葛藤
ミーニはどちらかと言えば、自分から今日あった事を話すタイプではない。普段は姉ハワー
からよく訊かれるので話すが、その日は珍しくミーニの方から話を切り出した。
「今日ね!へん入生が来たんだ!」
「へー!そうなんだ!」
「でもそれがね、その人、人なれしてないみたいで、大変そうだったよ」
「そっかあ・・・はやくがっこうになれられるといいね!」
「うん」
「それにしても、こんな時期に編入して来るなんて、結構珍しいのではないですか?」
「・・・そう、だね」
今現在、冬の上節・十日。確かに、今年の終わりが下節の二十日であり、もう日数があまり
ないことを考えると、編入してくるにしても来年の春からにした方が何かといい気がする。
「きっといろんなじじょうがあるんだよ!」
「・・・それもそうですね!」
(色んなじじょうかあ・・・何か手伝えないかな・・・・・・)
翌十一日。いつもよりも早めに学校に登校したミーニは、既に来ていた人たちに、フェロー
リアさんは人なれしてないみたいだから、あまり質問攻めするのはよくない。もっとゆっくり、
相手に合わせて互いの事を知り合っていくべきだと話したのだった。
これに皆が理解を示し、その甲斐もあって、ものの数日でフェローリアは随分と組に馴染む
事ができたようだった。
その一方で、フェローリアはやきもきしていた。他の人たちは頻繁に話し掛けてくれるが、
時の兎である彼女だけは全然来てくれていなかったのだ。
授業中は当然無理だし、合間の休み時間は別の人たちが引っ切り無しに寄って来るし、とに
かく話し掛ける時間すら無い状況だ。
(何とか・・・何とかチャンスを・・・!)
伺い、考えた結果、フェローリアが出した答えが・・・尾行である。
授業が終わり、皆が散り散りに家へと帰って行く。この時間ばかりは、
「まだ学校でやらなきゃいけないことがあるから」
この一言で簡単に一人になる事ができた。後は怪しまれないように時の兎ミーニを付けて独
りになる時を待った。だがならなかった。校門で皆と別れていよいよ独りになるのかと思いき
や、すぐにもう一人の兎と天使と狸が合流し、共に歩き始めてしまう。
(だめだー!話しかけらんねえ!!上級生相手はまだむりだって!)
フェローリアは話し掛けるのを諦めた。だが、ただ諦めた訳ではない。なんと!そのまま尾
行を続け、住んでいる場所を突き止めたのだ!
という本日の成果を自信満々胸を張り話す。
「頑張りましたね、お嬢様!では、乗り込みますか?」
「ああ!もちろん、ベリコもついてきてくれるよな!」
「勿論!行きませんよ!」
とてもいい笑顔だった。
「な、何で!?」
「何事も経験ですよ、お嬢様。恐れも、不安も葛藤も、これから生きて行く中で幾度となく経
験する事になります。ですので、これも大事な一つの経験を積む機会として、沢山悩んで、沢
山考えて成長してくださいね!」
「お、おう・・・・・・」
もっともらしい事を言う。フェローリアはベリコの助力を諦め、溜め息を吐いた。
さてどうするかだが。まず、単身で乗り込んで行くのはだめだ。見た所、かなり大きな建物
だったし、中には一体どれだけの人が、どんな魑魅魍魎が潜んでいるか分かったものではない。
やはり、地道に一人になる時を待つ他無いか・・・
(くそう・・・いばしょも分かってるのに話かけられないなんてもどかしいぜ・・・・・・)
翌日、特にいい案が思い浮かばないまま、悩みながら学校を訪れる。と、何かいつもと違う
雰囲気を感じ取る。
「人のけはいがない・・・?」
いつもならば、賑やかな声が耳に入ってくるのだが、静まり返っている。訝しげな表情を浮
かべながらも、とりあえず教室へ入る。
「い、いない、だれも・・・!」
時間はそれほど早い訳でもなくていつも通りのはず・・・教室も間違っていないはずだし、なの
に誰一人未だに登校してきていないなんて・・・。フェローリアはあれこれ考えながら座って待つ
ことにする。
しかし来ない。一向に誰一人として来る気配も無い。これは明らかに普通ではない。もう授
業が始まっていても不思議ではない時間のはず・・・思い切って教室を出てみる。
やはり静まり返っている。授業をしているような声も聞こえて来ない。
(どうなってんだ・・・?)
少なからず恐怖さえ感じ始めていたが、このまま待っていても埒が明かないと、慎重に、音
を立てないように廊下を進み、他の教室の中を覗いて見る。
いない。ここも。ここも。こっちも。自分は夢でも見ているのか?そんな気さえしてきた。
やがて、まだ知らないドアの前に辿り着いた。ここは何の教室だろうか?入ってもいいのだろ
うか?日常の内にいるのならば開けないだろう。だが、今は非日常。とにかく誰か、人を見つ
けたい、その一心でそのドアを開く。
その教室は他の教室よりも随分広く、幾つもの大きな棚があり、中にはぎっしりと本が並べ
られているようだ。人の気配は感じないが、死角が多いため中に入って確認することにする。
「こんな数の本・・・全部読んだらどんくらいかかるかな・・・」
本の様相は様々。綺麗な装飾のある物やボロボロになってしまっている物、すごく分厚かっ
たり妙に薄かったり、「本」と一言で言ってもその姿はそれぞれ違っており、一つ一つが人の
ように毛色が違うのだと感心していた時だった。
「ん!?」
思わず一方を振り返った。先程まで何も感じていなかった場所に突然、魔力を感じたのだ。
不思議に思いながらもその方向へゆっくりと、警戒しながら歩く。
それはカウンターになっている所の入り口の直ぐ傍にある扉のその奥からだ。扉の前で一旦
立ち止まり、耳を立てる。・・・特に何も聞こえない。溢れてくる唾を飲み込み、扉に手を掛けよ
うとしたその瞬間だった。
その直前にガチャリと開く。それはお互いに不意打ちとなった。
「おわあああああ!!??」
「きゃあああああ!!??」
保たれていた静寂を引き裂く悲鳴がこだまする。
お互いに尻餅を着いた所で互いの姿を初めて確認し合う。
「生徒!?何でここにいるの!?」
「何でって・・・!そっちだって同じ生徒だろ!」
それは、余り見ない緑の毛並みをした狐の少女だった。
「こう見えても私はここの司書ですー!生徒じゃありませんー!」
「はあ?ししょ?」
ししょ?が何かはさておき、どう見ても自分と変わらない子供に見えるが、そういう見た目
と年齢が一致しない輩は珍しくも無い。納得したフェローリアはずっと抱えていた疑問を投げ
掛ける。
「まあいいや・・・そんなことより、何で今日はこんなに人がいないんだ?」
「ええ?何でって・・・それは今日は『お休み』ですもん」
「おやすみ?」
フェローリアは首を傾げる。「おやすみ」って言う事は・・・みんな寝ているのか?何だそれ?
「どういう状況なんだ・・・・・・」
神妙な面持ちで首を傾げているフェローリアを見て察したらしいその少女?女性と言った方
がいいのだろうか?ともかくその人は丁寧に説明してくれる。
「『お休み』って言うのはね、その日はみんな、家でごろごろしてくつろいだり、友達や家族
とお外で遊んだり、好きな事をしてていい日のことで、授業は無いんですよ」
「へ、へぇ~・・・
何となく・・・分かった・・・?
「まあともかく!あなたもお友達の所に行って一緒に遊んできたら?」
とにかく今日は授業は無いという事は分かった。
「ともだち、か・・・・・・」
「ともだち」と呼んでいい人はまだいない。だって、まだ出会って数日だし、ちょっとお互
いの事をお話し合った程度だし・・・。誰かの所に行くとは言っても・・・・・・唯一知っている場所と
言えば、あそこしかない。
とりあえず、フェローリアは学校を出て向うことにした。




