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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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22/240

急襲

ジリリリリリ・・・ジリリリリリ・・・がちゃっ

「はい、こちらはハイラント邸です。ご用件をどうぞ」

「お前、グルだな?」

「あ、ラグラ様ですか?」

「・・・・・・どうなった?」

 ラグラはグルの声の調子からして、面倒な事にはなって無いだろう事は予想がついたが、一

応、聞いておかなければならない。

「・・・言ってませんよ、何も・・・」

「そうか・・・それでお前は、良かったのか?」

「はい。幸せそうでしたので・・・邪魔をすべきではないと判断しました。・・・あの、ラグラ様・・・

ご心配をお掛けしました」

「その事はもういい、それよりもだ。お前、いつまでそっちに居るつもりだ?」

 グルが研究室を飛び出してから数日が経っていた。グルはハイラント邸でガルの手伝いをし

ながら、ガルの仕事振りを間近で堪能していた。

「えと・・・すみません。もう少しだけ・・・後二日か三日程、居させてください!お願いします!」

 次にいつ会えるか分からない。ガルも死んでしまい、もう居ないのだと思っていたグルにと

って、このハイラント邸での時間は、夢のようだった。自分が姉だと思われていなくとも、一

緒に居られるだけで十分に幸せだった。

「はあ・・・分かった、後三日だけだからな」

「ラグラ様・・・!ありがとう御座います!」

「全く・・・こっちは大変なんだぞ?」

「え、何かあったんですか?」

「ああ、大有りだ。何せ、掃除に洗濯に料理にお菓子にお茶・・・諸々の仕事を完璧にこなしてく

れる人材が居なくなっちまったんだからな」


 グルの居なくなった研究開発一班の生活環境は著しく悪化していた。

 掃除。

「一日二日くらいしなくてもいいか」満場一致である。

 洗濯。

「これは機械が有るから何とかなりそう」

「確か・・・容器に洗濯物と規定の線まで水を入れて、取っ手を持ってぐるぐる回すだけで・・・どれ

くらいやればいいんすかね?」

「・・・とりあえず疲れるまで回してみろ」

 ひたすらぐるぐるぐるぐる・・・

「これだけ回せば・・・はあ、はあ、汚れが綺麗に・・・残ってるじゃないっすか!」

「これじゃあ、ただ水で濡らしただけだな」

 とりあえず干しておく。

 料理。

「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」

 食材を並べたまま誰も動かない。

「誰か、何とかしろ」

「無理っすよ・・・」

「専門外」

「適当にやってみるっすか?」

「駄目だ。火事にでもなったらどうする」

「食材が無駄になる」

 結局、丸齧りで素材そのままの味を堪能した。


「とまあ、そんな有様だ・・・全く、情け無い限りだ」

 ラグラには珍しく、落ち込んでいる様であった。

「うふふ、宜しければ、お教え致しましょうか?」

「そうだな、最低限の家事は出来ないと、流石にやばいと感じたしな・・・頼む」

「はい、かしこまりました。ふふふっ」

「む・・・そんなに可笑しいか?」

「はい。ラグラ様が家事をしている所を想像すると・・・ふふふっ!すみません」

 言っては悪いが、似合わない。壊滅的に似合わない。

「くそ・・・こんな事なら、予め勉強しとくんだった・・・」


 学校では再び、不審人物の話が上がっていた。

「聞いた?最近、小さな女の子の魂を狩って回っている人がいるんだって」

 それは女性で、死神族だと言う話だ。魂を狩られても直ぐに戻されるらしく、大きな事件に

はなっていない様だ。

「なにがしたいんだろうね。バンリちゃん、わかる?」

「そんなん知るか」

 そんな異常者が何を考えているかなんて分かるはずもないし、分かりたくもない。大体、今

はそんな事を考えている余裕は無い。「自分の」魂に鎌・・・その事ばかり考えている。

 学校が終わり、帰りのホームルームの最後、デイ先生が不審人物の話を切り出した。

「みんなはもう、死神の不審人物さんの事は知ってるよね」

 みんな手を挙げて肯定する。

「その人の新しい情報なんだけど、実はその人、誰かを探しているみたいなの。『バロン』って

言う人の娘さんを探してるって話みたい」

 バロン。その名前を耳にした瞬間、それまで話半分に聞いていたバンリは目を見開いた。他

でも無いその名前は、バンリの父親の名だった。

「バンリちゃん、どうしたの?かおいろわるいよ?」

「え?あ、ああ・・・大丈夫だ。何でもないから・・・」

 部屋で一人になると、ますます不安になった。「バロンの娘を探している」それは紛れも無

い、自分の事だ。自分を探して関係の無い人たちの魂を狩って回っている。そればバンリにと

って、とても心苦しかった。

(何故だ・・・何故そこまでしてあたしを探している・・・)

 全く心当たりがなかった。それでも、自分を探しているのが事実だとすると、このままじっ

としている訳にはいかない。その不審者に直接会う必要がある。だが、何処にいるのかも分か

らない。探すべきなのだろうか・・・

 目的も分からないと言う恐怖も相俟って、何の決心も付かぬまま、いつのまにかすっかり夜

も更けてしまっていた。もう寝てしまおうとランプの灯を消そうとしたその時、目の前の壁か

ら青白い人型がすり抜けて出てきた。

「ぎゃあああああ!!!」

 勿論、ガルだった。

「ふう、間に合いました」

「何がだよ!」

 何故だかやり遂げたかの様な表情をしているガルに声を荒げる。

「驚かせない様に、明かりが消える前に来ようと思っていたんです!」

「壁すり抜けて来られたら意味ねーよ!」

 にこにこしているだけで反省の色が見えない。バンリは諦めて用件を伺う事にした。

「それで?今日はどうしたんすか?」

「ハワーさんが言ってました。今日のバンリさんは何だか様子が変だったって」

「ハワーのやつ・・・何でも無いって言ったのに・・・」

「勿論、何でも無く無いんですよね」

 はあ~。バンリは隠せないと思い、またも諦めた。

「ガルさんは、最近噂になってる不審な死神の話、知ってます?」

「ん~・・・いえ、初耳です」

「そうっすか・・・その死神は少女の魂を狩って回ってるみたいで、その目的が実は」

ドンドンドンドン!

 突然、玄関のドアをノックする音が聞こえてくる。既に夜も遅く、寝ようとも思っていた程

のこんな時間に、一体誰だろうか。バンリは玄関へ向かい、ドアを開けた。

「こんばんわ。夜分に失礼します」

 そこに立っていたのは、猫種の女性だった。暗くて顔が良く見えなかったため、一瞬、シュ

リかとも思ったが、纏う雰囲気的に違う様だ。

「あの・・・どちら様で?」

 女性はその問に答えず、バンリではなく、部屋の奥を見ている様だった。

 今、部屋の奥には、魂だけの全身青白い姿をしたガルがいる。不味い、驚かせてしまうと思

った。

「あ、あの!用件、用件を伺いますから!」

 必死に注意を自分に向けさせようとする。だが、あろう事か、その女性は部屋に上がり込ん

で行く。

「ああ!ちょっと待って!」

 慌てて女性を止めようとするが、既にその女性の目はガルを捉えていた。しかし、その女性

はまるで驚いていない様だった。

「・・・貴方は?」

「私はガルと申します。ハイラント邸で給仕者をしております。あ、ちなみに幽霊です」

「言わなくていいよ!」

 ガルはケロッとした顔で名乗ってしまう。女性は突如、鎌を手にした。

「死神!?」

「迷える魂、回収します」

 小さな声でそう宣言すると、ガルの方へ向かっていく。これは冗談で言ってるとは思えない。

危険を感じたバンリは女性の行く手に立ち塞がる。

「や、やめろ!何をする気だ!」

「魂を回収します」

 女性の眼は恐ろしいほど冷たかった。眼を見たこちらの身体が凍らせられてしまうかの様な

感覚に襲われる。バンリは何とか声を絞り出す。

「なん・・・でだよ・・・」

「死して尚、現世に彷徨う魂は回収し、在るべき場所に還す。それも死神の使命の一つ」

「し、知らねえよ・・・そんなの・・・!」

「それで構いません。使命の事など、今の子供たちが捉われる必要はありません」

 女は止まる気配が無い。「使命」と称してガルの魂を狩る気だ。

「ガルさん、逃げて!」

「は、はい!」

 ガルは壁をすり抜けて部屋から脱出した。バンリも窓から飛び出し、それを追いかける。


 逃げ切るのは無理かもしれない。だがせめて、仲間たちの居るハイラント邸に辿り着く事が

できれば・・・月明かりだけが大地を照らす、暗い空を二人は文字通り真っ直ぐに、家々の屋根を

飛び移りながら向かう。

 だが、ハイラント邸まであと少しと言った所で、突然弾かれた。その衝撃でそれまで軽快に

飛び跳ねて移動していたバンリも、宙に浮きながら移動していたガルでさえも地面に落とされ

てしまった。

「いってえ・・・何だ、何にぶつかった?」

 見上げるが、何も見当たらない。ガルが恐る恐る前に進もうとすると

バチィ!

 と青白い火花を散らして弾かれた。

「う、うう・・・」

「だ、大丈夫っすか!?ガルさん!」

 弾かれたガルは少し苦しそうにしている。

「そこから先へ行く事は出来ませんよ」

 背後から、あの女が歩いて追い付いて来た。その女性の手には、先程とは形の違う鎌が握ら

れていた。あれが「彼女の」鎌なのだろう。

「何を・・・したんだ・・・」

 女は一歩、また一歩と近づいて来る。

「くそっ!」

 バンリも鎌を出し、応戦の意思を表す。

「邪魔をするのであれば・・・」

 女が鎌を横に軽く一振りする。

「は?」

 女の鎌の刃先がバンリの鎌の柄の部分を捉えると、まるで紙であるかのようにあっさりと真

っ二つにされてしまった。

 何が起こったのか理解できず、真っ二つになった鎌を見ながら放心するバンリがふと正面に

ピントを合わせる。そこには、既に女が鎌を振り下ろさんとしていた。だがもう、どうする事

も出来ない。

「御魂・・・斬り」

 振り下ろされた鎌は、深々とバンリの身体にめり込み、袈裟に斬り裂いた。

「がっ・・・ああ・・・!」

 血は出ていない。死神の鎌で人体を傷つける事は出来ない。だが、

(魂を・・・狩られた・・・?いや、違う。これは・・・)

 魂を狩られれば直ぐに意識を失ってしまうはず・・・。バンリは恐る恐る自分の魂を確認する。

何と、バンリの魂は深々と抉られていた。

(魂を・・・斬られた・・・!?)

 意識が虚ろになり、身体に力が入らなくなって行く。そして、立っていることが出来なくな

り、膝を突いた。

「ば、バンリさん!」

「バンリ・・・ほう、まさか貴方がバロンの娘だったとは」

「え?」

「名前だけは知っていましたが、まさか・・・狸であるとは思っても見ませんでした」

「ま・・・さか・・・・・・」

 最近噂になっている不審者。自分を探していると言うそれが、今、目の前に居るこの女だと

言うのか。何故自分を探しているのか、目的も分かっていない。どうしたらいい、どうすれば

いい・・・こんな状態では最早、成す術は無い。

 だが、あろう事か、女はガルの方へ向かって行く。

「ま、待て!はあ、はあ・・・狙いは・・・あたしなんだろ?」

「貴方の魂は覚えました。次からは直ぐに居場所が分かります。なので今は、魂の回収が先で

す。早く還してあげなければなりません」

 駄目だ、止められない。

「鎌を・・・な!?」

 バンリが鎌を手にすると、その鎌は静かに崩れ去ってしまった。

「鎌が・・・出せない・・・!」

 打つ手はもう無い。女はガルを前に、鎌を振りかぶる。

 突然、月明かりが遮断された。バンリも、女もその手を止めて空を見上げる。

 女の頭上から、それは襲い掛かった。振り下ろされた棒のような物を鎌で受け止める。つば

ぜり合いをするその姿に、バンリは驚いた。

 月明かりに映えてキラキラと輝く真っ白な翼。手にしている杖には見覚えがある。

「お前・・・まさか・・・!?」

 それはまさしく、ラキエルだった。

『外せ』

 そう呟いた瞬間、物凄い力で女を押し返した。

「ん・・・これは」

『遂行・壱のつがり!』

 杖を横に薙ぐ。

「むう!力が・・・強い!」

 女は受け止めるが、少し体制を崩す。続けて下から上へ振り上げる。

「ぐ!」

 女の手から鎌が弾き飛ばされる。

 振り上げられた杖には、描かれた十字の軌道が光となって留まっている。そしてその十字は、

純白に眩しく輝く巨大な光の十字架へと形を変えた。

「天使の・・・聖十字・・・」

「信念もたらせし、聖なる刃『グランド・クロス!』

 それをそのまま女目掛けて叩き付けた。

 静かな夜に大きな音と振動が響き渡る。十字架は消え、立ち込める砂煙の中から女の声が聞

こえてくる。

「今日の所は引かせて頂きます。また後日、伺います」

 砂煙が治まった頃には、女は居なくなっていた。

「たすかったん・・・だな・・・」

 安心したのか、バンリは一気に意識が薄れて行くのを感じる。

「バンリさん!しっかりして下さい!バンリさん!」

 直ぐ近くで叫ばれているのに、耳が遠くて上手く聞き取れない。バンリはそのまま意識を失

った。


 翌朝、ハワーがいつもの様に起きて居間に向かうと、そこには何と、居るはずの無いラキエ

ルが居るではないか。

(ああ、ゆめかー・・・)

 冷静にそう判断したハワーは普通に話しかける。

「おはよー、きょうもいいてんきだねー」

「はい、そのようですね。あ、ハワーさん、寝癖が」

 髪を触られる。良く出来た夢だなあ、触れられる感覚まで再現されるなんて・・・

(どうせゆめだし・・・)

 ハワーは夢である事に甘えて、そのままラキエルに寝癖を直してもらう。

「ハワーさん、終わりましたよ」

「でへへ・・・ありがとう」

 一向に夢から覚めぬまま朝食を摂り、ハワーは学校へと向かった。

 そして、自分の席に座った所でようやく気が付いた。

(あれ?これって・・・・・・げんじつ!?)

「あれえええええ!?」


 ハワーを送り出した後、ラキエルは昨晩の出来事を報告した。

「そんな・・・ガルちゃ・・・さんが狙われるなんて・・・」

 グルはガルを心配そうに抱きしめる。

「グルさん、私よりもバンリさんの方を心配するべきで」

 だがグルの目にはガルしか映っていない。

「それでまだバンリさんは起きて来ない訳ですか・・・」

 バンリは眠っていると言うより、意識が戻らないと言った方が正しい。ガルの見立てでは、

魂が深く抉られてしまっているため、魂が不安定になって起きたくても起きられない状態では

ないかと言う。

「魂の修復?は出来るのかの?」

「・・・分かりません。少なくとも、私にはどうすればよいか検討も付きません。魂が損傷するな

んて事象は初めてですから・・・」

「ここはやはり、魂の事に詳しい方・・・同じ死神族に訊くべきかと」

「道理じゃな。誰か、詳しい者に心当たりのある者はおるかの?」

 思い当たる人物がいないらしく、誰も口を開かない。

「そもそも、どうしてバンリさんが狙われる事に・・・」

「もしや、先の戦いで母上の魂を狩ったからだったりするのかのう」

 完全に美味しいとこ取りであったが、七魔の一人であるメサイアの魂を狩ったという事実は

その場に居た何人もの人が目にしているため、その話が広がっていても不思議ではないが・・・。

「確かな理由までは分かりませんが、今、何者かが人をそそのかして世界を混乱させるために

行動させているらしいのです」

「企んでいる人・・・黒幕が居るという事・・・」

「私は、バンリさんが狙われている事を知らされて、護り、調査する事を使命として、外に出

る許可を出して頂けたのです」

 ラキエルは少し前までは何も知らなかった。天使界の大聖堂に居ながら、天使界で起こった

壮大な姉妹喧嘩と称された出来事さえ、ラキエルの耳には入ってきていなかった。カナエルか

らその出来事を教えられ、その戦いにバンリやハワーが参加していた事も知らされた。

 そしてその出来事が何者かによる策略の一つであり、今後、バンリが狙われる事も教えられ、

ラキエルはバンリの守護とこの件の調査役に志願したのだった。

「でも、そんな簡単に出してもらえるものなんですね。もっと厳しい所なのかと思ってました」

「まあ、今もちゃんと監視されてるんですけどね」

「そうなんですか?」

「はい。なので、真面目に取り組まないと引き戻されちゃいます」

 実際は、そんな事は言われていないのだが、ラキエルは暗黙の了解として勝手にそう思って

いる。

「死神の話を・・・」

「あ、話が逸れてしまいましたね。どうしましょうか・・・」

「そう言えば、バロンの娘がどうとか言ってましたよ。バンリさんがその娘であるとか」

「バロン・・・その方に訊くのがよさそうですね」

「問題は、その人が何処にいるのか・・・」

 う~ん・・・。誰も聞いたことの無い名前のようだ。ラキエルも友達ではあるのだが、バンリと

家族の話をした事は一度も無い。ラキエルも家族の事で抱えている事があったため、家族の話

題にならない様に避けていたのだった。

「ここはやはり・・・依頼を出すか・・・或いは、育みの里に情報提供を求めるか・・・」

「行動するならば、早い方がいいです。バンリさんたちを襲ったあの女性が、次にいつやって

来るのか分かりませんから」

 ラキエルの攻撃によって、どれ程のダメージを与えられたかは分からない。だが恐らく、去

り際の声の調子から、大したダメージにはなっていないように思われる。

「あのう・・・私、試してみたい事があるのですが」

 皆が同意し、行動に移そうとした所で、ガルがぽつりと呟いた。少し言い難そうな感じだ。

「ガルさん、何でしょうか?」

 ガルは少し考える。言葉を選んでいるように見える。

「バンリさんを、起こしてみようと思うんです」

「え?そんな事が出来るんですか?」

 ガルはまた、少し間を置いてから話し始める。

「やった事はないので、本当に出来るかどうかは不確かなんですが・・・」

「言うてみよ」

「はい。えっとですね、私の魂で、こう・・・傷ついたバンリさんの魂を包み込んで、隙間を埋め

るような感じで・・・そうすれば、もしかしたら目を覚ますのではと思いまして・・・」

 身振り手振りで自分がしようと思っている事を皆に伝えようとしている。

「ガルちゃんだめ!そんな事してガルちゃんがどうにかなっちゃったらどうするの!」

「え、ええ!?あ・・・あの、すいません・・・グルさん・・・」

 いきなり、すごい剣幕で怒られ、ガルは目を丸くする。が、直ぐに反論する。

「で、でも・・・一度だけ、一度だけ試させて下さい!バンリさんの実家に行くのであれば、やは

りバンリさん本人がその場に居るべきだと思うんです!」

「だからと言って、確証も無いような危険な行為をする事は許しません!」

 グルは引く気は無いようだ。とても強い意思と心配の気持ちがこもっているように見える。

それでも、ガルは諦めない。

「・・・私は、バンリさんが悩んでいるのを知っていました。ですが、話を聴く事だけしか出来て

いません・・・」

「それだけでもいいではないですか。話を聞いてくれるだけで、人の心は軽くなるものです」

「少なくとも私は、それだけでは嫌です・・・!」

 ガルもまた、強い眼差しで訴える。

「話を聴くだけ聴いて、それで後は知らない振りなんて出来ないよ!」

「そのバンリさん本人がそれを望んだの!?」

「それは・・・」

 バンリは協力して欲しいとか、助けて欲しいとかそんな言葉は一切言わなかった。心の内側

では望んでいたかもしれないとも思うが、分からない。ガルは俯いてしまう。

「望まれてもないのにそんな余計な事をして、ガルちゃんの身に何かあったら・・・バンリさんが

どんな気持ちになるのか考えてないでしょ!」

「・・・・・・」

「自分を犠牲に人を助ける事は、褒められた事では決して無いの・・・分かって・・・」

「所詮・・・」

 ガルは顔を上げた。その顔は涙こそ見えないが、泣いているように見えた。

「所詮こんなの私の自己満足だよ!でもそうしたいの!そうしなきゃ私は満足出来ないの!」

 今まで、こんなガルを見た事はなかった。声を荒げ、まるで子供が我侭を押し通そうとして

いるかの様だった。そしてグルはそれを叱る。

「どうして分からないの!」

「分かんないよ!分かりたくないよ!私の気持ちの方こそ分かってよ!」

 言うなれば、姉妹喧嘩の様だった。

「どうして・・・どうして言えないの!?」

「え?」

「『手伝って』って・・・どうして言ってくれないの!」

 ガルは言葉を失った。

「ガルちゃんがバンリさんの力になりたいと思ってるように・・・私だってガルちゃんの力になり

たいって思ってるのに・・・」

「あ・・・・・・」

「私はこう見えても科学者なんだよ?・・・まあ、あんまり詳しくないんだけど・・・。それでも、

私と一緒の班の皆はとても優秀でね、きっと・・・不確かな事も、確かにしてくれるって、そう思

うの。だから・・・」

 ガルは深々と頭を下げる。

「手伝って・・・下さい!お願いします!」

 グルはガルの頭を優しく撫でた。

「はい!お任せ下さい!」

 グルは一連の言い合いを見守っていた皆の方へ向き直る。

「皆さん・・・ご理解頂けますか?」

「ふむ。となれば、作戦変更じゃな!」

「ありがとう御座います。では、目指すは研究開発局です。ご案内致します!」

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