貴方とキーホルダ
結局、シアンの家に泊まらせてもらうことになってしまった。
晩御飯ごちそうになってしまったし、風呂も借りてしまった。それに今、隣でシアンが寝ている。
というより、僕が彼女の隣で寝かせてもらっている。同じベッドではないにしても、同じ部屋で、こんな近くで。無防備な人だ。
断っておくが、僕の中に、そういうやましい考えや邪な気持ちは一切ない。彼女がここで寝ろと言うから、言われるがままにここに寝転がっているだけで、そこに下心はなかった。
まあ、シアンが魔法の研究のためにもっと話を聞きたいってことでとりあえずは匿ってもらうことになった。
しかし、いいのかこれで。
今日会ったばっかりの女子の隣で寝てるぞ僕。何度も言うように僕に邪な考えはないが(ここまで頑なに否定すると逆に怪しく聞こえてしまう)、でもこの異様な状況に、違和感を覚えないほど、鈍感ではない。
ダメだろ。僕には、もっと大切なものが、大切な存在が居たはず。
――ん?大切な存在?
そうだ、僕には彼女が居たはずだ。
――名前は。
ダメだ。思い出せない。記憶が、ない。
この辺りの記憶が大きく欠落している。
僕は脱いだ衣類のポケットを漁った。彼女の写真か、何か、思い出すきっかけになりそうなものは…。
財布だ。財布につけたキーホルダーだ。財布は確かパーカーにいれたっけ。外に干してあるはずだ。
僕は急いでベランダに出て、干されたパーカーのポケットを確認する。また忘れてしまう前に…。
考えてみれば当たり前の事だったかもしれないが、物干し竿にかかったパーカーには、財布もキーホルダーも入っていなかった。
この世界に来たと気に財布の存在は確認したから、必ずこの世界のどこかにあるはずだ。
「んん?どうかしました?」
シアンが起きてきた。
「悪いな。起こしちゃって。僕の財布見てないか?小さなキーホルダーが付いてたと思うんだけど」
「あ、財布ならありますよ。ごめんなさい、洗う時に返せばよかったですね」
シアンから受け取った財布は確かに僕の物だった、しかし、キーホルダーが付いていない。
「私キーホルダーは見てないですけど。道中で落としちゃったとかですかね?」
さすがにキーホルダーだけ元の世界に置いてきたみたいなことはないだろう。まあ。どこかで落としたと考えるのが妥当だろう。
思わず黙り込んでしまった僕に、シアンは提案した。
「じゃあ明日、外に探しにいきましょうか」
「そうだな」
――すまんな。もう寝るよ。
そう言って布団にもぐった。
さて、そろそろエンジン駆けていきましょうか




