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黒翼のカナエル  作者: 氷花
不死と希望の悪魔編
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雪原にて

 ごくり。でかいお屋敷のでかい門の前まで来たものの、中に入ろうという勇気が湧かない。

やっぱり帰るか・・・元々今日はここに来るつもりもなかった訳だし、もっと作戦とか準備を整え

てからの方がいいだろう。うん、そうしよう。

 引き返す理由を並べて正当化し、踵を返したその時。


キギィィィ・・・・・・


 何とも耳心地の悪い金属の擦れるような音が耳に入ってくる。

 反射的に振り返ると、門の一部分が何時の間にか開いていた。まるで入って来いと誘ってい

るかのように。

(か、風でも吹いたか?)

 吹いてない。そんな事は自分でも分かっていたが、そう思いたかった。

 何はともあれ、門は開いている。さて、入ってみるかどうかだが、答えなど最初から決まり

きっている。

「こんな怖ぇ所にいられるか!!」

 再度踵を返し、逃げるように走り去ろうとした、またその時!

「はぎゃあああああああああ!!??」

 誰も居ないはずのそこに何かがいた。

「お元気な方ですね!さ、どうぞ。中へお入り下さい」

 その銀の毛並みを持つ、どこかベリコと似ている小さな給仕者の少女は門の中へと誘う。本

当なら逃げてしまいたいのだが、何故だか逃げられる気がしないので、覚悟を決めて大人しく

それに従う。

 広い庭を少し歩き、玄関に到着する。

「どうぞ」

 案内してくれたその小柄な給仕者の少女は扉を開け、更に中へと招く。

「・・・お、おじゃまします」

 既に観念しているフェローリアは招かれるまま、屋敷の中へ足を踏み入れる。玄関に中には

もう一つ扉があった。しかしその扉は空けてもらえず、自分で空けるように促してきた。

 深呼吸をし、フェローリアは思いの外すぐに扉を開けた。

 正面にそびえる二階へと続く、一度に何人も行き交う事の出来るほど大きな階段。家のもの

とは全く違う、立派過ぎる階段に目を奪われていると、

「え!?フェローリアさん!?」

 名前を呼ばれ、その方向へ首を向けると、特徴的な長い耳を持つミーニの姿があった。

 こちらの姿を確認すると、ミーニは不思議そう且つ嬉しそうに駆け足で寄って来た。

「どうしたの?フェローリアさん、ここに何か用があるの?」

「あ、それは・・・・・・」

 目的はミーニに会う事だが、それを口にするのはとても恥ずかしく、何とか誤魔化そうと物

凄い勢いで頭を巡らせる。

「ま、迷ったんだ!そ、そしたら何か・・・でかいたてものがあったから見てたら、その・・・・・・」

「そう・・・なの?」

 ミーニは不思議そうに見てくる。

 背には学校へ持っていく道具を纏めた鞄が背負われている事から推察する。

 フェローリアは編入生であり、初めて学校に通い始めてからの、初めてのお休みである。だ

から恐らく、授業の無い日がある事を知らずに学校に来てしまって、そのまま帰るのもあれだ

から周囲を散歩でもしていて迷ってしまったのだろう。

「ま、いいや!こっち来て!」

 ミーニに手を引かれ、他の人たちの居る所へ連れて行かれる。

「お姉ちゃんとラキエルさんには前に話したことあるよね。この子が私のいる組に新しく入っ

てきた、フェローリアさん、だよ!」

「この方がそうなんですね。初めまして、私はラキエルと申します」

 と、礼儀正しく天使の人が。

「バンリだ。よろしくな!」

 と、簡素に狸の人。

「へえー!!」

 そう大きな声を上げて、ちょこまかと周囲を動き回り、全身をまじまじと見回してくるのは、

こちらも特徴的な長い耳を持つ、ミーニよりも少し大きな兎の女。姉と言っていたか。

「お姉ちゃん、少しおちついて」

「はーい!あっ、わたしはハワーだよ、よろしくね!」

 やはり広すぎる空間と言うのはどうにも落ち着かない。無論、年上の人が何人も傍にいると

いうのもあるだろうが。何だかだんだんと自分が囚われの身であるかのように思えてきた。と、

「それじゃあ私、そろそろ行くね。・・・ごめんね、フェローリアさん、せっかく来てくれたのに」

 そう言うとミーニは立ち上がり、玄関へ歩いて行く。

「どこに行くんだ?」

 思わず質問すると、ミーニは少し考え、答える。

「くんれん、かな」

「くんれん?」

「そうだよ。私、強くなりたいんだ!」

 そう決意を述べるミーニの顔を見たフェローリアは、胸の奥から込み上げてくるものを感じ、

立ち上がる。

「いっしょに行っていいか!」

 ミーニは少し驚いた表情を浮かべるが、直ぐに頷く。

「・・・うん、いいよ」


 創生界の極北に住処を構えた北の大妖怪の影響下にあるこの地域は年がら年中寒く、地面は

山も平地も雪に覆われている。元々寒い気候を好む者たちにとっては楽園のような場所になっ

ている。一年中いつでも雪で遊ぶ事が出来ることから、北の大妖怪の影響を受けるその境目付

近は結構人の出入りが多い。

 当の北の大妖怪ヒサメが住んでいる家のある場所は奥の奥。より厳しい寒さと来る者を拒む

吹雪で護られている場所にある。これはヒサメが人に会いたくないから。ではなく、奥まで来

ると危ないよ。という優しさから来る警告のようなものだ。

 だが、今目指している場所はまさにそこ。ではそんな厳しい環境の中で、か弱い仔兎ミーニ

は無事に辿り着く事ができるのだろうか?答えは問題なし。何故なら、吹雪が止むからだ。最

初からミーニが来ると分かっている時分を見計らい、北の大妖怪が吹雪を止めるのだ。流石に

寒さばかりは止ませられないので、厳しい道のりには違いない。ミーニも初めの頃は辿り着く

だけで精一杯であったが、今では雪道の歩き方も理解し、かなり体力の消耗を抑え、それほど

疲労する事もなく辿り着けるようになっていた。

「ここだよ!」

「ふうー・・・やっと着いたのか」

「それにしても、フェローリアさん、すごいね!」

「ん?何がだ?」

「だって、初めてここまで来たのに、あんまりつかれてなさそうだし」

 フェローリアは特に寒そうにもしていないし、息も上がっていなかった。

「ん・・・まあ、おれもきたえてるからな」

「そうなんだ!」

 辿り着いた家の外で話をしていると、中から一人の女性が出てくる。

「ミーニ、いらっしゃい!」

 黒髪の女性は出てくるや否やミーニに抱き付く。少し遅れて青髪の女性が姿を現す。

「来たか。お?そっちは誰だ?」

「え、えっと・・・」

「フェローリアさんだよ。私のいる組のへんにゅうしてきたばかりなの」

「ほう。ミーニの新しい友達か、よろしくな。我が名はヒサメ。この辺り一帯の環境を司って

いる者だ」

 さらっととんでもないことを言う。だが、フェローリアはそれを聞いていなかった。正確に

は頭に入って来ていなかった。なぜなら

「ともだち・・・おれが・・・・・・ともだち・・・・・・」

 『ともだち』その言葉に色々と考えをめぐらせていたからだ。

 急に何かを考え込んでしまったフェローリアを横目に、ヒサメは本題を切り出す。

「シツライ、その位にしておけ。ミーニ、そろそろ始めるぞ。準備運動しておけ」

「はい!」

 渋々といった表情を浮かべるシツライから解放されたミーニは身体を動かし、解して行く。

「よし、それじゃあ・・・」

「まってくれ!」

 先程まで考え込んでいたフェローリアが真っ直ぐにミーニを見据える。

「・・・なあに?フェローリアさん」

 フェローリアはミーニの目の前まで歩み寄り、言い放つ。

「ミーニ・・・おれと戦え!!」

 真剣な表情。強い決意を感じたミーニは応える。

「・・・いいよ・・・戦おう!!」

 互いに戦意をたぎらせ始める二人に、ヒサメはニヤリと笑う。

「いいだろう!お前たちの思うようにやってみろ!」

「はい!!」

「ああ!!」

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