1.18 グッドコップ、バッドコップ?
せっかく狩った素材を冒険者ギルド支部長に奪われた。
王都のギルド本部に苦情を申し立てるか、弁護士でも探すか……。
考え込みながら王都に向かって空を飛んでいると、少女の叫び声が聞こえてきた。
「お祖父様! お祖父様!」
少女は叫び、中年男性は老人の背中を叩いている。
俺は上空から声をかける。
「大丈夫ですかぁー?」
少女が答えてくれた。
「あぁ魔術師様! うなぎを喉に詰まらせてしまったのです!」
うなぎ! 実にけしからん!
「俺もうなぎ食べたい!」
異物が詰まったのなら、あれを使って助けられるかもしれない。
仮に老人が助からなかったら、そのときは逃げれば良い。
老人は苦しそうだが、自ら返答した。
「好きなだけ、食え……」
俺は着陸して、老人に後ろから抱きついた。
そして、拳を老人の鳩尾に突き立てる。
所謂ハイムリック法だ。
「いきますよ! えいっ!」
「ぐぼっ!」
さすがに一回では成功しなかった。
確か前世のマニュアルだと、5回くらい試せと書いていた気がする。
「えいっ!」
「ぐぼっ!」
「えいっ!」
「ぐ《《ば》》っ!」
三回目を食らわせたその時、老人の口から異物が飛び出した。
「助かった……ありがとう……」
老人は礼を口にしたが、まだ息が切れている。
「助かりましたわぁー!」
少女は喜びを叫んでいる。
「ありがとう、助かった!」
老人の顔は一気に血色が戻り、俺に感謝を述べた。
俺は老人の体を魔術で透視して、内蔵を痛めていないことを確認した。
「そなたは命の恩人じゃ!」
老人は俺の手を取り、礼を言う。
「本当にありがとう存じます」
少女も俺の手を取り、礼を言った。
「王都に儂の店があるから、ぜひお礼をさせておくれ!」
「いえそんな、それには及びませんから……」
老人たちのテンションが高すぎて、俺はつい断ってしまった。
「!」
少女は無言で、俺の腕に思いっきり抱きついてきた。
「ぜひお越しください!」
俺が逃げようとしたのを察知してか、少女は俺を掴んで離さない。
「そなたが命の恩人であることは、大勢の者が目撃しておる。ろくなお礼もできないとなれば、儂の信用に傷が付くのぉ」
老人が追い打ちをかけてきた。
孫娘が得体の知れない冒険者に抱きついていることの方が、信用に傷が付くんじゃないのかよ!
「そもそも僕は余所から来た冒険者なので、王都の中に入れるかどうかすら怪しいですよ……?」
そうだ。
俺みたいな余所者を街に入れようと思ったら、追い返されるか高額な入街税をふんだくられるに決まってる。
「そなたの身元は儂が保証する故、心配無用じゃ。店にはうなぎのほかにも、各地から仕入れた色々な商品があるぞ。王都を見るのが初めてなら、店に来るだけでも楽しいと思うのじゃが?」
「いえ、大したことはしてませんから……」
俺の謙遜に、お付きと思しき中年の男がキレた。
「旦那様のお命を助けるのが大したことではないと。それは旦那様が大した人間ではないとおっしゃりたいのですか?」
この男、難癖をつけるのが上手いぞ。
「それは知りませんよ」
めんどくさい人達だなぁ……。
「命の恩人に失礼じゃないか」
「マティアスさん、やめて」
老人はまだゲホゲホしながら、中年の男を制止した。
それに少女も同調する。
もしかすると、グッドコップ、バッドコップ戦術みたいな交渉術なのかもしれない。
「旦那様をお助けできず、命の恩人にろくなお礼もできない。それでは私が奥様や若様に叱られてしまいます……」
バッドコップ戦術に効果がないと見たのか、三人はしょんぼりした顔でこちらを見てくる。
男の上目遣いなんて需要ねぇよ!
「あの、我が家に来てくださいませんか……?」
少女は潤んだ目でこちらを見る。
「まぁ、そこまでおっしゃるなら……」
俺は彼女たちについていくことにした。
それに一応確認したものの、ハイムリック法のせいで内蔵を損傷していないとは断言できない。
しばらくは老人の容態を診る必要があるから、仕方ない……。




