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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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15/240

消えた竜種と練習試合

 チーム「ハイラント」の面々もチーム「スパイラル」のメンバーも約束をしていた通り、冥

界の大社の前に集合した。予定と違っているのはただ一人、緑の狐が余分にいる事だけだ。

「カリナと申します」

「見学したいそうだから、仲間に入れてやってくれ」

 カリナは深々と頭を下げる。物腰のよさそうな人だ。

 一行は簡単に自己紹介を済ませ、大社へ入ろうとするだが、

「なんだか・・・くうきがおかしいような・・・」

 ハワーが何か様子がおかしい事に気が付く。

 確かに、いつものように賑わしくあるのだが、その賑わしさの質が違うと言うか、とにかく

良い状況ではないだろう。

 近くに居た首をかしげている男性に話を聞いてみる事にする。

「何か、いつもと様子が違いませんか?」

「あ?ああ、そうなんだよ・・・・・・」

 男性は再び首を傾げる。それに釣られてこちらも首を傾げる。

「実はな、居ないんだよ・・・」

「居ない・・・誰がです?」

「全員だよ。竜種の人たちが・・・誰一人いないんだ」

 いやいや、そんな事あるはずがないと思っていると、その男性はこちらを見て大声を上げる。

「あ、あんた!竜だろ!?そうなんだろ!?」

 そういえば、メルリアが居た。

「う、うむ。そうじゃが・・・」

「なあ、なにがあったんだ?教えてくれよ!」

 メルリアは何も知らないようだった。だが、男性の出した大声により、メルリアは集まって

いた他の者たちの目に入ってしまう。一度探していた竜種を見つけてしまった大勢の人たちは、

情報を得られるのではと凄い勢いで集まってきた。

「おい!何があったか教えてくれよ!」「そうだそうだ!」

「皆何処に行ったんだよ!」「そうだそうだ!」

「受付してくれよ!」「そうだそうだ!」

 間髪入れない質問やら願いやらの大洪水。竜種ではあるが、何一つ役職には就いていないメ

ルリアには何一つこたえる事は出来なかった。そんな事はいざ知らず、人々はこの場の唯一の

竜種であるメルリアに迫り続ける。

「知らぬ!わしは何も知らぬのじゃ!」

 治まる気配など微塵も無い。

「ぐぬぬ・・・こやつらめ・・・人が知らぬと言っておるというのに・・・!」

 メルリアは大きく息を吸い込む。身体を仰け反らせてまで取り込む空気のその量は呼吸の域

を遥かに超えている様に見える。そして、

「ぬうううおあああああ!!!」

 周囲に衝撃をもたらし、天に向かって太い光の柱が伸びていく。その光景にがやがや騒いで

止まなかった人々が、一斉に静まり返った。

「あ、あ、あ・・・」

「あれが・・・竜種のブレス・・・」

 竜種の持つ力『ブレス』。体内にある竜種のみに存在する器官に大気を取り込むことによっ

て、圧縮された空気を吐く事が出来る、これがブレスである。高密度に圧縮されたそれは、と

てつもない威力となり、建物でさえ簡単に吹き飛ばしてしまう程である。

「お主ら!」

 ビクッ!メルリアの声に周囲の人々はすっかり怯えている。

「わしは知らぬと言ったであろう・・・それを主らは碌に聞きもせずにやんややんやと・・・よくも

まあ、自分の都合ばかりでべちゃくちゃと・・・」

 辺りにメルリアの大きな魔力が満ち、長くて強靭で立派な尻尾が威圧するように持ち上がり、

鞭のようにしなる。あれを振り回されたら相当痛いだろう。取り巻いている人々は思わず後ず

さる。

「いい加減にせぬと・・・・・・だめじゃぞ?」

 さっきまでの迫力が嘘のような優しい忠告に人々は呆けてしまった。

「うむぅ・・・そうじゃなあ・・・このままという訳にもいかぬしのう・・・」

 メルリアは少し考え、纏まったのか、頷く。

「此度の件、わしは何も知らぬし、予測もつかぬ。故に、これをわし、メルリアからの『依頼』

とする!」

「!?」

 周囲がどよめく。

「内容は竜種の捜索及び失踪の原因の調査じゃ!飽く迄も調査が目的であり、解決が目的では

無い事を忘れる出ないぞ!」

 皆のやる気に火が点いたようだ。誰一人私語をせず、メルリアの言う事に対して真剣に耳を

傾けている。

「得た情報はこの大社に、直接持ち込むか、電話で伝えてくれればよい!わしがここで全ての

情報を聞き纏める。そして、集まり纏めた後、解決に主らの力が必要だと判断した折には、ま

た改めて解決の依頼をだそうと思っておる」

 メルリアは一息おいて、改めて命じる。

「集いし勇敢なる者共よ!互いに協力し、情報を集めよ!」

「「「おおーーー!!!」」」

 大きな歓声を上げた後、人々はその場から霧散して言った。

「ふう。皆、すまぬの。騒がしかったであろう?」

 その場に残った二つのチームの皆に笑って謝る。

「す、すっげー!めちゃくちゃすげーよ!メルリアさん!」

「うん!かっこよかったよ~!」

「混乱し、冷静さを失っていた人々をブレスによって我に返らせ、持ち前のカリスマによって

人々の心を動かした・・・メルリアさん、感動しました」

 思わぬ大好評に、普段褒められる事の無いメルリアにとってはむず痒かった。

「へへ、へへへへ・・・うへへへへ・・・」

 小汚い笑い声が思わず漏れてしまう。

「と、そうじゃった!皆、わしはここで情報の整理をせねばならぬ。すまぬが・・・その・・・出来

ればでよいのじゃが、手伝ってはくれぬかの・・・?」

 皆は互いに見合い、言葉を交わす事無く意思を確認し合った。

「ああ、任せてくれ!」

「うん!じゃあ、さっさと準備しないとね!」

「リーダーはもちろん、メルリアちゃんだよね!」

「む?ふっふっふ・・・いいじゃろう!皆よ、付いて参れ!」

 メルリアを先頭に、調査が始まった。


 昨日までは居たはずだから、居なくなったのは昨日の夜の閉店後から今朝にかけての間とい

う事になる。だが、居なくなる理由が全く思いつかない。何かのお祭りでもあるわけでも無い

だろうし、大社に争った形跡が無い事を考えれば、襲撃を受けたわけでもないだろう。

 メルリアが幾ら考えを巡らそうとも、何一つ分かりはしなかった。手掛かりを求めて大社の

各部屋を調べてみる事にした。

 一方、他の面々は、勝手に大社にある部屋を調査とはいえ漁る訳にも行かず、部屋の事はメ

ルリアに任せて情報の回収と整理に徹するため、準備を整えていた。

「電話は二台あるから、電話の応対はメイエルとワンコさんにお願いします」

「オッケー、お兄ちゃん。任せて!」

「承りました」

「ここに直接情報を持ち込んでくる人たちの整理は俺が担当する。情報を聞いて書き留める役

はシュリとセイムに。バンリとハワーは連携を取るために、あっちこっちに走り回ってもらう

からな」

 カイエルの指示の元、それぞれが持ち場に付いていく。

「走り回る、か・・・階段もあるし、結構大変そうだな!」

「でも、たのしそうだね」

「まあな!」

 身体を鍛えられると思い、バンリは楽しそうに準備運動を始めている。そこに緑の狐がやっ

てくる。

「バンリさん?」

「え?えっと、カリナさん・・・でしたっけ?」

 そういえば、こんな人も居た事を忘れかけていた。

「はい。バンリさんは、強くなりたいと思っていらっしゃるのですか?」

「あ、ああ」

「でしたら、私が手伝って差し上げましょうか?」

「え?」

 それはバンリにとって、願っても無い申し入れだった。強くなるとは言っても正直、どうし

たらいいのか分からず、とりあえず走ってみたり、筋トレしてみたりしていただけだったため、

もし、先生のような人ができれば、今までよりも遥かに充実した日々が送れるのではと期待が

膨らむ。

「ぜ、是非!お願いします!」

「ええ、いいですよ、もちろん。ハワーさんはどうです?」

「わたし?」

「これから先、必要になると思いますよ?」

 その時のカリナは不敵な笑みを浮かべていた。

「う、う~ん・・・よわいよりは、つよいほうが・・・やっぱりいいよね・・・でもなあ・・・」

「ハワー、一緒にやろうぜ!あたしは、ラキエルを護れるように強くなりたいんだ」

「ラキエルちゃん・・・・・・そう、だよね・・・いざっていうとき、なにもできないのはつらいもんね」

「では、お二人供参加されると言う事で」

 二人は頷く。そして、カリナはバンリに一つ、問い掛ける。

「まず初めに・・・バンリさん、あなたの『鎌』を見せて頂けますか?」

「鎌?」

 バンリは言われた通り、いつも使っている鎌を出して見せた。

「いいえ、違います。私が見せて欲しいのは、『あなたの鎌』です」

「・・・・・・」

 バンリの表情が陰る。

「死神族には、誰しもが持つ汎用の鎌と、個人しか持ち得ないその人特有の鎌の二種類がある

はずですよね?私は、それを見せて欲しいのです」

「・・・無い」

「今、何と?」

「あたしには・・・無い。持って無い」

 隠そうとしているのか、本当に持っていないのか、今は測ることはできそうにない。

「バンリちゃん?」

「その話はもういいから・・・早く鍛えてくれ!」

「・・・いいでしょう」

 二人は忙しくなるまで、訓練をする事にしたのだが、その事は他の面々にも直ぐにばれてし

まった。中でも特に、セイムはやる気に火が点いてしまっていた。

「ねえねえ、カリナちゃん!練習試合しようよ!」

「私と、ですか?今、教えているのですが・・・」

「見る事で得られる物もあると思うよ?」

 セイムは拳を振るい、カリナを威嚇する。

「いいでしょう。とりあえず、場所を変えましょうか」

「そう来なくっちゃ!」

 大社を出て、開けた広い場所に移り、二人は対峙する。身体を動かし、入念にストレッチを

するセイムに対し、カリナはそれをじっと見つめている。

「それじゃあ、準備はいいか二人共?制限時間は無し、『顕現』は使用不可とする。勝敗は負

けを認めるか、こちらで様子を見て判断させてもらう。それでいいな?」

「オッケーだよ!」

「分かりました」

「よし、それでは・・・・・・始め!」


 始めの掛け声と同時に、セイムは真正面から一直線に突進して間合いを一気に詰める。

「ふううん!」

 その勢いのままに顔面目掛けて右の拳を鋭く振るう。カリナは寸前の所でそれをかわすが、

直ぐに左のフックが飛んでくる。それも頭を後ろに反らしながら左手で上手く受け流した。

 だがその瞬間、目の前からセイムの姿が消えていた。

「下!?」

 急いで視線を落とすと、既にセイムの右足が突き上げるように眼前に迫っていた。

「くっ!」

咄嗟に右腕でガードするが、その上から蹴り抜かれ、吹っ飛ばされてしまう。カリナは上手く

受身を取り、倒れる事無く足で着地した。

「近接型で速さも威力もある・・・身のこなしもかなり良さそうですね」

「へへ、ありがとう」

 セイムは肩を回したり、ステップを踏んだりして身体を温めている様に見える。その様子か

ら察するに、未だ準備運動と言った所なのだろう。

「さあ・・・まだまだこれから!」

 セイムは再び真正面から突進し、間合いを一気に詰めていく。カリナはその行く手を遮るよ

うに、且つセイムのリーチが届かないギリギリの位置の地面に小さな魔法陣を並列に、五つほ

ど張った。

 このままの勢いで来れば、一秒も経たずに魔法陣を越えて来るだろう。そして、魔法陣に気

が付いたとしても、このスピードなら避けることは出来ない。

 カリナは魔法陣から勢いよく真っ黒な鎖を突き上げるが如く伸ばした。相手の速さ、鎖を伸

ばして相手に直撃するまでに掛かる時間を考慮した、完璧なタイミングだった。

 いつの間にか、セイムは口に指を入れていた。指笛を吹こうかと言うその状態のまま、魔法

陣の真上に差し掛かった・・・・・・はずだった。

「フォグ・フォックス!」

 鎖が突き上げた瞬間、セイムの身体は進行方向とは間逆に突然動き、鎖をかわした。そして、

指笛を吹いた口からは大量の煙の様なものが吐き出され、カリナの周りを囲み、漂って視界を

完全に奪った。

「これは・・・!猪突猛進タイプかと思っていましたが・・・」

 しかも、これはただの目眩ましではなかった。本来ならば、相手が見えなくとも、相手の持

つ魔力を感じ取る事で居る方向をある程度感知する事が出来る。だが、この霧は魔力で出来て

おり、それがジャミングとなって感知する事が全く出来なかった。

「ぐあっ!?」

 突然、腰の辺りに拳を打ち込まれた。相手からこちらの姿は見えているのだろうか?或いは、

「ぐう!」

 今度は正面から腹に一撃。だが、それ程威力は無い。とはいえ、これ以上喰らい続けていい

訳は無い。今は考えている場合ではない。

「何処から来るのか分からなければ、全身を守ればいいだけ!」

 カリナは足元に魔法陣を張り、そこからカリナの周囲を隙間無く隠すように鎖を伸ばし、鎖

の籠を作った。

 狙い通りセイムの拳が鎖に阻まれる。四、五発阻まれた所でセイムは攻撃を止めた。

「やっぱ、そんな上手くは行かないよねー」

 霧が晴れ、ようやく互いの姿が視認できるようになった。

「そっかー、さっきの硬いのって、鎖だったんだね」

「やはり、あなたからも見えていませんでしたか」

 セイムは恥ずかしそうに頬を掻いている。

「こちらを攻撃できたのは、霧の範囲が互いの姿が視認できなくなるギリギリの広さに抑えら

れていたため、でしょうか」

「そうだよ、よく分かったね!」

 バレてもまるで危機感無く楽しそうにヘラヘラ笑っている。だが、次の瞬間、セイムの顔か

ら笑顔が消え、目つきが鋭くなった。

(これからが本番、という事ですか)

 セイムは足元に魔法陣を展開させ、胸の前で腕を交差させる。

螺旋ねじ捲け!『シュピラーレ・フェアシュテルカ!』」

 その呪文を唱えた瞬間、魔法陣は帯となってセイムの身体に螺旋状に巻きついた。そしてそ

れは溶け込むように消えていった。

(身体強化の類でしょうか・・・インファイターらしいですね)

「それじゃあ、行くよ!」

 その刹那、セイムの拳は既にカリナを守る鎖に届いていた。

「速い・・・!それに・・・」

 先程まではセイムの攻撃を完璧に受け止めていた鎖が・・・

バキーン!

 打ち砕かれ、拳がカリナの頬を打ち抜いた。鎖は全て消滅し、カリナは長い距離を転がった。

「がはっ!はあ・・・はあ・・・身体強化ではない・・・?」

 鎖を打ち砕いてもなお、この威力。これは単なる身体強化ではない。カリナは立ち上がろう

と足に力を加えるが、クラッと身体が傾いて倒れそうになる。寸前の所で踏ん張り、何とか立

ち上がった。だが、まだ少しクラクラする。鎖で軽減されたはずなのに、ノーガードで拳を受

けたかのような感覚だった。

「これは、不味いですね・・・」

 一発、拳を受けただけでカリナの身体はフラフラになっている。対するセイムは何かしらの

強化を身に纏い、万全の状態である。この身体では攻撃を避けるのは厳しかった。となると、

(何とか鎖で受け続ける事が出来れば・・・)

 カリナは避ける事を諦め、全ての魔力を黒い鎖に集める。そして、神経を尖らせ、セイムの

動きに集中する。

「はああっ!」

 正面から堂々と打ち込んできた。鎖を二本重ねて拳を遮る。より魔力を込められたその鎖は

先程までより大きくその強度を増している。今度はセイムの拳を受けても砕けなかった。一発

だけならば。ラッシュを受けた鎖は簡単に粉々にされてしまった。威力ではない、速さと数に

重点を置いた拳で強化した鎖を砕かれた。そこで初めてセイムの纏っている強化魔法の特性に

気が付いた。

「威力付与・・・!」

 恐らく、セイムの強化魔法は、物体に当たった瞬間に爆発的な威力を発生させるものだろう。

鎖を砕いても威力が落ちなかったのはそのためだ。鎖に当たった瞬間に効果が発生して砕き、

こちらに直撃した瞬間にも効果が発生した事により、ノーガードで受けたかのような感覚にな

ったのだ。

 そうだとすると、この強化魔法が最も力を発揮するのは、渾身の一撃ではなく、速さと数に

重点を置いたラッシュだ。

 それが分かった所で、カリナが完璧に防ぐ手立ては無かった。持ち前の速さと身のこなしで

様々な方向から攻撃を仕掛けてくるセイム。体勢によっては威力など大して無さそうな攻撃で

すら、纏う強化魔法によって立派な一撃になる。

(まだ・・・?もう少し・・・もう少し・・・!)

 幾度となく砕かれながらも、カリナは鎖でそれを防ぎ続ける。

「あれ・・・?」

 セイムの体勢が突如として崩れた。その瞬間を見逃さなかった。すぐさまセイムを囲み込む

ように魔法陣を張り、黒い鎖を召喚してセイムの両腕と両足を拘束する事に成功した。

「こんな拘束くらい・・・!」

 セイムは力で鎖を引き剥がそうとするが、思うように力が入らない。明らかにこれは普通じ

ゃない。さっきもそうだが、急に力が抜けて行く感覚が・・・いや、吸い取られているような感じ

がする。原因はこの黒い鎖しかない。だが、それに気が付いてももう手遅れだった。

「ようやく・・・効いて来たみたいですね」

「この鎖・・・やっぱり・・・」

「ええ、そうです。この鎖は、触れた者の魔力を吸い取る力があります。今までは攻撃を防ぐ

ために使用していたため、鎖に触れる時間が短く、効果が目に見えて現れるまでに時間が掛か

ってしまいましたが・・・何とか・・・私が倒されるまでに間に合いました」

 セイムは鎖によって疲弊し、遂に膝を突く。

 カリナもまた、ダメージと、度重なる鎖の生成で体力も魔力もかなり消耗していた。だが、

好機を迎えたカリナの身体はそんな疲労を物ともしない。

「私の鎖の恐ろしさ・・・見せてあげましょう!」

 カリナが両手を前にかざすと、魔法陣が展開する。

「ハッキング・マジック・・・『イクスプロージョン!』」

 黒い鎖が赤熱し、

ドギャゴーーーン!

 轟音を上げて爆発した。

 たちこめる砂煙。次第に晴れてゆくその中に、セイムの姿が見えてくる。

「・・・!」

 セイムは立ち上がっていた。魔力は吸われて最早残っていないはずであり、爆発のダメージ

も相俟って、立ち上がることすら厳しいはずだ。

「まだ・・・はあ・・・・・・まだ・・・戦える・・・」

 気持ちだけで立っていた。カリナは残り少ない魔力で鎖を生成し、構える。だが、

「そこまでだ!勝負あり!勝者・・・カリナ!」

 その言葉を聞いたセイムは、力が抜けたようにぶっ倒れた。

「まーけーたー・・・」

 カリナもまた、地面に力無く座り込んだ。

「はあ~・・・ギリギリでした・・・」

「セイム、満足したか?」

 セイムは笑顔を見せる。どうやら楽しめたようだ。カリナが地面を這いながらセイムの傍ま

でやってくる。

「はあ、はあ・・・セイムさん、良い試合でした」

「へ・・・えへへ・・・勉強になったよ・・・」

「特に、あなたの使った強化魔法は戦闘スタイルにとても合っていて素晴らしかったですよ」

「カリナちゃんこそ、あの鎖の効果に気が付いた頃にはもう、どうにも出来なくなってて、本

当に恐ろしさを思い知ったよー」

 二人は笑顔で互いを称え合い、握手を交わした。


「わあ・・・すごかったね!バンリちゃん!」

「・・・ああ、これが・・・戦い何だな・・・いや、違うか。これでも練習試合なんだよな・・・」

 一部始終を見ていたバンリは、危機感を覚えずにはいられなかった。自分には魔力が無いた

め、あの二人のように魔法を使う事は出来ない。自分はまだ子供である、という理由で納得し

たくない。

(あたし自身の『鎌』か・・・・・・)

 その後、皆はそれぞれ持ち場に戻り、情報を待った。だが、その日の内に情報が入ってくる

ことは無かった。


 最初の情報が入ってきたのは次の日の昼過ぎだった。その情報とは、

【その夜、冥界から天使界へ向かう転移門が、長時間使用されていた形跡があったらしい】

 と言うものだった。

「う~む・・・これは、変・・・なのか?メルリアはどう思う?」

 カイエルが大社の前で報告書とにらめっこをし、悩ましそうに唸りながら問い掛ける。

「そうじゃなあ・・・竜種の、特に水竜や氷竜の連中は特に、天使界と行き来する事が多いからの

う・・・長時間と言うのがどれ程の長さなのかは知らぬが、夜であれ、転移門を使用する事は珍し

くないと、わしは思うがの」

「そう、なのか・・・」

 納得がいかないのか、より一層報告書に顔を近づけて考え込む。

「メルリアさん、他に、竜種の方々が行きそうな場所ってあります?」

 悩みすぎて今にもくしゃくしゃにしてしまいそうなカイエルから報告書を取り上げ、今度は

メイエルが質問する。

「他、のう・・・・・・むう・・・う~・・・む~・・・・・・」

 あちこち歩き回りながら考えているようだが、出て来ないようだ。

「無いんですね・・・」

 少しがっかりした様子のメイエルに、弁解するかのように慌てて事情を話す。

「そ、そもそもじゃ!竜種の皆が自身の役割を此度のように投げ出して居なくなるなど、あり

えぬのじゃ!竜種はその様な真似は絶対にせぬ!」

「でも、現実は居なくなってますよね」

「むう・・・!」

「何か、最近変わった事とか、種の中での変化とかなかった?」

 報告が全く入ってこず、暇を持て余したシュリが持ち場を離れてやってきた。

「変わった事・・・・・・関係あるかは分からぬが、いいかの?」

「何でもいいから言ってみてよ」

「姉上がの、元気が無かったのじゃ」

「それが変わった事、ですか?」

「うむ。姉上はいつも眼に力があって、覇気があって・・・とにかく強くてカッコイイのじゃ!そ

れが、この間は・・・何か、悩んでおるようじゃった・・・姉上の事じゃから、直ぐに立ち直るじゃ

ろうと思っておったのじゃが・・・」

 姉の事を思い出し、今になって心配になってしまったようだ。

「それだけじゃあ、何もわからんな・・・もっと情報を待つしか無さそうか」

「調べてくれてる皆を信じないとね」

 焦り始めた気持ちを抑え、更なる情報をひたすら待つ。そうするしかないかと思われたその

時だった。

「でんわだよでんわー!でんわがはいったよー!」

 ハワーが慌てた様子で大社の前で屯しているか言えるたちの元にやってくる。

「何か分かったのか!?」

「えっとね、てんしかいのうみのうえにね・・・みなれないおしろがたってるんだって!」

「天使界の海上に城・・・見慣れないも何も、元々海には建物の一つも建ってないよな?」

「そうだね、海の中の海底に建てるならまだしも、海上に建てるなんてのは聞いたこと無いよ」

 天使族であるカイエルとメイエルが言うのであれば、それは何かしらの異変であろう。

「調べに行ってみようぞ!」

 メルリアの提案に二人も賛同する。

「そうだな、よし・・・それじゃあ、俺とメルリアとメイエルの三人で行ってくる!他の皆は引き

続き情報を待ってくれ」

「ねえ、そのお城って海の上だよね?」

 シュリが何か言いたそうに問いかけてくる。

「うん、そういってたよ?」

「じゃあ・・・メルリアさんって、空飛べるの?」

「竜種なんだから飛べるだろ、なあ?」

 カイエルは竜種が空を飛ぶのは当然だと思っているようだが、メルリア本人はどうやらそん

なことはないようだ。

「わし、飛べぬな」

「ええー!メルリアって何竜なんだよ!?」

「わしは・・・よ、翼竜・・・」

「飛べるじゃねーか!というか、飛べなきゃ駄目だろ!」

 カイエルの厳しいツッコミにメルリアは縮こまる。

「む、無理なのじゃ!『顕現』しさえすれば飛べるのじゃが、『化成』状態の今の姿では飛ぶ

事は出来ぬのじゃぁ・・・・・・」

 魔獣族の者は二つの姿がある。一つは、人型の姿である『化成』。これは、大気中の魔力量

が少ない冥界の外で、魔力の消耗を抑えて日常生活を送りやすくするための姿であり、普段は

この姿で居るのが一般的である。そして、もう一つは、魔獣本来の姿である『顕現』である。

こちらが本来の姿であるのだが、化成した後の姿が一般的となったため、本来の姿に戻る事を

『顕現』と称するようになった。

 本来の姿である時に出来た事が、化成後の姿では出来なくなるという事はよくあることだ。

メルリアもまた、空を飛ぶ力を化成後では無くしている。これは、単に翼が日常生活では邪魔

になってしまうためである。翼だけを出し入れする事も出来ないこともないが、衣服はその行

為に対応していないため、翼を出すと破けてしまうのだ。

「じゃあ・・・俺たちが抱えて飛ぶのか・・・・・・何だか竜種って」

「重いとか言うでないぞ!」

「そうだよ!お兄ちゃん、酷いよ!」

「まだ何も言ってねーよ!」

「あー、あー、その事なんだけどさ~話聞いてよ~」

 無駄な言い合いを続ける三人に呆れながらも、提案があるため、割り込んで行く。

「私がさあ、飛ばしてあげるよ」

「なぬ?そんな事が出来るのかえ?」

「そうか!シュリなら・・・補助魔法で・・・!」

 ようやく分かってくれたかといった表情で得意げに頷く。

「一応、これでも使える魔法の種類は誰にも負けないくらいあるって自負してるよ。勿論、精

度も十分にね」

「メルリアさん、シュリちゃんが居ればそのままの姿でも飛べるよ!」

「本当に大丈夫かの?」

 疑わしく思い、シュリの顔色を伺ってくるメルリアに対しても、得意げな表情のまま大きく

頷いて見せる。

「服も破れたりはせぬじゃろうな?」

 大きく頷く。

「ほう・・・ならば、お願いするとしようかのう」

 シュリは任せておけと言わんばかりに自分の胸を張って叩く。

「よし、それじゃあ・・・出発するか!ハワー、皆に伝えておいてくれよ?」

「まかせて!」

 メルリア、カイエル、メイエル、シュリの四人は謎の城があるという天使界へと向かう。

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