夕焼け
村の構造は至ってシンプルだ。中央に広場があり、それを囲う様に民家や田園が広がっている。家は木造で、やや床が高く設計されている。これは近隣の川の氾濫した時の、俺が生まれる前に起こった事なのだが、それの対策の為だった。
俺は寄り道せず真っ直ぐに家を目指す。元より別に寄るところも無いのだが。
村人は俺を見るなり、集団となり話始める。
こういう対応にも馴れた。死んだ両親から聞いたところ俺が生まれる前から既にこういう迫害を受けていたという。何故か。理由は分からなかった。俺の家族は、村の誰とも会話することを許されず、作物を育てる為の敷地も特に狭く、奴隷の様な生活を強いられた。
子供の頃は、無意味に暴力を受けた。ひどいときには大人に半殺しにされたこともあったし、また無実の罪で晒者にされることもたびたびあった。
そして、13歳になったある日、両親は気が狂って死んだ。同時に俺の心も壊れたんだと思う。
その日以来、俺の感情は消え失せたのだった。
それからは、虐げられるのも苦痛では無くなった。無感の日々。
だが、ねじが外れたのは感情だけではなかったのだ。
あの無感の日々は、ある衝動を見事に隠蔽し、蓄積させるものであった。
「…全部、壊してやろう」
破壊という名の衝動が、こみあげてくる。無感そのままでの、破壊衝動。それはそのまま十年出番を待ち続けた父の斧を握るよう命じ、つき動かした。
ひんやりとした夜風を受け、俺はあの丘に佇んでいた。
空には雲がたちこめ、月明かりさえ届かない漆黒の闇。不思議な光景だ。
なにも彩るものは無い。だが村は緋色<あか>かった。
俺は今日見た夕焼けを思い出す。
「…ふふっ」
ほくそ笑み、驚く。
「…感情が、戻ったのか」
何故だか愉快でたまらなかった。次々と口から洩れる喜々とした嗚咽を止められない。いや、止めたくない。
そして、気付く。
「…俺は、夕焼けだ」
何人も俺を染める事は出来ない。
「俺は…夕焼けだ」
…そして、夕陽は必ず墜ちる。
「…ならば俺は、墜ちる陽となり…」
いいかけ、そのまま俺は、丘を下りて行った。もうここには未練が無かった。あとは朽ちていく闇があるだけ。
それは俺も、同じか。十年忘れていた笑みを、取り戻すかの様に俺は笑った。
「……朽ちるまで、照らし続けよう」
それは正しく、狂喜であった。
それからの俺は、いくつかの町を転々としていた。あてもなく、朽ちていく町を背に…。
もう何個目かわからなくなったある町で、ある噂を耳にする。
<夕焼けの狂喜>なる殺人鬼の噂だ。
緋く光る斧を手に、そいつはふらりと町に現れる。
狂った笑い声をあげながら、町を夕焼けに染めるというのだ。
俺は一人くすりと笑う。人の心までも染まるというのに気がついたのだ。
それがおかしくて、また笑い、ゆっくりと緋い斧を握り直す。
またひとつ、町が夕陽に染まる。




