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第46話 選ばれない愛

 ファナン村を越えて、今、魔王城への最前線の町に来ていました。



 明日はついに、敵の本拠地へ突入します。



 絶対に、マコトを助け出してみせますわ。



(わたくしの命と引き換えにしてでも)



 前日の夜。



 宿屋に泊まっていました。町は今夜が夏祭りのようで、賑やかにはしゃぐ人々の声が響いてきます。



 のんきなものですわ。



 わたくしは部屋の窓辺に寄って椅子に座り、ため息をこぼしました。



 魔法灯の明かりもありません。室内は真っ暗でした。



 ちなみにラスティンは別の部屋です。



 買ってきてあったお酒の瓶をマグカップへと傾け、液体を口にあおりました。



 度数の高い酒であるというのに、



 全く酔えません。



 もしもマコトと二人きりで飲んでいたのなら、



 楽しいだろうな。



 胸に切ない感情がこみ上げます。



 ふと、部屋の扉がトントンとノックされました。



 わたくしは顔を向けて、返事をします。



「はい」


「入っても、大丈夫ですか?」



 ラスティンの声でした。



「大丈夫です」



 扉を開けて、眼鏡の彼が入って来ます。



 わたくしをちらりと眺めて、心配したような声色を響かせました。



「酒を飲んでいるのですか?」


「酔えませんの」


「はぁ」



 上司がため息をついて、ベッドの足下に腰掛けます。わたくしに背中を向けながらつぶやきました。



「やはり、無謀だ」


「何がでしょうか?」


「明日君が、魔王城へ乗り込むことが、だ」


「死ぬ気はありませんわ」


「死ぬに決まっているじゃないですか」


「あら、それでしたら」



 わたくしは笑みを浮かべてフフと笑います。マグカップの液体を一口、口に含みました。それを飲んでから、



「ラスティン様は、お帰りくださいませ」


「私はねえ!」



 珍しく彼が語気を強めます。



「あ、はい」


「私はねえ、君を、君を大切に想っているんだ」


「それは、どういう意味ですの?」



 ラスティンが背中を丸めます。



「君は、私のつまらない日常に舞い降りた天使のようだ」



 わたくしは目をみはりました。



「君がどうしようもなく愛おしい」



 ラスティンの声が熱を帯びていきます。



「だから、胸がこんなにも締め付けられる」


「ラスティン様?」


「……理解している、君はマコト君のことが好きだ」


「はい」


「それでも、私はあえて言いたい」



 ……ラスティン様。



 お願い。



 それを言われたらわたくしは。



(言わないで)



 消え入りそうな声でした。



「私は、君を失いたくないんだ」


「……ごめんなさい」



 雨が降れば良いのに。



 雨が降って、この悲しさを押し流してくれたら良いのに。



 ラスティンが静かに立ち上がります。



「私には大切な仕事があります」


「はい」


「死ぬ訳にはいきません」


「はい」


「ノクティア君、私は、選ばれなかった」


「ここまで着いてきてくれたこと、感謝いたしますわ」



 ラスティンは歩き出しました。ゆっくりと、静かに足音が響きます。



 扉のノブに手をかけて、



「……武運を」



 扉を開きます。



「君が選んだ道に」



 通路へと出て行きました。



 わたくしは礼を言うように頭を下げて、それから泣きそうに眉をひそめます。



 ……ラスティン様。



 それから。



 わたくしはベッドの布団に入り、暗い天井を見つめます。



 部屋にはわたくし一人だけが残りました。



 感傷にひたることすら、後ろめたい気分。



「マコト」



 つぶやいた声が、夜闇に溶けて消えます。



「大好きですのよ」


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