第2話 再会
次の日、3限目を終えた祐希は、大学の最寄り駅『星ヶ丘』にいた。
これから明日奈のシェアハウスを内見しに行くのだ。
祐希は、明日奈から聞いた条件を思い返した。
ワンルーム、設備は備え付け、バスやキッチンは共用。
駅徒歩8分、家賃も抑えめで、立地と条件は申し分ない。
あとは現物を見てから判断すればいい。
そんなことを考えながら電車を待っていると、同じホームの先に白いワンピースの少女を見つけた。
1ヶ月前に一目惚れした、あの美少女だ。
祐希の心臓が、跳ねるように高鳴った。
(……まさか、こんなところで)
祐希は思いがけぬ再会に、つい頬が緩んだ。
(……嘘だろ、本物か?)
祐希は我が目を疑った。
もう二度と会えないと諦めかけていた「天使」が、同じホームの少し先に立っている。
腰まで届きそうなサラサラの黒髪、愛くるしい大きな瞳、整った鼻筋、上品な口元、透き通るような白い肌、均整の取れたモデルのような体型、何から何まで美しいの一言であった。
(うちの学生か?……それとも聖女の学生か?)
ちなみに星ヶ丘駅近くには、祐希が通う星城大学の他に聖晶学園女子大学(通称:聖女)がある。
祐希の視線に気づいたのか、少女がこちらを向いた。
一瞬、小さく目を見開いた彼女の表情は、すぐに怪訝なものへと変わった。
それは、まるで不審者を見るような目つきだ。
(まずい、見すぎた……)
祐希は慌てて視線を逸らした。
まもなく電車が到着し、少女は祐希とは別の車両に乗った。
平日の午後3時過ぎ、車内は比較的空いており、祐希は空いている席に座った。
シェアハウスがあるのは祐希が住んでいた街とは反対方向だ。
見慣れない景色を車窓から眺めていると、15分程で目的地の柏琳台駅に着いた。
祐希がホームに降りると、1両先の車両から白いワンピースの少女が降り、改札口へと向かっていた。
(えっ、同じ駅だったんだ……)
祐希は改札を通る少女を見ながら、彼女がどこに住んでいるのか確かめたいという衝動に駆られた。
でも、今はそんな暇はない。
明日奈との約束があるからだ。
駅舎を出て行く少女を目で追いながら、祐希は心の中で葛藤した。
せめて彼女がどこへ向かうのか、確かめたい。
しかし、それでは本当のストーカーになってしまう。
(今は住居の確保が先だろ)
祐希は小さく自分に言い聞かせ、スマホを取り出した。
地図アプリを開くとシェアハウスへのルートを確認する。
画面には道順が表示され、徒歩8分と出ていた。
視線を上げ、祐希が歩き始めると30mほど先を白いワンピースの少女が歩いていた。
(この辺に住んでるのか……
ひょっとしたら、また会えるかもしれないな)
祐希は淡い期待を抱いた。
少女が進む方向は、偶然にもシェアハウスと同じ方向だった。
風に揺れる長い髪をなびかせながら、まるでモデルのように優雅に歩いていた。
祐希は彼女の美しい後ろ姿に見とれながら歩を進めた。
いつの間にか、祐希と少女の2人だけとなった。
静かな住宅街に彼女のヒールの音が響く。
なんだか、さっきより歩くペースが速くなっている気がする。
駅から5分ほど歩いたところで、彼女は急に立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。
そして祐希の顔を確認すると、眉をひそめ明らかに怯えた表情で早足で歩き始めた。
彼女は身を守るように、持っていたバッグを胸元にぎゅっと抱き寄せた。
地図アプリが指し示すルートを進んで行くと、少女も同じ方向へ曲がった。
彼女の歩みは徐々に早足となり、時折振り返る視線には恐怖の色が混じり始めた。
そして次の角に差し掛かった時、彼女はとうとう走り出した。
次の角を曲がったとき、すでに少女の姿はなかった。
(ひょっとして……ストーカーと思われたのか?)
運命の再会が、最悪の出会いに変わってしまった。
祐希は天を仰ぎ、深くため息をついた。
祐希はそこから100mほど歩き、目的地に到着した。
周りは閑静な住宅街で、そこには一際目立つ2階建てのデザイナーズ・シェアハウスが建っていた。
白を基調とした外壁に、大きな窓が等間隔に並んでいる。
2階のバルコニーには鉢植えの花が並べられ、住人たちの生活感が漂っていた。
建物全体は、まるで南欧の邸宅のような優雅な雰囲気を醸し出している。
(これが、義姉さんのシェアハウスか……)
敷地はかなり広く、周囲はフェンスで囲まれ、その一角の門扉にインターフォンがあった。
そのボタンを押すと明日奈が出た。
「は~い、あっ、祐希くん、ちょっと待ってね、今開けるから」
すると門扉が自動で開いた。
(お~、自動か……凄いなぁ)
入口には「篠宮」という表札と「シェアハウス・ヴィーナス・ラウンジ」と書かれた看板が掛けられていた。
玄関に着くと、ポーチの両脇にはセキュリティ・ゲートが配置されていた。
(ずいぶんと厳重に防犯対策してるなぁ)
玄関でチャイムを押すとドアが開き、明日奈が笑顔で迎えてくれた。
「はいどうぞ~、祐希くん待ってたわよ」
明日奈は20代後半のはずだが、実年齢よりもずっと若く見えた。
「義姉さん、ご無沙汰してます」
祐希は、久しぶりに会う明日奈の姿に戸惑った。
4年前に最後に会った時は、まだ亡き兄の婚約者として清楚な印象だった。
しかし今の明日奈は、20代後半の女性の艶やかさを纏った、別人のような美しさを放っていた。
義姉のはずなのに、目の前にいるのは1人の魅力的な女性だった。
祐希は無意識に頬が熱くなるのを感じた。
「祐希くんと会うのは4年ぶりかしら。
前に会った時は、まだ高校生だったけど、もうすっかり大人ね」
「昨日は連絡、ありがとうございました。
火事でどうしようかと思っていたので、本当に助かりました」
「ううん、本当に大変だったわね。
たまたま用事があってお義父さんに電話したら、祐希くんのアパートが火事になったって聞いて心配してたのよ。
でも、無事で何よりだわ。立ち話も何だから、さあ中へ入って」
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