いつだって傍に
「あ、尚立!」
その声に、耳を疑った。
にぎやかな町の雑音の中に確かに聞こえたその声に、聞き覚えがないと言えば、嘘になる。
子供らしさの残る透き通った声。この声は、いいやそんなはずはない。
考えるより先に体が、声のする方を振り帰っていた。
そして、その目を疑った。
そこには確かに彼女が居た。確かにそこに立っていた。1人違った服装の彼女が、10メートルくらい先に。
数々の記憶がさながらドミノ倒しのように蘇ってくる。
そう。いつもそのカーディガンを着ていて、暗めの茶髪のショートヘアで、やんちゃな可愛い顔つきで、僕の事を尚立と元気よく呼んで、よく似合った笑顔でいつもそばにいてくれる。
僕の愛する人。
その名は――牧野真琴。
「真琴!」
そう真琴だ。
「真琴!」
何度だって叫びたい。
「真琴!」
人ごみの中から、
「尚太!」
と返事があった。
串焼きは手からするりと抜け落ちる。
「ん?誰?知り合いですか?」
シアンの声も耳に入らず、僕は足を進めた。
人ごみをかき分け、真琴に駆け寄り、勢いのまま抱き着く。力いっぱいに、抱きしめる。
「ちょっと、くるしいよ」
真琴はそう言って無邪気に笑ってくれた。
「会いたかったよ」
――真琴。
さて、感動の再開はいいとして、真琴がここに、この世界に来るまでの経緯を話そう。
真琴が言うには、なにやら、神様が連れてきてくれたらしい。そんな、友達の親に送迎してもらったみたいなノリで言われても、いまいちピンと来ないというか。はっきり言って訳が分からない。
「尚太が私の目の前で死んじゃって、滅茶苦茶悩んで、悲しくて、それでもうわかんなくなって、自殺まで考えたんだ。そしたらある時、目の前に神様が現れて、で尚太に会わせてくれるっていうから」
そんな事を聞かされると、真琴を残して死んでしまったことに、どうしても罪悪感を感じてしまう。
「それでここに?」
シアンが訊く。
「うん、尚太を探すのに時間かかっちゃったけどね」
「そうか。まあいろいろ気になることはあるが、とりあえず。あえて嬉しかった。」
――もう二度と会えないと思っていたから。
真琴は笑顔で応える。
「うん。私も会えてよかった」
細かいことは置いておいて、今日の所は、もう一度、真琴に会えた幸せをかみしめることにしよう。真琴は元の世界で死んだわけじゃないようだから、いずれ、帰ってしまうのだろうし、話ができるうちにするべきなのかもしれない。
そこにシアンが割り込んだ。
「で、将太とはどういう関係なのですか?」
真琴は無邪気な笑顔で答える。
「尚太の彼女でーす!!」
おいおいやめろよ。そんな惚気たこと言っていると…。
「ふーん、…因みに私は昨日一緒に寝ましたけどね」
と、シアンはなぜか無駄に張り合いだす。
「ちょ、そういう誤解を招くようなことは…」
と、無駄な誤解を避けようと取り繕うが、実際の所、そんなに間違ってもいないのは、秘密だ。
「ちょっと尚太?それってどういうこと!?」
「いやこれには訳が」
真琴はさらに言ってくる。
「どういう訳があるっていうの?」
いやシアンの家には(一人暮らしだから当たり前だが)、ベッドが一つしかなくて、しかもシアンが一緒に寝ればいい、と発案してきたから仕方がなかったのだ。とは言えず。
「ご、ごめんなさい」




