強化獣人ベリコ(後編)
それは、第三次象徴大戦の最中の事だだった。当時、世界中に蔓延していた機械を支配し、
利用して亜獣人界の人々の命を奪い続けていた「負の象徴」に対抗するため、強化獣人は造ら
れたと言われている。
強化獣人を生み出す装置もまた機械であるのだが、育みの象徴インフォルマが平和の象徴の
作り置きしていた御札を使用して張った結界の中で行われていたため、問題は無かった。
それもしばらくの間だけであった。結界の力は気付かない内に日に日に弱まって行っていた
のだ。それに唯一気が付いていた負の象徴は自身の力の一部を結界内に無理矢理送り込む事に
成功し、厄介極まりない強化獣人を生み出す機械を支配せんとしていた。それと全く同時に結
界内では九体目の強化獣人、後のベリコが造り出されようとしていたのだ。
生成の最中に飛び込んだ負の象徴の力の一部はそのまま強化獣人を生成する材料とされてし
まい、それによる突然変異を起こし、強大で不安定な力を持ってて生まれ出てきたのがベリコ
なのだった。
「それで、まだ本気で攻撃してきて下さらないのですか?」
ベリコはもどかしさを感じていた。待ちに待った戦いの場だというのに、こちらを測るため
のものばかり使用してきてちっとも楽しめていない。勿論、測る事が目的だと言う事は理解し
ているのだが、大きく高まったワクワクをなだめる要因にはならない。
「いいでしょう。全力、とはいきませんが、力を行使する事としましょう」
突然、アポロネアの額の一部が、真っ赤な光を放ち始めた。そして呟く。
「クラス・ディサイド・・・トライブ、フォックス」
すると、アポロネアの身体に狐のような耳と尻尾が生えてきた。
「あら・・・!面白い術をお使いになられるのですね!」
「ふふふ・・・そう喜んでいただけると、術者冥利に尽きますね。では、加えまして・・・集い高ま
る力の形、エヴォリューション・フォース・シグマ!」
アポロネアの瞳に「Σ」の紋様が現れる。
「猛々しき日輪の刃、猛々しき火の刃、勇猛なる風の腕・・・形象、大火の巨剣!」
激しく燃え盛る巨大な剣が生成される。そこから放たれる凄まじい熱は、触れても居ない周
囲の草木にも火を点け、辺り一面が火に覆われてしまった。
「これを・・・どう防ぎますか!」
勢いよく振り下ろされたそれに対しベリコは、惜しまない。左手から黒が溢れ出す。
「スコル・ゲート」
不定形のそれは巨剣を受け止めると、凄まじい勢いで侵食、飲み込んで消滅させる。それと
同時に受け止めた際に飛び散った黒の飛沫が周囲の草木を侵食し、火のみを消滅させた。
「ほう・・・ならば次は、聡明なる月輪の刃、雄大なる水の刃、雄々しき金の翅」
無数の白い光の球が放たれると、今度は周囲を凍りつかせている。そしてやはり曲線を描き
ながら四方八方から向かってこようとしている。
「ふぅ・・・ふぅ・・・ふっ!」
ベリコは全身に黒を纏う。
「・・・ハティ」
次々に光の球がぶつかって行く。しかし、白い光はあっという間に黒に飲み込まれ、中に仕
込まれていた金属らしき物が地面にボトボトと低い音を立てて落下して行く。
「くぅ・・・!」
ベリコは思わず膝を突いた。ダメージがあった訳ではない。自分の中の扉である。今まで何
とか理性によって閉じていたそれを閉じる力が失われつつあったのだ。
開く。開く。開いてしまう!
「成程・・・あの黒が飲み込むのは火や冷気などの自然の力だけ・・・物質は飲み込めないが、己の
身体が強靭故、問題は無いという事ですか・・・それにしても、あの名前・・・スコルにハティでし
たか・・・・・・記憶の中にそのような名前があったような・・・・・・」
苦しむベリコに対し、気になったアポロネアは意識の一部を記憶へ向け、調べ始める。
「開く・・・ひらく・・・ヒラクゥ!!」
ベリコの全身に力が入り、牙を剥き出す。
「ウウウゥゥゥウウ!!」
と、その時だった。
突如、ベリコの上、天空から巨大な金槌が飛来し、地面にベリコごと深々と沈み込んだ。




