1.3
翌朝、俺は魔術の基礎訓練を行っていた。
呼吸時に魔力が鼻から入り、胸や腹のあたりに移動するのを感じ取る。
頭のてっぺんや指先を含めて体中にある魔力を見つける。
空気中に漂う魔力に向かって、体の中に入ってくるように念じる。
そして仕上げに体内で魔力をぐるぐると循環させる。
瞑想に近いような気がしたので座禅を組んでやってみると、魔力の動きが速くなり、体が熱くなってきた。
成功していると考えて良いだろう。
この世界に転生してはや一ヶ月、俺はこの未開地を飛行魔術で飛び回った。
未開地の地図を作成したり、各地の植生や鉱物資源を探索するためだ。
強大な魔物がうじゃうじゃ居そうな魔素の濃い場所が面積の半分を占めていた。
だが残りの半分ほどは、人間によって開拓が可能な土地だった。
森には太い木も多く、切り出して売れば結構な収益が上がるだろう。
そして鉱山として有望な山が多数あった。
岩塩、リン、鉄やボーキサイト、金、各種宝石だけではない。
ミスリル、オリハルコンなどファンタジー金属の鉱山まで発見できた。
魔術の練習を兼ねて土魔術の『エキストラクト』で成分を抽出して、多数のインゴットを作成した。
岩塩はヒ素などの有害物質を含んでいる鉱床もあった。
試しに魔術で有害物質を除去した塩をその辺の動物に与えたが、特に異常は出なかった。
おそらく料理に使用できるだろう。
農作物ではコメ、小麦、大豆、サトウキビ、コーヒー、茶などが生えていた。
ブドウもあったが、山ブドウのようなものしかなかった。
前世で食べたりワインに使われていたようなブドウは、この辺りには存在しないのかもしれない。
コメについては大河が三本も流れているため、どこに住んでも稲作には困らないだろう。
そして川砂には砂金が大量に含まれていたので、冒険者が砂金を採りに来るかもしれない。
だがコメや小麦は各地に少しずつ生えているため、食用にできるほどの量を確保できるのは来秋以降になってしまう。
なるべく早くパンや白米を食べたいので、そろそろ街に出たい。
だが街に出るにはバイトステン大山脈を越えなければならない。
山脈を越えるほどの長時間飛行はまだ無理なので、地上を行く必要がある。
魔物がかなり多く、効率よく倒す方法なんて銃を使うくらいしか思いつかないのだが……。
まずは無煙火薬、即ちニトロセルロースを作る。
必要なのは硝酸、硫酸、セルロースだ。
セルロースはその辺に生えている草木から魔術で抽出した。
まずは硝酸が欲しい。
そのためにはアンモニアが必要だ。
俺には魔術があるので、ハーバー・ボッシュ法を試してみる。
まずは水素を作る必要がある。
少量なら尿から作ることもできるのだが、尿から出る尿素は一日あたり20〜30mg程度だったはず。
最初は川の水を電気分解して、プラス極から酸素を、マイナス極から水素を集めていた。
だが工場で水素を作る際には水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いていたことを思い出した。
そこで食塩で代用することにした。
食塩水を電気分解するとプラス極から発生する塩素と、液体中の水酸化ナトリウムが危険だ。
だがこれらの物質には、様々な用途があるため保管しておく。
というかこの工程は、前世の工場で塩素と苛性ソーダを製造する際に行われいるものなのだ。
窒素は空気中から魔法で抽出した。
窒素と水素を魔法障壁の中で30MPa、約500℃で鉄鉱石の触媒と共に反応させてアンモニアを抽出した。
ハーバー・ボッシュ法に成功したことに気を良くして、次の段階に移行する。
このアンモニアにプラチナ90%、ロジウム10%の触媒を使って900℃に加熱すると、一酸化窒素が得られる。
これがオストワルト法だ。
一酸化窒素を酸化させて二酸化窒素を作る。
今回は水の電気分解で集めた副産物の酸素を用いた。
1MPa程度の圧力をかけて、水を加えて硝酸が完成した。
硫酸は山から採取した硫黄を燃やして二酸化硫黄にする。
二酸化硫黄を五酸化二バナジウムを触媒にして更に酸化させる。
これで三酸化硫黄(無水硫酸)ができた。
これに水を入れれば硫酸の完成だが、激しく飛び散るので魔法障壁がないと安全を確保できなかった。
硝酸と硫酸が手に入ったので、ニトロセルロース作りの準備は整った。
※危険ですから、絶対に真似しないでくださいね!!!




