五皿目
カランカラン、と、少し高い音が鳴った。
「わー♩ いいにおい! なんのお店ぇ〜?」
弾む声が店内に広がる。
温かな白い壁に、緑のツタ。
やわらかな灯りの下に立っているのは、小さな女の子だった。
長い髪をツインテールに結び、ふわりと広がるフリルのワンピース。
きらきらした靴が、床を軽く鳴らす。
店内を見回して、ぱっと目を輝かせる。
奥からリヴィアが姿を現した。
黒髪のポニーテール。
長めの前髪の奥で、深い緑の瞳が静かに瞬く。
女の子は、リヴィアを見るなり声を上げた。
「わあ……! おねぇーさん、お人形さんみたい♩ きれー!」
一瞬、店内がしんとする。
セラが目を伏せ、巡がわずかに視線を逸らす。
リヴィアは、ほんの一拍だけ女の子を見つめた。
それから。
ふっと、笑った。
それは、滅多に咲かない花のような笑みだった。
「ありがとうございます。」
そして、静かに続ける。
「マスターの、リヴィアです」
女の子は目を丸くする。
「マスター?」
小さく復唱して、にっこり笑う。
リヴィアは頷く。
「ここ、なにやさん?」
「あなたに必要な一皿をお出しする店です」
「ひとさら?」
「ええ」
案内された席に、ちょこんと腰掛ける。
足が床に届かず、ぶらぶらと揺れている。
しばらくして、リヴィアが皿を運んできた。
大小さまざまな星型のクッキー。
淡い青、やわらかな桃色、透き通るような金色。
どれも、ほんのりと光っている。
「わああ……!」
女の子は目を輝かせた。
「ほし、ひかってる!」
「ええ。ここでは、星は少しだけ近いのです」
女の子は小さな星をひとつ手に取る。
「ねえ、マスター」
もうそう呼ぶことに決めたらしい。
「わたしね、あの子とあそびたいの」
ぽつり、と言う。
「でもね、わたしがいなくても、あの子はたのしそうなの」
指先の星が、かすかに揺れる。
「ほかの子とも、だれとでも、わらってるの」
視線が落ちる。
「わたしじゃなくても、いいんだって、思っちゃう」
リヴィアは否定しない。
代わりに、ひとつの小さな星を指先で動かす。
「星は、空にたくさんあります」
女の子はうなずく。
「でも、同じ光はひとつもありません」
「……ちがうの?」
「ええ。大きさも、色も、光り方も」
リヴィアは、そっと女の子を見る。
その瞳はやわらかい。
「あなたが笑うときの光は、あなただけのものです」
女の子は、きょとんとする。
「わたしの……ひかり?」
「あなたが楽しいと感じる時間は、あなたがいるから生まれるものです」
「でも、いなくても、あの子はわらってるよ」
「ええ」
リヴィアはうなずく。
「世界は、回ります」
少し間を置いて。
「ですが、あなたの光は、あなたがいなければ灯りません」
そのとき。
また、ふわりと笑みが咲いた。
女の子は、しばらく考える。
それから、小さな星を口に入れた。
ほろりと溶けて、やさしい甘さが広がる。
「……じゃあ」
ゆっくり顔を上げる。
「わたし、あしたもあそんでみる」
リヴィアは、静かにうなずいた。
店を出る。
夕暮れの空に、まだ淡い光が残っている。
砂利道を、小さな靴が軽やかに踏みしめる。
ふと、空を見上げる。
まだ星は見えない。
それでも。
胸の奥が、少しだけあたたかい。
世界は回る。
でも。
わたしの光も、ちゃんとここにある。
女の子は、小さく笑って、歩き出した。
最後までお召し上がりいただき、ありがとうございました。
またのお越しを、心よりお待ちしております。
※当店はゆっくり、不定期営業となっております。




