もののけの鳴く今夜
深夜、昼間活動していた動物たちは寝静まり、代わって夜の者が目を光らせる森の中。
僕は生い茂った木々をなぎ倒さんとばかりに勢いよく、空高くから落っこちた。その騒音と、衝撃に驚いて、動物たちは一斉に逃げていく。
着地成功。ジャンプで長距離移動というのも案外悪くない。
そんな事より貴慮だ。この広い森から一体どうやって探せばいいのか。ここにきて、それからのことは全く考えていなかったことに気付く。と言うか、ごく普通の森に見えるが、本当にこの辺にいるのか?
すると逃げる動物たちの先に何かが見えた。人影だ。着地に驚いて逃げた動物たちはその人影を綺麗に避けてゆく。
「あのー!すいません。貴慮さんですか?」
僕は恐る恐る、でも冷静に、人影に声をかけた。
「貴慮。ああ、確かに私はそんな名を持っている」
驚いた。とても驚いた。
それは、その声が視線の先の人影からではなく真後ろから聞こえたからではない。その瞬間に押し倒されて急に身動きが取れなくなったからでもない。
「女性…」
そうなんと貴慮は女性だったのだ。
「何じゃ?男じゃと思っておったのか?ははは。あまりふざけたことを言っていると、夜食にしてしまうぞ」
そう言って何処からか出した槍を顔に向けてきた。
予想外すぎて言葉が出ない。しかも思ったより小さくて、というか子供で、というかロリで、そこにびっくりした。
シアンからの話や町の噂話から、勝手に怖そうな男か、あるいは貫禄のある、相当なご老人あたりだろうと、勝手に想像してしまっていたが。まさかこんなロリっ子だとは。
「かわいい」
しまった。口が滑った。浮気性が裏目に出た。と言うか表目に出ることはまずないが。誤解される前に言っておくが、既にされているかもしれないが、僕はロリコンではない。ましてや筆者はもっと違う。これは、そう、読者のニーズに幅広く応えるための適切なキャラ配置なのだ。きっとそういう事情だ。
彼女は槍を投げ捨て、僕の顔を指さす。
「き、貴様ぁ!ふ、ふざけたことを!死にたいのか!だいたいなんじゃ。か、かわい…いって…!」
あ、こいつちょろい。身体の拘束もいつの間にか解けているし、顔めちゃくちゃ真っ赤だし。どうやら今回は浮気性が表目にでたようだな。
「あの、質問があって来たんですけど」
「そんなこと知らぬ!もう!帰る!!」
僕の質問を無視し、ぷいっとそっぽを向いて歩いて森の闇の中へきえてってしまった。
「行っちゃった…」
どうしたものか、今すぐ追った方がいいのか、また今度にして、今日はもう帰った方がいいのか。伝説の魔女との初対面ともあって、熱いバトルも覚悟して来たんだけどな。的外れもいいところ。大体、あんなロリっ子は全くの想定外だったから、思わず口が滑っちゃったじゃないか。そのせいで、あの子帰っちゃったし。
そんな事を考えていると、奥の方からドカドカと涙目の貴慮様が走ってきた。
「ばかぁ!そこは止めろよぉ!そうじゃなくともこっそりバレバレのストーキングするとか、小型発信器を付けて手帳型タブレットで追跡して場合によっては遠隔操作でドローンを飛ばすとか、いろいろあるじゃろうがぁ!」
と、泣きじゃくりながら飛びついてきた。
何を言っているんだこの子。
「というか外出たの、久しぶりじゃし、人と話すのはもっと久しぶりじゃったから、怖かったんじゃぞ!!」
大丈夫かこの伝説の魔女。
「怖がらないでください」
そう言って撫でると、彼女はうつむいたまま、涙を拭った。
おい本当にこいつが貴慮なのか?これでいいのか?これじゃまるで、初対面の相手に人見知りして、距離感がつかめなくなっている完璧幼女だぞ。
迷走するなよ。




