編入生
四人掛けの食卓の上に所狭しと色とりどりの料理がズラリと並べられる。その様子を椅子に
座り、そわそわわくわくと忙しなく身体を揺らしながら見つめる赤毛の少女。その口から思わ
ずよだれと共に感動の声が漏れる。
「ほほほおぉ~・・・!ま、まともな食いもんなんてえ~と・・・三年ぶりだぁ!」
匂いを嗅ぎ、よだれを啜るなど落ち着きが無いながらも、勝手に摘もうとはせずに待ち続け
ている。そこへ最後の一品、白米を飯櫃に入ったままの状態で受け渡す、銀の毛並みを持つ給
仕者の女性。少女は迷わずそれを受け取り、片手で腹に抱え、もう片方の手には小振りのおた
まを構える。
「では、お召し上がり下さい」
その声とほぼ同時に、少女は前屈みになり飯櫃を必死に支えながらも力一杯に手を合わせる。
「いただきます!!」
力の篭った声でそう発すると少女は立ち上がり、おたまで様々な料理を掬いながら次々に口
へ運んで行く。まさに一心不乱。食べる手を全く止める気配が無い。その様子を給仕者の女性
は笑顔でただ見守っている。
恐らく、一般的な食事量の四人家族でもとても食べきれないほどの量の料理が物凄い勢いで
減って行く。給仕者の女性は全く手をつけず、本当にただ見つめているだけだ。
少女は全く苦しそうな表情一つ見せる事無く遂に、並べられた全ての料理をたった一人でき
れいさっぱり食べきってしまった。少女は満足そうに最後に水を飲み干し、手を合わせる。
「おいしくいただきました!!ありがとうございました!!」
重量で言えば、その少女と同程度あるのではないかと思えるほどの量を食べきり、文字通り
腹を膨らませた少女は、休憩する所か外へ向かおうと歩き出す。
「お嬢様、こんな時間からどちらへ?明日から学校に通う事になっているのをお忘れですか?」
現時点でもう深夜になってしまっている。
「え?あ、ああそうだったな!でもさ、ほら・・・ちょっと腹ごなししたいし、おれは外走ってく
るから!」
「眠れないんですね、楽しみ過ぎて」
「べ、べつに楽しみじゃねーし!!ね、ねようと思えばねられるし!」
「じゃあ寝て下さい」
「う・・・い、いや、ただちょっと運動したいだけだからあ!」
少女は逃げるように外へ飛び出して行った。
冬の上節・十日。まだ雪こそ降ってはいないものの、震えるほど寒い事に変わりは無い。教
室内ではその寒さに震える者がいる一方で、元々寒い地域が出身の者たちは反して元気になる。
高揚したその者たちの手によって窓が開け放たれ、寒がる者たちと喧嘩になるのが冬の学校の
日常である。
それはミーニのいる教室でも同様であり、この日もいつも通り先生が来るまでに治まった。
ミーニの組の担任はココットと言う名の、世にも珍しい「白虎」という種の女性である。
「おはよう、みんな。今日も寒いけど、今日は何と!熱いお知らせがあります!」
教室内が期待にざわつき始める。
「今日からこの組に編入生が来まーす!もう来てるけど」
教室内が一気に盛り上がり、先生の声が聞こえなくなるほど煩くなる。ココット先生は一つ
溜め息を吐くと、抑揚浅く呟く。
「はーいみんな静かにしてねー・・・でないと、喉を掻き切るからねー」
先程までの喧騒が嘘のように一瞬で静寂が訪れる。
「じゃあ、入ってくださーい」
その声を受け、ドアを開けて一人の少女が入ってくる。見た所、獣系ではない。でも魔力は
持っているようだが何の種別だろうか?そんな事はさておき、その動きは誰の眼にもぎこちな
く、目を見開き、呼吸も不安定。完全に緊張しきっている様子だった。
「じゃあ、自己紹介どうぞ」
少女は唾を音を立てて飲み込むと、唇をガタガタと震わせながら口を開き、恐る恐るといっ
た様子で声を出す。
「フーッフーッ・・・んぐっ・・・はぁ、フェ、フェローリアだす!!」
「だす?」
教室内に静かな笑い声が上がる。それを打ち消すようにココット先生が紹介する。
「はいみんな、フェローリアちゃんは学校に通うのは初めてです。なので、色々と分からない
事もあると思うから、優しく教えてあげてねー」
「はーい」
「それじゃあフェローリアちゃん、フェローリアちゃんの席はあそこだから、移動してね」
「う、ウッス!」
机は一つ一つ等間隔に並べられている。指示された場所は最後方のミーニの席の隣だった。
やはりぎこちない足取りで席に辿り着いたフェローリアは座ると、ガチガチの状態のままた
だ真っ直ぐ前だけを見ていた。
休み時間ともなると、物珍しさからフェローリアの周りに人だかりができる。そして様々な
質問が四方八方から間髪入れず投げ掛けられ、ただでさえこれ以上ないくらいに緊張しきって
いるフェローリアは終始口をぱくぱくさせるばかりだった。
「もうだめだあ!学校こええよ!!」
帰って来るなり頭を抱えて叫ぶフェローリア。
「あらあら、学校とはそんな場所でしたか?」
「そうだよ!大体、あんなに人がいるなんてきいてねえし!すげえ集まってきてもう何言って
んのか分かんねえし!ぜんぜん・・・ぜんぜん答えらんなかったし・・・・・・もう、ぜってえみはなさ
れたよ・・・・・・」
フェローリアにとっては、あんなに話し掛けてくれたのに何一つ答えることが出来なかった
事が何よりの後悔として重くのしかかっていた。
「それでは、もう行くのを止めますか?」
「そ、それは・・・だ、だめだ!それじゃあ何も変わんねえ!!」
「では、もう少し頑張らないと、ですね!」
フェローリアは目を閉じ、深呼吸する。
「だな!!」
翌日。教室のドアの前で心に力を入れる。
(こわがるな!おれは強い!おれならやれる!やれるんだ!!)
「おはよう、フェローリアちゃん」
「ひぎゃああああ!!??」
心の準備中に突然背後から声を掛けられ、思わず叫び声を上げる。
「ごめんね、おどろくだろうとは思ってたけど、声をかけずにはいられなくて」
そう言いながら少しだけ申し訳無さそうに声を掛けてきたのは、長い耳が特徴的な女の子だ
った。
「私はミーニ、だよ、よろしくね!」
ミーニと名乗った女の子はそのままじっと見つめてくる。・・・あ、そっか。
「お、おれは・・・ふ、フェローリア!・・・よろしく・・・」
自己紹介を終えると、そのミーニと言う女の子は手を取り、教室へと引き入れた。
「ま、まだ心のじゅんびが!」
教室内に入ると、フェローリアの姿を見た生徒たちが一斉に集まってきた。
(ひいっ!ま、またかあ!!)
思わず肩をすくませ、目を瞑る。
「昨日はごめんなさい!」
「ごめんな!」
「ごめん」
・・・様子がおかしい事に気付き、恐る恐る目を開ける。すると、皆は反省した表情で少し距離
をおいて立っていた。その中の一人が歩み寄ってくる。
「きのうはおどろかせちゃってごめんなさい!わたしたち、フェローリアちゃんのこと、もっ
と知りたくてそれで・・・だから、きらいにならないで!・・・ね・・・」
その瞬間、フェローリアは自分の心がふっと軽くなるのを感じた。
「・・・ああ!ならない!!おれもちゃんと答えられるようにがんばる!へへっ!」
それは、フェローリアが学校で初めて見せた笑顔だった。
「つかれたー!!」
家に帰って来るなり、ソファに飛び込み、そのまま横になる。
「その割には・・・何だか、嬉しそうですね」
「分かるか!今日はすげえ楽しかった!!」
その満面の笑みに、給仕者ベリコも笑顔で返す。
その後、フェローリアは食事をしながら学校であった事を終始笑顔で話し続けた。
「あ!そうだ、ベリコ!」
「はい、何でしょう?」
「ついに見つけたぞ!あれはまちがいない・・・あの耳としっぽ・・・それにまりょくももってたし、
あれは『時のうさぎ』だ!!」
「うふふ・・・それはよかったですね!」
「ああ!待ってろ・・・時のうさぎ・・・おれが必ず・・・!!」




