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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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重進化

 巨大な狐の体内に張られた空間内で拳を打ち合う中で、セイムは確かな手応えを感じていた。

打ち合えば打ち合うほどに得た力が身体に馴染んでいく感覚。それにより、どんどんとできる

と思えることが増えていく。しかしその一方で、空を覆いつくすほどまで肥大化した魔力の塊

が落ちてくるまでの制限時間が気掛かりなあまり、大味な動きが目立つようになってしまって

いた。セイム本人は焦り、その事に気が付かない。

(早く・・・何とかしないと・・・!じゃないと皆が・・・もう私しかいないのに!!)

グリムの目から見れば隙だらけである。だが、グリムはその隙を突いて倒しに掛かろうとはし

なかった。それどころか、セイムの焦りを取り除かんと独り言を装い、聞こえるように呟き始

める。

「これは・・・『天網招来』解かれてしまったようね」

「・・・え・・・?」

「あれを何とかしてしまうなんて、ふふっ・・・喜ばしい事ね」

「それって、つまり・・・・・・?」

 セイムは頭の中を整理する。

 『天網招来』とはあの空を覆い尽くしている魔力の塊を作り出す魔法の事で、それを何とか

してしまったというのはつまり・・・・・・その魔法の効力を失わせたって事?・・・だとすれば、世界

の危機は脱した・・・?もう時間制限など無い・・・?

 それを理解した時、セイムは自分の心が嘘のように軽くなるのを感じた。それと同時に止め

処なく溢れ出してくる、希望と言うものだろうか、それに満たされ、思わず笑いが込み上げて

きた。

「ふふ・・・あはははは!あははははははは!!・・・ふう。みんな、すごいなあ・・・・・・あんなのど

うにかできちゃうんだもん・・・」

 セイムは徐に自分の頬を両手で思いっきり叩く。

「私も・・・負けてられないよね!・・・やって・・・やるぞぉー!!」

 セイムは叫び声を上げると、真正面から突っ込んで行く。

 それは完全に感情に任せた無策の特攻だった。だが、

「螺旋・・・剛拳ん!!」

「速い!!」

 迷いのなくなったセイムの一つ一つの動きは格段に速さを増し、その威力も、攻撃に対する

反応速度も、あらゆる潜在能力が飛躍的に上昇していた。

「うおおおお!!」

 セイムが虚空に高速で拳を振るう。するとそこに次々と帯で作られた円錐が形成されていく。

「螺旋錘拳・連!!」

 そしてセイムの合図で一斉に発射される。

「天鎖剛壁!」

 撃ち出された円錐を全て鎖の盾で防ぐ。しかし、円錐は盾に刺さったまま回転を続けている。

「シグマ・チャージ!」

 セイムの更なる合図で今度は円錐が全てセイムの拳に集まって行く。

 セイムは腰を落とし、大きく深呼吸し、放つ。

「絶・・・拳!!」

「!!・・・こ、これは!!」

 その拳の威力は耐性が強化された鎖の盾でも到底防ぎきれるものではなかった。

 拳は盾を撃ち抜き、鎖の鎧を纏ったグリムが防御に差し出した両腕に接触すると同時に大爆

発を起こした。

「見える・・・力が・・・!私の可能性が!!」

 セイムは身体の内側から更なる力が湧き上がってくるのを感じ、それを全て受け入れる。

「う・・・ううう!!」

「魔力が・・・高まっている・・・!」

 グリムは少しふら付きながら立ち上がると、身構える。

「うううううう!!極み超えて・・・超進化ぁ!!『エヴォリューション・フォース・シグマスクエアー!!』」

 セイムの瞳に描かれた「Σ」の紋様がぶれたように二重になる。

「スクエア・・・重進化の力・・・!!現時点では身体への負担が大き過ぎて実用化できていないそ

れを・・・これが未来の力・・・!」

 ほんの一瞬、グリムが考えを巡らせたその間に、セイムの拳は眼前まで迫っていた。

「ふううん!!」

「ぐ!力が・・・急激に!?」

 一旦は受け止めたグリムだったが、その拳は加速度的に力が上昇し、後方へ大きく吹き飛ば

されてしまう。

 更に、またも何時の間にか懐に入り込んでいたセイムはグリムの腹部を蹴り上げて空中に打

ち上げ、同時に無数の帯を伸ばしてグリムの身体をぐるぐる巻きにする。

「くっ!今は・・・耐性強化、スクエア!」

 グリムは回避できないと判断し、次に放たれるだろう強打に備え、鎖の鎧の耐性を高める。

 対し、セイムは帯を引き、グリムを一気に引き寄せると同時に自身も駆け出し、己の拳と正

面衝突させる。

「螺旋爆砕拳!!」

 拳はグリムの身体に深々とめり込み、大爆発した。

「ふぅーーー・・・これで、どのくらい効いたかな・・・」

 手応えはあった。だが、相手は魔王グリムである。一時の油断が命取りになる。爆発により

発生した煙に集中する。と、次の瞬間

「狐火・大火」

 セイムの周囲を取り囲むように突如として青い炎が発生する。セイムはこの場所に居るべき

ではないと瞬時に判断し、炎に触れないように高く跳んで越えようと試みる。だが、

「わわっ!」

 炎はそれに合わせて高さを増して遮ってくる。すると今度は炎のほうから内側に居るセイム

に向かってにじり寄って来る。

「あの炎、触りたくないなあ・・・一瞬だけだったら大丈夫だったりしないかな?・・・・・・でも、グ

リムお姉ちゃんの炎だし、絶対何かいやらしい効果とかあるよね・・・」

 セイムは何かいい案が無いか考える。・・・・・・そして、

「・・・よし、やってみよう!」

 できるかどうかは分からなかったが、今のセイムには不安などなかった。

「さあ、この炎・・・今のあなたならどう対処する?」

 グリムは興味深そうに炎を見つめる。

「うおおおお!!」

 すると、セイムが飛び出してきた。真正面から、炎に包まれながら。

「正面突破!?」

 一見、無策で飛び込んで出てきたように見えるが、セイムは炎に包まれていても堪えている

様子は無い。

「その炎、まさか『あなたの』?」

「そうだよ!今の私にならできると思って!」

「自分の狐火を纏って、私の狐火を防いだ・・・まるで強化魔法のように使うのね。ま、あなたら

しいとも言えるけどね」

「強化、魔法・・・!」

 その言葉を聞いたセイムは閃く。

 狐火から逃れるためだけに考えてしたことだったけど、これをそのまま強化魔法に転用でき

るのでは!?セイムは自分の感覚の赴くままに、狐火を強化魔法として組み立てて行く。

 乱雑に燃え上がる青い炎を制御し、集束させ、身体へ吸着させる。

「できる!フランメント・フェアシュテルカ!!」

 燃え上がっていた炎は一転、大人しくなり、セイムの耳の先から足の先まで包み込み、まる

でオーラのように青い光を纏っているような姿になった。

「ふふっ・・・どんどん強くなるわね。いいわよ、それでこそよ!セイム!」

「グリム・・・お姉ちゃん!」

 二人の拳が衝突する。

 現状、力比べでは幾重にも強化を纏っているセイムの方が上。グリムの拳を弾き返し、体勢

を崩させた所で懐へ瞬時に潜り込み蹴りを加えて吹き飛ばす。

「ぐっ!」

 遠距離では手札の多いグリムの方が有利であるため、セイムは執拗に接近戦を維持する。

「螺旋・劫火拳!」

「天鎖剛拳・鋸!」

「い!?何それ怖い!」

 高速で回転する刃を纏った拳を見たセイムは怯んでしまう。力を失ったセイムの拳を払い、

グリムの足、及び錨がセイムの腹部を打ち抜く。

「んぐう!!」

 錨はそのままセイムを地面に叩き付けた。

「潰し、切り刻む刃!魔動鋸・天蓋!」

 仰向けに倒されたセイムの上空に再び高速で回転する刃を大量に携えた巨大な板が生成さ

れ、有無を言わさず落下し始める。

「ひぃぃぃぃ!!!」

 セイムは這う這うの体で何とか落下地点から逃げ延びる。そこへ、無数の錨が降り注ぐ。

「天鎖流星!」

「く・・・ぐううぅうう!!」

 セイムは帯で即席の盾を作り、何とか防ぐ。しかし、降り注ぐ錨が止む気配は無い。

「ううううう・・・ふうん!!」

 セイムは思い切ってその場から地面を蹴って転がりながらも抜け出す。そう来る事を読んで

いたグリムはそこを狙い打つ。

「天鎖剛塊!」

 体勢の未だ整わないセイムの元にとげとげした巨大な錨の塊が飛来する。それでも片手で地

面を蹴り、上空へ回避する。そして、推進力を発生させ、攻めへ転じる。

「魔動鋸・天球!」

 向かってくるセイムに対し、グリムはまたも回転する刃の付いた半球を自分を覆い隠すよう

に設置する。

「またあれ・・・!」

 やはり恐怖心を感じてしまう。

「それでも・・・私は!」

 セイムはグリムに向かうのではなく、空高くへ昇って行く。結界さえも突き破り、どんどん

と昇って行く。

 その姿は「外」に居たシュリたちにも見えていた。

「あ、ありゃあ何だ?」

「あれは・・・セイムちゃんかねえ!?」

「いま、グリムちゃんのなかからでてきたよ!?」

 降りしきる雨。セイムの目にもはっきりと現状が映った。

「すごい・・・!本当にあの魔力の塊が小さくなってる!・・・私ももっともっと頑張らないと!!」

 ある程度の高さに達したセイムは上昇を止め、グリムの居る下方へ手をかざす。

「勝利へと続く、栄光の道筋!グロリアス・ロード!」

 複数の帯が螺旋を描きながら伸び、グリムまでの一本の道を作り出す。

「これで決める気みたいね・・・ふふっ・・・なら、迎え撃つしかないでしょう?」

 グリムは楽しそうに微笑むと、半球を解除し、別の形へ組み替えて行く。

「魔動鋸・弩・Ωスクエア!」

 完成したのは極太の矢。やじりに取り付けられた刃が高速で回転している。

「私の全部をこの手に込める!強化も!魔力も!気持ちも!全部集めて打ち付ける!!」

 セイムの右手にセイムの持つ全ての力が集まっていく。やがてそれは、巨大な拳を形成した。

そして、作った帯の道をその拳に巻き付け、吸収しながらグリムへ向かって急降下していく。

 射出される極太の矢。対するセイムは真正面から拳を振るう。

「必殺!イグゾーストォォォ!!ワン!!」

 極太の矢と巨大な拳が衝突する。拳は帯の道を吸収し、どんどんと肥大化していく。矢の刃

はガリガリと巨大な拳を削らんとするが、敵わなかった。

「うおおおおおおおおおお!!!」

 そして遂に拳が極太の矢を退ける。

「これが・・・未来の力・・・どれほど先の未来かは分からないけれど・・・可能性は見えたわね」

 微笑を浮かべたグリムの頭上に極大の拳が振り下ろされる。

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