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黒翼のカナエル  作者: 氷花
不死と希望の悪魔編
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120/240

悪魔狼

 狸の女に相当警戒されながらも、家の中に通してもらう事ができた。中にはもう一人、銀の

毛並みを持つ給仕者の狼の女がいた。

「いらっしゃいませ」

 その人物は狸の女とは違い、警戒している様子は無く、むしろ笑顔を浮かべ歓迎している。

だが、その笑顔を見たグリムは、ふとある人物の姿を想起した。それは母親。笑顔の質こそ違

えど、その内側に見えてくるものは母親のそれと相違ない。そう感じるのと同時に思った。こ

の人物こそが『悪魔』と呼ばれる者であると。

 出されたお茶を一口含み、飲み込む。一息つき、言葉を発する。

「貴方たち、私がここにきた理由に心当たりはある?」

 そう問い掛けると、狸の方は少し険しくなり、狼の方は笑顔のまま変化無し。狸の方が意を

決したように一歩前に出る。

「そ、その事についてですが、私たちはその・・・・・・護るものがありまして、それを護るために

危険因子を無力化しようと行動した結果でして・・・こちらから進んで行動したわけではなくて、

あちらから攻めてきたもので・・・」

 狸の女が必死に言葉を選びながら正直に答えようとしている。この女も事を荒立てたくはな

いと思っているようだ。見るに、悪い人物ではないようだ。

「ああ、大丈夫よ。事情はもう大体分かっているから。護るものっていうのは、絶滅危惧種の

不死鳥の事でしょ?」

「・・・!は、はい!そうです!」

「うちの管轄の七魔二人を筆頭に、何人もの人が不死鳥を喰らおうと徒党を組んでいたみたい

ね。・・・・・・私は別に倒された七魔二人の仇を討つ気なんて無いし、というか、狙って返り討ち

にあったってだけだから自業自得。貴方たちに対しては迷惑を掛けたとは思うけど、文句を言

うつもりは無いわ」

 そう言うと、狸の女はほっと胸を撫で下ろした。

「で、では、どうしてここへ・・・?」

「むしろ七魔二人を倒した、貴方たちに興味があって、ね」

「!!そ、そうです、か・・・・・・」

「特に、そちらの狼さんは『悪魔』と呼ばれているそうね?」

 驚く素振りを見せたのは狸の方だけだった。狸の方は喜怒哀楽がはっきりと見て取れるが、

狼の方は不気味なほど表情が笑顔のまま全く変化しない。

「ど、どうしてそれを・・・!」

「そろそろ、自己紹介でもしましょうか。私はグリム。知っているでしょうけど、魔王をして

いるわ」

「・・・わ、私は・・・ポンポコ、です・・・強化獣人です・・・・・・」

 グリムが顔を向けると、狼の女は遂に口を開いた。

「私はベリコ、と申します。魔王様の仰る通り、私は悪魔と、『悪魔狼』と一部の知人からで

すが、呼ばれております」

「悪魔狼、ねえ・・・」

「知ってどうするつもりなんですか・・・?」

「そうねぇ・・・・・・その力を見せて欲しい、って言ったら?」

「だめ!!」

 狸の女ポンポコが狼の女ベリコの前にかばうように立ちはだかり、大声を上げた。

「貴女に訊いたのではないんだけど?」

「そ、それは・・・」

 代わりに拒否した理由は言いたく無いらしく、口ごもるポンポコを優しく押し退け、ベリコ

が前に出てくる。

「いいですよ。お相手は、魔王様が直々にして下さるのですか?」

「べ、ベリコちゃん!?」

「いいえ。相手は別の誰かを、貴女の力を計るに適した人物を連れてくるわ」

「・・・そうですか」

 ベリコは少し残念そうな声色で返事をする。

「日時に関しては、こちらの準備が整い次第、改めて伝えるわ。それでいいかしら?」

「はい!楽しみにしております!」

 グリムはベリコが笑顔で承諾したのを確認すると、家を後にした。

「じゃ、またね」


「ベリコちゃん!!」

「はい、何でしょう?」

「何でしょう、じゃないよお!!どうしてあんなの受けちゃったの!?」

 ポンポコが怒りの感情を見せるも、ベリコは笑顔のまま全く反省している様子は無い。それ

どころか、

「だって、楽しそうじゃないですか!」

「ベリコちゃん・・・!」

 ベリコのその眼には「かつてのベリコを思わせる輝きが宿っていた」


 その日の夜。ふと眼が覚めてしまったポンポコが台所にやってくると、そこにはまだベリコ

がロウソクを灯し、それを見つめていた。

「ベリコちゃん、何してるの?」

 そう問い掛けたが、返事は無い。寝ているのだろうか?でも、頭は垂れていない。確認しよ

うと顔の見える位置まで移動すると、

「!?」

 ポンポコは悲鳴を上げそうになった。

 ベリコの眼は開いていた。だが、その眼は何を見ている様子も無く、ただ開いているだけの

状態だったのだ。

「ベリコちゃん!?しっかりして!!ベリコちゃん!!」

 慌てて身体を揺さぶると、漸く眼の焦点が合った。

「・・・ポンポコお姉様、どうかされましたか?」

 いつもの笑顔を浮かべた。

「どうしたじゃないよ!!どうかしてたのはベリコちゃんの方だよ!!どうしたの!?今さっ

き何を見てたの!?」

 そう問いただすと、ベリコは少し考えた後、やはり笑顔で答えた。

「扉です」

「扉・・・?」

「はい。意識を中に集中するとはっきりと見えるんですよ。それが今にも開きそうで・・・手が届

きそうなんですよ」

 危機感の無い笑顔。

「そんなの開けちゃだめだよ!!だめだからね!?」

「・・・そうですね。つい、あの扉の向こうがどうなっているのか、気になってしまいました」

「はぁ~・・・・・・もう、ベリコちゃん、ベリコちゃんが強いのは分かるけど、それでも心配され

る要素を持ってる事だけは覚えておいてね?」

「はい、すみませんでした、ポンポコお姉様」

「ふう。じゃあ、ベリコちゃんも早く寝てね?お休み」

「お休みなさいませ、ポンポコお姉様」

 ベリコは最後まで笑顔で答えた。反省しているのかいないのか。ポンポコは小さく溜め息を

吐き、部屋に戻った。

 だが、ベリコに眠るつもりなどなかった。いや、眠る事が出来なかったのだ。

(さあ、あの扉を見張りに戻らないとですね。もう、声も漏れ聞こえてきてしまっている事で

すし・・・・・・)

 ベリコはロウソクの火を消し、今度はテーブルにうつ伏せになり、再び扉へ向かった。

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