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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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24/240

父親

「只今戻りまして御座います」

「おお、漸く帰ってきたか。随分と遅かったが、道草でも喰っていたのか?」

 奥から一人の男が待ち侘びていたかの様に、足早に現れた。その男はバンリの姿を見るなり

顔色を変えた。

「ば!?ばばばばばばばばバンリ!?バンリじゃないか!?バンリだな!?バンリでなければ

ならない!お前はバンリだ!バンリーーー!!!」

 男は早口にバンリの名を連呼すると、飛び付く様にバンリに抱きついた。

「やめろ離れろクソ親父!」

 頬ずりしようとしてくる男、父親の顔面を押し返し、必死に拒否する。

「な・・・!何て汚い言葉を!?お前は本当にバンリか!?確かめさせろー!」

 尚も頬ずりしようとバンリに迫る。

「違ったらどうする気だ!近寄るな~!」

 押したり返したりの(微笑ましい?)親子の触れ合いをしばらく眺めていた(間に入りたく

なかった)。

 二人の息が揚がってきた所で、爺が漸く間に割って入った。

「さて、お疲れになった様ですし、お茶に致しましょう」

 パンパンと手を鳴らすと、奥から別の給仕者が現れた。

「お茶に致しますので、皆さんのご案内を」

「畏まりました。皆様、こちらへ」

 案内されるまま後を付いて行く。が、グルだけは立ち止まっている。

「どうかなされましたかな?」

「いえ・・・あの、何か手伝わせて頂けませんか?」

「そういう訳には行きませぬ。お客様であります故」

「ですが、して貰うだけというのは給仕者としてどうも落ち着かないのです」

 グルは人に仕えてお世話をする事が普通であり、逆に何かをして貰うという事には耐性が無

く、じっとしていられなかった。もしかしたら給仕者としてのプライドが許さなかったのかも

しれない。

「成程。そういう事でしたら、是非に」

「感謝致します」

 台所に足を踏み入れると、ここ最近普及し始めたばかりの機器がまず目に止まった。

 まずは『熱陣コンロ』。機器に描かれている陣に魔力を込める事によって熱を発生させる事

が出来る道具だ。予め魔力を溜めておく事が出来、スイッチで陣に魔力の供給のオンオフを切

り替えられ、摘みを回すことで魔力の供給量を増減できて、それによって発生する熱量を調節

すろ事ができる。

 続いては『水陣サーバー』。これも描かれている陣に魔力を込めれば使える道具だ。こちら

は水を生成する事が出来る。こちらも魔力を溜めておけばいつでも使える。この機器の特徴と

言えばやはり、「形」だろう。それぞれの家のインテリアに見合った形の物を自由に注文する

事が出来るのだ。大きな物にして水をたくさん溜めておける様にしたり、持ち運びに便利な筒

の形にしておけば、いつでも何処でも作り立ての水を飲む事が出来る。この家では、大きな樽

に蛇口が取り付けられた物の様だ。

 どれも便利だが、欠点を挙げるとすればそれは、全て「魔力」あってこその道具であるとい

う点だ。全世界で魔力を持っているのは「魔獣族」だけであるため、定期的に魔獣族に魔力を

分けて貰わなければならないのだ。

「これは!もうこんなに導入なされてるのですね!使い勝手は如何ですか?」

「ええ、とても便利で助かっておりますよ」

「えへ、実は私、科学者なんです」

「おお!そうで御座いましたか!ありがとうございます」

「とは言っても、これを作ったのは別の班の方々なんですけどね」

 それでも同じ科学者が作ったものが人の役に立っていると言われると嬉しいものだ。あれや

これやとたくさんの人が考えを巡らせて作り出された物なのだ。

「さて、それでは私は何を手伝いましょう?」

「では、そこに居る彼女と共にお昼御飯をお願い致します。彼女は魔獣族ですので、この厨房

を任せております」

 紹介されたその給仕者の女性はぺこりと頭を下げる。だが、どういう訳か、その女性は給仕服を着ておらず、私服でそこにたっている。

「宜しくお願いいたします」

 グルも頭を下げた。

「訊いてもいいか分からないですけど・・・」

「ああ、もしかして、私服を着ている事でしょうか?」

 どうやら、質問の内容を察したらしい。

「ここでは私服で給仕を行って欲しいとの事でしたので」

「そうだったんですね。すいません、給仕服は給仕者のトレードマークですから、着ていない

のが気になってしまって・・・」

 給仕服は、給仕者の制服であると共に、給仕者である事を示す大切な証であり、それを着る

事は誇りなのだ。

「いえそんな、ご尤もな疑問だと思います」

「では、気を取り直しまして」

「始めましょうか」

 食堂ではバロンが満面のだらしのない笑みでバンリを見つめていた。

「もうずっと家に居てくれるんだろ?居てくれるよな?いやー、帰ってきてくれて嬉しいよー。

この日をどれだけ待ち望んでいたか」

 勝手な解釈で勝手に決め付けている。

「用が済んだらすぐにでも帰るけどな」

 目を合わせようとせず、独り言の様に呟く。

「バンリ、何かあるのかい?」

 バンリは漸く目を合わせる。

「・・・・・・あたしの魂を返してくれ」

 バロンの顔から笑顔が消え、怒っているのだろうか、気迫に満ちた、怖ささえ感じる真剣な

表情に移り変わった。

「あたしの魂を見てくれよ」

 バロンは驚きを隠せなかった。バンリの魂はまるで継ぎ接ぎの様に異種の魂がくっ付いた、

痛々しい見た目をしていた。

「ば、バンリ・・・!その魂・・・何があった!?」

「死神に魂を・・・斬られた」

「な・・・!?」

 死神族は魂を「狩る」事は死神族であれば誰でも出来る。だが『斬る』、つまりは魂を傷つ

けるという事は普通の死神族には出来ないし、出来たとしても、それ程までに力の強い死神族

であれば、その行為の危険さも理解しているはずであり、実際に魂斬りを行うなどむしろ恥ず

べき行為として認識しているため、まず在り得ないはずである。

「誰に・・・やられた・・・」

「そんな事はどうだっていい・・・」

 バンリは答えない。

「どうだっていい!?いい訳がな」

「あたしはそいつをどうにかして欲しくて来たんじゃねえんだよ!・・・あたしは、そいつに襲わ

れた時、ある人を護ろうとした・・・」

 バンリは俯き、辛そうな表情を浮かべ、魂のある胸の辺りに手を置き、握り締める。

「だが、出来なかった・・・。ほんの少しですら足止めする事も出来ずに鎌を真っ二つにされて・・・

魂までも・・・・・・ラキエルが・・・友達が助けてくれなかったら、あたしが護ろうとしたその人はき

っと・・・。もう、そんなのは・・・弱いままなのは嫌なんだ!あたしだって人並みに戦いたい・・・あ

たしにだって護りたいものがあるんだよ!」

 バンリの心からの叫びを、バロンは静かに見守り、聴いていた。だが、

「・・・お前の言いたい事は分かった。だが、許さない」

「・・・・・・やっぱりかよ・・・!」

 その答えはバンリの予想していた通りのものだった。

「例えお前が魂を取り戻し、鎌を一人前に振り回せる様になったとしても、お前の力ではその

相手から護り通す事など出来ない。お前に勝ち目は無い!そのお前に下手に勇気を与える訳に

は行かんのだ・・・理解してくれるな?」

「それじゃあ駄目なんだよ!例え勝てなくとも、あたしが戦う事に意味があるんだよ!何で分

かってくれねえんだよ!」

「お前の我侭はお前自身を危険に晒す事になるのは明白だ!それを分かっていて、我が子にそ

の道を行かせる親などいない!・・・お前に降りかかる危険は、この父が振り払う!だから、ずっ

とここに居ろ、バンリ」

 バンリは拳を握り締め、歯を食いしばる。父親の言っている事は尤もだ。娘である自分に危

険が及ばぬ様に取り計らう。傍から見ればいい親に見えるだろう。だが、それはバンリにとっ

ては苦痛でしかなかった。バンリは返事をせず、目を逸らした。

 次第に空気が悪くなってきて、この場に長居したくないと思えてきた所で、タイミング良く

昼食が運ばれてきた。

「旦那様!お昼に致しましょう!」

「どうした、何故それ程顔がにやけている?」

 爺は普段からにこやかではあるが、今は一段と頬が緩んでいる様に見える。

「実はですね、旦那様。本日の昼食はこちらの方が御用意して下さったのですが、その手際が

もう、見惚れてしまうほど美しく完璧でして・・・と、実際にお召し上がりになって頂ければ、違

いが分かって頂けるものと存じます故、直ぐに準備を致します」

 長々と興奮した様子で喋り終えると、手早く料理が並べられた。

「ふむ・・・見た目は普段と遜色なさそうだが」

 ご飯に味噌汁、魚の味噌煮に根菜類の煮付け。いつもと変わらぬ内容だった。

「はい。普段通りに召し上がって頂ける様に、献立と盛り付けは正規の給仕さんにお任せ致し

まして、私は調理のみ担当させて頂きました」

「だがこれは・・・!香りが段違いに良いな!」

 立ち昇ってくる香りが胃袋を刺激する。溢れてくる唾液を飲み込み、手を合わせる。

「頂きます!」

 それを合図に、皆が一斉に食べ始める。それぞれに箸を入れ、一通りその味を確かめてみる。

「・・・・・・素晴らしいな!家の給仕も中々のものだと思っていたのだが・・・お前本人はそこの所ど

う思う?」

 今現在厨房を任せている給仕に問いかける。

「同じく、素晴らしいと思います。この方からは天性のものを感じます」

「ふむ・・・お前にそこまで言わせるとはな・・・汝、名は何と言う?」

「・・・グルと申します」

 その名を聞いた爺と厨房給仕は明らかに驚き戸惑っていた。だが、声を出そうとした二人に

対し、グルは自分の唇に人差し指を当て、それを制止する。グルは自分が給仕者たちの間でど

のように思われているのか知っている。名誉な事ではあるのだが、その様に騒がれるのは好き

ではない。

「グル、か。汝は誰かに仕えているのか?」

「いえ、仕えてはいません。ですが、研究開発局全般の給仕を任せて頂いております」

「な、何と!?それ程大きな施設に勤めておられるとは、成程、納得であるな」

 終始、満足げな表情で食事を楽しんだ。


 およそ二年半振りだろうか、バンリは自分の部屋の扉の前で浮かない顔をして立っていた。

「ここがバンリさんのお部屋ですか?」

「ああ・・・もうここに帰ってくる気なんて無かったんだがな」

 バンリはラキエルに背中を押されるように扉を開けた。中にはたくさんのぬいぐるみやオモ

チャが並んでいた。

「あら!可愛いお部屋ですね!ハワーさんが喜びそうな・・・」

「む・・・どうせ、似合わないとか思ってんだろ?」

「えへっ!」

 わざとらしい笑顔が返ってくる。

「言っておくが、これはあたしの趣味ではないからな!」

「へぇー」

 にやけた顔で返事をする。これは信じていない顔だ。

「本当だぞ!これは親父があたしをここに居させるために・・・いや、閉じ込めるために用意され

た物なんだよ!」

「閉じ込める、ですか?」

「ああ、そうだ!どれくらい前かは忘れたが、突然お袋が家を出て行って、それであたしだけ

は逃がすまいと、こうしてあたしに飽きる事無く生活出来るように、物を次から次へと頼んで

も無いのに持ってきたんだ!」

 ぬいぐるみやオモチャをよく見てみると、未だ新品同然の物が大半を占めていた。

「ここに居れば食事もオモチャも用意してもらえる・・・遊んで暮らせる。あたしには、それが苦

痛でしか無かったがな」

「それで、一人暮らしを?」

「ああ。あたしは不自由な生活がしたかったんだ。生きて行くために慣れない事を四苦八苦し

ながらやったり、他人と助け合いながら生活したりとか、そんな生活に憧れてたんだ」

「と言う事は、その生活のために自身の魂を・・・ですか」

 バンリは力強く頷いた。その表情には一切の後悔も感じられなかった。それも当然の話だ。

周りの土地も人も知らない所での生活は思った以上に不自由で、思っていたよりも遥かに楽し

かったからだ。

 そもそもの事の発端はバンリが物心付いたばかりの頃だった。ある日を境に、母親が居なく

なってしまったのだ。出て行ってしまったのかは分からない。ただ、出かけて行ったきり帰っ

て来ず、連絡も無いという話だ。

 まだ幼い頃は良かった。母親が居なくなったのが物心を付いたばかりの頃であったため、は

っきりと顔も思い出せない程度にしか知らず、寂しさを感じる事は殆ど無かった。それは父親

の働きのせいかおかげか、次々と新しいぬいぐるみやオモチャを与えた事により、興味がそち

らばかりに向いていたのだ。そのため、ずっと家の中に居るよう言われても特に気にする事は

無かった。

 だが、次第に心が成長するに連れて興味の対象の幅が広がり、家の外へと向くようになった。

そうなってくると、ずっと家の中に居ろと言う父親の言葉に疑問を持つようになる。そしてそ

れは反抗心となり、父親の真意を疑うようになった。ある日、それまで疑問に思わなかった、

「どうして家の外に出てはいけないのか」という質問を父親に投げ掛けた。その答えは

「必要ないからだ」

 その一言だった。当然、そんな理由で納得できる訳が無い。それを切っ掛けに、益々外への

興味が湧いてくる。こうなってしまうと、幾ら今の生活が恵まれているのものだとしても、退

屈でつまらなく思えてきてしまう。その想いが募った結果、外での不自由な生活に憧れるよう

になったのだった。

 勿論、その想いを父親にぶつけた所で許しが得られる訳が無かった。外に行きたくとも行く

事は許されないとなれば、後に考え付くのは「脱走する」という事である。だが、それを実行

する事は無かった。もし、脱走を行い、捕まって連れ戻されるような事になってしまうと、そ

の後は許しを得られる可能性が無くなってしまうと考えたからだ。

 その後は根気良く外に出たいと言う意思を伝え続けた。そんなある日、遂に我慢も限界に達

し、つい「家出をしてでも出て行くから!」と、つい口にしてしまう。結果的にそれが功を奏

したのか、今までは聞く耳持たずだった父親が、ちゃんと話し合おうと言い出してきたのだ。

その話し合いの結果が「魂の半分を預かる」という条件での合意だった。その当時は、魂を半

分失う事がどういった事なのか分からなかったが、そうすれば外に大手を振って出る事が出来

るため、良く考える事も無く条件を飲んでしまったのだった。実際、半分失った所で、身体に

これといった変化は感じず、普通に動く事が出来たので、いつしか気にする事も無くなってい

った。

「さて、どう説得したものか・・・」

 この家から出て行く時とは違い、今度は魂の全てを取り戻した上で外での自由を得なければ

ならない。だが、交換条件で何か置いて行ける物もない。今度こそ本当の自由を手にしなけれ

ばならないという訳だ。それに必要な事は・・・・・・

「分からん!」

 あの頑固な父親の事だ。どんな言葉を並べたとしても、許してくれるとは到底思えない。

「そういえば、バンリさん、訊きたい事があるんですけど、いいですか?」

「あん?何だよ?」

「バンリさんって狸ですよね?」

「ああ、そうだな」

「でも、お父さんは獣種ではないですよね」

「ああ、その事か。お袋が狸だからな。それが何か変か?」

 ラキエルは何かを真剣に考えている様だ。

「ちなみに、種族は・・・」

「種族?えっと・・・・・・何だったかな・・・・・・あれ?」

 そういえば、母親の種族も知らない。母親の事は印象が無く、今まで全然気にしてこなかっ

た。こうして思い出そうとしても、思い出も何も思い出す事が出来ない。

「分からないんですか?」

「・・・・・・分からんな。というか、ラキエル、何か言いたい事があるのか?さっきから何か考え

てるみたいだが」

「ああ、はい、実は。・・・説得の方法なんですけど」

「何かあるのか!?」

 バンリはラキエルに掴み掛かる。

「お、落ち着いてください!」

「ああ、すまん・・・続けてくれ」

「バンリさんの話を聴く限り、事の発端はその『お母さんが居なくなった事』にあると思うん

です。ですから・・・捜してみませんか?お母さんを・・・」

 母親を捜す・・・考えた事も無かった。もう居ない、居なくて当然だと思っていた。でも実際、

「死んだ」という話を聞いた事は無い。捜せば見つかる可能性はあるのではないか?もし、見

つけて連れ戻す事が出来れば、何とかなりそうな気がする・・・!

「そ・・・それだ!!」

 バンリはラキエルの手を取る。

「まずは親父に・・・いや、爺にお袋の事を訊こう!現時点でお袋がまだ生きているのかを知る必

要がある!爺なら外によく出掛けるし、爺の方が詳しいだろう!」

 ラキエルの同意を待たずに、バンリは手を引っ張って走り出した。


「爺!爺いいいーーー!」

 窓の掃除をしている爺の元に、大声を上げながらバンリが走り寄って来る。

「おやおや、バンリお嬢様。ラキエル殿も、そんなにも慌てて御出でで、この爺奴に何か御用

ですかな?」

「爺!お袋の事、教えてくれ!」

 爺は驚きの表情を浮かべる。

「いきなりどうなされたのです?」

「説得のためだ!見つけて、親父を説得する!頼む!あたしはお袋の事・・・何も知らなくて、こ

のままじゃあ捜せないんだ!」

「初めて・・・ですね。お嬢様がリオン様の事をお訊きになられますのは・・・」

「『リオン』って言うんだな!」

 バンリは名前すら知らなかった。

「種族は?というか、今も生きているのか?」

「ええ、ご健在のはずですよ。種族は妖怪族で御座います」

「何年前くらいに出て行かれたのですか?」

「六年ほど前・・・になるでしょうか・・・」

「妖怪族で狸種・・・他に何か特徴は?」

 爺は唸り声を上げながら考え込む。しばらく考え、そしてようやく何か思い付いたのか、勢

い良く顔を上げた。

「そうです、自由な方でした!」

「は?」

 思わず間抜けな声が漏れる。

「いや~、リオン様は文句もお褒めの言葉も気持ちの良い程はっきりと仰いますし、何か思い

付くと、突然ふらっとどこかへ行ってしまって、数日間戻らないなんて事も多々ありましたね

え・・・これ程長い期間戻らない事など一度もありませんでしたがね・・・」

「自由な人か・・・」

 見た目の特徴が訊きたかったのだが、まあ、その情報でも役には立ちそうだ。

「あの、何処に行ったか、思い当たる場所はありませんか?」

「何分、居なくなってしまわれたのは何年も前の事ですし、当時、何に対して興味を持たれた

のかも分かりませんし、今はきっと別の事に興味を移されているでしょうから・・・ふむ、検討も

付きませんな」

 得られた情報は、「リオン」という名前と、「自由な人」という事だけだが、訊き出せるの

はここまでだろう。

「ありがとう、助かったぜ、爺」

「いえいえ、どう致しまして御座います」

「よし、次は親父と交渉、だな・・・」

 母親を見つけて連れ戻す事と引き換えに、自由を貰うという交換条件を父親に飲んでもらう

必要がある。

 父親の自室にやってきたバンリは、少しばかり緊張していた。父親の部屋には入った事が無

かったのだ。まるで敵地に踏み込まんとする時の様な緊張感と言ったらいいのだろうか。大き

く深呼吸をした後、心を決めて扉を開ける。

 父親は机に向かって座っていた。何やら読んでいるのか、見ている様だった。

「親父、その・・・交渉しに来た。話をさせてくれ」

 その言葉に、少し遅れて反応を示し、こちらを向いた。

「まだ外に行こうと言うのか」

「親父、あたしはお袋を捜す」

「そうか」

 以外にも、父親は大きな反応を示さなかった。バンリは少し不気味に感じたが、話を進める。

「お袋を捜してここに連れ戻す。それが出来たら、あたしに外での自由をくれ!勿論、魂を全

部返してもらった上でだ」

「ふん・・・リオンを連れ戻した所で、許しが得られるとでも思ったのか?ならんぞ。お前はこの

家に居なければならない」

 やはり不気味だ。淡々と話しているだけで、言葉から感情が伝わって来ない。バンリは恐怖

を感じ始めていた。

「魂は返そう」

「え!?」

「だが、この家には居てもらう。以上だ」

「お、おい!親父!」

 バロンは机に向き直ると、再び何かを読み始めてしまい、バンリの声に反応を示さなくなっ

てしまった。

「な・・・何だってんだよ・・・」

 不気味な今の父親にこれ以上近付きたくないと思い、バンリは部屋を出て行った。

「リオン・・・・・・すまない・・・・・・非力な私を許してくれ・・・・・・」

 一人、文字の書かれたそれを祈るように額に当て、呟く。

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