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黒翼のカナエル  作者: 氷花
不死と希望の悪魔編
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121/240

適任者

 死神界・大都市ゼントルム。その外れにある高地にそれはある。ここは遊園地と呼ばれる場

所であり、とにかく楽しむのが目的の場所である。ここには、余所には存在しない、魔力を動

力に動く機械仕掛けの乗り物が何種類もあり、その珍しさやわくわく感が子供たちだけでなく、

大人たちにも人気で、大都市の近所という事もあって常に賑わっている。

 魔王グリムがここを訪れたのは遊ぶため、ではない。この施設を創設した人物に用があるた

めである。

 手近な従業員に

「魔王だ。園長に用がある」

 と、少し恐めに掛け合ってみた所、跳ねるように走り去り、直ぐに目的の人物を連れてきた。

「アポロパークへようこそ!今日は時間の許す限り楽しんで行ってね♪」

 連れてき・・・た?

「・・・誰?」

 目の前に現れたのは動く大きな兎のぬいぐるみ。ひょうきんな顔をしていていかにも子供受

けがよさそうである。でも、本当に誰?

「アポロネアです、魔王様」

 そう名乗りつつぬいぐるみの頭部を取り外してみせる。確かに、それはアポロネアだった。

先程まで全く感知できなかった魔力も感じられるようになっている。

「へえ、それ、中々すごいわね。魔力まで完全に遮断できるなんて。自分で作ったの?」

「はい。これは着るぬいぐるみで、きぐるみと言います」

 と、誇らしげに語る。

「可愛いじゃない」

「有り難う御座います。このきぐるみは見た目だけではなく、魔王様もお気付きになられたよ

うに、魔力を完全に遮断できるゆえ、魔力を感知できる方たちに威圧感を与えずに済みますし、

この寒い時期には防寒具の役割も成す事が出来る優れものなのです」

 凛々しくて固い印象のあるアポロネアが、こんな可愛いものを考え、そもそも人々を楽しま

せる施設を創っているとは、人は変わるものなのだなあと微笑ましく思った。

「あ、すみません魔王様。何か御用があっていらしたと言うのに、私事ばかりベラベラと」

「別に構わないわよ、世間話くらい。じゃあ、用件の前に、現状の説明をしておくわね」

 グリムは伝える。

 同じ七魔の仲間である鬼のクリークが自身の近付く寿命を回避するために超がつくほどの絶

滅危惧種たる不死鳥の子供を、集団を結成して狙っていること。その結果、クリークに協力し

ていた同七魔の雹蝶フリーミ共々、返り討ちにされてしまったことを。

「・・・フリーミはまあ、仲間思いですから、弱るクリークのために協力をしていたのでしょうが、

クリークが隠れてそんな事を画策していたとは・・・寿命に対する恐怖心が故でしょうかね」

 クリークは本来なら絶滅危惧種の、しかも子供を狙う事など絶対にしない男である。だが、

自身の終末が見えてしまっているため、本人にとっても苦渋の決断だったことだろう。

「魔王様、クリークの処遇はどうなされるおつもりでしょうか?」

 絶滅危惧種の子供に手を出す事は、七魔としてただでは済まない行為だ。当然、七魔でなく

とも、だが。

「クリークは今、私が手を下すまでも無く、その報いを受け続けているわ」

「ほう?それは・・・」

「クリークを倒した者の力によるものね。相対したクリーク本人が言うには・・・それは『悪魔』

だったそうよ」

「悪魔!?」

 『悪魔』という単語にアポロネアは眼を見開く。

 それもそうだろう。元々アポロネアは先代の魔王であり世界唯一の悪魔族であるオルトを自

身の主として崇拝していたのだ。

「勿論それは、あなたの知る悪魔とは別人だからね?」

「・・・は、はい・・・理解しています」

 アポロネアは一呼吸置き、落ち着かせる。

「して、私目に何をしろと仰るのでしょう?」

「その悪魔、通称『悪魔狼』と呼ばれているその人物の力を引き出し、分析して欲しいのよ」

「『悪魔狼』・・・・・・つまり、その人物と戦え、と言う事ですね?」

「簡単に言えばね」

 確認した後、アポロネアは目を閉じ、何かを考え始めた。

「『悪魔』に対して敵対するような行為はしたくないのですが。・・・・・・分かりました。興味が

あるのは事実ですので、是非にお受けさせて頂きます」

「よかったわ。『悪魔』に興味のあるだろうあなたに真っ先にこの話を持ってきてあげたのよ」

「感謝します、魔王様。して、日時を伺っても?」

「それはあなたの準備が整ってからでいいわよ。そのように話を付けて来たから」

「そこまでして頂けているとは・・・!」

 アポロネアは術士であり、他の誰も使えないような奇抜で妙な効果を持った魔法を多数使用

する。故に様々な方向からあの悪魔狼ベリコの持っているものを測ってくれるだろう事が期待

できるため、真っ先に適任であると思い浮かんだのである。

「じゃあ、頼んだわよ」

「はい」

(さてさて・・・どうなるかしらね?藪を突いて何が出てくるか・・・・・・)


 今や冥界では最も明るく、最も地獄と称するに相応しい場所であろうこの洞窟に一つ、人影

が入っていく。人影は呻き声を上げ苦しむ周囲には目も呉れず、洞窟の奥の広まった空間の中

央に横たわる巨大な鬼の目の前まで来ると停止した。

「呼んだな?余を。クリーク」

 細い身体に鞭のように細くて長い尻尾。そして常にゆらゆらと揺れ続ける触覚のような角を

持つ女。

「理由を述べよ。クリーク」

 周囲の様子など全く興味が無いように、ただ自分を呼んだ理由のみを求める。

 二度目の問い掛けに漸くクリークが反応を示す。

「ヒュード・・・か・・・」

 弱々しい声。だが、女はそんな様子など気にも留めない。

「何だ?クリーク」

「はぁ・・・はぁ・・・我は・・・倒された・・・フリーミも、だ・・・ぐぅっ!!・・・そいつを倒してくれ・・・!

・・・そうすれば・・・はぁ・・・この、苦しみも・・・・・・がはぁっ!!」

 目の前で血を吐かれても表情はピクリとも変化しない。

「名を述べよ。クリーク」

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・」

「その者の名を。クリーク」

 ・・・・・・返事は無い。返答を得る事は期待できないと判断した女ヒュードは踵を返す。

「理解した。クリーク」

 そう言い、無表情のまま、立ち去って行った。

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