強化獣人姉妹
亜獣人界・育みの里。一つの大陸を丸々使用し、様々な分野の専門的な学習・訓練が日々行
われいるこの場所も、日の沈む頃にもなれば、目指す道の違う者たちが食堂に集い、同じ卓を
囲んで食事をする。それは教わる側だけでなく、教える側も同様だ。
「おーい!ポンポコ!こっちだこっちー!!」
途方もなく広く食堂の喧騒の中に大声で呼ぶ声が聞こえる。
そこにいるのはいつもの二人だ。
「グ、グレイスお姉ちゃん!あんまり名前、大声で呼ばないでよう・・・」
恥ずかしそうに周囲の様子を伺いながら席に着くポンポコ。狸だからという安易な理由でそ
う名付けられてしまったこの名前は未だに慣れない。
「いい加減慣れろって。可愛いじゃないか、ポンポコって。こう、楽しそうにお腹叩いてそう
な感じでさ、癒されそうじゃないか!」
そう言いながらそう名付けられてしまった人の気も知らないでへらへら笑っている女の名は
グレイス。牛種でありながら凹凸の無い体付きをしていて、それを言うと怒る。自分は気にし
ていることを平気でいうのに・・・。
そんな幾度となく交わされているやりとりを無言で聞き流しているの女性の名はムム。羊種
で、いつもモコモコを後頭部から首元にかけて装着し、気持ちよさそうに目を閉じている。い
つも目を閉じているのだが、目が見えないわけではなく、そうしたいからそうしているだけ。
昔からの戦友であり親友であり、姉妹でもある強化獣人の三人は、今日も仲良く夕ご飯を食
べ始める。
そこに一人の男がやってきた。
「よう、いつもの御三方!」
気さくに話しかけてきたこの男は蝙蝠種のサラード。同じ強化獣人であり、育みの里を取り
纏める最高責任者にして『育みの象徴』とも呼ばれている、私たち強化獣人のボスのような存
在でもあるインフォルマ様の使いでもある。
「何だ、サラードか。何の用だ?」
「ああ。それ食い終わってからでいいから、出来るだけ早くベリコの元に向かってくれ。あ、
誰か一人だけでいいから」
「ベリコ?あの子に何かあったの?」
「あいつに限って何かあるとは思えんがなあ・・・って、まさか・・・!」
グレイスは一つの可能性が頭を過ぎり、青ざめる。
「安心しろ。言伝を頼みたいだけだ
「そんな事かよ!」
「それで、何を伝えたらいいの?」
「『フェローリアはフュクシンの元で保護している』だ」
酷い棒読みで答える。
「姉貴も絡んでんのか!?」
グレイスが今度は興奮した様子で立ち上がる。
「ベリコちゃんにフュクシンお姉ちゃん・・・!」
「それでだ。誰が行ってくれるんだ?」
その問いに三人は顔を見合わせ、頷く。
「無論、全員だ!!」
「戻りましたよーインフォルマ様」
「それで、誰が行ってくれると?」
「全員」
「全員・・・やっぱりそうなったかー・・・」
インフォルマは頭を押さえる。
「そりゃそうなりますって。いやあ、楽しみだなあ・・・」
「厄介な事にならないといいけれど・・・」
「インフォルマ様、そういう事言うと確実になりますよ?」
空には既に月が昇っている。やるべき家事も全てこなし、するべき事がなくなったベリコは
外で寒空の下、月をただ眺めていた。
「こんな寒い夜にそんな格好でいると、風邪を引いてしまいますよ、お嬢さん」
「・・・これはこれは、グレイスお姉様!それにムムお姉様にポンポコお姉様まで・・・!」
「久し振りだなあ!ベリコ!」
三人を家に招き入れ、ベリコはお茶の準備を始める。嬉しいのか、その動きは跳ねているよ
うに見える。
「どうぞ。ごく普通のお茶ですが」
「頂きます。・・・はぁ・・・温まる・・・・・・」
「もう、すっかり給仕が板に付いているわね」
「本当だな!ベリコにゃあ給仕なんて絶対無理だと思ってたぜ!」
「ふふっ!私もです」
先程まで静まり返っていた家の中に複数の笑い声が広がる。
「ところで、今日は皆さんお揃いでどうかなさったのですか?」
「ああ、そうだった。実はな・・・・・・」
グレイスが今の状況を説明する。フェローリアは別の所に保護されている事、その経緯につ
いても伝えた。それを静かに聴くベリコの表情は笑顔のまま、一瞬たりとも変化しなかった。
「ベリコ、そういうとこは変わってねえな」
「何がですか?」
「ベリコちゃん、フェローリアちゃんのこと、心配じゃないの?」
そう言われ、ベリコは不思議そうに首を傾げる。
「心配・・・?と、いわれましても、すみません。まだ私には理解できません」
「そう・・・。でも、今のあなたは以前とは比べ物にならないほど成長しているし、それほど遠く
なく、分かる日が来ると思うわよ」
「だと・・・いいですかね?」
「さて、ベリコ。これからどうする?」
「どうと言うのは?」
「決まってんだろ?お嬢様んとこ行くか、それとも・・・奴等の居場所を探し出し、討ち入るかだ」
やる気満々の笑みで問い掛けるグレイスに対し、ベリコは即答する。
「私は現状、どこに行くつもりもありませんよ?」
「ああん?何で?」
「保護されているならそれでいいですし、狙う者がいたとしても、それはお嬢様ご自身の問題
です。私は必要以上に関わる気はありません」
その言葉にグレイスは大きな笑い声を上げる。
「はあっはっはっはっはー!!自分が育てた奴にも無頓着と来たか!やっぱベリコだなお前!」
「だけれど、討ち入るとも言わなかった辺りは成長を感じるわね」
「ねえ、グレイスお姉ちゃんとムムお姉ちゃんはフュクシンお姉ちゃんの所に行って?私はこ
こに残るから」
そう進言するポンポコの表情を見て察した二人は頷く。
「それがいいな」
「任せておきなさい。あと、くれぐれもやり過ぎないようにね」
「うん、任せて!」
「あら、もう行ってしまわれるのですか?」
「ああ、またな!・・・今度は五人で会おうぜ!」
「楽しみにしてますね!」
二人は満面の笑みを向け、出て行った。




