第33話 告白の予感
灰色の三角屋根に赤茶色の壁。その我が家に四人と二匹で上がります。
ダイニングの椅子に三人を座らせて、わたくしは紅茶を作りました。そのカップをオボンに載せてテーブルに並べます。
「ありがとう、ノクティア」
「ノクティアさん、どうもー」
「お姉ちゃん、俺、甘いのが良い!」
「はいはい」
カイルに注文されて、シンクの下の棚からハチミツの瓶を取り出します。テーブルへと歩き、スプーンですくって彼のカップにハチミツを入れてあげました。それから自作のクッキーの皿も並べます。
「ニャーニャー」
「ゴロゴロー」
チケとミルがわたくしの足に猫パンチを繰り出しました。
「はいはい、ちょっと待ってね」
買ってきたレバーを皿にこんもりと盛り付けて、窓際に持っていきました。むしゃむしゃと食べ始める二匹の猫。それから玄関へと行き、花壇の花にジョウロで水をくれます。小さな虹が映りました。赤、白、ピンクの花が今日も元気です。
ダイニングへ戻ると、三人が談笑していました。話題はやはり、昨日の夏祭りのことです。わたくしも自分のカップを持って座り、話に参加させてもらいました。
栗色ボブカットのナリナが興味津々に尋ねます。
「それで? 二人は一緒に夏祭りに行って花火を見て、告白はどちらからしたの?」
わたくしとマコトは顔を見合わせて、照れたように顔を赤くしました。
ナリナがめざとく瞳を光らせます。
「もしかして、まだ告白もしてないの?」
「いや、しようとしたんだ」
マコトが弁明します。
「だけど、その瞬間に町の結界が破られて、仕方無くそこへ向かったんだ」
「告白しようとしたの?」
わたくしはマコトを見つめます。
勇者様は困ったように頬をぽりぽりとかきました。
「ま、まあ、一応」
「ちゃんとしてくださいまし」
「今か?」
「わたくしはいつでも大丈夫でございます」
ナリナが紅茶をすすって、カップをトンとテーブルに置きます。
「マコトさん、ファイトだよ」
「いや、みんなの前で言うのは、何か違う気がする」
「じゃあ、二人きりの時に言ってくださいますの?」
「い、いや、うん、そうだな」
「本当ですの?」
わたくしは彼の腕に優しく手を置きました。
カイルが勝ち気に瞳を光らせます。
「じゃあノクティアお姉ちゃん、俺が先に告白するよ! そしたら、俺とつき合ってくれるだろ?」
わたくしは思わず顔に笑いが浮かんで、
マコトの鼻息が荒くなります。
「カイル、ノクティアに先に告白するのは僕だ!」
「えー!? 何でだよ、早いもん勝ちだろ?」
「ノクティアは渡さない!」
「何だよ兄ちゃん、俺とやるってのか?」
二人の間に見えない火花が散っています。
「マコト」
わたくしはたしなめようとして、
マコトがわたくしの椅子の脚を掴み、ギイッと引き寄せました。
ちょっと!
……そんなことされたら。
顔が赤くなってしまいます。
カイルはびっくりしたような顔で立ち上がりました。
「俺、猫と遊ぼうっと!」
窓際へ歩いて行きます。
ナリナが茶々を入れました。
「二人とも、結婚式はいつなの?」
「「結婚式!?」」
びっくりした声が重なりました。
わたくしは心を落ち着けるように紅茶をすすります。
「マコト、いつなの?」
「魔王を倒した後になる」
「魔王を倒すって、本気なの?」
「もちろんさ」
「私は、魔王を倒す前に結婚式をしても、良いと思うんだけどなー」
栗毛のボブカットがぼやくようにこぼしました。
マコトが困ったような顔つきをします。
そのお顔には若干の影が落ちていて、
たぶん、
魔王と戦った際に、生きて戻れるかが心配なんだと思います。
それが彼の懸念でした。
わたくしは優しい声で提案します。
「マコト、魔王討伐の際はわたくしも着いて行きます」
「いや、君にはこの家に居て欲しい」
「一人で魔王軍と戦うつもりかしら?」
「だとしたら、なんだい?」
「勇者様、無謀という言葉をご存じ?」
「君に死なれたら、僕はどうすればいい?」
「はいはい、ご馳走様」
ナリナが話を締めくくるようにつぶやきます。
それから。
みんなの昼食を用意しようと思ったのですが、ナリナとカイルは遠慮して帰宅して行きました。猫たちももういません。先ほど遊びに出かけました。
今、マコトと二人きりで食事を摂っています。
食べ終えると、彼が言いました。
「ノクティア、午後なんだけれど」
「ん?」
「ちょっと、良いか?」
顔を向けると、勇者様のお顔には決意が満ちていて、
真剣な表情であり、
わたくしは胸がドキドキとしました。
「出かけるんですの?」
「ああ」
「良いけど、どこへ行くの?」
「昨日、花火を見た高台へ」
「何をしに行くのですか?」
「あの時言えなかった言葉の続きさ」
……!
本当なの?
わたくしは恥ずかしくって顔を俯かせます。
「分かりました」
「ノクティア」
「はい」
「僕のことを、その」
「はい」
「男として見てくれるかい?」
――彼が本気の目です。
だからわたくしも、本気の答えを紡ぎました。
「ずっと前から」
わたくしははにかんで微笑みます。
「男として、見ております」
「そうか!」
マコトは立ち上がり、食器を流しへと運びました。カチャカチャと洗い物を始めます。
わたくしは昼食が終わったら着替えようと思いました。
ドレスを持っていて良かった。




