第36話 嘘から出た真(1)
日曜日の朝7時。
祐希はベッドの上で目覚め、昨夜の明日奈との衝撃的な初体験を思い出していた。
いつかは女性と一夜を共にすると思っていたが、その相手がまさか義姉明日奈だとは思いもしなかった。
血は繋がっていないとは言え、義姉と義弟という禁じられた関係に、祐希は少なからず背徳感を覚えた。
自分から望んだわけではないが、義姉のあまりにも魅力的な身体の誘惑に負け、関係を持ってしまった。
明日奈との交わりは、祐希に想像を遥かに超える快感を与えた。
昨日のことを思い出すたびに、もう一度明日奈を抱きたいと思った。
明日奈は「来月もまたしようね」と言った。
しかし一度火を点けられた性欲を、その時期まで抑えられるか、祐希は自信が持てなかった。
それと同時に祐希は、明日奈に惹かれ始めている自分に気付いた。
しかし、心の片隅には常にさくらの姿があった。
駅のホームで一目惚れし、同じ屋根の下に暮らすことになった、白いワンピースの美少女。
昨夜の出来事を知れば、さくらは何と思うだろう。
想像しかけて、祐希は慌てて頭を振った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
祐希が身支度してラウンジに出ると、明日奈とさくらが2人仲良くダイニングで朝食をとっていた。
キッチンカウンターから漂う出汁の香りに、祐希の視線は自然と2人へ向いた。
まず目に飛び込んできたのは、隣り合う2人の背中だった。
さくらの腰まで届くサラサラの黒髪はシルクのように朝日を受けて艶やかに輝き、振り返った横顔は思わず見惚れてしまうほど可憐で、爽やかな清らかさに満ちている。
地上に舞い降りた天使という言葉が、これほど似合う女性を祐希は他に知らなかった。
その隣には、対照的な色香を纏った明日奈がいる。
28歳という実年齢が嘘のように若々しい肌、緩やかに結い上げた髪から覗くうなじ、カットソー越しにも分かる豊かな曲線と整ったプロポーション。
美貌と色気を兼ね備えた大人の女性そのものだった。
昨夜その身体に幾度も溺れた記憶が、否応なく蘇ってきて、祐希は慌てて思考を別の方向へ向けた。
「お、おはようございます」
祐希は、2人に挨拶した。
「祐希くん、おはよう」
明日奈が振り返り、やけにスッキリとした笑顔で祐希に挨拶した。
「祐希さん、おはようございます」
さくらも振り返り、祐希に爽やかな笑顔で挨拶した。
「祐希さんの分の朝ご飯も作りましたから、一緒に食べませんか?」
さくらは、自分の隣の席へ祐希を手招きした。
「えっ、いいの? なんか申し訳ないな」
「いえ、1人分作るのも、2人分作るのも同じですから」
「いいわねぇ祐希くん、朝ごはん作ってもらえるなんて……」
さくらは祐希にボディガードしてもらう代わりに、朝ごはんを作ると約束してくれた。
しかし、休みの日まで作ってくれるとは思っていなかった。
祐希はさくらの隣のスツールに座った。
「今、ご飯とお味噌汁よそいますから、ちょっと待ってくださいね」
さくらが用意した朝食は、炊きたてのご飯、長ねぎとなめこの味噌汁、卵焼き、焼き鮭、納豆、沢庵といった完璧な和食メニューだった。
「うわ~、すごいな。
朝からこんな和食が食べられるとは思わなかったよ。
さくらさんって、料理上手なんだね」
「ホントねぇ、さくらちゃん、いいお嫁さんになりそうね」
「いえ、母と祖母から仕込まれただけですから……」
2人から褒められて、さくらは満更でもなさそうだった。
「いただきま~す」
祐希はさくらが作ってくれた朝ごはんを食べ始めた。
隣で静かに箸を進めるさくらと、向かい側で卵焼きを頬張る明日奈。
昨夜、自分の腕の中で乱れていた人と、何も知らずに笑顔を向けてくる人が、同じ食卓に揃っている。
その歪な構図に、祐希は箸を持つ手が一瞬止まりそうになった。
「うん、とても美味しいよ。
特に卵焼き、味付けが絶妙で僕好みだな」
「いいな~、私にも誰か朝ご飯作ってくれないかなぁ……」
明日奈が羨ましそうに言った。
「あの……よければ、明日奈さんの分も作りましょうか」
さくらが慌てて言った。
「さくらちゃん、冗談よ、そんなことしてもらったら罰が当たるわ。
私も一応女なんだから、自分の分は自分で作るわよ」
「そ、そうですか」
「さくらちゃん、ありがとね……気にかけてくれて」
「あ、いえいえ」
「そうそう……
祐希くんにひとつお願いがあるんだけど……」
明日奈はコーヒーカップを置くと、軽く居住まいを正した。
改まった気配に、祐希は何となく身構えた。
「えっ、なんですか? そのお願いって……」
昨日からお願い続きだなぁ、と思いながら祐希は聞いていた。
隣のさくらにも聞こえているので、妙な話はしないはずだ。
「祐希くんに、このシェアハウスの管理人をお願いしたいの……」
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