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第41話 マコトに会いたい

 ……マコトは会いたいですわ。



 魔導図書塔のハウハニス隔離部屋に入ってから、もう三日が経とうとしていました。部屋にはベッドが置かれおり、仕事机の上には魔導ポットもあります。窓はありませんでした。魔法灯の黄色い明かりだけが、ほのかに照らしている室内。



 仕事をしていました。



 いま、研究員の記録書を分類しています。魔法開発の文章をよく読んで、わたくしなりに分析し、類似点のある文献にはコメントを書き込んで、ラスティンが読みやすいように整理しました。



 それが終わると、今度はこの町付近に現われる魔物の調査。



 冒険者が書き残した報告書から、ここ一年に出現した魔物の種類と推移を一枚の紙にまとめて書き込みます。



 ゴブリンの数が増えているようでした。さらに言えば、強化や変異をしたゴブリンが確認されています。どこかに巣があるのかもしれません。そのようにコメントを残します。



 今度は古文書の翻訳。



 わたくしには学があり、古代文字を読むことができました。魔王に対する文献を読み、現代語に訳していきます。ふと、気になる項目がありました。魔王はエヴルヘイムという土地に城を構えており、ずっと居を変えずにいるようです。



 エヴルヘイムは、この世界では有名な名前です。わがままを言う子供に対して親が「言うことを聞かないとエヴルヘイムに連れて行くぞ」という言葉はよく耳にします。



 場所を調べると、メルメイユからそう離れていませんでした。馬の足で十日もかからない距離であり。



 ……この町は、魔王城に対する最前線の町なのかしら?



 そう考えると、背中に鳥肌が立ちました。



 やがて、昼休憩の時間が来ます。



 扉と扉の間に空間を挟んだ二重扉を開けて、ラスティンが昼食のオボンを運んできます。



「ノクティア君、仕事は順調かね?」



 嬉々とした表情の彼。



 くせっ毛の銀髪に眼鏡の男が、笑顔を浮かべていました。



「……はい」



 わたくしの声には元気がありません。



 立ち上がり、移動して食事用のテーブルの椅子に腰掛けます。ラスティンは自分の昼食も持って来たようでオボンを二つ、テーブルに並べました。対面の椅子に腰掛けます。



 わたくしは尋ねました。



「ラスティン様、今日もマコトは元気に仕事をしていますか?」



 ぎこちない笑顔を浮かべて、彼が頷きます。



「あ、ああ。マコト君なら、いつもと変わりないよ」



 ……。



 おかしな話でした。



 突如、わたくしが家を出て行ったというのにマコトが心配しないはずがありません。



 わたくしは懇願するように頭を垂れます。



「ラスティン様、ここへ、マコトをお呼びになって。少し、話したいことがあるのです」


「それはできません」


「どうしてですか?」


「前にも言ったはずです。マコト君には、君に魔王の血が流れていることを、知られる訳にはいきません。知れば、彼はその後どうすると思いますか? 魔王を倒すために、単身で魔王城へ乗り込むでしょう。彼の命が散ってしまいます」


「……そうですよね」


「ええ。そんなことよりも、昼食を楽しみましょう。どれ、今日はアジフライのようだ」



 ラスティンがソースのかかった魚のフライを食器で切り分けて口に運びました。



 ほくほくとした笑顔で咀嚼する彼。



 お顔が若干赤いです。



 その態度はわたくしとの二人きりの時間に喜びを感じているようで。



 何というか。



 ……悪い気はしません。



 わたくしはパンを千切ってちまちまと食べました。



 心の嘆きが口をついて出ます。



「わたくしの人生は終わったようなものですね」


「そんなことは無い。私が絶対に、君を外に連れ出すための魔導具を開発してみせる。そしたらまた、君は外を歩ける」


「……マコトにも会えますか?」



 ラスティンはどこか切なそうな表情であり、



 けれど、しっかりと頷きました。



「ああ! マコト君とも会えるよ」


「結婚もできますか?」


「ああ、できる!」


「……ラスティン様、どうか、魔導具の開発をお願いいたします」


「分かりました。だけどいつ出来るかは分からない。君には辛抱してもらうことになります」


「いつまででも、お待ちしております」



 それからわたくしは、マコトの様子を事細かに聞きます。



 ラスティンは快くはきはきと答えてくれました。



 けれど、どこか浮かない表情であり。



 ――まるで何か隠しているような、



 違和感がありました。



 ……。



 わたくしは何気なくつぶやきました。



「そう言えば、わたくしがお手製で作っていたジャムが無くなる頃です。マコトは困っていませんでしたか? マコトは、あのジャムが大好きなので……」


「ん? ああ。マコト君はジャムのことで嘆いていたね。だけど、お店からジャムを買ってきたと言っていたよ」



 ――っ。



 おかしいですわ。



 わたくしはマコトのために、



 ジャムを作ったことはありません。



 昼食を摂る手を止めて、ラスティンを睨みつけました。



 彼は怪訝な表情で声をかけます。



「どうかしましたか? ノクティア君」


「ラスティン様、マコトは今、どこにいるのですか?」


「いま、休憩室で食事を摂ってますが」


「……」


「そんなに心配しないでください。彼は、いま現実を受け止めようとしていて」


「なるほど、そうですか」



 わたくしは顔を硬くして昼食を再開します。



 ラスティンは話をまぎらわそうとするかのように、仕事の話題を振りました。



 それらの質問に答えながら、わたくしは決意します。



 ――マコトに何かあったんだわ。



 確かめないといけません。



 けれど、どうすれば良いのでしょうか?



 昼食が終わると、ラスティンが二つのオボンを持って、部屋を去って行きます。



 その黒のローブを見送って、わたくしはベッドの上のベルトの鞘に収められた軍剣に手を置きました。



 お前の出番のようですわ。



 ――お願い、わたくしに力を貸して。



 マコトの様子を確かめなければ、



 マコト。



 いま行きます。

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