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秘密  作者: 藤崎麗奈
19/20

和装

く

    長すぎる髪は切らないままで、今も腰近くまで伸びている。 美容師の巧みな手捌きでブラッシングされ、纏められ、結われていく。 着物と帯に合わせた、メイクが私の顔に丁寧に施されていく。 メイク初心者の私とは、技術がまるで違う。 桜色、友禅織の訪問着と白地に銀の鮮やかな袋帯が輝くばかりに美しい。  絹地の光沢と、金糸、銀糸の輝きがまばゆいばかりだ。 何だか、ぞくぞくしてくる気分。 嫌なのか? 望むのか?

    結婚のお祝いに、豪華な訪問着、袋帯、その他和装小物類を彼の両親が、私にプレゼントしてくれた。 「お袋が、君に着て欲しいらしい、女性の着物はめんどくさいし、窮屈だろうけど、俺の顔も立てて着てくれないか?」 と頼まれ、この豪華にして美しい、とても派手な派手な着物を着ることになってしまった。 まあこうなってしまえば、綺麗な着物が着られるのだ、嬉しいのだと思う様に務める。 女性の美しい和服を着られるのだ、まあ楽しむとしよう。  めんどくさいのは確かだが、妊娠しているのだから、直に着物なんか着られなくなるだろう。

    ネールピンクのワンピースを脱いで、白い足袋を履き、肌襦袢と裾除けを着ける。 着付けをする美容師さんがあたしの体形を補正してくれる。 ピンクの絹地の長襦袢を着せられて、腰ひもが結ばれ、伊達締めで纏められる。 花嫁衣裳の時の、長襦袢は純白だったが、今度のは色彩豊かで、とても女性的だ。 あの時は、まだ現在の自分には完全にはなり切れていなくて、女性の和服に違和感と、抵抗があったが、今は大分違っている。 何しろ、女性として、結婚して暮らしているのだ。

   「お若くて、とてもお綺麗ですね」 「いえ、いえ、もう妊娠中の身です」 「そうなの、おめでとうございます。 見たところ、全然そうは見えないわね」「まだ、ごく初期ですから」 

    華やかな訪問着を着付けられ、腰ひもが巧みに閉められる。 目の前の姿見には、派手な着物を着付けられている、若い女性が幸せそうに微笑んでいる。 この顔にも随分慣れたなー、と、ふと思った。 もし、元に戻ったら? と久しぶりに、頭に浮かんだ。 式の前までは、何とか元に戻れないかと熱望していたのだが。 今は、そういう望みをいだく事は、なくなった。 もしも戻ったとすれば、彼とも、お腹の子とも別れなければならない。 あいつにしても困るだろう、とにかく、男性に成りきって頑張って来たのだ。 時間的にはそれほど経ってはいないのだが、入れ替わりの時点では、婚約こそしていたが、彼がほとんど一方的に恋していただけで、状態は今とは全然違う。 挙式後、精神的にも、肉体的にも強く愛し合うように成った。 もしも、元に戻るようなことがあれば、どちらも大変困る事だろう。 私もあいつも、当惑し困り果てるであろう。 もう、私が美憂であって良いのだ、私が最初から篠原美憂だと考えるようにしている。

    数日前に、あいつに連絡した。 今日、私達は彼の両親宅を訪ねるので、婚約直後に一度挨拶に訪ねて以来だから、私にはあまり家の様子が分からない。 あいつから情報を貰った分けだ。 あいつは塾の運営も巧くいってる様だし、家庭生活も円満なそうだ。 あたしより先に妊娠した奥さんとは強く愛しあっていると言う。 夜の事も大変お盛んんだと言う。 こちらと、似たような感じだ。

    こんな事を考えているうちに、銀色に輝く袋帯は、私の胸に締められていく。 花嫁衣裳の時と比べ、帯の位置は僅かに下の位置に結ばれている。 帯板が前後に当てられ、グラスグリーンに統一された、帯揚げ、帯締めが用意され、二重太鼓の帯結び、は華麗に進んでいく。 美しい着物を着付けられるのは、大変気持ちよく、恍惚とした気分にさせられる。 肉体的には、胸の膨らみを始め、締め付けられて、少し窮屈なのだけれど、完全に女性としての気持ちに成っているので、純粋に美しい着物を着るのが嬉しい。 お着物、大好きと言う感じに成ってきてしまった。

    帯締めが、キユット閉められ、細部が修正され、メイクが直される

   「さあ、きれいに着つけられました。 綺麗な方が、綺麗なお着物で、似合わない分けがないですね」と美容師は満面の微笑を浮べる。

    


   草履に足袋を履いた足を入れ、部屋から出ると、勉強中の彼がパソコンを閉じる。 目を輝かせて、私の全身を食い入るように見つめる。 「美憂、綺麗だね、言うべき言葉もないほどキレイだ、きれいだとしか言いようがない」 「大げさね、でも自分でもこのお着物、気に入ってるわ。とっても素敵」


    車で10分程の距離にある、彼の両親の家に向かう。 「あんまりじろじろ見ないでよ」食い入るようにあたしの全身を見つめる彼に言うと、「親の家に行けば、こんなに見つめるわけにもいかないだろう、だから今のうちに見ておく分けだ。 君の着物姿、親父もお袋も喜ぶだろうね」

    

    車は、直ぐに到着する。 閑静な住宅地にお屋敷とまでは言えないが、立派なたてがまえの家。 嫁の立場である私は、主人の後ろについて、門松が立つ門をくぐる。

     ブザーを鳴らし、彼は自分の育った家のドアーを開き、玄関に入り、嫁の私は後ろに続く。

     挨拶も済まないうちに、当然の様に私の着物姿が話題になる。  「マアー、美憂さん綺麗ね! 何とも言いようがない、とにかくキレイ、とてもステキ」 「お着物、本当にありがとうございます」 着物姿で、どうすれば良いかあまり分からないが、和装用バックが手にあるので、和装バックに両手を揃えて、かなり深く頭を下げる。 和服での挨拶は巧く出来たような気がする。 直ぐに、父親も来て、「美憂ちゃん、キレイだ、本当に綺麗だ」と目を細める。

     「さあ、二人とも早く上がって」と母親に促され、和服での動作に自信はないが、まあ出来るだけ自然に動く様に務める。 結婚式以外で初めての和装なのだから慣れていなくて当然なのだ。

     絵画と椿が飾られた、部屋に導かれ、ソファーに掛ける。  しばらくは、あたしの着物姿の話題が続く。 「お袋、これ随分高かったんじゃないの?」 「きれいな可愛い娘が出来て、こんな姿を披露してくれて、お金なんか、惜しくないわね。 目の保養になるわ」 「正に、目の保養になるな。若い女性の和服は良いな」と父親も嬉しそうに笑う。 「美憂さんなら、どう見ても振袖が似合うだろうけれど、結婚してるのだから、訪問着にしたの」と母。


     高級なおせち料理が出され、お屠蘇ではなく、高級なワインが出され、グラスに注がれる。 彼は少し困るった表情を浮べ、「美憂、今、アルコール駄目なんだよ」 「どうしたの? 美憂さん、お飲みになるんじゃないの?」と母親。 彼は少し困った表情を浮かべている。 私は、彼に任せる事にして、着物姿で無言を貫く。 しばし、沈黙があり。 「父さん、母さん、分からないかな?」 

   「・・・・・もしかして、出来た? でもチョット早いかな?」と父が呟く。 「美憂、妊娠したんだよ、でもまだ6週にもならないから、報告は少し先にしようと思ってたんだよ」 そこから、両親の大騒ぎが始まり、暫く続く。  

     しかし、市立病院の病院長は直ぐに落ち着きを取り戻し、「妊娠初期はどうしても、12-13%の率で流産の可能性はある。 私らがあんまり糠喜びして負担を掛けちゃいけないな。 でも、おめでとう美憂ちゃん、妊娠中は出来るだけのんびり暮らす事だよ。 面倒な事はあいつにやらせるんだよ」と彼を指差す。


     このきれいな和装では、トイレを使うのもやっかいだ。  着崩れしないように、慎重に、着物、長襦袢、すそよけをまき上げて、慎重に慎重に座便に掛ける。 「ママ、お着物で大変なのよ。 あなた女の子?男の子?」とお腹の子に話しかけて、排尿を済ませる。 着物を整えて、やっと部屋に戻る。


    

    彼は自分の育った家なので、実に伸び伸びと過ごしている。 半面、あたしはこの家の嫁と言えば嫁の立場なので、少し緊張する。 何かを手伝おうとすると、「美憂さんいいのよ、そんなきれいな着物着て、今日は綺麗な姿を見せるだけの役ね」と母親は微笑む。




     帰宅して照明を灯し、着替えようか、メイクを落とそうとかと考えていると、彼が私を抱きしめてきて、「美憂、君があんまりきれいだから、俺もう我慢できないよ。 帰って直ぐで悪いけど、いいかい?」 「まあ、しょうがないわね。 いいわよ、でも乱暴にしちゃだめよ」 「勿論だよ、一応医者なんだから」 彼は私を寝室のべットの上に掛けさせ、袋帯を解くこうと試みる。 「この着物と帯、随分高級な物らしいから、丁寧に扱ってよ」 彼は女性の帯結びの複雑な仕組みが分からないらしく、私が手伝って、やっと袋帯は解くことが出来た。 美しい絹帯を手にした彼は、テーブルの上に乗せる。 「絹ずれの音、この絹の香り、女性の着物って良いね、中身の女性はもっと良いけど」 「もう着ませんからね、そのうちお腹大きくなる分けだし」 

    腰ひもを解き、桜色の絹の訪問着が私の体から外される。  さらに幾つもの紐を解き、長襦袢を脱がされる。 テーブルの上には美しい着物が重ねられていく。 彼を受け入れる準備は完成していく。 濃いメイクが気になるが、彼も私も夢中で、あまり気にはならない。  私の髪を少し乱暴に解いて、私をべットに横たわらせる。 美しい絹物の山を見つめながら、彼に愛撫され、私は喘ぎ始める。

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