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黒翼のカナエル  作者: 氷花
不死と希望の悪魔編
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強化獣人ベリコ(前編)

 勢いよく家を飛び出し、学校へと向かって行ったフェローリアを見送ったベリコは、来る戦

いの時に備え、準備を・・・することはなかった。そもそも、ベリコはこれまでに碌に準備も訓

練もしたことがなく、備えてなにかしようなどということは頭にも無かった。

 ただその時を待ち遠しく、そわそわしながら家事をこなして待っているだけだった。

 そして約束の昼を過ぎた頃、それはやってきた。

「ごきげんよう、ベリコ。待たせたわね」

「はい!お待ちしておりました!」

 ベリコは力強く尻尾を振り、いつも以上の笑顔を見せる。

「今日は他に誰もいないのね」

 グリムは家内を見渡すが、誰か居る気配は無い。

「はい!お嬢様は学校に行っておられますし、誰もいらっしゃいません」

 実は、ベリコは手紙でフュクシンたちに日時を遅らせて伝えていたのだ。何故そんなことを

したのか、その理由は簡単だ。ただ、邪魔をされたくなかったというだけである。

 戦いの場は家から少し離れた場所。周囲に木々はあるが、近場にここ以外の開けた場所がな

いため致し方ない。

 そして、いよいよ相手が姿を現した。

「初めまして、私目はアポロネア。七魔アポロネアと申します」

 落ち着いた雰囲気の賢そうな女性。見た目では種の判別が付かない。

「私はベリコ、と申します。強化獣人です」

 握手を交わし、互いの風体をしばし、観察し合う。

「二人共、もう始めるけど、いい?」

「勿論です」

「はい、いつでも」


 始まりの合図はアポロネアの詠唱からとなった。

「猛りし大地の牙・・・」

 唱えつつ、片手を前方にかざすと、ベリコの周辺の地面が隆起し、鋭い槍となって四方八方

から襲い掛かる。

 素早い攻撃速度の前に回避か防御かを考える間も無く直撃する。だが、槍はベリコの身体に

傷をつけることも敵わず、その全てがへし折れた。

 すると今度は間髪いれず、いつの間にか現れた表面が妙にとげとげしている巨大な岩の板が

頭上から有無を言わさず落下してきた。

 さて、いつもであればあの程度のものなど、回避も防御も必要ないため、動かないという選

択をする訳だが、つい先日、いや昨日、もっと言えば今朝方にかけて痛い目を見たばかりであ

る。なのでここは流石に。

 ベリコは左腕を挙げ、落下してくる岩に合わせて振り払った。

 巨大な岩の板はその重さを感じさせず、まるで遊戯に使う球のように軽々と吹き飛び、着地

と同時に轟音を上げて弾け跳んだ。

「今の動きでこの結果・・・・・・成程、これは確かに興味深いこと・・・・・・単なる怪力ではないよう

ですね・・・・・・」

 単なる「怪力」であるならば、大地の槍による攻撃は通用していたはず。皮膚が鉄のように

硬い可能性も考えられるが、握手を交わした時、一般的な肌の柔らかさと相違なかったと感じ

たということをふまえると、やはり他に秘密があると考えるべきだろう。

「では、次の実験を。雄々しき日輪の翅、聡明なる月輪の翅・・・」

 無数の橙と白の光の球がひらひらとベリコへ向かって行く。直ぐには襲い掛かりはせず、蝶

やら蜂のように周囲を飛び回っている。そして、その中の一つだけが、ベリコの死角からそっ

と身体に付着した。

 橙色のそれは、付着するや否や、急激に温度を上げ始める。続けて白が反対側に付着し、こ

ちらは急速に熱を奪い始めた。

「煩わしいですね」

 付いた光を埃でも掃うかのように剥がそうとするが、その光の球に触れる事はできず、擦り

抜けてしまう。そうしている間にも橙は熱を増し、遂には発火し始めた。

「・・・仕方がありませんか」

 力で掃えないと判断したベリコは、少し、使う。

「ん・・・・・・」

 一瞬、ベリコの身体から黒い波動のようなものが放たれた。と思うと、付着していたものも、

周囲を漂っていたものも全てが一瞬の内に消え去ってしまった。

「・・・熱に対してはある程度の耐性はあるが、効かない訳ではない、か・・・・・・物理攻撃に対する

耐性も含めて考えるに・・・・・・」

 「怪力」は筋力のみに秀でた力。ベリコの力はそれとはやはり違う。それよりも遥かに強い、

言うなれば

「怪力の全身版。身体を成す細胞の一つ一つが強靭で強大な力を有しているという可能性・・・故

に、柔らかくあっても物理攻撃に対して極めて強く傷付かず、熱変動にもある程度までなら耐

え得る事ができる・・・怪力の完全上位互換と言えるでしょう」

 だがこれは、能力と言うよりも、生まれ持ったただの体質と言える。つまり、彼女の測り知

れない力の強さも、強靭な防御力も、ただの身体能力であり、強化獣人としての能力ではない

と考えられる。強化獣人ベリコ。彼女の真の能力は、そう、さっきの黒い何かだ。

「ベリコ、と言いましたね。その力、幾ら強化獣人と言えど、一人が持つには随分と強すぎる

気がしますね・・・もしや、特別な生まれ方をされたのではありませんか?」

 そう問い掛けると、ベリコは笑顔を浮かべ、すんなりと肯定した。

「はい。よくお分かりになられましたね。私はそう言われております」

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