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第35話 観測者の決断

 魔導図書塔の塔長室。



 窓から差し込む光が眩しい。ラスティンは窓を開けて部屋の空気を入れ替えた。そして目を細める。ああ、清々しい朝だ。



 昨夜はずっと、試作品ロッカーの開発に追われていた。魔力絶縁体ハウハニス素材のロッカーである。色は灰色であり、触ると硬い。



 ラスティンはふうと息を吐いて、椅子に腰かける。机の上のモンスター魔力波動センサーを右手に持った。



 やはり、針が赤く、薄く光っている。この町いるノクティアから放出される独自の波動を感知しているのだ。



「やはり、異常だ」



 一昨日の夜の記録帳に目を通す。



 出現した敵は、雷鳥竜、ダークメイジ、ゾンビ騎士。



 統率者、サキュバス。



 センサーの異常有り。



 ノクティアへの接近後、センサーが動作不能になる。



 ……。



 彼女から発せられる波動は魔力では無い。もっと根源的なものだ。魔王の波動とでも言えば良いのだろうか?



 もしこの波動を敵が感知できるのなら、ノクティアが居る場所に魔王軍が来ることになる。



 先日の襲撃は偶然ではない。



 魔王軍はノクティアの存在に勘づいたのだ。



 そして実際に接触したことにより、勘は確信に変わったことだろう。



「君を追っている、か」



 次はノクティアを(さら)いに来るだろうか? そんなことになれば、町に大勢の魔物がなだれ込みかねない。多くの死者が出るだろう。責任問題を問われて、ラスティンは地位を失う。いや、それよりも。ただ、町民から死者を出すことを許す訳にはいかなかった。



 机の上に置いてあるハウハニス物質の塊を眺める。



(もし、ノクティア君から発せられる波動を遮断できるのなら)



 ラスティンは立ち上がった。



 塔長室の奥。昨日一晩かけて制作したハウハニス製ロッカーに歩み寄る。扉を開けて中に入った。そして閉める。



 モンスター魔力波動センサーの針に視線を向けた。



 ……やはりだ!



 赤い光が消失している。



 それどころか、世界の音さえも遮断されていた。



 全く、気味の悪い物質である。ハウハニスとは。



 しかし実験は成功だ。



 彼はロッカーを出た。扉を閉めると鉄と変わりない金属音が鳴る。



 理由の分からない興奮が、胸の奥から込み上げてきた。



「ならば」



 ノクティアの可愛らしい横顔が彼の脳裏にまざまざと映った。



 ――君が笑っていられるのなら。



「隠そう」



 彼女の残影が、こちらに笑顔を浮かべている。



「君の存在を」



 机の椅子にまた腰掛ける。



 記録帳をどかすと、その下に三枚の白い紙があった。設計図が描かれている。



 タイトルに目を向ける。



 ハウハニス隔離室。

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