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第5話:油断は禁物、限界の産物

「んじゃ前置きはこれくらいで。初めてのボスモンスター、対戦よろしくお願いします!」


 その一言に応じたのか、ネルネルラは攻撃を開始した。水色の体を持つスライムから四本の腕が伸びてこちらへと向かってくる。形状もしっかりとした腕で、付け根から手のひら、指先に至るまでもが人間に限りなく近い。


「なるほど、延腕ってそういうことね!」


 延腕の意味を理解した俺もそれに対応して動きを作る。左右に一本ずつ、そして正面から二本が同時に攻めてきているこの状況。屈んだとしても当たるだろうし、上に飛んだとしても少しの軌道修正くらいはできるだろうから当たる。ならばもっと上に飛べばいい。


「ムーンジャンパー!」


 ムーンジャンパー、次のジャンプ時に3倍の距離跳ぶようになるバフスキル。初使用はもっと広い草原とかで使いたかったがしょうがない、出し惜しみはしてられないからな。


「うっひょーたっけー! そんじゃこのまま上から行きますよっと」


 打刀を構えてそのままネルネルラの方へと落ちていくが、さすがにそこまで甘くはない。ネルネルラは自分の頭上から腕をはやしてそれを伸ばしてきた。対空もバッチリしてきているようだ、開発陣もさすがにここは考えるか。


「だがそれでも俺は上から攻めるね。一閃!」


 伸びてきた数本の腕を一気に切り伏せる。感覚としては硬めのゼリーを切ったかのようだった。そして痛かったのか、声にならない悲鳴を上げながらネルネルラはさらに攻撃を激しくする。モンスターという生き物としての防衛反応なのか、はたまたただただ腕を切り落とされて怒ってるだけなのか。


「おいおいそんな大声出すなって、近所迷惑ですよー」


 でもスライムに作法はご無用。そんなことは無視してどんどんと腕を伸ばし、数はざっと13はある。それがすべて自分に向かって飛んできているのだから恐ろしいってもんじゃない。


「でも、お前は攻撃が単調過ぎんだよスライム!」


 いくら強めのスライムともいえど、ゲー廃(バーサーカー)を前にしては都合が悪すぎる。普通の人の10倍、100倍、いや1000倍はスライムを狩ってきているのだ。そんだけスライムを見てきていれば少しくらいは変わったスライムだっていたはず。だがこいつは違う、攻撃方法はただ触手を伸ばすスライムのちょっと強化版。色も普通のスライムと何ら変わりないのだから攻略も簡単。


「こんなやつに足止めされてるなんて、同じゲーマーとして恥ずかしいね」


 スライムの反応からして触手を切るたびにダメージは入っているが、今どれだけ削れているのかは全くわからん。こういうMMORPG系のゲームって相手のHPが表示されてることが少ないんだよな。その分相手の反応で分かるようになってたりするけど、こいつは反応が単調過ぎてまったくわからん。


「やっぱり半液体みたいな体してるから動きもとろいな。ちょっと試しておこうかな~」


 と考えてこいつは何を思ったのか突然武器をインベントリに収めた。そしてスライムの周りをまわるように走り始める。そこにスライムの攻撃が続くが、すべての攻撃がその場所を通り過ぎて0.2秒後くらいに到着するため一撃も命中しない。


「こりゃ序盤の金策とレベリングの犠牲はお前で決定で!」


 俺は見込んでいた。これだけ弱くて周回しやすそうなボスなら金策も経験値稼ぎも簡単に、高速で出来るのではないかと。実際に攻撃が一発も当たる気配はない、むしろ一回くらい当たりに行ってみたいレベル。だが極稀に一発の攻撃力が鬼高い奴もいるからそれはやめておこう。


「それじゃあさっさと倒して第二回戦としゃれこもうぜ」


 切る、斬る、伐る、飛んできた腕を切って切って切りまくる。地面が溶けた腕の水分でぐしゃぐしゃになるほど切り落としていく。この調子なら長くても1分くらいだろうと俺は思っていた。だがこの愚か者はこのゲームの本質と先駆者の言葉の意味を理解することとなる。


「あ? なんだよ突然動かなくなって」


 スライムは攻撃を突然停止した。一瞬死後硬直かなとも思ったがピクセルになって消滅しないところを見る限りそういうことではないだろう。じゃああれか、スタンか! 


「うっひょー! ボコ殴りし放題じゃねぇか!」


 そう思いおもむろに肩をぶんぶん回しまくってスライムに近づいていく。だがそんな呑気に歩いている暇ではないのだ。


「どれで殴ってみようかな? やっぱりロックフィストで一発物理試してみっかな……ん?」


 おかしい、こんなところにこんな大きい岩は無かったはず。ちゃんと入った時に見た、フィールドは真っ平らで中央にネルネルラが一体鎮座していただけ。こんな岩はなかった。


「まずい、これはスタンじゃねぇ!」


 そう気づいた頃にはすでに始まっていた。突如地面が隆起して液状化。それが大きな波としてクロノスに襲い掛かる。


「っ! ムーンジャンパー!」


 コンマ1秒で波に潰される寸前に高所に飛んで攻撃を回避した。だがこんな攻撃あいつのパターンに無かったはずだ。となれば考えられる可能性は3つ。外的要因からの攻撃、モンスターの死の直前の決死の攻撃。この二つは可能性が低い。外的要因が乱入できるようにゲームを作るような会社ではない。死の直前の決死の攻撃にしてはスライムと属性が離れすぎている。ならば残された可能性は一つ。


「モンスターの凶暴化!? そんなん聞いてねぇよ!」


 ━━TIPS━━

 ボスモンスターは一定の条件を満たすとOVERLIMIT状態という特殊な状態に入るぞ! この状態では基礎ステータスの上昇はもちろん、新たな攻撃やスキルを習得して使ってきたり、属性が変わったりする。よく観察して戦闘に臨もう!

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