表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/55

第33話 告白の予感

 灰色の三角屋根に赤茶色の壁。その我が家に四人と二匹で上がります。



 ダイニングの椅子に三人を座らせて、わたくしは紅茶を作りました。そのカップをオボンに載せてテーブルに並べます。



「ありがとう、ノクティア」


「ノクティアさん、どうもー」


「お姉ちゃん、俺、甘いのが良い!」


「はいはい」



 カイルに注文されて、シンクの下の棚からハチミツの瓶を取り出します。テーブルへと歩き、スプーンですくって彼のカップにハチミツを入れてあげました。それから自作のクッキーの皿も並べます。



「ニャーニャー」


「ゴロゴロー」



 チケとミルがわたくしの足に猫パンチを繰り出しました。



「はいはい、ちょっと待ってね」



 買ってきたレバーを皿にこんもりと盛り付けて、窓際に持っていきました。むしゃむしゃと食べ始める二匹の猫。それから玄関へと行き、花壇の花にジョウロで水をくれます。小さな虹が映りました。赤、白、ピンクの花が今日も元気です。



 ダイニングへ戻ると、三人が談笑していました。話題はやはり、昨日の夏祭りのことです。わたくしも自分のカップを持って座り、話に参加させてもらいました。



 栗色ボブカットのナリナが興味津々に尋ねます。



「それで? 二人は一緒に夏祭りに行って花火を見て、告白はどちらからしたの?」



 わたくしとマコトは顔を見合わせて、照れたように顔を赤くしました。



 ナリナがめざとく瞳を光らせます。



「もしかして、まだ告白もしてないの?」


「いや、しようとしたんだ」



 マコトが弁明します。



「だけど、その瞬間に町の結界が破られて、仕方無くそこへ向かったんだ」


「告白しようとしたの?」



 わたくしはマコトを見つめます。



 勇者様は困ったように頬をぽりぽりとかきました。



「ま、まあ、一応」


「ちゃんとしてくださいまし」


「今か?」


「わたくしはいつでも大丈夫でございます」



 ナリナが紅茶をすすって、カップをトンとテーブルに置きます。



「マコトさん、ファイトだよ」


「いや、みんなの前で言うのは、何か違う気がする」


「じゃあ、二人きりの時に言ってくださいますの?」


「い、いや、うん、そうだな」


「本当ですの?」



 わたくしは彼の腕に優しく手を置きました。



 カイルが勝ち気に瞳を光らせます。



「じゃあノクティアお姉ちゃん、俺が先に告白するよ! そしたら、俺とつき合ってくれるだろ?」



 わたくしは思わず顔に笑いが浮かんで、



 マコトの鼻息が荒くなります。



「カイル、ノクティアに先に告白するのは僕だ!」


「えー!? 何でだよ、早いもん勝ちだろ?」


「ノクティアは渡さない!」


「何だよ兄ちゃん、俺とやるってのか?」



 二人の間に見えない火花が散っています。



「マコト」



 わたくしはたしなめようとして、



 マコトがわたくしの椅子の脚を掴み、ギイッと引き寄せました。



 ちょっと!



 ……そんなことされたら。



 顔が赤くなってしまいます。



 カイルはびっくりしたような顔で立ち上がりました。



「俺、猫と遊ぼうっと!」



 窓際へ歩いて行きます。



 ナリナが茶々を入れました。



「二人とも、結婚式はいつなの?」


「「結婚式!?」」



 びっくりした声が重なりました。



 わたくしは心を落ち着けるように紅茶をすすります。



「マコト、いつなの?」


「魔王を倒した後になる」


「魔王を倒すって、本気なの?」


「もちろんさ」


「私は、魔王を倒す前に結婚式をしても、良いと思うんだけどなー」



 栗毛のボブカットがぼやくようにこぼしました。



 マコトが困ったような顔つきをします。



 そのお顔には若干の影が落ちていて、



 たぶん、



 魔王と戦った際に、生きて戻れるかが心配なんだと思います。



 それが彼の懸念でした。



 わたくしは優しい声で提案します。



「マコト、魔王討伐の際はわたくしも着いて行きます」


「いや、君にはこの家に居て欲しい」


「一人で魔王軍と戦うつもりかしら?」


「だとしたら、なんだい?」


「勇者様、無謀という言葉をご存じ?」


「君に死なれたら、僕はどうすればいい?」


「はいはい、ご馳走様」



 ナリナが話を締めくくるようにつぶやきます。



 それから。



 みんなの昼食を用意しようと思ったのですが、ナリナとカイルは遠慮して帰宅して行きました。猫たちももういません。先ほど遊びに出かけました。



 今、マコトと二人きりで食事を摂っています。



 食べ終えると、彼が言いました。



「ノクティア、午後なんだけれど」


「ん?」


「ちょっと、良いか?」



 顔を向けると、勇者様のお顔には決意が満ちていて、



 真剣な表情であり、



 わたくしは胸がドキドキとしました。



「出かけるんですの?」


「ああ」


「良いけど、どこへ行くの?」


「昨日、花火を見た高台へ」


「何をしに行くのですか?」


「あの時言えなかった言葉の続きさ」



 ……!



 本当なの?



 わたくしは恥ずかしくって顔を俯かせます。



「分かりました」


「ノクティア」


「はい」


「僕のことを、その」


「はい」


「男として見てくれるかい?」



 ――彼が本気の目です。



 だからわたくしも、本気の答えを紡ぎました。



「ずっと前から」



 わたくしははにかんで微笑みます。



「男として、見ております」


「そうか!」



 マコトは立ち上がり、食器を流しへと運びました。カチャカチャと洗い物を始めます。



 わたくしは昼食が終わったら着替えようと思いました。



 ドレスを持っていて良かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ