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「では単刀直入に言うとしよう。ノクス公爵家のご長男と別れ、私のところへ来てほしい」
「これはまた唐突で大変なことを言ってきましたね?」
シリウスと別れろ。
これはまあ想定していた話だ。
あの王女様から私を説得するように言われた……って考えるのがまあ妥当。
そしてシリウスと別れる代わりにそれなりの補填を提示されるだろうとはみんな想定しているところだった。
ただそれが男なのか、爵位なのか、それとも金銭なのか……。
王女が提示できる内容がどの程度なのか? ってのはわかんなかった。
あくまで王女としては『このくらい』であって、確約ではない可能性もあるし、その内容によっては国家間で問題になるだろうからってサフィアン様が心配していたんだよね!
「配下をお求めならば、ノクス公爵家には粒ぞろいの騎士がいらっしゃいますのに」
「いいや、貴女がいいんだ。クロウ」
「……なるほど、表向きの部下がほしいわけではなさそうですね」
「それも違うな。私が欲しているのは部下ではない」
「へえ?」
どこか虚ろで、底知れない目が私を見ている。
私自身は会ったこともないのに、なんかすんごい熱烈な眼差しですこと!
まあ見た目は割と細めっちゃ細めだけど顔立ちは整っている。
陰気な雰囲気はあるが、憂い顔っていうかそういう雰囲気が好きな女性にはモテそうなタイプだなと思う。
同じ騎士でもシリウスはがっしりした体格で、それがあのカーリーン王女の理想だったってことでまあ目の前のルーラント・クレイは該当しないことはわかりきっている。
ひょろっとしている……とは思わないけどね。
多分脱いだら、相当筋肉ついているよこの人。
前線の盾になるような筋肉の付き方じゃない。
私たちと同じように、裏で動き回るための筋肉の付き方。
「では何をお求めで、わざわざ他国の公爵家の人間と婚約している女に声をおかけになったので?」
「ある時、私は王家の盾となり毒を浴びた。その解毒にあたったのは、お前も知る薬師だ」
「……あ、あー……?」
おっとお……?
その薬師ってもしかしてアナベルに影響も与えたあの変態薬師かな?
あいつ、薬草畑を作っておきながら気が向くとフラッといなくなって奇妙な毒を持って帰ってきちゃ私に分解・分析をやらせて小銭を握らせるんだよね。
まあいいお小遣い稼ぎにはなったんだけどさ。
(そういや隣国にまで行ったって話が昔あったなあ)
ものすごくじわじわと効いていく毒で、呪いと誤解させるような症状が出る特殊な毒だった。
あれはあの変態じゃなきゃ気付かないレベルだった。
解呪できない呪いとして放置されるようなものだったね!
そのくらいすごい薬師なんだけど、まあ変態なんだよな……。
毒って美しい、毒って素敵、毒には可能性しかない!! って毒を飲んで毒を食べるのが趣味な男だからさ……。
毒が素晴らしすぎて薬師になったとか言っているようなやつだったから……うん……。
レアな毒をゲットして超嬉しい! って私に金貨渡してきたあれか? もしや。
いやいやもしやとかじゃないわ、ほぼ確定だわこれ。
「そこで薬師からお前の存在を聞いたんだ。姫がいずれシリウス・フェローチェス・ノクスを口説き落とすためにこちらの国を訪れることはわかっていたから、それに乗じてクロウに会いに行くつもりだった」
(あの変態め……!)
人のスキルについてホイホイ話しやがったな?
いったい何の毒に釣られたんだ……!
とはいえこういうリスクは裏の世界にはどこにでもあるので今度文句の一つと量産品の薬でも送りつけておこうと思う。
あいつそういうの『美しくない!』ってストレス勝手に感じてくれるので。
「まあ評価してくださるのはありがたいんですが、生憎ともう稼業からは足を洗っておりまして」
「なおのこと都合が良い。私は貴女を妻に迎えるべくこの国を訪れたかったのだから」
「……は?」
は?




