第51話 選択
そういう能力の持ち主なのでしょう。
だから、いくら攻撃しても防がれる、あるいは避けられてしまう。
卑怯だわ。
ラナウスがまた、こちらへゆったりと歩いてきました。
「気づいたか」
「意味が分かりません」
「この能力で、私は今日まで生きた」
「どうしろとおっしゃるの?」
敵がまた床を駆けます。
わたくしは防御しつつ後退し、考えていました。
考えれば考えるほどに、わたくしの攻撃が読まれてしまうようです。
やがて額、肩、胸、太ももに敵の斬撃を受けて、骨にヒビが入ります。
激しい鈍痛。
じんじんとした痛み。
ラナウスは追い打ちをかけるかのように、右手を掲げました。
「岩蜂起!」
魔法でした。
突如として床が隆起し、わたくしは上へと吹き飛ばされます。
骨の軋むような音。
「うああぁぁあああ!」
しまった。
今ので両足が折れたようです。
これではもう走れません。
体が天井にぶつかり、バウンドして落下します。
口から噴き出る血液。
「がふうっ」
「終わりだ」
鉄壁の魔物が、剣を構えています。
やっぱり、死んだ?
(マコト)
……。
マコトがそこにいるのです。
もうすぐ助けられるのです。
そしたら、また、幸せな生活が待っています。
脳裏に浮かぶ彼の笑顔。
……負けません。
落下速度を利用して、剣を振りかぶります。
わたくしの剣とラナウスの剣が交差して、
バキンッ。
最悪な音と共に、軍剣が真ん中から折られてしまいました。
わたくしは尻餅をついて、折れた剣を掲げます。
「ひ、ひっ!」
「残念だがな、娘。これで終わりだ」
鉄の兵士がまた回転蹴りを放ちました。
わたくしは折れた剣で防ごうとしますが、胸に命中し、後方に吹き飛ばされます。
「あぐううああぁぁああっ」
床をゴロゴロと転がって止まりました。
瞳からは涙がボロボロとこぼれて、
鼻からは鼻水がじゅるじゅると垂れて、
ダメです。
勝てません。
だって思考が読まれているのです。
いくら攻撃したって、防御されてしまいます。
剣も折れてしまいました。
心も、いま折れてしまいました。
わたくしは、顔を上げて、
最後にマコトの方を見ます。
ごめんね。
ごめんなさい、マコト。
愛おしいマコト。
わたくしは、貴方を助けられませんでした。
「……マコト」
「ノク、ティア?」
ふと、彼が顔を上げて、うめくようにつぶやきました。
こちらに視線を送っています。
!
(マコト!)
良かった!
生きています。
マコトがまだ生きている。
だとしたら、助けなければいけません。
あんなに傷だらけになって、
可愛いマコト。
わたくしを可愛いと思ってくれる存在。
――たった一つの、財産。
助けるからね。
いま、助けますからね。
死んでも助ける。
(待っていて)
ポケットから水筒を取り出して、その液体をかぶるように飲みます。
半分だけ残しておいたポーション。
折れた両足の骨が、回復していきました。
水筒を投げ捨てます。
わたくしは半分になった剣を持って立ち上がりました。
「ほお、そんなものを持っていたか?」
ラナウスが感心したようにつぶやきました。
わたくしは黙って前へと歩きます。
鉄の兵士へと立ち向かい、折れた剣を振り上げました。
一閃。
「何!?」
彼の頭に命中し、兜が欠けます。
ラナウスが反撃し、一呼吸のうちに三連撃を放ちました。
けれど、
見えた。
(見えるわ)
わたくしは宙を舞うようにして全てを回避します。
床に足をつけて、踏みしめて下から剣を振り上げます。
鋭い一撃。
鉄壁の魔物の鎧が割れて、腹から血がこぼれました。
「ぐうっ!」
思考を読まれないように、
もう、何も考えません。
体を弓矢のようにしならせます。
一閃。
「ぐがっ!」
相手の肩の鎧が割れます。
わたくしは歌うようにつぶやきます。
「もう考えるのをやめましたわ」
一閃。
「ぬぐあっ!」
相手の太ももの鎧が割れて、血が噴き出ます。
ラナウスが床に膝をつきました。
わたくしは腹に力を込めて、
「はあっ!」
一閃。
「あがああああっ!」
相手の頭を真上から割りました。
鈍い音がして、兜が割れます。
長い茶髪が露わになり、強面の顔が覗きました。
わたくしは折れた剣を振りかぶり、
「トドメです!」
横薙ぎ。
ラナウスがつぶやきました。
「……見えなかった」
相手の首を吹き飛ばします。
「ガッ!」
ラナウスの頭が飛び、
床にごろごろと転がりました。
その首から噴きだした血潮が、わたくしの服を赤く染めます。
……ひどい戦いでした。
マコトを向き直ります。
彼は顔を横向けに地面について、目を閉じていました。
「マコト!」
駆け寄ろうとして、
魔王が右手を掲げます。
厳かに告げました。
「待て」




