表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/55

第40話 魔王城の牢

 目を覚ますと、黒い石造りの室内にいた。



 床に伏せっていたマコトは体を起こす。目の前には天井から床まで伸びた鉄の柵があった。なるほど、ここは牢屋のようだ。



 柵の向こうには焦げ茶色のローブを着たダークメイジが一人いた。杖を持っており、牢屋に向かって魔力を流している。その足下には魔法灯が置かれており、辺りをほのかに明るく照らしていた。



 マコトは前後左右を見回した。牢屋にはピンク色の結界が張り巡らされている。後方の天井から少し下には格子窓が一つある。



 心の中で舌打ちをした。



 魔法は使えない。



 逃げ出すのは難しそうである。



 それにしても、ここはどこだろう? マコトはうろ覚えの記憶を思い起こした。確か、自宅で起きるとノクティアがいなくて、町を探し回っても見つからなかった。家に戻り、その後、玄関をノックされて、出てみると……。



 そうだ!



 魔王ガディウスと名乗る巨躯の魔物に殴られたのだった。



 そこから記憶が途切れている。



(僕は気を失ったのか?)



 ふと足音がした。



 ずしずしと響く音が大きくなってくる。ダークメイジが恭しく一礼をした。足音の主、ガディウスが現われてこちらを見下ろす。



 紫色の巨躯を誇っており、黒のタキシードを着ている。角に翼、尻尾が生えていた。



 彼の喋る声は地響きのような低いものである。



「勇者よ、気分はどうだ?」


「……最悪だね」


「そうか。それは良かった」


「良かっただと?」


「元気そうだからな。気分の悪い者はそのようにはきはきと喋らない」



 マコトは立ち上がった。柵に近寄ることをせずに、魔王を睨みつける。



「僕を(さら)って、どうするつもりだ? 僕は勇者だが、命の価値など無いような男だぞ?」


「いや、あるのだ」


「……ある?」


「お前は我が娘、ノクティアの愛する人間だ。だから(さら)った。娘を試験するためにな」


「ノクティアが、お前の娘?」


「ああ」



 ……そう言えば、数日前メルメイユを襲った魔王軍も、そのようなことをつぶやいていたのを覚えている。



 マコトは語気を強めた。



「どういうことだ? ノクティアはリンドブルム公爵家の娘のはずだぞ」


「なに、繁殖の一環でな」


「お前、ノクティアの母親を暴行して子供を宿らせたということか?」


「人間目線から見れば、そういうことになる」


「くそが!」


「あまり調子に乗らない方が良い。勇者マコト、お前は逃げられない。どうせ逃げられないのなら、痛い思いをしたくないだろう?」


「……試験とは何だ?」


「嘘だと思うかもしれないが」



 ガディウスは疲れた顔を見せた。顔面にしわが滲み、老人のような影が差す。



「我は死にたいのだ」


「死にたい? だったら、勝手に死ねばいい」


「長く生きすぎた。もう疲れた。死にたい。だが、そのためには魔王の世代交代が必要だ。我は、娘に後を継いでもらいたいを思っておる」


「理由は?」


「強さ、だ」


「彼女は、貴方が思っているほど強くない」


「ふむ。だから試験をするのだ。最愛の男を誘拐し、これを助け出すだけの強さがあるかどうか、をな」


「……勝手な言い分だな」


「なに、人間ほどではない」


「残念だけれど、ノクティアは僕が攫われたことに気づいていないよ。だから、助けにも来ない」


「案ずるな、勇者よ。我はちゃんと痕跡を置いてきた。人間が調べれば気がつく痕跡をな」



 話をしている内に、マコトは魔王に対する印象が変わっていくのを感じた。もっと恐ろしいものと思っていたが、案外話せば分かり合えるかもしれない。



 マコトは表情を若干緩める。



「魔王ガディウスよ。世代交代の話だが、どうしてもノクティアでなければいけないのか?」


「いいや。ノクティアが弱ければ駄目だ。娘がお前を助けられなかった場合、また別のせがれを試すことになる」


「頼む! ノクティアを選ばないでくれ!」


「お前の頼みを我が聞くと思うか?」


「何でもする」


「では、人間を滅ぼせるか?」



 マコトは弱った心で嘆息しかけた。



 だけどぎりぎりのところで踏みとどまる。



 ――この牢屋さえ出ることが叶えば。



 一瞬だけ目を伏せた。



 そしてすぐに上げる。



「分かった。人間を滅ぼせば良いんだな?」



 マコトは凜々しい顔つきで決意を示した。



 そこで初めて、魔王は驚きを表情ににじませる。



「ほお、勇者のくせに人間を滅ぼすと申すか」



 ふと、



 また右手の方から、ひたひたと足音が聞こえてきた。黒のシャツに灰色のジャケットをまとっている。その左手には杖。



 やってきた男はガディウスのそばで跪いた。



「陛下」


「クラディアスか」


「はっ、第一王女と接触して参りました」


「ほお、娘はどうだった?」


「戦闘の際、魔力を消失させる能力を確認。剣の腕は達人、災害級の強さを持っています」


「ふむ、やはり娘には後継ぎを任せねば……」


「陛下!」


「何だ?」


「後継ぎは、後継ぎは是非、俺にお継がせいただきたく、存じ上げます」


「……ふむ」



 そこでガディウスは右手の指で顎髭をなぞる。マコトとクラディアスを見比べて、思いついたように命令した。



「クラディアス、今から、この牢屋にいる男、勇者と共に、リンドブルムを滅ぼしに行け」


「リンドブルムを?」


「ああ、これはお前に対する試験だ。できるな?」


「り、リンドブルムを滅亡させた暁には、後継ぎに選んでもらえるのでしょうか?」


「考える余地はあるだろう」


「……はっ!」



 クラディアスが深々と頭を下げて、はっきりと返事をした。彼の表情が喜びに包まれているのを、マコトは見逃さなかった。



 どうやら、マコトはクラディアスと行動を共にすることになりそうである。



 大変なことになった。



 ――リンドブルムを滅ぼすだと?



 王国はノクティアと出会った思い出の地だった。



 マコトは両手のひらを硬く握りしめる。



(いざとなったら、僕の命を捨ててでも)



 ノクティア、君は笑ってくれるかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ