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第3話 ストーカー疑惑

 祐希が到着する少し前、シェアハウスの共用ラウンジでは、女子3人が話していた。


 白いワンピースの美少女『早乙女(さおとめ)さくら』(18歳)が、住人の『真城朱音(ましろあかね)』(21歳)と『早見里緒奈(はやみりおな)』(22歳)にストーカーに追いかけられたのだと、青ざめた顔で話していた。


「え~、またストーカーなの……

 う~ん、さくらちゃん、可愛いからなぁ。

 もし、私が男なら追いかけたくなるかも……」


「ちょっと、朱音! 冗談言うのもいい加減にしなさいよ!

 さくらちゃん、ストーカー被害、最近ほとんど毎週じゃない。

 しかも、今日はまだ夕方だというのに……

 警察には相談したの?」


 里緒奈は、心配そうにさくらの顔を覗き込んだ。


「い、いえ、まだです……」


「今日のストーカー、どんな男だった?」


「私より少し年上な感じで……

 もしかしたら、大学生かもしれません……」


 さくらは、いかにも疲れたという表情で呟いた。


「え、それ余計に怖いよね!

 最近、駅前に大学生っぽい変質者が出没するというし、気をつけた方がいいよ」


「はい、気をつけます」


 3人がストーカーの話に夢中になっていると、チャイムが鳴り、客の来訪を告げた。

 管理人の明日奈が、ドアホンの受話器を取り、誰かと話している様子だった。

 どうやら明日奈の客のようだ。


 玄関を開けて明日奈が連れてきた男の顔を見て、さくらは凍りついた。

 その男は、ついさっきまで、自分の後をつけていたストーカーだったからだ。


 (なんで……この人がここにいるの?)


 逃げ込んだはずのシェアハウスに、追いかけてきたストーカーが現れる——その恐怖は計り知れなかった。


「えっ……! あなた、なんでここにいるの……

 明日奈さん、その人ストーカーです!」


「ストーカー!? ち、違うって、誤解だ……

 僕はストーカーなんかじゃない!」


 祐希は、戸惑いを隠せなかった。


 まさか白いワンピースの美少女が、シェアハウスの住人だとは思いもしなかった。

 しかもストーカーと勘違いされ、最悪の初対面となってしまった。


 さくらは、軽蔑するような目で祐希を睨みつけた。

 その瞳に宿っていたのは、明らかな「拒絶」の色だった。

 憧れの天使に向けられた冷たい視線に、祐希は言葉を失った。


「ちょっと待って、ストーカーってどういうこと?

 祐希くん……あなた、さくらちゃんの後をつけてきたの……?」


「ち、違いますよ、明日奈さん……

 駅からここへ来る途中、彼女がずっと僕の前を歩いていただけです……

 それで多分、ストーカーと勘違いしたんじゃないかと思います……」


「あ~、なるほどね、そういうことか……」


「明日奈さん、このストーカーと知り合いなんですか?」


 さくらは、明日奈が何故ストーカーを招き入れたのか、理解できなかった。


「だから、ストーカーじゃないって言ってるだろ!」


 普段は温厚な祐希も、感情を抑えきれず声を荒らげた。


「さくらちゃん、落ち着いて……

 彼は義弟(おとうと)の祐希くん、私の身内なの」


 さくらは、信じられないという表情で、明日奈と祐希の顔を交互に見た。


「明日奈さんの弟さん……?

 でも、全然似てないですよ」


「彼は、私の亡くなった夫の弟なの……」


 明日奈の言葉に、里緒奈と朱音が「えっ!?」と声を漏らした。

 2人は明日奈が未亡人であることを知っているのだ。

 さくらは、にわかには信じられないという表情で、明日奈と祐希の顔を交互に見た。

 ようやく状況を把握すると、さくらは祐希に、頭を下げた。


「祐希さん、ストーカーと勘違いしてしまって、ごめんなさい。


 最近、頻繁にストーカーに後を付けられたので……

 まさか、目的地が私と同じだったなんて……

 本当にごめんなさい……」


 朱音と里緒奈は、呆気に取られながら、そのやり取りを見守っていた。


「ううん、分かってくれれば、それでいいよ」


 祐希は、ようやく憧れの美少女と言葉を交わせたことに、密かに胸を躍らせていた。


「明日奈さん、このシェアハウスって男子禁制じゃなかったですか?」


 それまで黙って見ていた里緒奈が口を挟んだ。


「里緒奈ちゃん、正確には『住人以外の男子は立ち入り禁止』よ。

 祐希くんは、今日からここの住人になるし、私の身内だから何の問題も無いわ」


「ええ~っ!この人、ここに住むんですか?」


 女子3人は、口を揃えて言った。


「そうよ、彼、とても可哀想な境遇なの……」


 明日奈は、祐希が住んでいたアパートが火災で全焼したことを3人に説明した。


「はぁ~、なるほどね……

 確かに、同情の余地はあるかもしれないわ。

 それに、管理人さんが許可するなら、私たち住人が反対したところで無駄だよね」


「とにかく、祐希くんは私の義弟(おとうと)なの……

 だから、みんな仲良くしてあげてね……」


「は~い、分かりました~」


 3人は口を揃えて言った。


「それじゃあ、改めて自己紹介しましょう。

 祐希くん、みんなに挨拶して」


 明日奈に促され、祐希は慌てて頭を下げた。


「は、はじめまして! 篠宮祐希、星城大学2年です。

 その……第一印象が最悪でしたが、決して怪しい者ではありません……

 これからお世話になりますが、よろしくお願いします!」


 祐希の必死な挨拶に、三者三様の反応が返ってきた。


「私は早見里緒奈(はやみりおな)

 星城大学の4年だから、祐希くんの先輩よ。

 大学で会ったらよろしくね」


 セクシー美女の里緒奈は冗談っぽくウインクした。

 その不意打ちのウインクは、破壊力抜群だった。


真城朱音(ましろあかね)よ。

 私は聖晶学園女子大学3年です。

 よろしくね、祐希くん!

 これから賑やかになりそうね!」


 朱音は、小麦色の肌を持つ陽キャ美女だ。


 さくらは顔を真っ赤にしながら、小声で言った。


早乙女(さおとめ)さくらです……

 聖晶学園女子大学1年です。

 さっきは、ストーカーと勘違いしてしまって、本当にごめんなさい……

 こちらこそ、よろしくお願いします……」


 さくらは、まさに清純派美少女といった雰囲気で、祐希に微笑んだ。

 祐希は、その笑顔に改めて見惚れた。


「さあ、これで疑いも晴れたわね。

 それじゃあ、祐希くんに、部屋見せてあげるわね」


 明日奈は祐希を手招きした。

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