第27話 弾けない花火
高台のベンチに腰掛けて、夜空を見つめるわたくしと勇者様。
ドーン、ドーンと花火が打ち上がり、とても美しい光景。
どこかから、音楽を演奏する華やかな音色が鳴り響き、
子供のはしゃぐ声がこの場のムードに拍車をかけています。
花火はまるで、わたくしたちの命のよう。
大きく咲いては燃えて散っていく。
けれど、たかが一瞬の光だとしても、
それは輝いています。
わたくしはつぶやきました。
「綺麗」
花火の明かりに、顔がちらちらと照らされています。
マコトがこちらに顔を向けました。
真剣なお顔。
「君の方が綺麗だ」
ドーン。
天空にまたピンク色が咲きました。
わたくしは少し恥ずかしくなって、そして笑いがこみ上げて、
「勇者様、何を言っていますの?」
「本当のことだよ」
「勇者様の方が、ハンサムでございます」
「君を離さない」
マコトがわたくしの手を握ります。
熱を持った手のひら。
ドキドキ。
ドキドキ。
「もうっ」
照れを隠すように、また前を向きました。
マコトは、
ラスティンとはやっぱり違う。
勇者様といると、こんなに胸が高鳴って、
すごく安心する。
国外追放をされて、凍てついていたわたくしの心。
それはマコトの熱さに溶かされて、もうドロドロのメロメロなのです。
体の奥底がじんじんとしました。
勇者様はわたくしにとって、神様のような人。
どこにも行く当てが無くて、それこそ路頭に迷っていた自分。
どこまでも追いかけて来てくれて、彼は励ましてくれました。
何度も。
何度も。
その事に、どれほど心が救われたか分かりません。
わたくしだけの救世主様。
そんな言葉が、ふと脳裏に浮かびました。
マコトはまるで、太陽のよう。
わたくしという大地に日の明かりを毎日のように照らしてくれる。
芽吹いた一輪は、太陽に向かって一生懸命に手を伸ばす。
だとしたら、わたくしはマコトにとって、雨になりたい。
勇者様の隠している秘密を、
打ち明けられずにいる恐怖を、
恵みの水で、ほどいてあげたい。
握られた手を、強く握り返します。
マコトがまたわたくしをちらっと見ました。
わたくしは前を向いたまま、
「マコト」
「なんだい?」
「ありがとうございますわ」
「何のこと?」
「ここまで、わたくしに着いて来てくれたことでございます」
マコトは薄く微笑みをこぼしました。
「じゃあお礼は要らないね」
「どうして?」
「だって、僕は自分の思うように行動しているだけだから」
「それでも」
わたくしは視線を向けます。
「感謝していますわ」
「それなら良かった」
「……マコト」
「どうしたの?」
「一度しか言いませんわ」
「う、うん」
わたくしは唇を噛んで、
若干顔を俯かせて、
けれどすぐに顔を上げます。
勇気を振り絞りました。
「わたくしは……」
「うん」
「勇者様と、同じお布団で寝たい」
また夜空に黄色が咲きます。
マコトはすごく照れたようで、
お顔を赤くして、
「僕だって、本当はそうしたい」
「マコト、わたくしの心は、もう準備が整っております」
「僕は、僕は……」
「はい」
「君と……」
「はい」
「君と、その、同じ布団で寝たい」
「はい」
「だけど……」
やはり彼の顔には影が差します。
わたくしは両手で勇者様の手を握りました。
勝負ですわ。
今日という今日は離しません。
「マコト、さっきのお話、続きをお聞かせください」
「ああ」
「何が、貴方の心を暗くしているんですの?」
「実は、君に隠していることがある」
「知っています」
「そうかい?」
「教えてくださいます?」
「何と言ったらいいかな」
勇者様は迷うような顔つきであり、
顔を落として、
その体は震えていました。
わたくしは心配になります。
「何が、そんなに貴方を苦しめていますの?」
「怖いんだ」
「怖い?」
「ああ」
「言ってくださいまし」
少しの沈黙。
マコトは唇を小刻みに揺らして、
「勇者としての、使命」
「使命?」
「――僕は、いつか君を、一人にしてしまう」
……そんな。
夜空に咲く花火群。
三尺玉が天空を彩って、
夏祭りのピークを飾ってくれていました。
高台にいる町民たちが、わあっと声を上げています。
勇者様が手を振りほどこうとしました。
けれど、わたくしは硬く握って離しません。
負けません。
ダメよマコト。
今日は、
絶対に。
絶対に幸せになるんだから。
わたくしのためにも、
マコトのためにも。
「分かりません。勇者様、もっと、分かりやすくおっしゃってくださいませ」
「そのままの意味だよ」
「マコト、言葉が足りませんわ」
「君のためなら死んでもいい」
マコトが向ける、情熱的な眼差し。
わたくしは、返す言葉が出ませんでした。
「世界を守るためじゃない。僕はたった一人、君を守るために、いつか戦いにゆくんだ」
最後の最後、大きな花火が夜空に昇って、
弾けませんでした。
マコトがビクッとして立ち上がります。
「魔導花火が、不発?」
どおんっと言う、遠くで何かが破られる音が立ちました。
周囲の町民たちが不穏な声を上げています。
わたくしも立ち上がりました。
「何があったの?」
「多分、結界が破られたんだ」
「魔物が入って来たのですか?」
「行ってみよう」
わたくしたちは早足で歩き出します。
高台を下って行きました。
泣きたい気持ちでした。
せっかく、
せっかく良いところだったのに。
マコトと結ばれるはずの夜。
それは花火のように、儚く散ったのです。




