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黒翼のカナエル  作者: 氷花
不死と希望の悪魔編
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危機

 そこは洞窟の中だというのに外よりも明るい程だ。それは、最奥に広がる巨大な空間、その

外周に集められた鉱石の影響である。この鉱石から放たれる光には傷を緩やかにではあるが癒

す力があるのだが、正直な所、幾ら数を揃えようともただの気休めにしかならない。何故なら

今必要なのは傷を癒す力ではないからだ。

「た~だいまっ!」

 女の声が洞窟内に響き渡る。その声に気が付いた大勢の同士たちが静かに一礼する。すると、

これまた気休めで張られている治癒の魔法陣の内で横たわっていた大男が身体を起こす。

「戻ったか、フリーミ」

「お加減はどう?」

「身体は相変わらずだが、気分だけはいい」

「これも集めに集めた鉱石のおかげね!」

 元々荒々しい性格であるこの大男クリークが今はこの通り、人が変わったかのように大人し

くなっている。この光は傷だけではなく、心にも影響を与えるのかもしれない。まあ、大人し

いのは単に身体が悪いのが原因だとも言えるだろうが。

「して、不死鳥の居場所は分かったのか?」

「居場所は今まさに最中よ。でもでも、不死鳥が誰かってのは特定したわよ!」

「本当か!?」

「ええ。随分と幼い仔だったけれど、自分の宿命はしっかり理解しているみたいだったわね~」

「・・・そうか。必ず捕まえてきてくれ」

「任せなさいったら!直ぐに連れてきてあげるわよ!」

 女は自信満々に胸を叩いた。


 結局、フェローリアはお昼時には家に帰って来ていた。一度は雪原に足を踏み入れ、そのま

ま探しに行こうとも思ったが、未だに不死鳥である自分を狙う者が居ると分かった以上、無闇

に一人歩きをするのは危険だと思って・・・・・・正確には空腹を感じ始めたため引き返す事にした

のだった。

 思ったよりもかなり早く帰ってきたフェローリアに給仕者ベリコは一瞬眼を丸くした。

「お嬢様、どうかなされたのですか?」

 帰ってきたフェローリアは少し俯いたまま答える。

「・・・実は、不死鳥であるおれをねらうやつがあらわれたんだ・・・!」

「・・・そうですか」

 ベリコは特に驚く様子も無い。

「そいつがなんか気色わるくて、そのくせけっこうやるみたいでさ、あやうくつかまっちまい

そうになっちまったよ・・・。なあ、ベリコ。おれはこれからどうしたらいい?」

 不安を露にするフェローリアに、ベリコは笑顔で言い放つ。

「そんなの、返り討ちにしてしまえばいいじゃないですか。所詮、世の中は弱肉強食。生きて

いたくば捕食者をも打ち倒して生き延びる他ありません。そのための訓練はしてきたはずです

よ?ね、お嬢様」

 ベリコはそれだけ言うと、家事に戻って行ってしまった。

「生きたきゃ己の力で生きのびろか・・・・・・たんじゅんなことだったな」

 ベリコの言う通りだ。自分が狙われる立場である事を理解してから、自分一人でも生き延び

て行くための訓練を受けて来たではないか。あの地獄そのものの日々と比べたら、今の状況な

どどれほど生易しいことか!

 フェローリアは一瞬でも不安を表に出してしまった事を恥ずかしく思った。


 翌日の目覚めは最悪だった。身体はだるいし熱も高い。一挙一動がすごく辛い。

「お嬢様、お酒でも召し上がられました?」

「二日よいじゃねーよ!」

 ふらふらと千鳥足で歩くフェローリアをベリコはくすくすと笑いながら見ている。やはり心

配などしてくれないか。まあベリコだし。逆にベリコが心配してきたらこっちが心配になる。

「学校はどうなされますか?」

「・・・行く。勉強くらいならできるさ」

 休んでしまうのは簡単だが、この位の辛さに屈してしまうのは何だか負けを認めたみたいで

悔しい。

 朝食を終え、いつもよりも早めに家を出る。悪寒などではなく、単に温度が上がっているこ

の身体には冬の冷たい空気がとても心地いい。一歩一歩だるくて重い身体を動かして向かう。

やはりいつもよりも辿り着くのに時間が掛かり、結局学校に着いたのはいつも通りか少し遅い

くらいだった。

「おはよー・・・」

 学校に着くだけでかなり疲弊していた。その気だるい挨拶と佇まいに心配した友達が駆け寄

ってくる。

「だ、大丈夫!?ふらふらだよ!?」

「体ちょうわるいなら休めばよかったのに」

「ああ・・・大丈夫だ。これはびょうきとかじゃないから。・・・・・・まあ、きんにくつう?とかそん

なかんじだから」

 フェローリアはこの体調の悪さの原因を知っていた。知っていたと言うか、分かる、と言っ

た方が正しいか。

「そうか?でも、本当につらかったら言えよな!」

「ああ、ありがとな!」

 フェローリアは心配してくれる友達に笑って見せた。

 勉強くらいならとは言ったが、この身体のだるさはやる気さえも削いでしまうようで、授業

中、幾度となく先生から鋭い視線を向けられた。体調が悪いと言う事を察してくれたのか、特

に注意をされるような事は無く、無事と言っていいか分からないが、一日の授業を終えた。

 皆が帰っていく中、友達が家まで送って行ってくれると言ってくれたが、そんな手間を掛け

させたくないと思い、大分楽になったからと断った。

 当然、そんなのは嘘。むしろ朝よりも悪化していると言っていい。

(や、やべえ・・・思ったよりもきつくなってきたかも・・・・・・早く帰って横になりてえ!)

 学校は亜獣人界で、家は創生界の人里離れた場所にある。その距離は普段なら何の苦労も疲

労も無いのだが、今日ばかりは長く永く感じる。それでも一歩一歩進み行き、家まであと少し

と言った時だった。

「お・か・え・りん!不死鳥ちゃ~ん!」

 身の毛も弥立つ気色の悪い声。一度聞いたら忘れないその声の先へ振り向くと、そこにはや

はり、あの女が居た。

「げ!ババア!!」

「バ!?流石にそれはひどいでしょ!!」

「く・・・なんでここに・・・こんな時に・・・!」

 まるで待ち構えていたかのような様子だが・・・何故だ?昨日、後を付けられていたのか?何に

せよ今の状況はまずい!とても戦える状態ではない!

(何とか逃げねえと・・・!)

 ベリコのいる家に辿り着ければ何とかなる!

「あら~?昨日の威勢はどうしたのかしら~ん?」

 幸い今、女は油断している。フェローリアは悟られぬよう息を吸い込んでいく。そして、

「ヘクト・ブレス!」

 女の近くの地面を狙い、ブレスを放つ。着弾したブレスにより砂埃が辺りに立ち込める。

(今のうちだ!)

 逃げようと地面を蹴り出そうとした瞬間、

「ぐおっ!?」

 何かに身体を捉えられてしまう。

「何だ・・・!これはぁっ!!」

 足も地面から浮き、抜け出せない。成す術の無いまま砂煙が治まってしまう。

「うっふふ~ん。二度も同じ手が通じると思っちゃったの~ん?」

 身体を捉えていたのは巨大な手。岩のようにゴツゴツとした表皮を持つそれは、地面の下か

ら生えてきていた。

「さ、我らがお城にご案な~い!ザステン、帰るわよ」

 女がそう言うと、地面の下から何かが出てくる。

 人型ではあるが、身体の大きさにの割りには不釣合いな巨大な両腕に、岩のようにゴツゴツ

とした全身、その先端が槌のようになっている強靭そうな尻尾。

「地竜か!」

「そうだ。地面の下からオマエを追尾していた。悪く思うな」

「・・・そういうことかよ・・・!」

 地竜種は地中を自由自在に移動する事が出来る。池中深くに潜む事でこちらに魔力を察知さ

れずに尾行していたのだ。

(くそ!完全にしてやられた・・・!)

 フェローリアはそのまま連れ去られて行った。

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