やわらかかった
「コーヒーでも入れてやるから何も触らずそこに座って待っていろ」
貴慮様の家に入れてもらった。木造のこじんまりした家で、外から目立たない様になっていた。
部屋は一つ、思ったより生活感にあふれていて、天井につるされたランタンが、黄色い光で部屋を照らしていた。
机の上には紙切れが数枚。
『貴慮。ああ、確かに私はそんな名を持っている。私の…』
「台本があったのか…」
ボソッとつぶやくと、
「ああああああ!!違う!違うのじゃ!そうじゃなくてじゃな…これは…」
と慌てて、その小さな体で紙を隠そうとする。
「分かっていますよ」
シャイなのか、この子は。
「何が分かってるじゃ!なにもわかっちゃおらんじゃろ!むしろ誤解しとるじゃろが!大体なん…」
貴慮の説教を遮って、言う。
「お湯、沸いてますよ」
火にかけたポットが、小さな部屋に湯気を伸ばしていた。
「それで、質問というのはですね。その、実は僕まだ自分の能力の事をよく知らないと言いますか。その貴慮さんに聞けばわかるかなと思って」
コーヒーを淹れる彼女に、やっと、質問をする。
「ふむ。いいじゃろう。では見返りにお前は何をくれるのじゃ?」
「え…うーん」
特に何も考えていなかった。何をくれるかって言われても、何もあげられるものはないのだが。
「まあよかろう。わしは悪魔じゃあない。そんな酷なことも求めん。だが早いうちに考えておけ」
彼女はコーヒーをすする。
「ブラックコーヒー飲めるんですね」
「馬鹿にするな。この見た目じゃが、子どもじゃない」
貴慮様は、渋い顔でそう言った。
「貴様の能力はその身体の部位に依存する。ここまでは大丈夫じゃな?」
まあ、同じ説明を前にもされたし。
「ここからが、きもじゃ」
「その能力は進化する。それは、今まで持っていた能力がより強力になることもあれば、まったく新しい能力を授かることだってあるじゃろう。例えば――」
彼女は机に片手をついて寄りかかり、顔を寄せ、僕の頬に手を添える。
「こんなふうに…」
「んっ…」
二人の声が消え、つかの間の沈黙が訪れる。
「ん…っ、ちょっ、いきなりなにしてんですか!?」
彼女を引きはがして、訊く。少々息が荒いのは、うまく鼻で呼吸ができなかったからだ。決して興奮などはしていない。
「今、私の能力をお前に移した。まあコピーみたいなものじゃから移したというより写したといった方がよいかもしれん」
そんな赤面しながら活字じゃなきゃ伝わらないダジャレを披露されても困る。
「ちなみに今のようなコピーされる際は基本的に、互いに能力が発揮されない」
「で、何の能力なんですか?」
「それはじゃな」
彼女は少し勿体ぶってから、おもむろに口を開いた。
やわらかかった。




