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第37話 嘘から出た真(2)

 明日奈の思いがけない言葉に驚いて、祐希はゴホゴホと咳き込んだ。

 慌てて手で口を覆ったが、指の隙間から食べかけのご飯と卵焼きが吹き出し、カウンターに散乱した。


「きったないわねぇ」


「祐希さん、水飲んで下さい」

 さくらはコップに注いだ水を持ってきてくれた。

 そして辺りに散乱した食べかすを、さくらはティッシュでかき集めてくれた。


「明日奈さん、突然何を言い出すんですか!」


「だって祐希くん、さくらさんのお父様の前で、管理人だって言ったんでしょ」


「それは、さくらさんのお父さんが『男と同じ屋根の下に暮らすなど言語道断だ』と言ったから……

 さくらさんが『祐希さんは管理人だから問題ない』って言ったので、僕が『はい』って合わせただけですよ」


「その話、さくらちゃんから詳しく聞いたわ」


「ですよね、それなのに、なんで僕が管理人なんですか?」


「だって今度お父様と会った時に、管理人じゃないってバレたらどうするの?」


「そんなのバレるはずないですよ」


「わからないわよ。

 あのお父様だったら、近所に聞き込みして確かめるかもしれないでしょ」


「さくらさんのお父さん、そこまでする人なの?」

 祐希がさくらに聞いた。


「まぁ、父ならやりかねませんね……」


「え、ホントに?」


「うちの父って、猪突猛進タイプなんです」


「な、なるほど…」

 祐希は、さくらの言葉に妙に納得してしまった。


「それで、さくらちゃんの話聞いてて、思ったのよ。

 嘘は、いつバレるか分からないでしょ。

 それなら、その嘘をホントのことにしちゃえばいいって……」


「は?」


「ほら、『嘘から出た(まこと)』っていう(ことわざ)あるじゃない。

 嘘を本当にしてしまえば嘘じゃなくなるのよ」


「なるほど……、そういうことですか……」


「祐希くんが本当の管理人になれば、女ばかりのシェアハウスに、男が1人で住んでても大義名分が立つじゃない?」


「そうかもしれませんが、普通は女性の管理人を置くんじゃないですか?」


「そこは、オーナーの義弟(おとうと)っていう、別の大義名分があるじゃない」

 祐希は明日奈の言葉を聞いて、これ以上何を言っても無駄だと悟った。


「それで、僕が管理人になったら、何をすればいいんですか?」

 祐希の言葉を聞いた明日奈は、急に機嫌が良くなり祐希に説明し始めた。


「実は、オーナーと管理人の兼務って案外疲れるのよね。

 だから管理業務を、どこかの会社に外注しようかと思ってたの。

 でも祐希くんがやってくれたら、外注しなくてもいいから、お給料を出すこともできるわよ」


「え、管理人の仕事って、給料出るんですか?」


「管理人って言っても、普段はそんなに仕事があるわけじゃないの…」

 明日奈は管理人の主な仕事内容を説明してくれた。

 ◎シェアハウスの修理修繕(電化製品・電球交換・設備機器・外構・外壁・屋根)

 ◎住人の入退去管理(入退去の受付・入居者面接・各種通知)

 ◎各部屋の鍵の管理、防犯システム登録

 ◎共用部分の清掃(年3回業者に依頼)

 ◎町内会に関すること

 ◎シェアハウスの住人の保護

 ※各部屋の清掃は各自

 ※修理修繕業務がある場合のみ2階フロアへの立ち入りを許可


「管理人の主な仕事は、これくらいなの……

 だから、そうね……1ヶ月5万円でどうかしら?」


「え、5万円ですか?」


「そう。つまり家賃と相殺ってこと、このシェアハウスにタダで住めるのよ、魅力的な条件だと思わない?」


「少しは管理人ぽい仕事もしてもらうけど、毎日仕事があるわけじゃないから……

 それに祐希くんが不在の時は、私が管理人業務を代行するから、心配しないで」


「分かりました。

 そういうことなら、管理人の仕事引き受けさせていただきます」


「ありがと、祐希くん」


「祐希さん、父のせいで管理人にさせてしまって申し訳ありません」

 さくらは、すまなそうに頭を下げた。


 明日奈は祐希に、シェアハウス「ヴィーナス・ラウンジ」管理人の名刺を作ってくれた。

 次の日、祐希がシェアハウスに帰ると、0号室のドアには「管理人室」のプレートが貼ってあった。

※創作活動の励みになりますので、作品が気に入ったら「ブックマーク」と「☆」をよろしくお願いします。

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