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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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17/240

開戦

「竜王様!浮島上に、一団が見えます!恐らく、この城に向かってくるものかと思われます!

いかがなさいますか?」

 メアトリスは絶対とは言い切れないが、こうなるかもしれないと思っていたし、どうするか

も初めから決めていた。

「迎え撃ちなさい」

「え、ですが・・・」

「『竜王』の命令ですよ。迎え撃ち、この城を守りなさい!」

「は、はい!」

 メアトリスの命令は、瞬く間に竜種の皆に伝わった。

 

 翼竜種を纏めるのは、メアトリスとメルリアの父ライハートである。

「お前たち、よく聞け!これは戦いである!『竜王』直々の命であることを忘れず、各々尽力

せよ!」

「お、おおー!」

 どうやらこの戦いに意義を見出せず、意思がバラバラである様に見える。だが、それでもラ

イハートは気に留めず、言葉を並べる。

「我々は地竜種と供に戦う地上部隊と、空から攻撃を行う空戦部隊に分かれる!さあ、各自持

ち場に着き、準備を開始しろ!」

 戸惑いを隠せないままに、準備を始めた。


 地竜種は、母メサイアが纏める。だが、やはりこちらも意欲は高いとはとても言えない状況

であった。

「メサイア様、この戦いは・・・本当に必要なのでしょうか・・・」

「無論、必要だ」

 メサイアは直ぐに答えを返す。一切迷いの無い目で皆を見る。

「この戦いの先・・・そこには必ず、良き未来があると私は信じている。むしろ、この戦いは必要

である。皆、今は私を信じてはくれまいか?」

「・・・はい!すいませんでした!」

 いつもと変わらない、いや、いつも以上に真っ直ぐで自信に満ちたメサイアの眼を見た皆か

らは少しだが、迷いが消えたようだ。統率は取れている。


 水竜種と氷竜種を纏めるのは、「姫」とも呼ばれる氷竜種の女性セイレインだ。水竜種と氷

竜種はいつも水中に住んでいて、地上に出てくる事はあまり無い種であり、地上に住まう竜種

とは別の纏め役が存在しているのだ。「姫」と言う役は水竜と氷竜の両方を纏める役である。

「姫様!我々も戦をせねばなりませぬぞ!」

「めんどくさい」

 姫セイレインは海底に横になり、眠そうに欠伸している。

「なりませぬ!他の種の者たちは皆、準備をしておりますぞ!おまけに此度の戦は『竜王様』

直々の命であらせられまする!我々だけ不参加では、会わす顔が無くなってしまいまする~!」

 必死の形相で説得するが、姫は気にする様子も無い。

「勝手にやったら?余は寝てる」

「ひ、姫様!」

 もう会話をする気も無いようで、眠ってしまった。

「う、うう・・・と、とりあえず・・・姫様は体調が優れないと言う事で話を進めるしか・・・皆の者!

姫様の分も我々は戦うのだ!気合を入れよ!」

「おおー」

 いつもの事であるかのように、皆諦めの様相をしている。


「メアトリス様、各種陣営、準備が完了いたしました!」

「全軍に待機命令を。敵の動きに注意し、戦法に応じて対処するよう伝えなさい」

「了解!」

 メアトリスは変わらず城の最奥で、窓の外を見つめる。

「来なさい、メルリア。事を大きくすればするほど、私はきっと・・・・・・そうすれば・・・!」

 この戦が始まるのを待ち遠しく思っていた。


 浮島に集まった、共に戦う者たちの頭数は、昨日よりも明らかに増えていた。どうやら、こ

の戦の話はそこらじゅうに広まっているようで、呼びかけに応えた者や、メルリアの想いに賛

同した者たち、平和の象徴たるリンナが参戦しているという事がたくさんの新たな仲間を集め

るきっかけとなったようである。

「浮島よ・・・」

 リンナが目を閉じ呟くと、何も無いはずの虚空に、浮島が出現した。

「お、おおーーー!」

「これが・・・リンナ様の御力・・・!」

 その奇跡とも言える力に、大きな感嘆の声が上がる。

「さあ皆さん、あの浮島に乗って下さい。海上まで降ります」

 皆が乗り終えると、浮島はゆっくりと降下し始めた。

「す、すげえ・・・これ、本物の浮島と同じなのか!?」

 創り出されたその浮島は、元々天使界に存在している浮島と全く変わらなかった。

「世界は広いねえ・・・魔法じゃあ残念だけど、こんな事は出来ないなあ」

 シュリは浮島の出来を確かめつつ、溜め息を付いた。それぞれが浮島に感心したり、迫る戦

の準備を行う中、メルリアが声を上げる。

「皆よ!」

 その声に皆は手を止め、しゃべる口を閉じ、メルリアの方を向く。

「改めて言う。わしの戦に集まってくれた事・・・心より感謝する!」

 そして、メルリアは高らかに右腕を掲げる。

「この戦・・・勝つぞ!」

「「「おおおーーーーー!!!」」」

 歓声と共に、皆も右腕を高らかに掲げる。

 やがて、浮島は無事に海上に到着した。後は、この海を何とかしなければならない。何とか

する、とか簡単言うが、正直何とかできるものなのだろうか?そんな不安と、先程出してみせ

た浮島のように、どうにかしてくれるはずだという期待が入り混る中、リンナは懐からお札を

出す。

「まさか、こんな所で大きな創造を行う事になるとは・・・人の世に密接して、人のために行う創

造・・・随分と久しぶりな気がしますね・・・」

 リンナは膝を折って地面に付け、両手でお札を持ち、祈るように目を閉じる。

「源が主、リンナの名の下、ここに新たな『理』を定めん」

 お札が強く光を放ち始めた。

「海は凪ぐもの立たぬもの、歩めるものなり。光及ぶ世界に理を・・・世界天変!」

 お札から発せられている光が広がっていく。その光は先に見える城、竜の城をも飲み込んだ。

 リンナはゆっくりと立ち上がる。

「さあ皆さん、これでもう平気ですよ」

「ほ、本当ですか!?で、でも・・・」

 見た所、海に変化は見られない。足を踏み出せば沈んでしまいそうなのは変わらない。不安

を隠せない皆の代わりに、リンナ本人が海へ足を踏み出す。

「今、この空間内の海は波が立つ事も無く、地面と変わらず歩く事も出来ます」

 その言葉の通り、リンナの足は海の上にあるが、濡れる事も沈むことも無い。

「これが、この空間内の理・・・常識です」

「お、おおーー・・・」

 驚きの声が上がると共に、実際に少しずつ足を踏み出して行く。

「す、すげえ!・・・立てる、立てるぞ!」

「何だこの感覚!?う、上手く表現できんぞ!」

 不思議な体験に戸惑いながらも、皆海の上に立つ事が出来ると理解したようだ。

「ですが、時間に限度があります。メルリアさん、一刻・・・いえ、二刻継続させます。それまで

に決着をつけられますね?」

「うむ、了解した。必ずや成し遂げて見せようぞ!」

 メルリアは皆の先頭に立つ。そして宣言する。

「皆よ!・・・戦闘開始じゃ!いざ、参る!」

「「「うおおおーーー!!!」」」

 メルリアの掛け声を合図に、皆、駆け出して行く。竜種との戦いの始まりである。


 城内で待ち構えていた竜種たちは度肝を抜かれていた。海をどのようにして渡り、この城に

攻めて来るのかと思えば、なんと、真正面から海の上を走りながら迫ってきているのである。

「な、何と言うことだ!何故あいつらは海の上を移動できるのだ!」

 予測では、氷でも張るか、空から殴りこんでくるものかと考えられていた。。空から来れば、

竜種には「ブレス」があり、むしろ味方に当たる心配が無いため、攻撃しやすい。氷が張れば

直ぐに分かるし、それを破壊してしまえば城に辿り行くのは厳しくなる。氷でなくても、目に

見える対処法であれば、破壊を試みる事で何とかできると思われていた。だが、これである。

「くそ、どうなってんだ!」

「もしかして・・・さっきここを通り抜けて行った光の効果・・・!?」

「ただの結界ではなかったのか!?お前たち!我々も行くぞ!急げ!」

 竜種たちも、恐らく自分たちも海の上を走ることが出来ると判断し、出陣する。

 竜種が出遅れた事により、かなり城に近い場所で激突する事となった。早速、混戦の様相と

なる中、メルリアを含む一団は、メルリアを一団の中央に置き、護りながら真っ直ぐに城へと

向かって行く。

螺旋ねじ捲け!『シュピラーレ・フェアシュテルカ!』」

 一団の先頭を駆けるセイムたちが、勢いそのままに目前に迫る敵に飛び掛り、行く道を塞ぐ

竜種を払い除ける。だが、強靭な身体を持つ竜種は一撃、二撃程度では倒れず、直ぐに体勢を

立て直し、立ち塞がって来る。何とかしたいセイムたちだが、一度進軍の足を止められ、足踏

みしている内に敵陣の厚みが増し、散らし、払い除けての進軍は厳しくなった。どうやら、こ

れから先は倒さなければ進めないようだ。

 目と鼻の先に迫った城の門。それを門番の様に護り立ち塞がるのは、メルリアたち姉妹の父

であるライハートだ。

「これより先に行きたいのであれば・・・分かるな?」

 ライハート。魔王から特別な力を与えられた「七魔しちま」の一人である。

「皆よ、父上は正面から戦って勝てる相手では無いぞ!」

「やってみないと分かんないけどね!」

 セイムはやる気である。

「どの道、戦わないことにはあの門、通してもらえないみたいだしねぇ」

 セイムもシュリも、二人共真っ向からぶつかる気の様である。確かに、戦わなければ通る事

は出来ないのだが。真っ向からぶつかるにしても、ライハートの前には何人もの竜種の兵が立

ち塞がっている。まずはそれを何とかする必要があった。

「みんな!道を作るぞ!」

 一団の中の一人が声を掛ける。

「メルリア様、ここより先は、メルリア様ご自身の力でお進み下さい!最後まで送り届ける事

が出来ず、申し訳ありません!・・・みんな!行くぞー!」

 その掛け声と共に、メルリアを護っていた者たちが門を護る兵たちにぶつかって行く。

「道を・・・作れー!」

「「「うおおおおーーー!!!」」」

 ありったけの力で竜種の兵たちを押し退け、門へ続く僅かな道が出来た。

「みんな・・・・・・メルリアちゃん、門をこじ開けるから走ってね」

 足を開き、俯くセイムの身体が前屈みになって両腕がだらっと下がる。そして、微かに呟く。

「シュピラーレ・フェアシュテルカ・・・『フェアドッペルン』」

 帯状の魔法陣がもう一つ、既に同じものを纏っているセイムの身体に更に螺旋捲く。そして

膝を曲げ、踏み出す。

 物凄い速さでライハートの懐に辿り着き、右腕を大きく引いた。だが、ライハートはその速

さに対応し、横に回避した。してしまった。

『スパイラル・ディザスターーー!』

 空を切ったセイムの拳から、竜巻のように渦巻く激しい魔力の嵐が、門へと真っ直ぐに駆け

抜け、障害となる人も物も吹き飛ばす。

「し、しまった!?」

 駆け抜ける嵐を追う様にメルリアが、嵐によって削られた城の床がまるで姉へと続く道標の

様になったその上を真っ直ぐに進んで行く。 

「そう簡単に通られてたまるか!」

 ライハートは即席の魔力の弾丸、即席にしてはやけに大きいそれをメルリアに向けて放つ。

「くらえ!」

 だが、飛んできたシュリが軌道上に背を向けて降り立って立ち塞がり、両手を爪を立てて高

く振り上げる。

「反魔障壁・レイルロード!」

 空を引っ掻く様に振り下ろしたその空中に、その爪の軌道そのままの細い帯状の魔法陣が何

本も滞空する。シュリはその勢いのまま魔法陣の向こう側へと移動し、身を屈める。

 放たれた大きな魔力の弾丸が、空中に描かれた、放物線を上下逆さまにしたかのような形の

魔法陣にぶつかる。すると、その弾丸は描かれた逆さまの放物線を滑らかに滑り、遥か上空へ

と消えていった。

「へへ!ここを通りたかったら・・・分かるよねえ・・・なんちゃって!」

 ゆっくりと立ち上がったシュリが立ち塞がった。

「まさか・・・こんな簡単に通られるとは・・・どんな顔でメサイアに会えばいいんだ!」

 ライハートの妻メサイアは冥界における最高位である「門番長」という役を務めている。そ

の旦那であり、「七魔」の一人であるライハートが全くと言っていいほど門を護る事が出来な

かったのだ。抜かれる速さは、最早素通り、顔パスが如く速さだった。

「まあまあ、気にしないで。人生そんなもんだよ」

「そうそう、大事な時ほど上手くいかないもんだよねえ」

 頭を抱える原因となった二人に慰められ(慰められているのかも怪しいが)、ライハートに

火が点いた。

「お前ら・・・憂さ晴らしだ!」

 翼竜種ライハートが翼を広げる。

「二人なら・・・勝てるかねえ?」

「やれるよ!」

 セイムとシュリも構え、迎え撃つ。


 海上に浮かぶ浮島にはリンナと、それを護る一団が待機していた。カイエルにメイエル、バ

ンリとハワーとワンコ、そしてカリナが護衛している。水中に潜む水竜や氷竜たちの襲撃を警

戒し、気の抜けない時間を過ごしていた。

「メルリアさんはもう、お姉さんの元に到着されたでしょうか」

「到着は無理でも、城の中には入ってて欲しいですよね」

 戦いが始まって、まだそれ程時間は経っていないが、警戒し、気の抜けない時間を過ごして

いるせいか、いつも以上に時間の経過が遅く感じてしまう。

「・・・・・・あの、聞いてもいいのか分からないけど・・・ワンコさんは何してるんでしょうか?」

 皆が襲撃を警戒する中、ワンコは浮島の端に屈み込み、海の中に頭を突っ込んでいる。

「・・・偵察とかじゃないんすかね・・・」

「見えるもんなのか?」

 それよりも驚く事があった。

「ところで、ワンコ・・・息継ぎしてるか?」

 さっきから見ているが、一向に顔を上げる気配が無い、というか、微動だにしない。やばい

んじゃないかという雰囲気が辺りに漂う。話しかけてみようとカイエルが近付いて肩を叩こう

とした瞬間、ワンコの身体が前方にぐらりと傾き、そのまま海の中に全身が引きずり込まれて

しまった。

「わ、わーーー!?」

「お、お兄ちゃんの人殺しー!」

「ま、待て!俺は触れてもいないぞ!」

 ワンコの身体は浮かんで来ない。本当に殺ってしまったのだろうか・・・。カイエルは水面を見

つめている事しか出来なかった。

「あれは・・・空を見ろ!」

 突如上がった声に従い、空を見上げると、城の方から翼竜部隊がこちらに向かってきている

のが確認できた。

「空の方から来たみたいですね」

 このまま空からブレスを吐かれれば、一方的な展開になるのは火を見るよりも明らかだ。勿

論、この状況を想定していなかった訳が無い。

「お兄ちゃん!出番、出番だよ!」

「お、おう!・・・すまん・・・ワンコ・・・」

 カイエルは今自分に出来る事は無いと判断し、一旦気持ちを切り替え、立ち上がる。

「来い!『信念の剣!』」

 カイエルは抱えるほどの長さがある銃を出現させた。

「メイエル!嵐だ!」

「うん!・・・生まれ出でよ、嵐を巻き起こす『信念の剣!』」

 カイエルの手元に緑色の長い指のような形をした物体が出現する。カイエルはその物体を銃

に込め、遠くを飛ぶ翼竜種の集団に銃口を向け、放つ。

「吹き荒れろ!『ストーム・ブリット!』」

 海上の戦況を確認しながら、結界を張っている張本人が居るであろう浮島を目指すメサイア

率いる翼竜の一団からも、浮島から何かで狙っていると言う事は理解出来ていた。そのため、

放たれた弾丸にも対処する事ができた。障壁で受け止める事で。

 障壁によって受け止められた弾丸は、受け止めると直ぐに破裂した。するとそこから凄まじ

い風が、荒れ狂う風が辺りを包み込んだ。

「な、何だこの風は!」

「上手く・・・飛べないぞ!?」

 激しく荒れ狂う風に翻弄され、翼竜種たちは大混乱に陥ってしまう。

「メイエル!次だ!」

「出でよ!捕え、自由を奪う『信念の剣!』」

 カイエルは、今度は真っ白な弾丸を装填し、放った。

『トリモチ・ブリット!』

 荒れ狂う風の中に届く新たな弾丸。翼竜たちが必死に体勢を立て直そうとするその中でそれ

は弾けた。

「何だ!?つ、翼があああ!」

 風に乗り撒き散らされた白は粘着性が非常に強く、翼竜たちの翼を捕え、動きを大きく鈍ら

せる。翼を満足に動かせなくなった者は滞空できず、真っ逆さまに海へと落ちて行く。それだ

けではない。その弾丸は次から次へと撃ち込まれ、破裂し、粘着質の物体をこれでもかという

ほどぶちまけて行く。

 やがて、全ての翼竜が海上に落された。

「再び飛び上がる前に交戦を開始せよ!」

 リンナの元に数人を残し、海上に落ちた翼竜たちに突撃して行く。

「構わん!このまま迎え撃て!」

 翼竜たちも飛ぶ事を諦めたのか、真正面から激突した。それは翼竜たちにとっては好都合だ

った。それは、海中に潜む仲間たちの存在のためである。例え姿は見えなくとも、音は海中に

伝わり、状況を汲み取ってくれると踏んでいたのだ。そうすれば、敵の背後からの奇襲も期待

でき、手薄となった結界の発動者の護りも今なら容易に突破できる。

(水竜よ氷竜よ、今こそ出番だ・・・!)

「メサイアさんですね?」

 立ちはだかったのは緑の狐だった。

「む?『緑の狐種』か。いかにも、私はメサイアだ」

「私は魔王グリム様の弟子、カリナと申します。『七魔』であるあなたに、手合わせをお願い

したいのですが・・・お受け頂けますか?」

 恐らくこれは、時間稼ぎなのだろう。だが、メサイアは逃げる気は無い。

「いいだろう。弟子と言うものと七魔、力の程を比べてみようではないか」

「感謝します」 

 魔王に教えを受けた弟子カリナと魔王の力の一端を与えられた七魔メサイアが対峙する。


 メサイアの思惑通り、海中の竜たちは交戦が開始されて直ぐに状況を察知していた。

「よし、海上での交戦を確認できた。これより、浮島手前から海上に浮上し、奇襲を掛ける!

皆の物、我に続け!」

 水竜と氷竜の部隊が浮島に迫る。その時、海中に漂う謎の物体を視認する。竜たちは進行を

一旦止め、その物体の正体を確かめるべく、まじまじと見つめる。

「獣種の者か・・・?」

「どういたしますか?」

「無論だ。まだ間に合うかもしれん、急ぎ海上に運べ!」

 敵かもしれないとはいえ、この戦いは命を奪い合うような戦いではない。誰一人としてその

者を救い出す事に反対する者は居なかった。

 水竜種の一人がその者を抱えた瞬間、

「すみません、泳ぎはまだ不慣れなもので」

 普通に口を動かしてしゃべった。水棲生物ではない種の者が、全く慌てる様子も無く、まる

で世間話でもするかのような口調でだ。

「な、何だお前はー!?」

 驚き、思わず手を離してしまう。その者はゆっくりと沈みながら手をあれでもないこれでも

ないと手足を動かしている。

「お前!何やってるんだ!」

「ああ、すいません!」

 怒られ、もう一度救い出そうと接近した瞬間、

「お、もしかすると・・・こんな感じでしょうか」

 ギュン!物凄い速さで伸ばした手をかわされた。

「だから何なんだよ!」

 一々驚かされ、怒鳴る。その者はコツを掴んだらしく、海中をすいすいと泳いでいる。

「お主は何者か?」

「私ですか?私はワンコと申します」

「ワンコとやら、何故海中でも平気でいられるのか?」

「行けそうだと思ったので行ってみました所、行けました」

 何も分からない。表情から察するに、ふざけている様子は無いが・・・。平気であるというなら

今はもう、何者であろうとどうでもいい。今は戦いの最中である。

「ワンコよ、これから我々は戦いに行かねばならない。邪魔をしてくれるなよ」

 睨みつけ、脅しを掛ける。数は圧倒的にこちらが多い。おまけに海中という、言わばホーム

グラウンドだ。無駄な戦いをする事は無い。そう思っての事だったが・・・

「そういう訳にはいきません」

「状況を理解できていないようだな」

「状況・・・理解しています。私がここを通せば、皆が危険な目に会う。ですから、私のするべき

事は、ここで出来る限りの足止めを行う事です」

 本気で言っているようだ。様子から、説得は意味を成さないだろうと判断した。ここは一刻

も早く決着を付け、奇襲を掛けるべきである。

「ならば、覚悟せよ!」

 ワンコ一人に水竜と氷竜が襲い掛かる。

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