↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

Blue

幼い頃は、ヒーローになりたかった。


毎日どこかで誰かが怪物に襲われていて、窮地救済。

そんなありふれたストーリーでも、僕は毎週TV画面に釘付けだった。

特に青い色のレンジャーは好きだった。

少しクールだけれど、それ以上に情熱があって、僕の中の小さな闘争心は常にヒーロー達と共にあり、ブラウン管の向こう側にいる怪物へと常に向けられていた。

そんな僕にもヒーローになれるチャンスはあって、幼稚園に行けば同じ志しを持つレンジャー達がいた。

まるで特撮の舞台現場にいるような錯覚で、スーツを身に纏ったわけでも、変身具があったわけでもなく、ましてや何かを救済することもなかったが、それはまぎれも無く僕らの特撮舞台現場であり、それ以上に本物だった。



「変動層状製の開放経済で貨幣量を増加させ国内金利の低め誘導を行う・・・」



何故二重黒板なのにあの先生はいちいち消して新しいことを書いて行くのだろうか。

スライド式なんだからあの上のやつをスライドをすればいいのに。

とは思いつつも、僕は黒板なんて見てやしなかったし、ノートの墨にはボールペンのインクがノート4枚分を突き抜けるほどの濃い楕円をただいつまでもなぞっていた。


経済学部に入ったのは、将来を考えてのことだった。

これといってやりたいことは無く、それはきっと僕だけではなくて、世の中を考えればそれは適当で妥当な選択だったと思う。

幼いころはヒーローになりたかったが、結局地球のピンチも、誰かが怪物に襲われるとかそういうことも勿論なくて、幼少の夢は小学校入学後半年で早くも過去の思い出へと変化した。

世の中にどんな職業があるのかもわからず、流されるまま週2で塾へ通い、市立中学校へ進学、高校も県立で普通科。

普通の道を我ながら歩んだと思う。

成績も悪くもなければ良くもない、これと言って好きな科目も得意な科目もなく、ただ時が過ぎたから身長が伸びて、年齢が大人になっただけの話しだ。


教科のことを話すのであれば、強いて言うのであれば、僕は美術が好きだった。


美術の校外学習で、上野の国立美術館でモネの睡蓮を見たときに、何故だったか心から感動をしたのを覚えている。

だからと言ってその後美術の勉強をしたわけでもなく、ただ絵を見て感動するこの瞬間が好きで、歴史や書いた人物がどうであろうと、その絵の背景に何が有ろうと、僕はまるで興味がなかった。

多分、この睡蓮の絵を見たときに思い出したのだろうと思う。

小学校の中庭の睡蓮が浮かぶ人工池、放課後の記憶。


僕の通っていた小学校の中庭にも小さな人工的な池があり、コンクリートの枠の中には睡蓮が浮いていた。

放課後に中庭で、ムクロジの実を割いて中身を取り出し、樹液でベタベタのそれをよく睡蓮の浮く人工池に投げ込んだのを覚えている。

睡蓮は重く、小さなムクロジの実が小さくぽちゃんと人工池に沈んでも、波紋を気にすることもなく、その身を揺らすことはなかった。

思い出はいつも何故かあの日。

あの日、興味はすぐに砂鉄取りへ移り、学校の算数セットについていた算数ブロックの磁石を持ち寄り、砂場で砂鉄を集めた。

幼稚園の頃のレンジャー達は、その頃には砂鉄収集部隊へと変わった。

集めた砂鉄を黄ばんだわら半紙の上に撒き、磁石をわら半紙一枚を隔てて移動させると、砂鉄はヤマアラシへと変わる。

拭いきれなかった砂鉄が、わら半紙をスライドする度にざらざらとした音をたて、僕の指が指示する方向へと、散らばった砂粒を集めながら進むのである。


「もっと砂鉄集めてさ、誰のヤマアラシが一番大きいか競争しねぇ?」


洋司の言葉は絶対である。

幼稚園の頃からレンジャー部隊の中心角だった赤色の彼が言うことには、誰も何もも文句一つ無く着いて行く。

それは洋司がリーダー的存在だから以前に、いつも僕らが興味を持ったり、そうしようと思えることをちゃんと発言するからだ。

僕らの思いを言葉にできるヤツ。

彼は実質、小学校へ入学した後も僕らのグループのリーダーだった。

そうあるべき立ち位置だったし、誰も何も疑問を抱かず、僕のグループはみんな彼を信頼していた。




あのとき一番おおきなヤマアラシを作ったのは・・・誰だったっけかな。




カラスの鳴き声も

ひぐらしの鳴き声も

蜻蛉の夕日に透けた羽の筋の形も

帰路につく為それぞれが散って行った方向も

何もかもを鮮明に思い出す事が出来るのに


何故だか砂鉄のヤマアラシを一番大きく作ってみせたレンジャーを僕は覚えていない。


夕日が地平線に沈み、ムクロジの木の木陰が校舎の影と完全に一体化する頃

人工池の睡蓮は完璧に閉じていた。



「おい、亮介!亮介!」

「え、あ、何?」


大学は洋司と偶然同じ大学で、小学校以来の再会となった。

僕はすっかり落ち着き払ってしまったが、洋司の内面や態度は当時とかわらず、相も変わらずという言葉がぴったりと当てはまった。


「いやさ、今日俺さ、初合コンなんだよね!なんか良いアドバイスとかねーかなー」

「大丈夫、お前は黙ってればそこそこ普通だから」

「そこそこ普通って全然ダメじゃね?」

「はは、冗談だよ、お前は昔からトーク無しじゃ生きて行けないキャラだったじゃん」

「なんだよお前、俺はキャラだけじゃなくてちゃんと外見も手入れしてんの」

「僕だって外見は手入れしてる」

「そうだよな、外見だけな!お前は俺と反対でもっと喋らなきゃつまらん」

「別にいいんだよ、つまらなくても」

「で、お願い!俺高校は男子校だったから一番大切な思春期やら青春という人生の一大イベントを野郎とだけで過ごしてるんだ。

女子との関わりをどうにか今日今すぐにでも、一刻も早く持ちたい!」

「じゃあまずその女子っていうのやめたら、ガキくさい」

「えー、そうなの?じゃあ何?」

「女の子でいいと思うよ。女性とか」

「よし、そう総称しよう!」

「はい、いってらっしゃい」

「いってくるー!」


洋司はチャイムと同時にノートやらペンケースやらを鞄に詰め込んで、教室を後にした。


馬鹿だな、結局僕から何のアドバイスを受けたんだろうか洋司は。

ただ女性の総称した呼び方を女子から女の子に変えただけだ。

まあ合コンなんてものは洋司のトーク力があればすぐに盛り上がるだろうからいいか。



ていうか・・・




どうでもいいか。







僕が今住んでいる場所の最寄り駅は阿佐ヶ谷で、大学入学と同時に上京。

よくある話し。

駅までは徒歩20分で、電車移動を含めて大学までの道のりは40分。

もっと近くにすればよかったんだろうけど、大学までが近いと友達に上がり込まれる可能性もあったし、何より家賃的な問題だ。

東京はどうしてこうも無駄になんでも高いのだろうか。

仕送りを浮けているのは家賃だけなので、生活費や交際費、光熱費やらその他諸々は自分でアルバイトをして賄わなければならない。

学費は奨学金を受けている。

裕福でも貧困でもなく、どちらとも取れないような家柄で、別に家庭環境は悪くない。

父、母、高校1年の弟が1人、じーちゃんが一緒に住んでる。

じーちゃんは去年の夏あたりから少しずつ介護が必要になって、日中パート勤務の母親の不在中はデイサービスの介護を受けている。




「あ、もしもし。お疲れさまです。

今日は出勤がとりあえずレイ、瑞希、さよ、りな、弥生、ルイです。

はい、はい・・・わかってます。それじゃあまた」



ルイが出勤をするかしないかはいつも不安だ。

過去4回ほど無断欠勤をしている。

たった4回、されど4回。

いや、ルイはマシか。

無断欠勤してもなんだかんだで飛ぶ訳ではないし、4回は連続無断欠勤じゃなかった。

父親がなくなったとか、母親がなくなったとか、いつもそんな理由だった気がする。

キャストの女の子達がどんな家族構成で、どんな人生を歩んでて、どんな理由でこの世界に入ったのかなんて、正直知らない方が良いときのほうが多いんだ。




そりゃまあ・・・嫌だよな。




渋谷のスクランブル交差点は好きだ。

人がうんざりするほど行き交って、一回当たりの青信号時の通行人数は,多いときは三千人。

その中に立つと、


「ああ、自分今ちゃんと此処にいるんだな」と思うと同時に、惚けた僕をちゃんと呼び戻してくれる。



冒頭の幼少期の憧れは、実はまだ僕の中にあって、ヒーローになりたい訳ではさすがにもう無いけれど、本当は将来、特撮撮影に携わる仕事がしたかった。

僕は青色のレンジャーが好きだった。

クールだけれど情熱がそれを上回っていて・・・どの特撮物でも基本そういう事が多かったと思う。

夢を現実にする為には行動せよ、夢を夢のままにしておくのなら・・・今の僕のように生きていればいいんだろうな。

適当、無難、妥当、安泰、安定、そういう言葉を、僕は選んだのだ。




あれ、それで僕に残ったのって・・・僕に今あるモノって何だろうか。




たまにそんなことを思う。

適当、無難、妥当、安泰、安定、その他諸々、それを選んだのは僕だけじゃない。そう言い聞かせる。

その後に、雑に切り貼りされた映画のフィルムみたいに、ふわふわと僕の脳内は色々な場面を縦横無尽に行き来する。

この交差点と変わらない。

急に小学生に戻ったかと思えば、中学の初恋や、不味かった給食のこんだてメニューのこと、転んで4針縫ったこと、放課後の中庭のこと、夏休みの自由研究は雑誌を丸写しして提出して金賞をとったこと、ドッヂボールで突き指をしたこと、その他色々なことを思い出す。


こういう感覚って、僕だけなのかな。


誰にも話したことはないけれど、そこから戻れなくなるような、期待のような不安のような。。。。





信号は青に変わる。





それと同時に急に現実に引き戻されて、雑なフィルムの思い出投影は終了する。

右足を踏み出して、人の波を縫い歩き、アスファルトに張り付いた白線の橋を渡り

、目先の陸につく頃、僕は「俺」になる。

昔国語の教科書にあった素顔同盟ならぬ、仮面同盟だ。

本当の僕がどこに在るのかは、僕自身も知らない。

けれど俺であるときは、確かにここにいる。






正直、結局のところはずーっとこうやって仮面をつけて歩いているのと変わらないんだけどさ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。