1.2
洞窟から出ると、アライグマに似た外見の魔物に出くわした。
リッパーラクーンだ。
凶暴だが肉が美味い。
牙をむき出しにして、飛びかかってきた。
俺はとっさに、魔力の盾である『バリア』で防御する。
リッパーラクーンは顔面から激しく衝突した。
だが怯まず、爪でガリガリと魔術障壁を引っ掻いている。
アライグマは可愛いイメージを持っている人が多いが、成長すると凶暴になり農作物への被害が大きい。
かなり凶暴な動きで見た目は怖いが、魔術障壁は破れていない。
俺は落ち着きを取り戻した。
前世の子供時代は田舎に住んでいたので、アライグマは頻繁に出没していた。
俺がアメリカで買った農場の周辺にも出没していたので、頻繁にライフルで駆除していた。
俺は駆除を決意して、風の魔術『ウィンドカッター』を繰り出した。
リッパーラクーンの首が切れ、頸動脈から大量の血が吹き出す。
数秒後、リッパーラクーンは倒れた。
「ふぅっ」
初めての魔物を討伐して、とりあえず安堵した。
獲物を仕留めたら解体だ。
まだ日が高いので午後1時くらいだろう。
時間は十分ある。
前世では趣味と実益を兼ねて狩猟をしていたので、解体方法は理解している。
近くの沢で水を汲み、その辺の木を切り出して切れ込みを入れ『ファイヤーボール』で火を付けて湯を沸かす。
鍋は洞窟の櫃に入っていたものを使う。
木の枝にリッパーラクーンを逆さ吊りにして、お湯をかけて泥やダニなどを取り除き、体毛を毟る。
前世だとマダニは様々な感染症を媒介しているため、なるべく落としてから解体するように指導されていた。
表面を洗い終わったら、お湯で温めたナイフで正中線に沿って開腹する。
内臓を取り出す前に、胃腸から中身が出るのを防ぐため、食道と肛門を紐で縛る。
すると心臓付近に直径5mmくらいの石があった。
「これが魔石か。本当にあるんだなぁ」
ルネの知識で魔石があることは知っていたが、百聞は一見に如かず。
あまりの美しさに思わず見とれてしまった。
魔石をインベントリーに放り込み、内臓を取り出して腹の中に水をかけ冷却する。
後ろ足から胴体に向かって切れ込みを入れ、皮下脂肪に切れ込みを入れながら上から下に毛皮を剥いでいく。
毛皮を剥き終わったら関節を切り枝肉にして、インベントリーに放り込む。
「解体終了、胃の内容物を確認しよう」
前世のアライグマは雑食だった。
よってリッパーラクーンが同様でも不思議ではない。
雑食であれば、胃の内容物から周辺の植生や生態系について多くの情報を得られるはずだ。
「果実が多いなぁ。これは羽付きの鳥類。小麦やコメみたいな穀類。カニの足みたいなのもあるぞ!」
俺の今後の食生活にも期待が持てた。
解体を終えると、急いで空間魔術『インベントリー』に保管する。
肉の状態が悪くなるかもしれないからだ。
『インベントリー』はRPGでお馴染みのアイテムボックス的なやつだ。
温かいものを入れておけば温かいまま、冷たいものを入れれば冷たいまま出てくる便利な魔術で、入れておけば腐敗しないらしい。
生き物は収納できないが、死骸なら収納できるそうだ。
「さて、洞窟に戻って食事の準備をしよう」
拾ってきた薪を洞窟付近に作った焚き火用の石組みに並べ、『ファイヤーボール』で火をつける。
熾火になった骨付きのもも肉を丸焼きにする。
焼けた匂いが香り、食欲を刺激する。
「頂きまーす!」
俺はリッパーラクーンのもも肉にしゃぶりつく。
前世のアライグマは鶏肉っぽい味のものが多かったが、リッパーラクーンはよりワイルドな味で実に美味い。
果実や肉など、グルメな食生活を反映しているのだろう。
「本当にここは異世界なんだな。これからどうなるんだろう」
それにしても一度は銃撃されて死んだというのに、次の日には魔術で魔物を仕留めて美味い飯を食っている。
俺は希望を抱いて、異世界の初日を終えることができた。




