第7話:親切な魔法使い
「急げ急げ!」
先ほどのカスライムとの戦いでHPが2しか残っていないこの状況、武器もなくなってしまったので今敵に会えば死ぬ可能性が非常に高い。火傷を治療する術もないので攻撃に反撃しようとしても死ぬ、交戦しても死ぬという詰み状態。逃げることしかできないが、逃げるのは自分の流儀に反する。
「なんでボスエリアに入る前に回復アイテム買わないかなぁ! そういうところだからな俺!」
もちろんのことながら大体のボス戦の前には準備エリアなる場所がある。セーブやアイテムの購入ができたりできるし、敵が入ってこない完全無敵エリア。ネルネルラ戦の前にもそういう場所はあった。だがこのアホの自信といったら「回復アイテムなんかなくても最初のボスくらい倒せるんじゃね?」である。数分前に戻って殴ってやりたい。
「おい嘘だと言ってくれよ! なんでこういう時に限って出てくるわけぇ?」
危機はいつもピンチの時にやってくる。目の前に現れたのは自分の3倍はある巨大な獣型モンスター、今にもこちらにかじりつこうと大きな口を開いて顔を近づけてくる。さてここで反応速度の話をしよう。人間が物を見てから脳に反応として届いて認識するまでの時間は約0.25秒と言われている。そして気づいてから0.25秒経ったとしてここから大幅に移動できるムーンジャンパーを発動するのにスキル名を叫ぶのに1秒、ジャンプするのに0.5秒かかるとしたら…絶対に避けれない。でもジャストカウンターを使ったとて攻撃範囲が広いからダメージは食らう。攻撃もできないから怯みも狙えない。
(これは詰みか…)
「ストーンライトエクスプロム!」
突如目の前で獣が爆ぜてピクセルになって消滅した。突然のことで思考が追い付かない、バグか、はたまた何らかの救済処置か、分からないが助かった。もうあんな長い道を歩いてリス地からやり直すなんて御免だ。そして獣のピクセルが消滅すると同時に砂埃の中から誰かが歩いてくる。
「お、よかった~間に合って。私が偶然通りかかるところに居るなんて、君は運がいい」
「あなたが助けてくれたんですか?」
「そうとも。私があいつを一発でドーンとね」
「助かりました、ありがとうございます」
「いやいや。それよりも君、かなり摩耗しているようだが」
「あぁ今体力が結構ミリで」
「それは大変だ、すぐに治してあげよう」
彼女が杖を俺に向かって振ると、見る見るうちに体力が回復していく。心なしか体の疲労感も軽くなった気がするし。おまけか火傷も治っていた。これは回復の作用なのか、それともまた別の何かなのか、どちらにせよありがたい。
「見たところ駆け出しの冒険者のようだね。私が街まで案内してあげようか?」
「いいんですか?」
「あーいいのいいの。私は今暇だからね」
「ありがとうございます! えーっと……お名前って」
「名乗るほどの者じゃないさ。さ、ついておいで」
━━TIPS━━
ようこそ第二エリアへ。ここは第二エリアのように真っ平らな草原ではなく、山や川などが多く存在する自然の多いエリアだ。エリアの中心には大森林もあるぞ!でもまずは街に向かおう。街ではアイテムの購入や宿でのセーブが可能になっている。もちろんモンスターも入ってこないセーフティーゾーンだから安心してくれ。
「あのーあなたの職業って魔法使いですよね、杖持ってますし」
「まぁそんなところさ。私は筋力があまりないから近接戦闘は苦手でね、だから遠距離からの攻撃や支援がメインなんだ」
「へー、俺は逆ですね。俺は剣とか刀を使うのが好きなんで前線で戦うのが得意なんですよ。でも後衛職の人ってソロでやるときに敵といい感じの距離感を保ちながら戦っててすごいと思います」
「そんなことはないよ。基本的に後衛職ってのは前線で戦う人を盾にしながらそっちにヘイトを向かせて戦う職だからね、前線でターゲットになってくれてる人がいてこそさ」
そんな雑談を交わしながら街へと進んでいく。道中で何回かモンスターに遭遇したが俺が出る幕もなく全てを一撃で葬り去ってしまった。さらに親切なことにドロップアイテムをすべて譲ってくれた、ドロップアイテムはプレイヤー全員が血眼になって周回する時もあるほど大切な時もあるのに。これが先駆者の思いやりってやつか…暖けぇ。
「ほら、もう街は目の前さ。あとは大丈夫だね、もし襲われても街にいる人が助けてくれるだろう」
「ほんとありがとうございます。マジで助かりました」
「それじゃ私はこれで、私は別の街に行くから。またどこかで会えるといいね」
そう言い残してどこかへ歩き去ってしまった。本当にいい人だった、常時プレイヤーネーム表示にしてくれないかな。次会った時までにもっと強くなってお返しできるようになろ。まだその人がこのゲームに飽きてなければいいが。
「ふ~~初めての宿だーーー!」
部屋のベッドに飛び込むと同時に「セーブポイントを更新しました」という表記が出た。これでこの街の宿にリス地が固定された。これでいくらでも死んで帰ってこれるし、近場ならゾンビ戦法もできる。
「でも今日はとりあえずこんなもんにして寝るかな」
部屋のベッドの上に寝てログアウトを選択する。そうすると目の前が徐々にぼやけると同時に、背中に自分の部屋のベッドのの硬めのマットレスの感触がやってきた。ゲームとのリンクが切れた自分の体は幾分か重く感じた。
「やっぱ神げーじゃねぇ…か」
めちゃくちゃに作りこまれた神ゲーであることに感動したのもつかの間、つい壁に掛けられた時計を見てしまった。短針が示す数字は2、もちろん午後ではない。なんせ帰ってきたのが午後の6時くらいだった、時間が戻るなんてことは現実では絶対に起こらない。ならこれが指し示すことは…
「深夜二時! やっべ明日…は学校ないんだわ。やっぱ夏休みってサイコーーー!」
本当に高校二年かと疑いたくなるほどの計画性の無さ、ゲーム内でも時間を確認することはできたはずなのに。と、言っても無駄か。でも俺は夏休みでも昼に起きるなんてことはしない。とりあえず俺はアラームを6:30から1分ごとに設定して、エナドリを一気に流し込んでからベッドに寝転んだ。これで寝起きでもシャキッと目が覚めることだろう。ということでおやすみ!




