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黒翼のカナエル  作者: 氷花
不死と希望の悪魔編
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七魔クリーク

 連れて来られたのは冥界にある洞窟。中は妙に明るく、眩しいほどだ。奥の広がった空間に

出る。その中央に張られた魔法陣の内側に、捕われているかのように一人の大男がいた。頭部

に大きな一本の角が生えている。

「貴様が不死鳥か」

 その図体の割りに、声に力を感じない。衰弱しているように伺える。

「・・・ああ、そうだよ」

 大男の前に連れて来られたフェローリアは一切の拘束をされていなかった。代わりに奴等の

仲間と思われる連中が数え切れないほど、遠くからこちらを時折不気味にニヤつきながら監視

している。

 フェローリアが自身が不死鳥である事を肯定すると、大男は少し驚いた様子を見せる。

「ほう・・・!流石の手際だな、フリーミ」

「まっあねー!子供一人捕まえるくらい余裕に決まってるったら!」

 気色の悪い女フリーミは得意げに胸を張る。

「不死鳥、貴様、名は何と言う」

「・・・フェローリア」

「フェローリア、か。我が名はクリークだ。七魔でもある」

 魔王直属の手下である七魔と名乗った男だが、やはりそれにしては覇気を感じない。

「・・・お前、寿命が近いのか?」

 極めて永い寿命を持つ魔獣族だが、「極めて永い」というだけであって、いつかは寿命が訪

れる。だからこそ「不死」を求めて不死鳥狩りなんてことが起こったのだろうが。

「その通りだ。我にはもう余り時は残されていない」

「だから不死鳥を捕まえたかったわけか」

 まあ、そんな事だろうとは思った。死にたくないから不死を求める。人とはそう言うものだ。

フェローリアは呆れた様子で溜め息を吐いた。

「不死鳥の血肉を喰らえば、我は死なずに済むのだ」

「そういう事。だから~・・・大人しく食べられてくれないかなん?私達全員に!!」

 女が合図すると、その仲間たちがフェローリアを取り囲む。

 あの大男だかこの気色の悪い女だかの人徳か、はたまた「不死」の二文字に対する欲望か、

随分な数が集まったものだ。フェローリアはふと、ベリコが言っていた言葉を思い出す。


所詮、世の中は弱肉強食。生きていたくば捕食者をも打ち倒して生き延びる他ありません。


「ふふ・・・ははは!」

 フェローリアの顔に笑顔が浮かぶ。

「こいつ、今から喰われるってのに笑ってやがるぞ」

「もう無理だと悟ったか」

 フェローリアは思う。

(こんな体調の時にこんな状況になるなんてなぁ・・・弱肉強食、か・・・・・・喰われるときゃあこん

なもんなのかもな・・・)

 そして目を閉じた。

「さあ、解体せよ!!」

 大男の一声と共に、無数の捕食者たちが一斉に襲い掛かった。


「フェローリアちゃん、行くよ!」


 ふと、聞き覚えのある声が耳に入ってくる。

 その声に思わず少し目を開ける。

「タイム・カット!」

 その瞬間、明るい洞窟が真っ暗な木々に覆われた森へと変化した。

「な、何だ・・・?」

「はあ~・・・時の力使っちゃったなあ・・・・・・あんなじょうきょうじゃしょうがないかもなんだけ

ど、でもなあ・・・はぁ~・・・・・・」

 何が起きたのか理解できずにいたフェローリアの横で何度も溜め息を吐いているのは、特徴

的な長い耳を持つ、時の兎ミーニだった。

「な・・・!お、お前!何で!?」

「ん?尾行してたから、だよ」

「び、尾行だと!?」

「そうだよ?フェローリアちゃん、調子わるいみたいだったし、なのに一人で帰るみたいだっ

たからしんぱいになったんだ。そしたら何か、変なひとたちにからまれてつれて行かれちゃう

からびっくりしたよー!・・・でも、なんともなくてよかった!」

 ミーニはそう満面の笑みを浮かべる。

「そうだったのか・・・あ、ありがとう!・・・本当に助かった!」

「えへへ!さ、とにかく今は家に帰らないと!見つからないようにね!」

「ああ!!」


 フェローリアはミーニに手を引かれるまま冥界を無事に脱出、そのまま再びあのでかいお屋

敷を訪れる事となった。フェローリアの家が特定されていると思われるためだ。

「ただいまー!」

 ミーニは屋敷内に入ると同時に元気に挨拶する。すると直ぐに小柄な給仕者が現れ、笑顔で

返す。

「お帰りなさいませ、ミーニさん!寄り道でもされていたのですか?」

「うん!二人で少しお出かけしてました!」

 そう言いつつもじもじと玄関の扉の影に隠れているフェローリアを中へ引き入れる。

「お、おじゃまします・・・」

「あら!フェローリアさん、でしたね、どうぞゆっくりなさって行って下さいね!」

 その給仕者は笑顔を向けて去って行った。

「どうしたの?このおやしき、きらい?」

「い、いや・・・そういうわけじゃあ・・・ないんだ・・・・・・」

「?まあいいや。とりあえず私のへやにあんないするね」

 案内されるままに中へと入る。そこは一人で使うには広く、物は綺麗に整頓されている。

「フェローリアちゃん、ベッドで寝てて」

「え?・・・あ、ああ・・・・・・つ、使わせてもらう・・・・・・」

 人のベッドを使わせてもらうなど、恥ずかしくて断ってしまおうとも思ったが、流石に身体

が限界に来ていたため、有り難く使わせてもらうことにした。

 ベッドの布団を捲ると先客が居た。それはニンジンのぬいぐるみ。抱き枕なのだろうか?と

りあえずそれを奥へ押しやり、仰向けに寝そべる。仄かに香ってくる匂い。

(これがミーニの匂いか・・・いい匂いだ・・・・・・って!何考えてんだおれは!!)

 慌てて心を正す。

「フェローリアちゃん」

「ん!あ、ああ!何だ!?」

「今日あったこと・・・・・・私の信らいのおける人に話してもいい?」

「・・・・・・ただの弱肉強食だぞ?助けとほしいとかは思って・・・」

「うん。私が、そうしたいだけ。向こうは向こうの、私は私の利のためにそうするってだけ」

「・・・・・・ああ、分かった」

「あ、そうだ、お家の人にれんらくしないと!フェローリアちゃん家の電話番号、教えてもら

ってもいい?」

「・・・でんわ、ばんごう?」

 聞きなれない言葉にフェローリアは寝そべったまま首を傾げる。

「そっか。じゃあ、お家にいる人の名前は?」

「ベリコだ。給仕者のベリコ」

「給仕者をしているベリコさん、だね?じゃあ、何かあったら『ガルさん』って呼んでね!す

ぐに来てくれるから」

「は、はあ」

 ミーニは部屋を出て行った。

 余所の人の部屋に一人。妙な気分で落ち着かない。ふと、さっきのミーニの言葉を思い出す。

(「がるさん」だったか?呼べばすぐ来るってどういうことだ?)

「がるさん」

 試しに声に出してみる。

「はい、何でしょう!」

「うおわああああ!?」

 本当に出た。すぐに出た。部屋のドアは閉まっていたはず。どこから、いつ入ってきたのか

全く分からなかった。というか、ちょっと呟く程度の声量だったのに、聞こえていたのか?

「何か御用でしょうか?フェローリア様」

「さ、様?まあ、いいけど・・・すいません、ちょっと呼んで・・・・・・」

 呼んでみただけだと言おうとしたが、そういえば訊いてみたい事があったのを思い出した。

「そうだ、『ベリコ』って言う名前の人、知ってます?」

 前にここに来て、会った時から思っていた事だ。ベリコとこの給仕者、体格はまるで違えど

同じ狼種で銀髪、見た目も雰囲気もとてもよく似ているのだ。もしかしたら何か関係があるの

ではと気になっていたのだ。

 そう思って訊いてみたのだが、名前を呟きながら首を傾げている辺り、どうやら知らないと

みえる。

「すみません。存じ上げません」

「・・・そうですか」

 他人の空似というやつなのか?まあ、自分とは全く関わりがなくて同じような顔をしている

何てこと、あっても全く不思議ではないし。

「では、私はこれで。また何か御座いましたら先程と同じように御呼び下さい」

 そう言ってその給仕者はふっと消えた。・・・消えた・・・・・・?

「・・・え?」


 ミーニは「給仕者のベリコ」の所在を知るために、まずは顔の広いヒイカに相談してみる事

にした。これからの事も考え、今日あった出来事も含めて話をした。

「というわけで、『給仕者をしているベリコさん』という方にれんらくをしたいんです」

 考え込むヒイカ。だめだったかなと思ったが、その隣の人物はその名前に反応を示していた。

「ベリコさん、ですか!」

 常にヒイカの傍に仕えている狐の強化獣人フュクシン。普段感情を表に出さない彼女が驚く

ような声を上げた。

「おや、フュクシンちゃんは知っているのですか?」

「はい。ベリコさんは私と同じ強化獣人であり、戦友でもあります」

「え!それじゃあいばしょも!?」

 フュクシンは首を横に振る。

「残念ながら・・・。しかし、事情が事情ですし、インフォルマ様に問い合わせれば対応して下さ

るかと存じます」

 『インフォルマ』この亜獣人界で「育みの象徴」と呼ばれ、「育みの里」という大陸規模の

超巨大職業訓練施設を取り持っており、全世界のあらゆる情報に精通している超偉い人である。

 そしてこのヒイカはそんな人物とも気軽に会話する事が出来るほどの人物なのだ。

「ミーニさん、後は私たちに任せておいて下さい」

「はい!助かります!ありがとうございました、ヒイカさん!フュクシンさん!」

「いえ、それほどのことは」

 ヒイカは早速受話器を手に取る。

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