らか
に掲げているはずだった。だと言うのに、憎たらしい程までに棺はびくともせず、何食わぬ顔
でその場に鎮座している。
「ああっ!そうでした!」
爺が何かを思い出したかの様な声を上げた。
「バンリ様の大切な魂が入っていると言う事でこの棺、『カテドール様』と言う、力の強い高
名な死神の方に封印を施して頂いたのでした!」
「で?」
「ですので、そのカテドール様ご本人に封印を解いて頂かなくてはいけません」
次から次へと・・・何とも上手く行かないものである。
「その人はさ・・・呼べば来るのか?行けば会えるのか?」
最早諦めている様な調子でそう言うバンリの目にはもう、希望など欠片も宿っていなかった。
「難しいと思われます。『副統領』とも呼ばれている様な方ですので・・・」
「お偉いさんじゃないか・・・」
『副統領』・・・死神界を治める『統領』の次に偉い役職である。よりにもよって、そこまで偉
い人に頼まなくても・・・
「お嬢様。何時になるかは分かりませんが、天界城に申請だけしておきましょうか?」
それ以外にこの棺を開ける手段が無いのでは、そうするしかあるまい。
「そうしてくれ。はあ・・・」
全く以って思い通りに行かない事が精神的な疲れをもたらし、大きな溜め息をついた。
そんな訳で、いつ来るとも分からないそのカテドールなるお偉いさんに棺を開けてもらうま
で足止めをされる事となってしまった。当然、帰る事は許されないので、今夜はこの家の自分
の部屋で寝る事となる。
「うさぎさんにきつねさんにたぬきさん。こっちはいぬさんにねこさんにライオンさん・・・あ、
おうまさんもこっちがいいんですか?う~ん・・・」
「何やってんだお前・・・・・・」
バンリの部屋で一緒に寝る事になったラキエルが、自分の寝床にぬいぐるみを並べている。
「バンリさん!どうしましょう!おうまさんもこっちがいいと仰るのですが、こちらにはライ
オンさんが居て・・・寝てる間に食べられちゃったりしないでしょうか!私としては、ぞうさんと
うしさんとご一緒に寝て頂こうと思っていたのですが・・・」
「食わねーよ!!好きに並べろ!!」
「それじゃあ、ライオンさんとおうまさんは両端でお願いします。ぞうさんとうしさんは二人
だけでは寂しいでしょうが、安心して下さい!バンリさんが一緒に寝て下さいますよ!」
象と牛のぬいぐるみがバンリの寝床の枕元に並べられる。
「やめろ!あたしまで巻き込むな!」
象と牛をラキエルに向けて放り投げる。
「きゃー!ぞうさんうしさんー!」
ラキエルは抱き抱える様に二人をキャッチする。
「バンリさん!何て事するんですかー!ぞうさんもうしさんも怒ってますよ!」
モウ~、どうしてそんな酷い事をするんだゾウ~?)
バンリの身体の中から声が聞こえて来た。
「ガルさん・・・本っ当に楽しそうっすね・・・」
(ばあっ!私でしたー!うふふふふ!)
「知ってる知ってる・・・」
寝る事が出来たのが余程嬉しかったらしく、今日のガルはテンションが妙に高くなっていた。
おまけに、今までは魂が一体化した状態の時はバンリにしか声が聞こえていなかったのだが、
どういう訳か今は外にも聞こえる様になっているようで、それが更に拍車を掛けてしまってい
るのだ。
「もう好きに並べてさっさと寝ないか・・・」
「遊ばないんですか?」
そう言いながら、象のぬいぐるみの手を持ち、振っている。
「遊ぶってまさか、そのぬいぐるみたちでか?」
「・・・はい。駄目・・・ですか?」
その表情はとても寂しそうで、非常に断り辛い。
「何でそんなに遊びたいんだ?あたしはもう恥ずかしいんだが・・・」
「あまり・・・こういう遊びをする機会が無くて・・・」
そうだった。ラキエルはずっと野良生活をしていて、友達もずっと居なかったんだった。そ
んなラキエルにとって、このぬいぐるみがたくさんある光景はきっと輝いて、楽しそうに見え
るのだろう。
「う~ん・・・少しだけ、だからな?」
「・・・はい!」
(私も参加しますよー!)
「はい!お願いします!」
何て嬉しそうな顔をするのだろう。周りから見ても、ラキエルは普段から大人びているのだ
が、この時の顔は無邪気な子供の笑顔そのものだった。
「そうだ、バンリさん」
「何だ?」
「このぬいぐるみなんですけど」
そう言って手渡されたのは、給仕服を着たぬいぐるみだった。
「げ!」
「げ?今、『げ』って言いました?」
「い、言ってない言ってない。で、こ、これの何が気になるんだ?こ、これはそういうぬいぐ
るみな、なんだが?」
平静を装い、ラキエルに返す。
「このぬいぐるみ、ではなく、この給仕さんの服なんですけど、相当使い込まれているような
気がするのですが・・・」
その給仕服は所々糸が解れてボロボロになっていた。なのに、それを着たぬいぐるみ本体は
全くの無傷と言っていい状態だった。
「あ、これ・・・」
よく、見るとこの給仕服は簡単に脱がせられるようになっていた。どうやら、他のぬいぐる
みに着せ替える事が出来る仕様らしい。
無傷のぬいぐるみに、ただ一つボロボロになっている給仕服・・・そこから導き出される結論、
それは・・・・・・
「バンリさんって、給仕さんの服が大好きだったんですね!」
(え・・・バンリさん・・・そうだったんですね!!)
身体の中から感激したような声が聞こえて来る。
「や、やめろ!それは過去の話だ!もっと小さかった時の話で、今は違うんだ!!」
(今度、特別に着せてあげますよ!)
「わあ!それ見たいです!絶対かわいいですよ!」
「違うって言ってんのに!」
全く話を聞いてくれない。この二人の中ではもう既に、バンリは給仕服好きに確定してしま
っているようだ。
「ハワーさんにも教えてあげないとですね!」
「広めようとするな!」
その夜、ぬいぐるみ遊びの予定がいつしか、バンリ遊びになっていた。
同日の夜。カテドールは天界城に帰って来ていた。
「あ!お帰りなさいませ、カテドール様!」
天界城の門番が夜中だと言うのに元気のいい挨拶をしてくる。
「声が大きい。近所迷惑です」
「す、すみません!」
謝罪の言葉も同様。
「はあ・・・。とにかく、リベラール様には気付かれぬ様にしたいので、私が帰って来た事はくれ
ぐれも内密に」
「は、は・・・!」
大声で返事をしようとした門番の喉元に鎌の先を突きつけた。
「理解なさい」
それだけ言い残し、城の中に入って行こうとしたが、
「あああの、カテドール様ああ・・・」
門番に、今度は必死に小さな声で呼び止められる。
「まだ何か?」
ギロッと睨まれてぶるぶると震えながらも、用件を伝えるべく全力を尽くす。
「バロン、娘、魂、封印、解除、ネガウ・・・トノコト・・・」
「そうですか。大体言いたい事は分かりました」
カテドールはそれだけ言うと、城の中へ入って行った。
自分の部屋に戻り、過去の手帳を探す。整理整頓された棚の日常依頼の段から、未達成依頼
ありの行を探す。とは言っても、働き者であるカテドールは受けた依頼は直ぐに済ませてしま
うため、それは一冊しかなく、直ぐに見つかった。
「成程、これですね」
二年と半年程前、「依頼により棺に娘の魂を入れて封印を施した」と書かれている。そして
そこには「バロン宅にて 申請あり次第 解除必要あり」とも書いてあった。
「バロン・・・成程、これも巡り会わせと言うものですか・・・面白いですね」
カテドールは不敵な笑みを浮かべた。そこに、何処から入って来たのか、先程までは居なか
った紫の狐がいた。その口には一つの『鈴』を咥えていた。
「これは・・・それ程急ぐ様な案件ではないと思っていたのですが・・・」
目の前の紫の狐を見つめるが、答えは無い。
「成程。私はメインではありませんからね。早く襷を渡せと言う事でしょうね」
鈴を受け取る。
「お伝え下さい。後三日以内には済ませると」
紫の狐はその言葉を聞くと、部屋から消えるように居なくなった。
「後は、準備が整い次第・・・ですね」
「カテー、居るのー?」
扉の向こうから声が聞こえて来る。この声は間違いなく
「いつもならもう寝ている時間だと言うのに・・・こんな時ばかり目聡い駄目統領め・・・」
悪態を呟き、仕方なく扉を開ける。
「あ!やっぱり帰ってたんだ!何で直ぐに会いに来てくれないの?しかも、さっき何か言って
なかった?」
「いえ、ただ、『楽する事ばかり考えているクソ統領』と、滑舌の練習をしていただけです」
無表情ではっきりと答える。
「何か、さっきのよりも酷くなってない?」
「いえ、決してそんな事は。そんな事より、お仕事の方はしっかりとなされていますか?」
「それ!もうすっごい大変なのよ!おかげで寝る時間が遅くなっていけないわ」
「手伝いません」
きっぱりと答える。
「まだ何も言って無いのに・・・」
「はい。なので先に宣言しておきます。そうすれば、要らぬ希望に惑わされる事無く、ただひ
たすらに仕事に没頭出来るようになるでしょう。それでは私はもう休みますお休みなさい」
「待って!早い早い!」
さっさと扉を閉めようとしたが、許されなかった。
「あのさ・・・カテ、何か怒ってる?」
「いいえ。これを機にしっかりと自分の仕事をこなせるようになって欲しいと思いまして、心
を鬼にしているだけです」
「そ、そう・・・」
カテドールとは長年一緒に居るが、表情の変わらないカテドールの発言は、嘘か本音か、未
だに判断が付き難い。
「あ、そうだカテ。例の件は順調なの?何なら私も・・・」
「滞り無く進んでおります。『邪魔』さえ入らなければ、何の問題も無く済む事でしょう」
「う、うん・・・頑張ってね・・・・・・」
リベラールはトボトボと薄暗い廊下を歩いて去って行く。その背後から
「リベラール様。これを」
振り向いたリベラールに小さな袋を渡す。
「これは何?」
「旅の途中で出会った美味しいお茶菓子です。これを食べて頑張って下さい」
「カテ!私のために・・・!」
「では、御身体には気を付けて。お休みなさい」
「ありがと!お休み、カテ!」
今度は軽やかな足取りで去って行った。
「カテドール」なる人物に申請を出してから二日が経った。偉い人であるとの事であったた
め、さぞ忙しくて時間が無いのだろうと自分に言い聞かせていたのだが、父親の顔を見る度に
早く来ないのか、まだなのかと心が急いてしまう。
そんな時だった。
「お嬢様!連絡がありました!今晩ならば時間が取れるそうです!」
「本当か!?」
「はい!天界城前の噴水で棺を持って待っていて欲しいとの事です!」
「よし!じゃあ、晩御飯を食べたら直ぐに出発だな!」
バンリは希望に瞳を輝かせた。そこには、バロンがいつの間にかやって来ていた。
「バンリ」
「親父・・・こればっかりは、あたしが直接行かなきゃだろ」
「分かっている。だが・・・・・・そのまま居なくなってくれるなよ?」
魂を取り戻したら、その足で逃げてしまうかもしれないと思っているのだろう。散々自由を
求めるバンリに対してのその心配は尤もだ。だが、バンリはそんな事は全く考えていなかった。
むしろ、言われて初めて気が付いたくらいだ。
「帰ってくるさ。お袋を連れ戻すとか言っちゃったしな・・・それは果たすつもりだ。だから、魂
を取り戻したら一旦帰ってくる。嘘は吐かん」
「・・・・・・ならばいい・・・・・・」
バロンは何か言いたげな顔をしていたが、口に出す事は無く、そのまま自室に戻って行った。
「お嬢様、私目も同行させて頂きますぞ。カテドール様に御挨拶せねばなりませぬので」
「私も行きますよ。ラキエルさんを狙う輩が現れる可能性がありますから」
爺とラキエルも同行してくれるらしい。
「ありがとな。正直、心強いよ」
(私も居ますよ!)
身体の中からガルが主張してくる。
「ガルさん・・・・・・もし、今度また襲われたら・・・・・・ガルさんだけでも逃げて下さいよ?」
(それじゃあバンリさんが動けなくなってしまいます!)
「いいんだよ。あの死神の狙いは飽く迄もあたしだ。ガルさんを危険に巻き込むくらいなら、
無抵抗で捕まる方が気が楽だからさ」
(・・・・・・分かりました)
「この爺が付いております故、お嬢様には指一本触れさせませぬぞ!」
爺は年甲斐もなく張り切っている。
「指一本っつーか、『鎌』使って来るからな?」
「負けませぬ!爺は負けませぬぞー!」
むしろ張り切りすぎて、今直ぐに倒れてしまうのではと心配になる。
「はあ・・・ラキエル、お前を頼りにしてもいいか?」
「はい!その時は修行の成果をお見せします!」
「え?修行?」
ラキエルが大聖堂に行ったのは確かに、それっぽい理由だっただろうが、「修行」と言われ
ると、凄まじい感じがして吃驚する。・・・まあ、心強いからいいか。
ちょっと行って封印を解いて貰うだけだと言うのに、何だか戦いに行くような雰囲気になっ
ている気がする。そりゃあ、備えあれば何とやらとは言うが・・・。
今はただ、夜を待つだけである。




