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「なんだか私、聞き間違いをしてしまったようで。なんですって?」
「貴女を、妻に迎えるつもりでこの国に来た、と」
「聞き間違いじゃなかったかあ……」
聞き間違いであってほしかったなあ。
とはいえ堂々と日中から略奪宣言か? お?
「……婚約者、いるんですよねえ」
「我が姫君にその座を譲れば、あとはこちらでなんとでもしよう」
「シリウスが納得するとでも?」
「国家間の益の前に、嫡男でもない彼に何ができる?」
「逆を言えば、なんで何もできないと思ってんの?」
質問に質問で返すのは失礼なことだし、なんだったら貴族で言えば身分差を考えたらここで無礼討ちまでは行かなくても即座に謝罪を要求されてもおかしくない。
だけど、私はあえてふんぞり返……りはしてないけど、わざと大きなため息を吐いて見せた。
「シリウスは枷なんてないの。あの男がほしいのは私で、私がイイコでいるから大人しくしてるだけ。その気になればシリウスの実力ならどこでも生きていける」
「……ノクス公爵家という後ろ盾を失ってでも?」
「むしろノクス公爵家はシリウスを戦力としてそれなりに見積もっているんだから、王女様より私を取るんじゃない?」
シリウス個人の考えで言えば、私と王女様なんて比べる理由が一つもない。
私を奪うというならば、シリウスは容赦なく牙を剥く。
そういう男だもの。
そしてどうにもならないなら、私を連れて逃げるだろう。
あの人にとって、ノクス公爵家はそれなりに大事だ。
だって家族だもの。
だけど、絶対に手放せないものか? って言ったらそれは違うと答えるだろう。
もしそうなら、そもそも一度家を出てサフィアン王子の騎士になんかなりゃしないのよ。
跡取りもいるし、自分で稼げるし、自炊もできる男だからね! うちのシリウスは!!
「それでも無理なら?」
「……奪われるくらいなら、自分を犠牲にしてでも私を逃がすんじゃない? 私が望まない限りね」
私が望む場合は、私を手放せないシリウスはきっと死ぬのだろうと思うけど。
極端な人だからね!
でもその前に私たちを引き裂こうとする相手を滅ぼそうとしそうだけど!
「……君もそうなのか」
「私?」
問われて考える。
難しいことを全て排除したとき――結論は、単純だ。
「私はそうだなあ……」
目の前の男が私を求める理由は、恋心なんて可愛いものじゃないだろう。
まるで熱を灯さないその眼差しは、シリウスと比べなくたってわかりやすいもの。
ちなみにシリウスはいつだって捕食者の目で見てくるの、止めてくれないかなと思っているよ!
愛情も行きすぎるとドロッドロの粘着して煮詰まったナニカになっちゃうんだなって日々体感しておりマストも。
「私は奪われるくらいなら、いっそ一緒に死のうかな」
まあ、大概私もヤベーヤツなんだなって最近自覚しているんですけどね。




